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THE WORLD 作者:SEASONS

4月15日

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最後の想い出

《サイド:深海優奈》

ついにこの時が来てしまいました。

試合場で向かい合う総魔さんと御堂先輩の試合がついに実現してしまうんです。

この試合は二人がずっと願っていた試合です。

だから戦いを避けることはできませんし、
二人の戦いを邪魔することはできません。

ですがそれでも、私はこの試合の結果を見たくないと、思いました。

結果が出てしまえば総魔さんがいなくなってしまうからです。

それが分かっているから。

二人の試合に決着が出ないことを願ってしまいます。

このままジェノスに帰るわけにはいかないのでしょうか?

何もかも忘れて。

何もかもなかったことにして。

もう一度学園での生活を望むわけにはいかないのでしょうか?

それが幸せな結末かどうかはわかりませんが、
数日前までの日々を、どうしても望んでしまうんです。

「総魔さん…。」

出来ることなら私達と一緒にジェノスに帰っていただけませんか?

そう願うのですが、
その願いが叶わないことはこの場の状況が物語っています。

遺体を片付けようとする警備員さん達。

ここにある遺体のほぼ全てが
総魔さんの手で行われた凶行のようです。

ですがその惨劇さえも、
この場にいる誰もが認めてしまった行為のようでした。

誰も総魔さんを責めようとしなかったからです。

各学園の学園長さんや各町の知事さん達は、
総魔さんが行った殺害が必要なことであったかのように、
真剣な表情を浮かべながら無言で観戦席を出て行ってしまいます。

これからどうするべきかを考えているのでしょうか?

あるいは戦争に向けての段取りを考慮しているのかもしれません。

最終的にこの場に残ったのは私と翔子先輩。

それと理事長さんと理事長さんのお父さんだけでした。

たった4人になった観戦席で、
ただ呆然と様子を見るだけの私と翔子先輩に理事長さんが歩み寄ってくれました。

そしてため息を一つ吐いてから声をかけてくれたんです。

「出来れば見られたくなかったんだけど、来ちゃったものは仕方がないわね」

仕方がないと言った理事長さんに翔子先輩が話しかけています。

「一体、何が起きてるんですか?」

「戦争が始まるのよ」

「戦争…?」

「ええ、そうよ。出来ることならやりたくはないけどね。この国は北のアストリア王国の進攻を受け始めているのよ。今回の出来事は交渉の結果になるわ。降伏するか、抵抗するか。彼等はその最後の通告に来たのよ」

やっぱり戦争が始まるようです。

私は昨日の時点で話を聞いていましたのである程度は理解しているのですが、
何も知らない翔子先輩はまだ理解が追いつかないようでした。

「戦争って…。それと総魔に何の関係があるのよっ!?」

叫ぶように問い掛ける翔子先輩に、今度は私が答えます。

「それが…総魔さんの『復讐』だからです」

「えっ?」

戸惑う翔子先輩に、
私は今まで言えなかったことを話すことにしました。

「総魔さんは全てを奪われてしまったそうです」

両親も、友人も、知り合いも…。

一人残らず殺されてしまったんです。

「故郷の全てを失ってしまったそうです」

涙を浮かべながら話した私の説明を引き継いで、
理事長さんが話を続けてくれました。

「魔術師狩り。彼もその被害者なのよ」

被害者という言葉を聞いた瞬間に、
翔子先輩の顔色が変わりました。

「そんな、こと。一度も、総魔は、何も…」

「私も昨日までは何も知らなかったわ。知ったのは大会が始まってからよ。優奈さんは?」

「私は、あの、その…」

はっきりとは言いにくいのですが、
黙っているわけにはいかないですよね。

「その会話を、聞いてしまいました」

正直に話した私の見て、
理事長さんは優しく微笑んでくれました。

「誰にも話さずに我慢していたのね。ありがとう。優奈さんのおかげで余計な混乱が起きずにすんだわ」

私にお礼を言ってから、
理事長さんは翔子先輩に振り返りました。

「彼の目的は復讐になるわ。戦うべき相手はアストリア王国そのもの。魔術師の存在を認めない国だから、今回の出来事は戦争の始まりに過ぎないのよ。彼はこれから多くの人間を殺すことになるでしょうね。だけどそれは私や多くの魔術師が向かえる試練でもあるの。魔術師が生き残るか、対立する国が魔術師狩りを完遂するか。そういう命の奪い合いなのよ」

理事長さんはこれから始まる戦争を命の奪い合いと表現しました。

試合とは違って安全の保証がないということです。

そういう命懸けの戦場に総魔さんは進もうとしているんです。

だから、でしょうか。

理事長さんは試合場に視線を向けてから小さく呟きました。

「この試合が彼にとって最後の思い出になるでしょうね」

やっぱり、そうなってしまうのでしょうか?

もう無理なのでしょうか?

総魔さんと一緒にいることはもう出来ないのでしょうか?

事実を知って落ち込んだ表情の翔子先輩の視線は、
真っ直ぐに総魔さんへと注がれています。

試合場で向かい合う総魔さんと御堂先輩。

二人の試合が、今まさに始まろうとしていました。
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