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THE WORLD 作者:SEASONS

4月4日

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北条の目的

検定会場の外に出た。

だが、何故か会場を出てからも北条が傍にいる。

どうやら翔子の代わりについてくるつもりらしい。

「久々に面白い試合だったな。あれなら俺も審判をした甲斐があるってもんだぜ」

気さくに話し掛けてくれるのは構わないのだが、
こちらとしては対応に困るというのが正直な意見だ。

はっきりと敵対しているわけではないとはいえ、
北条は監視を目的として行動しているはずだからな。

仲良く話し合いを、とはいかないだろう。

北条にどういう思惑があるかは知らないが、
こちらとしては翔子のように付きまとわられるのは面倒でしかない。

とりあえず今は次の会場へ向かうつもりで行動しているのだが、
その前に一度話し合うべきだろうな。

隣に並ぶ北条に視線を向けてから、
歩みを止めて話しかけることにした。

「一応聞くが、まだ俺に用があるのか?」

単純な疑問から聞いてみる。

もちろん目的があってついてきているのは分かるのだが重要なのはその内容だ。

「お前達の目的はルーンの調査ではなかったのか?」

だとしたらその目的はすでに果たしているはずだ。

「これ以上俺を監視する必要はないだろう?」

監視の必要性。

それはもう意味を成していない。

すでにルーンはほぼ完成しているからな。

微妙な調整などを考えればまだ多少実験したい事はあるものの。

その程度なら現状と比べても誤差と言っていいほどの小さな差でしかないだろう。

わざわざ次の試合まで監視する必要はないはずだ。

それに、そもそもの前提として。

本来、俺のルーンを確認するという目的で近づいてきていた翔子はすでにその目的を果たしている。

翔子が倒れた為に代わりの監視を付けるという話も分からない事ではないのだが。

それも先ほどの試合で十分な調査は出来たはずだ。

今更、追い掛けて来る必要はないだろう。

そう思って問いかけてみたものの。

北条にとってはまだ別の目的があるようだった。

「まあ、お前の言いたいことは分かる。分かるけどな。それでもそんなふうにあからさまに嫌がらなくてもいいんじゃねえか?確かに上から依頼された調査は終わった。だけどな。俺にはまだやるべき事があるんだよ」

「やるべき事だと?」

「ああ。だがまあ、たいした事じゃない。個人的な事情ってやつだ」

誰かから命じられて監視しているわけではなく、
北条自身の目的があって監視を続けているらしい。

個人的な理由があると言っているが、
笑顔を見せる北条の表情から言葉の意味を知る事は難しい。

一体、何を考えているのだろうか?

目的が分からないというのは気持ちのいいものではない。

「もう一度聞く、何が目的だ?」

「言っただろ?たいした事じゃない。ただ少しだけお前に興味がある。それだけだ」

それだけだと言ったあとで、
北条は小さな声で言葉を続けた。

「お前が『いいやつかどうか』ってな」

ああ、なるほどな。

おそらくそれが本心なのだろう。

こちらの真偽を問いかけるような言葉の奥には、
僅かに殺気が込められていたようなそんな気さえした。

「………。」

北条は何も言わない。

こちらも答えるべき言葉が思い浮かばない。

ただただ静寂が二人を取り巻き。

緊迫した空気が流れていく。

何かを企んでいるのだろうか?

学園の校則として検定会場以外での戦闘は禁じられているものの。

北条の立場がただの生徒でないことを考えれば絶対に襲われないとは言い切れない。

だとすれば、今まで以上に警戒しなければいけないのかもしれない。

あるいはここで戦うことになる可能性も考えるべきだろう。

相手の目的が分からない状況だ。

見極める必要がある。

迎撃の準備を…いや、先制の一撃を狙うべきか?

単純な実力差は一目瞭然だ。

ルーンを手にしたばかりの俺と学園2位として数々の戦闘を経験しているであろう北条とでは実力に違いがありすぎる。

魔力の総量でも負けている現状では正々堂々と正面から戦うのは無謀でしかない。

まずは一撃。

北条の行動に制限をかけられるような攻撃を叩き込む必要がある。

それができなければ力づくで押さえ込まれて敗北するのは必至だからな。

まずは足元を狙って動きを封じるのが最善か?

戦いになる事を考慮して北条との距離を計り始める。

一歩後退してから右手に魔力を集めようとすると…。

「おっと。まてまて、勘違いするな。別にお前と戦うつもりはねえよ」

北条はおどけた調子で両手を上げて微笑んだ。

「慌てるな。例え戦う必要があったとしても不意打ちのような卑怯なことはしねえ。やるなら真っ向勝負でやる。それが俺のやり方だ。だからこんなところで暴れるつもりはねえよ」

真偽は不明だが、戦うつもりはないらしい。

敵意があるのかないのかさえも不明だが、
現時点で戦うつもりはないようだ。

北条の言葉が真実であれば戦いは起きないはず。

そうでない可能性を考慮して警戒しているわけだが、
北条の言動を見ている限りでは危険性がないようにも思える。

「だとしたら、何が言いたい?」

何を探ろうとしているのか?

その目的を問いただしてみると、
北条の目つきが少しだけ鋭さを増したように見えた。

「まあ、そう心配するな。本当に個人的にホンの少し気になってるってだけの話だからな」

「どういう意味だ?」

「意味ってほどでもないさ。ただ知りたかっただけだ。『翔子を斬ったのはどういうつもりなのか?』ってな」

…ああ、そういうことか。

北条の言葉を聞いたことで、ようやく目的が理解できた。

つまりはそういうことだ。

俺は翔子を斬った。

未完成のルーンだったとは言え翔子を気絶させるに足りる力で翔子を斬った。

そして部分的にとはいえ翔子の魔力を奪い取ったことも事実だ。

だから北条は確認に来たのだろう。

俺が魔力を目当てとして翔子を斬ったのか?

それとも本当に実験の意味で翔子を斬ったのか?

その事実を確認しに来たのだ。

翔子を斬った目的は一体どちらなのか?

その答えを知ろうにも当の本人である翔子は現在意識不明の状態。

となれば、必然的にこちらに近づいて確認するしかない。

俺がどういう人間でどういう目的で動いているのかを知るためには直接確認するしかなかったのだろう。

「美袋翔子が心配という事か」

本質的な部分を問いかけてみると北条は素直に頷いた。

「はっきり言えばそういう事になるな。まあ、ないとは思うが、もしもお前が魔力欲しさに翔子を斬ったっていうのなら俺は全力でお前を潰すつもりでいる。だが逆に、翔子の為にやった事なら俺は何もいうつもりはない。むしろ面倒な役目を押し付けてすまねえと思うさ。だけどな、俺にはお前の目的はわからないし、翔子に話を聞くこともできねえ。だから自分の目で確認しに来たんだよ。きっかけはともかくとして、お前は『どちらの意味』で翔子を斬ったのか?その真偽を確認するためにな」

目的を告げる北条の顔は今も笑顔を絶やしていない。

だがその瞳の奥はぎらぎらとした殺気に満ち溢れている。

おそらくこちらの発言次第で北条は自分の立場を明確にするだろう。

北条の目を見れば本気で潰しに来る気でいる事は明白だからな。

今の俺では勝てないだろう。

目の前にいる男は翔子よりも格上の存在だ。

現時点では翔子に勝てるかどうかさえわからないのに、
その上にいる北条を敵に回すのは得策ではないだろう。

ならば、どう答えるべきか?

北条を納得させる言葉を考えるのは簡単だ。

翔子が言っていた言葉をそのまま伝えればいい。

翔子が望んでしたことだからな。

北条に恨まれる覚えはない。

少なくとも翔子が目覚めた時に事実関係は明らかになるだろう。

今は翔子の言葉を伝えるだけで北条は納得するはずだ。

だが、それでいいのだろうか?

翔子自身の願いを叶えるためとは言え、
翔子を斬ったという事実にこちらの責任がないとは言えない。

翔子を意識不明の状態に追い込んだのは事実だからな。

少なくともその責任は負うべきだろう。

翔子を傷つけたという一点においては何を言われても反論できないと思う。

だから、考えることを放棄することにした。

考える必要はない。

説明する事もない。

俺の行動は自分自身がよく知っている。

決して翔子の魔力が欲しかったわけではない。

そんな理由で翔子を傷つけたわけではないからな。

今は事実だけを答えればいい。

「頼まれたから斬った。ただそれだけだ」

翔子の願いを叶えただけだと答えた。

それで北条が納得するかどうかはわからない。

だが、それ以上の説明などするつもりはない。

「………。」

再び静寂が生まれ、互いに見つめ合うだけの時間が流れる。

…そして…。

北条から沈黙を破った。

「まあ、そうだろうな」

こちらの態度から何かを悟ったのだろうか?

北条はそれ以上の追求を行わなかった。

ただ純粋に、ごく普通の笑みを浮かべている。

「一応言っておくが、最初からお前を疑ってたわけじゃねえ。ただ、万が一そうなら手を打つ必要があるだろうなって思ってたってだけだ。だからあまり気にしないでくれ」

疑っているわけではないらしい。

ただ可能性として考慮していたようだ。

そしてその可能性が思いすごしだと感じたようで、
北条は笑顔を浮かべたまま俺を見つめている。

その瞳に先ほどまでの殺気など微塵も感じさせなかった。

おそらく俺を威圧する気がなくなったのだろう。

結果的に説明らしい説明はしていないのだが、
それでも北条は満足したようだ。

「納得したのならそれでいい。で、まだ俺に用があるのか?」

「いや、特にはねえな。でもな、せっかく来たのにもうおしまいってのはつまらねえだろ?監視ついでにもう少しお前に付き合おうと思ってる」

………。

結局、そうなるのか。

理由はなくても付いてくるつもりらしい。

その言葉を聞いた瞬間に、ため息を吐きそうになった。

これまでの話し合いの甲斐もなく、
結局一人にはなれないようだからな。

はっきり邪魔だと言って遠ざけるのは簡単かもしれないが、
それだと再び妙な疑いをかけられかねない。

疑いが晴れても決して仲良くなったわけではないからな。

不用意な発言は避けるべきだろう。

もちろん疑われて困るようなことは何もないのだが、
わざわざ敵対する必要もないからな。

今は面倒でも北条の監視を認めておいたほうが今後の活動がしやすくなるだろう。

少なくとも、突然襲われることはないはずだ。

とはいえ。

翔子にしても、北条にしても、暇なのだろうか?

理由もなくついてくるという考え方は理解できない。

そんな素朴な疑問は感じたりもする。

だが、何を言っても無駄だろうな。

北条と離れて単独行動をとるのは諦めた。

翔子同様、北条もこちらの意見など聞き入れてくれそうにないからな。

勝手気ままと言えばそれまでだが、傍若無人というほどではないか。

最低限の会話は成立しているからな。

相談役だと思えばそれなりの価値はあるかもしれない。

今はそう判断して、北条の同行を認めることにした。

「監視がしたければ、好きにすればいい」

「ああ、悪いな。迷惑だろうが、もう少しだけ我慢してくれ」

悪いと思うのなら一人にして欲しいと思うのだが、
ここで議論しても時間の無駄なのはすでに十分理解している。

「好きにしろ」

北条との会話を放棄して最後の検定会場に向かうことにした。

そのすぐ後ろを楽しそうな表情の北条が追ってくる。

翔子の代わりに訪れた北条と二人きりで、
最後の検定会場に向かってゆっくりとした足取りで歩き始めた。
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