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THE WORLD 作者:SEASONS

4月15日

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欲望の鍵

《サイド:美袋翔子》

午後9時30分。

沙織と成美ちゃんと私の3人は、
いつもより少し遅めの夕食を終えてから沙織の部屋に集まってるところよ。

幸せそうな表情の成美ちゃんは今日もご機嫌ね。

その姿を見て微笑む沙織も何だか嬉しそうに見えるわ。

そんな二人と向き合って座る私だけど。

いつもと同じ状況のはずなのに、今日はいつもとは空気が違うはずよ。

その理由はまあ、私が真剣な表情でテーブルを見つめているからなんだけど…。

う~ん。

どうしようかな~?

ここに来てからずっと悩んでるのよね~。

これが最期になるかも知れないのよ?

だとしたら、悔いは残したくないわよね?

出来ることは全部やりたいと思うのが当然の流れだと思わない?

そんなふうに思いながら、
いつもは一つしか食べないと決めてる『ミルクレープ』と本気で向き合っているところなのよ。

今日が最後かも知れないのよ?

生きて帰れる保証のない戦争。

死ぬかもしれない可能性を考えれば
今ここでダイエットを考える必要ってあるの?

生きるか死ぬかっていう状況になるのよ?

太る太らないなんて、些細な問題じゃない?

むしろ、しっかり糖分を補給しておくべきじゃない?

万が一食事ができない状況に陥っても、
痩せるだけで済むかも知れないのよ?

でも、一時的にでも太っちゃうのはちょっと怖いわよね?

って言うか、そういう姿を総魔に見られるのはちょっと、ね。

嫌すぎるわ。

でもでもっ。

今日が最期かもれないって思うと、
最後くらいはって思っちゃうわよね?

だけど太るのは嫌ぁ…。

なんてことをひたすら考えてるわけだけど。

心の中では壮絶な戦いを繰り広げているわ。

まあ、要するにケーキをお代わりするかどうかっていうだけの悩みなんだけどね。

とてつもなくくだらない悩みだって自分でも思うけれど。

それでも真剣に悩んでいるのよ。

お代わり出来るケーキはあるわ。

でも、ね?

太るのは怖いの。

それはもう、死ぬよりも怖いのよ!

ケーキ一個で?とか甘い考えは危険過ぎるわ!

その油断が…。

その甘い考えが体重を加速度的に増やしていくのよっ!!

とは言え。

怯え、恐れるけれど、それでも欲望には逆らえないのが人間よね?

だから死ぬ前にもう一度だけしてみたいこと。

それはケーキ食べ放題っ!!!

かつて泣きたくなるほど苦しんで自分で制限を課した禁断の欲望。

それはたった一つのわがままだけど、命懸けの欲望でもあるわ。

もしも明日、死ぬとしたら?

私は今日、我慢という言葉を捨ててしまおうと思うの。

たった一度だけでいいから。

何もかも忘れて、欲望のままに生きてみたいのよ。

その想いが心の中で膨らんでいくわ。

これはもう、あれよね?

やっちゃってもいいわよね?

我慢は体によくないし。

頑張る自分に、ご褒美は必要よね?

悩みが悩みでなくなって、迷いが言い訳に変わってく。

でもね?

でもね?

一度考えだしたらもう止まらないのよ。

ダメだと分かっていても、
欲望の鍵が外されようとしているの。

「ねえ、沙織。お代わりしてもいいかな?」

まだ一つ目でさえ手を付けていないのに、
心はもう完全にお代わり一直線に向かっていたわ。

「ダメ、かな?」

私の言葉を聞いた沙織は苦笑いを浮かべてる。

「珍しいわね、翔子。1日1個って決めてたのに、もう止めるの?」

「うぅ~。太るのは嫌なんだけどね…。」

うめきながらも沙織の瞳を全力で見つめてみる。

そしてこれが最期かもしれないし…なんて小声で囁いてみると。

沙織は小さくため息を吐いていたわ。

「あのね?食べるのは良いけれど、あとで太ったって言って泣くのは翔子なのよ?あとになってから後悔しても遅いわよ?」

「しない!絶対にしないっ!だから、だからあと一個だけ頂戴…っ」

必死に懇願してみる。

別に誰かに迷惑をかけるわけでもないし。

そこまでお願いする必要はないんだけどね。

それでも後悔しないために全力でお願いしてみると、
沙織はため息を吐きながらケーキを取りに部屋を出ていったわ。

「?」

一人首を傾げる成美ちゃんは状況が分からないまま大人しく座って待ってる。

そんな感じでおよそ2分後。

沙織はケーキを持って帰ってきたわ。

その手には私の大好物のミルクレープがある。

間違いなく一個のケーキよ。

ある意味では正しい解釈だと思うわ。

でもね?

それはさすがに危険じゃない?

本当にあと一つで良かったのよ?

別に食べ放題まで望んでたわけじゃないのよ?

なのに、そうくる?

そこまで攻めちゃう?

個人的には全力で大歓迎だけど。

それこそあとで大惨事じゃない?

「ねえ、沙織。それってどういう意味?」

「どう、っていうか、たぶん、二個目も三個目も同じとか言い出しそうだからまとめて持ってきたのよ。」

あ~。

なるほどね。

確かに言いかねないわ。

…って言うか。

言っちゃう自信があるわね。

でもね?

でもね?

いくら私でも『1カット』じゃなくて『1ホール』持ってこられると、
さすがに食べきる自信なんてないわよ?

「流石に多くない?」

「ふふっ。食べれるだけでいいのよ。残りはお父さん達が食べるって言ってたから大丈夫よ」

「あ~、そうなんだ。じゃあ、いいのかな?」

良くないけどね。

良くないけど、いいことにしようと思います。

「ありがとう、沙織」

「どういたしまして」

まだカットしてないそのままのミルクレープを沙織は差し出してきたわ。

「はい、どうぞ」

笑顔で差し出されるその大きさ。

改めて見ると、1ホールはすごいわよね。

さすがの私もこの量は絶対に無理よ。

食べ放題は諦めてもせめてお代わりくらいはって考えただけなのに、
沙織は優しい笑顔で丸ごと差し出してきたわ。

「本当に食べていいの?」

問い掛けてみると、沙織は笑顔のまま頷いちゃう。

「悔いのないように心置きなく食べて」

うあ~。

そう言われてもね…。

ミルクレープ(お代わり)に視線を向けてみる。

これを全部食べたとしたら、体重ってどれくらい増えるの?

そんな疑問を感じながらも、
全ての理性を捨て去って最期のわがままに走ることにしてみる。

ダイエット?

なにそれ?

体重?

測らなければいいのよ。

現実逃避?

そういうものでしょ?

「今日だけ。これは今日だけなのよ…」

だから大丈夫。

あとで後悔するとしても、それはそれ。

その時に考えればいいのよ。

…って言うか。

今の状態が一番って決まってるわけでもないし。

どうせ努力するなら結果は一緒よね?

うん。

きっとそう。

だから我慢しなくていいのよ。

そんなふうに必死に自分に言い聞かせて、ミルクレープと向かい合う。

「いただきま~す♪♪♪」

最高の笑顔でフォークを構えてミルクレープを一口食べる。

うぅあぁ~。

美味しすぎるぅ。

「沙織、お代わりちょうだい」

「はいはい。」

ホールを切り分けて二つ目を取り分けてくれた沙織が、
私の目の前に新たなミルクレープを差し出してくれたわ。

だけどこれはまだ全体の1割程度よ。

8等分されたホールの一つでしかないの。

まだまだ沢山食べられるわ。

そう思うだけで、幸せな気持ちになっちゃう。

食べ放題、バンザイ!!

躊躇いなく二つ目のミルクレープを食べ終えて、
さらなるお代わりへと動き出す。

これはもう、戦いよ。

欲望と後悔がせめぎ合う聖戦なのよ!

努力が勝つか、体重が勝つか。

命懸けの戦いなの!

だから。

だから最後まで戦い抜くわ!

そして勝利を手にしてみせるのよ!!

そのために!!

明日からダイエット!!
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