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THE WORLD 作者:SEASONS

4月15日

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子供の頃から

《サイド:美袋翔子》

う~ん。

困ったわね…。

実家の玄関先まで帰ってきたのはいいんだけど、何となく中に入りづらいのよね~。

どうしたらいいのかな~?

家に入るのは簡単なのよ?

でもね?

なかなか踏ん切りがつかないのよ。

そもそも何をどう説明するばいいのかなんてわからないし。

何をどう話を切り出せばいいのかも分からないのよね~。

だから帰ってきたのはいいんだけど。

これからどうすればいいのかがさっぱり分からなかったわ。

さすがに、ね?

馬鹿正直に戦争に行ってくるなんて言えないわよね?

そんなの絶対、反対されるに決まってるわ。

ごくごく普通に考えて「戦争に行ってきます」なんて言って、
「いってらっしゃい」なんて言ってもらえるわけがないわよね?

…って言うか。

間違いなく喧嘩になると思うわ。

そうなると最終的にお互いに嫌な思いをするだけだと思うのよね。

だから本当のことなんて何も言えないのよ。

でもね~。

何も言わずに「はい、さよなら」って訳にもいかないわよね?

そんな別れ方だと味気ないというか、
何をしに帰ってきたのかがわからないし。

そもそもそんないい加減な挨拶をするくらいなら、
最初から何も言わないほうがましだと思うわ。

だからちゃんと向き合って話し合うべきなんだけど。

そうなるとどこまで話せばいいのかが分からないのよね。

…と、まあ。

そんなことを延々と悩んでるところなのよ。

悩んだところで都合のいい言い訳なんて思い浮かばないわけだけどね。

それでも正直に話をするわけにはいかないのよ。

これからどこへ向かうとか、
何をするつもりなのかとかは言えないの。

そこを話すことは出来ないわ。

だって、言えるはずがないわよね?

戦争に行ってくるなんて両親に対して言えるわけないわ。

きっとお父さんもお母さんも反対するに決まってる。

それが普通で、当たり前のことだからよ。

娘を殺し合いの戦場に送ることを素直に認める親なんているはずがないわよね?

だから、悩んでるの。

今日で最期になるかもしれないからちゃんと話し合いたいんだけど。

それがわかっていながらも言えないのが現実なのよ。

それでも死ぬかもしれないと思うからこそ、両親に対して『嘘』はつきたくないわ。

最期の言葉が適当に繕った『嘘』なんて絶対に悔いが残るからよ。

もう会えないかもしれないと思うからこそ、
ごまかすような別れ方だけはしたくないの。

ちゃんとお父さんとお母さんと向き合って、ちゃんと挨拶をして別れたいって思うの。

だから悩んじゃう。

どう話すべきなのかを、ね。

嘘はつきたくないわ。

だけど笑顔で別れたいの。

それが正直な気持ちなのよ。

でもね~。

そんなに都合よく説明できるなんて思わないわ。

何もかも思い通りになんて無理に決まってる。

自分で言うのもどうかと思うけど、
そんなに器用な人間じゃないのよ。

だから出来る範囲内で話し合うしかないの。

「結局は、まあ、そういうことなのよね」

ぐだぐだ考えてもどうにもならないし、できることをするしかないのよ。

ふう…。

こうなったら行くしかないわね。

覚悟を決めて扉に手を伸ばしてみる。

鞄から取り出したまま悩み続けて、
ずっと握り締めていた鍵を使って玄関の鍵を開けることにしたのよ。

『カチン…』っていう小さな音が響いた瞬間に緊張感が高まったわ。

でももう、後戻りはしないし、出来ない。

ちゃんと会って話をするって決めたの。

ゆっくりと深呼吸を繰り返したあとで、扉に手をかけて開けてみる。

『キィィィ…』って、扉のきしむ音がとても懐かしく感じるわね。

そういえば、この扉って子供の頃からうるさかったかも。

何度、油を指してもしばらくするとすぐにまた調子が悪くなるのよね~。

まあ、築20年以上の建物だから何かしら問題は出てくるものよね。

なんて。

そんなことを考えながら家の中へと歩みを進めてみる。

『キィィィ…』と鳴り響かせながら扉を閉めてみると、
扉の音が聞こえたのか、家の奥からお母さんの声が聞こえてきたわ。
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