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THE WORLD 作者:SEASONS

4月15日

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次のための出会い

《サイド:常盤沙織》

ようやく到着しました。

翔子と二人で、三日ぶりに家に帰ってきたのです。

「毎回そうだけど、大会のたびに成美ちゃんに会えないのが一番辛いところよね~」

翔子は相変わらずですね。

毎月恒例の愚痴をこぼしています。

「会えなかったぶんだけ、沢山お話をすればいいんじゃない?」

「あ~うん。それはまあ、ね。最初からそのつもりだけど、出来ることなら毎日成美ちゃんを抱きしめたいのよね~」

「ふふっ。翔子らしいわね」

ぼやく翔子に微笑みながら、玄関に手を伸ばします。

ですが、扉を開ける前に、もう一度翔子に振り返りました。

「あのね、翔子。これからのことはあの子には何も言わないであげて。そして出来る限り笑顔でいさせてあげて」

それが姉としてのただ一つの願いです。

あの子を不安にさせないために、口止めをお願いしました。

「お願い、翔子」

「うん、大丈夫。ちゃんと分かってるわ。私も成美ちゃんに心配かけたくないし、余計なことは何も言わないから安心して」

私の願いを翔子は素直に受け入れてくれました。

「ありがとう、翔子」

あの子は何も知らないほうが良いんです。

命を奪い合う戦争の話なんて知る必要がありません。

成美にはいつまでも笑顔で居てほしいと思います。

だから何も言わずに旅立つつもりでいました。

ただ…。

そのせいで一つだけ心残りがありました。

それはあの子の眼を治してあげたかったということです。

私の願いはもう叶わないかもしれません。

運良く生きて帰って来れたとしても治してあげられる保証はありませんが、
生きて帰ってこられる可能性のほうが低いと思うからです。

私達は戦争に向かいます。

命を失うかもしれない危険な戦場です。

ですので。

生きて帰ってくるつもりでいても、
帰って来れる保証なんてどこにもないんです。

死んでしまったらもう二度と成美に会うことはできませんし。

成美の瞳を治療することも出来ません。

最後まで諦めないと心に誓う翔子でさえ、先のことは分からないんです。

だから…。

だからせめて成美には笑顔で居てほしいと思います。

今日が最後になるかもしれないから、
その可能性が少しでもあるのなら、
成美には楽しかった思い出だけを残してあげたいんです。

「ちゃんと分かってる。だからさよならは言わないわ。だって私達はここへ帰ってくるんだから、ね?そうでしょ、沙織」

「ええ、もちろんそのつもりよ。」

だからあの子を心配させる必要はないの。

私達は少し出掛けるだけ。

そしてすぐに。

またすぐに帰ってきて今までと同じように日々を過ごす予定です。

「だから今日は別れではなくて次の為の出会いなの」

成美と別れるために帰ってきたわけではありません。

いつもと同じ日常を繰り返すために帰ってきたんです。

「行きましょう」

私は玄関の扉を開きました。

いつものように、鍵のかかっていない扉を開いて家の中へと歩みを進めます。

私と翔子にとって見慣れた風景を眺めながら、玄関から呼び掛けました。

「ただいま」

声をかけた直後に『ガタンッ!』と音が聞こえました。

そして続けざまに成美の小さな声が聞こえた気がします。

「あらあら…慌てすぎよ成美」

「あぅぅ~。ごめんなさぃ~」

何かあったのでしょうか?

玄関からはわかりませんが、
お母さんと成美の声が聞こえたあとに杖を突きながら歩く成美が姿を見せてくれました。

歩みを進める成美ですが、
どことなく苦笑いを浮かべているように見えます。

何があったのかは分かりませんが、
何らかの失敗をしたのは感じられます。

ですが、何をしたのかなんて聞きません。

聞く必要がないと思うからです。

目が見えないのですから、
失敗の一つや二つはあって当然です。

むしろ何も起きない方が不自然です。

そう思っているので、私も翔子も気にせずに成美に話し掛けました。

「ただいま、成美」

「ただいま~!成美ちゃん!!」

微笑む私と元気一杯の翔子。

そんな私達の表情は見えなくても。

「お帰りなさい♪」

成美は幸せ一杯の笑顔で私達を出迎えてくれました。
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