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THE WORLD 作者:SEASONS

4月15日

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共和国の幹部

《サイド:米倉宗一郎》

さて、と。

「それではそろそろ会議を始めようか」

グランパレスのとある一画。

それほど大きくはない会議室に、
今回の戦争において直接指揮をとることになる5人の幹部が集まっている。

その内の一人が俺になるわけだが。

病気によって現役から引退したとはいえ、
今もまだそれなりの発言力がある俺も幹部の一人に含まれている。

そして残りの4人は
『グランバニア魔導学園』学園長、進藤輝彦しんどうてるひこ
『マールグリナ医術学園』学園長、琴平重郎ことひらじゅうろう
『カリーナ女学園』学園長、桜井由美さくらいゆみ
『ランベリア多国籍学園』学園長、リン・ラディッシュになる。

彼らは表向きな役職上は学園長という立場だが、
実際には共和国の軍を指揮する総帥的な立場にいるからだ。

この5人が各地で防戦を行う為の指揮官ということになる。

北に面するアストリア王国にもっとも近い町がマールグリナであり、
琴平重郎は共和国に在籍する全ての魔術医師を統括する立場にいる。

西のセルビナ国にもっとも近い町がランベリアであり、
リン・ラディッシュは世界各国から流れ着いてきた亡命者達の管理者としての立場にいる。

そして北西の軍事国家ミッドガルムにもっとも近い町がカリーナで、
桜井由美は国内外全ての魔術師ギルドを管理するギルド総長でもある。

そのため。

有事の際には即座に対応できるように、
各町にはそれ相応の戦力と指揮権が与えられている。

それら3箇所の町に加えて、
陸軍を抱えるグランバニアと海軍を抱えるジェノスが戦力の主軸になる。

陸軍の元帥が進藤輝彦であり、
海軍の元帥が俺になる。

個人的には病気によって戦闘を行えるほどの実力を持ち合わせていないのだが、
指揮官としてならまだまだ動けることで軍部に所属している。

体はともかく、頭は働かせられるからな。

今回の戦争においては海軍を率いて立ち向かうつもりでいた。

「まずはこれからどうするかだが…。」

「作戦立案の前に、こちらの戦力の確認から行うべきだろう」

議論を進める俺に、
陸軍を率いる進藤輝彦が話し掛けてくる。

「どの程度の軍が用意出来るのか?そしてその軍を維持しつつ、どこへ布陣するのか?それが当面の問題だ」

ああ、そうだな。

俺もそう思う。

「この町から出せる兵力はおよそ1万だ。今すぐとなればそれが限界になる」

進藤はざっと試算した数字を口に出したが、
多いか少ないかを考えれば圧倒的に少ないだろう。

「1万か…」

数字だけで見れば大きな数だが、
戦争という単位で見れば余裕のある数字ではない。

アストリアの軍勢はざっと30万だ。

セルビナは小国なので20万に届かないだろう。

だが、ミッドガルムは軽く100万を越えるはずだ。

それらが全て動くかどうかは分からないが全てが動けば150万の大群になる。

とても1万の戦力で対抗することはできない。

とは言え。

それだけの軍勢を動かそうと思えばそれ相応の資金も必要になるからな。

共和国を滅ぼすことに執念を燃やすアストリアはともかくとして、
セルビナやミッドガルムはそれ程の資金を費やしてまで戦争に参加にするだろうか?

例え戦争に勝っても魔術師を全滅出来るだけでしかない。

共和国を奪い取っても、もとが辺境の荒地だ。

領土面で考えればそれほど価値があるとは思えない。

いや…。

50年ほど前まではどの国も欲しがらなかった僻地だ。

今でこそ共和国が開発を進めているが、
それは魔術師の才能があればこそだ。

誰にでも開発できるような土地ではないからな。

占領する意味はないだろう。

だとすれば莫大な資金を投入してまで戦争に参加する意味はあまりないように思える。

少なくとも魔術師の殲滅のためだけに全軍を投入してくることはないはずだ。

多くても半分ではないだろうか?

それでも70万を超える大部隊になる。

こちらの戦力では到底対応できない規模なのは確かだ。

実際にどの程度の軍勢を用意してくるのかは不明だが、
あらゆる事態に対処出来るように準備を進めておく必要はあるだろう。

「マールグリナの準備はどうだ?」

確認してみたことで、琴平重郎が即座に答えてくれた。

「現時点での報告によりますと、32の町からおよそ千名ずつ、魔術師ギルドの精鋭部隊を派遣していただけたようです。合計3万2千人の魔術師が明朝に国境付近の軍事拠点に集合する予定です」

3万2千か。

アストリア王国だけで見ても30万の軍だ。

30万に及ぶ兵力に対して僅か10分の1の兵力で戦えるものだろうか?

たったそれだけの数で軍隊を相手にしながら砦を落とさなければならないとなると
とても余裕があるとは言えないはずだ。

「可能であれば更なる人員をかき集めたいところではありますが、マールグリナで補える軍事費用を考慮するとそれ以上の兵力は維持出来そうにありません。そもそもマールグリナにはまともな戦力が存在しませんし、根本的に軍事活動を考慮していませんので、あくまでも後方支援としての協力しか出来ないのが実情です」

…だろうな。

医術、医療の発展に貢献してきたマールグリナでは治安維持程度の戦力しか有していないはずだ。

その事実は元共和国の代表だった俺も知っている。

だからこそ。

町とは別に防衛部隊を用意していたのだ。

「国境警備隊への連絡は?」

「すでに行っています。およそ3千の魔術師が集結する予定です」

「合わせても3万5千か。いかに主力を集めた精鋭部隊といえども楽観出来る状況ではないな」

「周辺の町にも協力を要請していますが、今まで情報を封鎖していたことが原因で召集が間に合わないのが現状です。援軍としては考慮出来ても、主力としては間に合わないでしょう」

やはりそうなるか。

だがこればかりは仕方がない部分だ。

無用な混乱を避ける為に行った判断だからな。

いまさら嘆いても現実は変わりはしない。

「それでも数を揃えるだけなら各学園の生徒を動員すれば済む話ではありますが、実力が伴わない人材をかき集めても戦力としては考慮できませんので、無理な招集は避けるべきかと…」

ああ、そうだな。

それは俺もわかっているつもりだ。

各学園の生徒を総動員すれば70万人近い魔術師をかき集めることはできる。

だがそれは集められるというだけで戦力と呼べるかと聞かれれば答えは否だ。

魔術が使えるだけでは戦力にはならない。

戦争を生き抜ける才能が必要なのだ。

そのためには命懸けの戦闘を経験したことのある実績のある人材を集めなければならない。

そうなると国内においては陸軍と海軍。

そして魔術師ギルドの所属する魔術師から戦力を集めるしかないということになる。

とは言え。

各軍は国内の防衛戦力でもあるために、
アストリアに全軍を派遣することはできない。

もしもそんなことをすれば、
手薄になった国内を他国の部隊に蹂躙されてしまうだろう。

その危険性を防ぐためには
国内の防衛戦力も保持しなければならない。

そうなると進軍できる戦力は必然的に限られてしまう。

余力のある戦力は魔術師ギルドに所属する魔術師しか考えられないからだ。

その結果として。

全魔術師ギルドを統括する桜井由美に部隊の派遣を依頼したことで、
アストリア方面には魔術師ギルドに所属する魔術師達が向かうことになった。

可能であるならもう少し戦力を揃えて、
最低でも10万の部隊にしたいとは思うものの。

僅か数日で徴集できる戦力には限りがあるうえに、
戦力として数えられる実力者を限定すれば
各町から千人もかき集められただけまだマシだと言えるだろう。

今はここで出来ることを考えるしかない。

そう判断してから桜井由美に話し掛けることにする。

「カリーナはどうだ?」

「今の所は平気よ。ミッドガルムに大きな動きがないからマールグリナに比べればまだ余裕があるわ。周辺8つの町に協力を要請して魔術師を集めてもらっているから、ざっと10万人規模の兵力が揃えられるはずよ。まあ、あくまでもミッドガルムが動き出すまでに…っていう条件付きだけどね」

すでに主力をマールグリナに派遣している状態だからな。

戦力をかき集めるのに時間がかかるのは仕方がないだろう。

それでも10万だ。

僅か数日で用意できる戦力としては十分過ぎるほどの頭数だが、
もっとも強敵であるミッドガルムの100万の軍事力を考慮すれば到底対応出来る人数とは思えない。

そんな桜井由美の報告を受けて、進藤輝彦が口を開いた。

「グランバニアの陸軍はカリーナに派遣させる。そちらが一番の激戦区だろうからな。最初に送れるのは1万だが、準備が整い次第、順次援軍を送り届けよう」

「ありがとう。感謝するわ」

陸軍はカリーナに向かうことになる。

ミッドガルムの軍を牽制するのが主な任務となるだろう。

「あとはランベリアか…」

ミッドガルムへの対応が決まったことで、即座にリンが答えてきた。

「私達の方はおおよその段取りがついているわ。『ランベリア』『デルベスタ』『イビスレア』の多国籍軍による準備はすでにほぼ終わっているから、兵数は5万に届くか届かないくらいに揃っているはずよ」

「ほう、随分と手際がいいな」

「まあね。基本的に私達は魔術師狩りの被害を受けた魔術師とその家族を多く抱えているから危機感が高いのよ。他国から『亡命』してきた私達にとって、この国は最後の希望だしね。この国を守る為なら命を惜しむ者はいないわ」

世界各国から逃げ延びてきた多くの亡命者。

彼等は誰よりも魔術師狩りを恐れ、
同時に戦うことの必要性を知っているはずだ。

負ければ全てを失う。

その恐怖を誰よりも理解している。

それが軍隊を早急にまとめることの出来た最大の理由なのだろう。

苦しくもこの国で生まれた者達よりも、
この国へ亡命してきた者達の方がこの国の必要性を理解しているということだ。

その事実を思い知らされるような結果になった。

「向こうが動き出すまではこちらから仕掛けるつもりはないけれど、戦力はほぼ互角でしょうね。数で負けても質では勝てるから、向こうが総力戦をしかけて来ない限りは…食い止めることは難しくないわ」

総力戦を仕掛けてこない限りは、か。

こちらも条件付きだが、
自信を持って宣言してくれるリンのおかげで、
セルビナに対する戦力はなんとか確保出来そうに思える。

「やはり早急に解決すべき問題はマールグリナか…」

「海軍はどうされるつもりですか?」

各方面の方針が定まりつつあることで、
今度は琴平が問いかけてきた。

「いくつか考えていることはあるが、ひとまず戦争そのものに参加するつもりはない。それ以上に、やらなければならないことがあるからな」

「ふむ。そのやるべきこととは?」

「『海域』の確保だ。」

共和国全土で見ても用意出来る船と人員には限りがあるからな。

限られた船団で共和国全土を守る事は不可能だが、
それでも連合軍が海上経由で進行して来る可能性を否定出来ない。

少なくとも北と西への警戒に戦力を分断しなければならないだろう。

ジェノス以外の港からも協力はあるが、
連合軍に便乗して他の国も動き出す可能性もある。

「3国に対してだけでも戦力が足りていない現状で海域まで奪われては、もはや防衛すらままならん」

四方を囲まれた状態で戦い抜くなど不可能だ。

それになにより。

海を封鎖されてしまうということは資源を奪われるということだ。

今でこそ自給自足率が100%に達しているとは言え、
多くの魔術師が戦場に向かう弊害として労働力が低下した状態で
漁業まで封じられたとなると食料の安定化は難しくなる。

もしもそうなれば戦力がどうこうなどという話以前の問題だ。

食料がなければ人は生きていけないからな。

実際に戦争として戦わずとも、
食料を立たれるだけで共和国は滅亡する。

その危険性を考慮すれば、
海域の確保は何よりも優先すべき最優先事項になる。

「海を守り抜かなければ共和国は全方位を敵に取り囲まれてしまうことになる。その危険性を回避するためには何としてでも海域の安全を確保しなければならない。」

「確かに守るべき地域は少ないほうがいいでしょう。ですが、守りきれますか?広大な海を…」

「出来なければ滅びるだけだ」

共和国は敵の手に落ちる。

「………。」

俺の指摘に琴平はそれ以上何も言わなかった。

どこも戦力は限られているからな。

少ない戦力でもどう立ち回るのかを考えなければならないのだ。

それぞれに思い悩む中で、桜井由美が発言してきた。

「アストリアとの戦争は一刻を争う状態なのよね?それなら集められるだけの戦力を集めて、短期決戦で決着を付けることは出来ないかしら?そうすれば『守るべき場所』は一気に減ると思うんだけど?」

確かに。

それも一つの方法ではあるだろう。

だが、得策ではない。

その意見は即座に否定しておく。

「国を滅ぼさない限り戦争は終わらない。それこそ全滅させない限り安心など有り得ないだろう。だがそこまでの勝利をつかみ取る為には相応の時間がかかってしまう。とても短期間とはいかないはずだ」

戦争は軍を倒せば終わりではないからな。

国内全域の制圧まで行わなければ、本当の終わりはない。

国を解体させない限り、何度でも抵抗してくるだけだ。

そしてアストリアとの戦いに時間をかければかけるほど他の国の進軍を止められなくなってしまう。

連合軍への牽制とアストリアへの進軍は『同時』に行わなければ国を守れないのだ。

「少なくとも『3国』同時に押し止められる程度の戦力は分散させなければならない。マールグリナへ送れる戦力は多くはないが、まずは限られた戦力で国境の砦を落とすこと。他のアストリア軍への対応は、その後に用意出来る援軍も含めて考えていくしかないだろう」

俺の説明によって進藤輝彦が琴平に問い掛ける。

「アストリア軍の状況は?」

「すでに砦には10万の部隊が結集しているという話です。さらに王都には援軍として15万が控え。王国各地にざっと5万の防衛部隊が配備され、合計30万の総力戦といったところでしょうか」

「国境近辺以外の軍隊はひとまず影響外と考えても、砦を落として王都まで進軍するとなるとまともな戦略など立てようもないな」

時間をかければかけるほど敵に軍を集結させる時間を与えることになる。

それはこちらも同じだが、
連合軍が同時に進軍を始めた場合。

こちらとしてはマールグリナへの援軍ばかりを考えることも出来なくなってしまう。

全ての国境の守りを固めながらアストリアへ進軍して制圧を目指すなど普通に考えれば不可能だ。

それでも考えなければならない。

共和国を守る為に。

戦争に勝利する方法を考え出す必要があった。
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