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THE WORLD 作者:SEASONS

4月15日

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自分の将来

《サイド:美袋翔子》

はふぅ…。

ため息を吐いてみる。

…って言っても。

吐きそうとかシンドいとかそういう意味じゃないわよ?

30分ほど眠れたことで気持ちが落ち着いてきた気がするの。

ようやく立ち上がれる程度には体調が良くなったって思えたのよ。

無事に復帰できたことで、
時計の針が午後8時を指すのとほぼ同時にベッドから下りる。

ん~!

はぁ~。

精一杯の背伸びをしてから、隣のベッドに視線を向けてみる。

隣のベッドには沙織がいるのよ。

すでに顔色の良くなった沙織は動き出した私をじっと見つめているわね。

「もう行くの?」

「そのつもりだけど、沙織はどうする?まだここにいる?」

「私ももう大丈夫よ。そろそろ出る?」

「うん。やらなきゃいけないことがあるしね~」

「ええ、そうね」

私の考えを察してくれたのか、沙織も静かにベッドを下りたわ。

そして立ち上がってから今後の方針を話し合う。

そんな私達の声に気付いたのかな?

優奈ちゃんが眠りから目を覚ましたのよ。

「………。えっと…。」

いつ眠ったのかさえ覚えてないって感じね。

「おはよう、ミルク」

目覚めた優奈ちゃんの顔のすぐ側で精霊がじゃれてるのが見える。

ひとまず元気そうな声が聞けたことで、
私も沙織も優奈ちゃんに声をかけることにしたわ。

「おはよう、優奈ちゃん。気分はどう?」

「ごめんね。起こしちゃったかしら?」

笑顔を浮かべる私と、心配そうな表情の沙織。

そんな私達に微笑みながら、
優奈ちゃんもゆっくりと体を起こしたわ。

「えっと、もう、大丈夫です。ゆっくり眠れましたし、お薬もちゃんと効いたみたいなので」

立ち上がった優奈ちゃんの動きは
医務室へ来た時と違ってしっかりとしてるわね。

うんうん。

これで私達は3人とも体調が良くなったっていうことよ。

「治って良かったわね」

「すみません。ご心配をおかけして…」

頭を下げる優奈ちゃんだけど、
これはもうしょうがないと思うのよ。

だって、全員が乗り物酔いで全滅なわけだしね。

「まあ、さすがに今回は仕方ないんじゃない?全員撃沈だし。この短時間で復活出来ただけでも良かったと思うわよ」

さりげなく周囲を見回してみる。

少し離れた場所にいる龍馬も今は眠っている状況なのよ。

「龍馬でさえ、あの調子だしね。優奈ちゃんが倒れるのも仕方ないわよ」

私はそう思うのよ。

でもね?

龍馬も寝込んでいることで沙織は心配そうな表情に見えたわ。

今もまだ眠り続けてる龍馬をじっと見つめているからよ。

「大丈夫かしら?」

気になるみたいね。

でも、大丈夫なんじゃないかな?

「とりあえず美春の薬が効くことは間違いないから、龍馬もそのうち起きるんじゃない?」

「え、ええ。そうね」

沙織は素直に頷いてくれたわ。

何度も往復っていう苦労を続けた美春だったけど。

その薬の効果は沙織も経験してるから
きっと龍馬も大丈夫だって納得することにしたようね。

…で、噂の美春なんだけど。

今は静かになった医務室で、自主的に勉強をしてるみたい。

難しそうな医学書をいくつも並べて、
医師の指導を受ける熱心さは離れた場所からでも感じ取ることが出来るわ。

「医師を目指してるのかしら?」

ん~?

どうなのかな?

沙織の疑問に私は答えられない。

正直に言って何も知らないからよ。

だから首を傾げることしかできなかったわ。

「なのかな~?」

よくよく考えてみると、美春のことって何も知らないかも?

ここ最近は何度も出会ってるけど、
あんまり世間話はした覚えがないのよね~。

だけど美春が一生懸命勉強してるのは後ろ姿を見てればわかるわ。

普段の沙織もあんな感じだし。

総魔が図書室にいる時もあんな感じだからよ。

「美春も頑張ってるのね~」

方向性は違うとしても、
人それぞれに未来があって、
それぞれに目的があるのよね。

強くなるだけが全てじゃないってことよ。

ちゃんと自分の将来を考えられることが大事なの。

そんなふうに思えたことで、美春が羨ましく思えたわ。

「なんか羨ましいな~」

自分の目標に向かって努力をしている美春の姿が眩しく見えたからよ。

「私は何がしたいんだろ?」

「ふふっ。きっと見つかるわ。翔子の大切な何かが、きっとね」

優しさの込められた言葉。

沙織の言葉を聞いて、私は笑顔を浮かべてしまう。

「全部終わったら真剣に探して見ようかな?」

自分のやりたいことを、よ。

「そうね。全て終わって、またみんなで学園に帰って来れたら、その時はちゃんと考えるべきかもしれないわね。自分自身の将来を」

ん~。

帰ってきたら、か。

沙織はどうするのかな?

まあ、考えるまでもなく成美ちゃんのために研究を続行するんだろうけど。

龍馬や真哉はどうするのかな?

とりあえずは次の大会まで卒業はしないとしても、
年間制覇さえ達成できたらもう学園にとどまる必要はないのよね?

だとしたら龍馬は卒業しちゃうのかな?

もしもそうなら真哉だっていなくなっちゃうと思う。

その時、沙織はどうするのかな?

一緒に卒業するのかな?

それとも学園にとどまるのかな?

成美ちゃんのための研究はどこででも出来るわけだし、
学園に留まる必要はないわよね?

そうなるとやっぱり卒業しちゃうのかな?

だとしても沙織の将来はお医者さんとかでしょ?

薬剤師はないとしても、
外科医としては優秀だし、
眼科っていう選択肢もあるわよね。

沙織の場合はお医者さんにも研究者にもなれるから選択の余地があるんだけど。

私はどうなのかな?

私の取り柄って何?

将来の職業ってどうやって決めればいいの?

全然、わかんない。

でも、まあ…。

希望はあるかな?

やりたいっていうか、なりたい?

そんな感じだけど。

まあ、あれよ。

永久就職ってやつよ。

あこがれの花嫁って言うの?

総魔と結婚して家庭に入るとか…!

奥さんとして頑張ってみるとか…!

妻として旦那を支えるとか…!

そういう幸せな未来なら…って、また暴走しちゃってるわね。

現時点では単なる妄想よね。

肝心の総魔が失踪中なわけだし。

将来を期待するどころか、
総魔を捜索するところから始めないといけないわけよね。

それでも最終的にはそうなれれば良いと思うわ。

まずはそれまでにどうするかっていう部分なんだけどね。

今後、総魔がどうするかにもよるけれど。

総魔がどういう方向に進むにしても、
ちゃんと傍にいられるように努力を続けようとは思うかな。

今はそんな感じ?

むしろそれ以上の方針を決めようがないのよ。

私の将来を左右する総魔がいないわけだし…。

総魔がいても恥ずかしくて相談できない部分だけど…。

「とりあえずはまあ、なるようになる…かな?」

「ふふっ。そうね。とりあえず行きましょう。あの子が待ってるわ」

「あ、うん」

沙織が医務室を出ようとしてる。

目的地はあそこしかないわ。

でもその前に、優奈ちゃんに振り向いて尋ねてみる。

「優奈ちゃんはどうするの?」

「えっと、私は…」

少しだけ考えてから、自分の気持ちを答えてくれたわ。

「会いたい人がいるので、会いに行ってきます」

優奈ちゃんが会いたい人?

それって、あれよね?

「悠理ちゃん?」

「あ、はい。それもあります。でもその前にお父さんとお母さんにも会いたいです」

ああ~。

そっかそっか。

優奈ちゃんの言葉を聞いて思い出したわ。

両親に会いたいって思う気持ち。

そんな当たり前のことに、頭が回っていなかったのよ。

「そうよね。普通ならそう考えるわよね。大事なことなのに完全に忘れてたわ」

照れ笑いを浮かべた私の仕種を見て、優奈ちゃんは小さく笑ってた。

「思い出して良かったですね」

ええ、そうね。

「ありがとう、優奈ちゃん。私も会いに行って来るわ。」

あまり考えたくはないけれど。

「これが最後になるかも知れないしね」

「…そう、ですね。」

私の言葉のせいで優奈ちゃんの表情から笑顔が消えてしまう。

「帰って来たいと思います。でも…そういうこともあるかもしれませんので、ちゃんと挨拶だけはしておきたいんです」

私達の思う最悪の状況。

それは戦争で死ぬという可能性よ。

もう二度と両親に会えないかもしれない不安。

そんな不安を抱えながら、優奈ちゃんは両親に会う決断をしていたわ。

「会ってお礼が言いたいんです。産んでくれてありがとうって。お父さんとお母さんがいてくれたから。私はこうしてここにいることが出来るんです。だから、最後になるかもしれないからちゃんと伝えておきたいんです。お父さんとお母さんに『ありがとう』って、そして『大好きです』って言いたいんです」

そうよね…。

優奈ちゃんの精一杯の想いを聞いた瞬間に泣いてしまいそうになったわ。

『命をかける覚悟』

それは言葉で言えるほど簡単なことじゃないからよ。

『失うのは自分の命』

その事実を自分では割り切ることが出来ても、
自分を愛してくれる人の悲しみは割り切ることが出来ないの。

自分が死ぬことで悲しむ人がいることを忘れるわけにはいかないのよ。

「優奈ちゃんは本当に強くなったわね」

「い、いえ…そんなことはないです。出来ることならみんなでこの町に帰って来たいと願っていますから」

「それは当然よ!必ずそうしてみせるわ!」

自信たっぷりに微笑んでみせる。

「総魔も連れて必ず帰ってくる!その為に私達は行くのよ!!」

「はい♪」

微笑み会う私達の姿を…沙織が優しく見つめてくれていたわ。
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