挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
THE WORLD 作者:SEASONS

4月4日

67/4820

文句なし

《サイド:天城総魔》

次の目標は116番の吉備順弥だ。

俺を迎撃するために魔術を放とうとしているようだが、
間違いなく間に合わないだろう。

必死に詠唱する努力は認めるものの。

ここで手を抜く理由はないからな。

魔術の発動が間に合わない吉備の目前へと迫り、
全力で魔剣を振りかざす。

「くっ、くそぉぉぉぉっ!!」

もはや詠唱が間に合わない事を悟っているのだろう。

魔剣を見つめる吉備にはもう逃げる時間さえない。

体勢を変えて逃げようとする吉備を背後から斬り付けた。

「っ、ぁ!?」

小さなうめき声を残して、
吉備は試合場に倒れた。

背中を斬られ、
魔力を奪われたことで意識を失ってしまったようだ。

すかさず次の相手を探す。

倒れた吉備のすぐ後ろには119番の秋月美沙子がいた。

吉備を倒すために振り下ろしていた刃を切り返し、
美沙子の足元から魔剣を振り上げる。

「ひ…ぃ!?」

ガタガタと体を震わせながら迫り来る刃を見て怯える美沙子も、
逃げる余裕がないのだろう。

何も考えられないまま完全に動きを止めてしまっている。

「ご、ごめ…っ」

涙を溢れさせて泣いて謝ろうとする美沙子だが、
振り上げた刃はもう止まらない。

恐怖で硬直する体を引き裂くかのように、
魔剣の刃が美沙子の体を通り抜けた。

「い、やぁ…っ!!」

刃の感触を感じてしまい。

死の恐怖に襲われる絶望感。

恐怖だけを残した表情で固まった美沙子は叫び声すら出せないまま意識を失ってゆっくりと倒れた。

これで残りは二人だ。

試合場の隅に別れて詠唱を行っている松尾篤と水野園子だけになった。

どちらも距離がある為に今すぐに駆け出す必要があるのだが、
俺が動き出す前に二人の魔術が完成していたようだ。

「フレア・アロー・レイン!!」

「サンダー・オブ・バースト!」

人数が減った事もあるのだろう。

二人は迷う事なく拡散系の魔術を放ってきた。

炎の雨と稲妻の爆弾だ。

どちらも簡単に切り裂く事など出来ない魔術に思えるが、
すでに魔剣の力は彼らの予測の上を行く。

並の理論を強引にねじ伏せる魔剣には、
すでに斬り裂くという考え方そのものが存在していないからな。

魔術に魔剣が触れる。

ただそれだけでいい。

それだけで発現する圧倒的なまでの吸収力。

拡散する魔術の一部に触れただけで、
周囲に広がるはずの全ての魔術が魔剣に吸い込まれていった。

「…そんな…っ。」

「嘘でしょっ!?」

魔剣の能力を見て再び戦慄する松尾と園子。

もはや二人に打つ手はないだろう。

「くそっ!!こうなったらいちかばちかだ!!」

直接魔術を打ち込む覚悟を決めたのだろうか。

全力で駆け出した松尾だが。

最後に唱えていた魔術は発動する余裕すら与えられずに、
魔剣の刃を体に受けて試合場に倒れ込んだ。

「ぅ、嘘よ…。こんなの、有り得ないわ…。」

残ったのは101番の水野園子。

ただ一人だけだ。

「もう無理よっ!一人で勝てるわけがないわ。私の負…」

不安の色を隠せない園子が敗北を認めて棄権を宣言しようとするが、
その判断はすでに遅い。

すでに魔剣が園子の体を捕らえているからな。

「眠れ」

「ぃ、いやぁぁぁぁっ!?」

横薙の一閃。

魔剣の一撃を受けた園子もあっさりと倒れ込んだ。

物理的に斬ることはしていないが魔力は断ち切ったからな。

昏倒状態に陥った園子も戦闘の続行は不可能だろう。

その結果。

最後まで残っていた園子が倒れた事によって、
対戦相手であった8人全員の全滅が確定した。

「………。」

試合場に倒れている生徒達は一人として起き上がる様子がない。

魔力を断たれ、強引に魔力を奪われた8人の生徒達はまるで死んでいるかのように指先ひとつ動かすことがなかった。

完全なる沈黙だ。

8対1で行われた試合だったが、
それでも誰一人として俺に一撃を入れる事が出来ずに終わっていた。

「これはもうあれだな。制圧というよりも、蹂躙と呼ぶべき状況かもしれねえな」

北条でさえ呆れるほどの展開だったようだ。

8人の生徒達が倒れる試合場に視線を向ける北条の表情は驚きでも喜びでもない。

ただただ目の前の現実に対して呆れているように見えた。

「何か不満でもあるのか?」

あったとしても気にするつもりはないのだが、
それでも一応問いかけてみると北条は即座に否定した。

「いーや、何もねえよ。ただ予想してた展開と結果が違ったからな。少し驚いただけだ。状況がどうであれ、基本的には負けた奴が悪いんだからな。試合内容がどうとか、やり方がどうとか、そんなのはただの言い訳でしかねえだろ?明らかな反則行為があったっていうなら話は別だが、俺の見てた限りでは何の問題もねえ。むしろ、8対1でも負けるようならそれまでの実力でしかないと判断するべきだろ?だから不満なんて何もねえし、お前が気にすることは何もねえよ。」

こちらの行動に非はないと北条は言い切った。

そして再び試合場に視線を向けるが、
倒れた生徒達に視線を向けても全員身動き一つ見せないままだ。

完全な意識不明の状態。

この状況から逆転劇が始まる可能性は間違いなく0。

それにより、この試合の勝者も確定した。

「なかなか面白い経験が出来た。」

試合結果に満足したことで魔剣を解除する。

その様子をただただじっと見つめる観客達が北条の判定を見守るなかで、
小さくため息を吐いた北条が動きだす。

「文句なしの圧勝だ!勝者、天城総魔!!」

北条が試合終了を宣言すると同時に数少ない観客達が歓声を上げた。

倒れている生徒達はそうは思わないだろうが、
見物人たちにとっては面白い試合だったのだろう。

自分達が戦う立場ならそうはいかないだろうが、
観客としては十分に楽しめたらしい。

一通り見渡してみれば試合内容に恐怖や戸惑いを感じていた者達でさえも、
今この瞬間だけは滅多に見れない試合を見れたことで興奮しているように思えた。

もちろん、その中の一人として北条も含まれている。

「まあ、こういうのも悪くはないだろ」

こちらに歩み寄りながら微笑む北条の発言が学園として許されるものかどうかわからないが、
ひとまず現時点で言及する者はいないようだ。

「とりあえず外に出ようぜ。この会場にはもう用はないんだろ?」

ああ、そうだな。

今回の試合で101番までは制したからな。

もはやこの会場に用はない。

まだ生徒番号100番の生徒が会場に現れる可能性があるが、
ここで待つよりも次の会場に向かったほうが出会える可能性は高いだろう。

100番よりも上の生徒はいないからな。

当然、その生徒も次の会場へ向かうはずだ。

「次の会場へ向かう」

「だな」

試合を終えたことで楽しそうな笑顔を見せる北条と共に検定会場を出ることにした。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ