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THE WORLD 作者:SEASONS

4月15日

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交渉の内容

「本日は遠路遥々(えんろはるばる)、異国の地までお越しいただき、ありがとうございます」

「ああ、本当にな。わざわざ来てやったんだ。存分に感謝しろ」

頭を下げて丁寧に挨拶をする美由紀だったが、
王子の対応は使者とは思えない高圧的な態度だった。

美由紀を見下すような視線と傲慢な発言。

どう考えても表向きの友好関係など微塵も感じられない態度だ。

だから、だろうな。

周囲の知事や学園長達が僅かに殺気立つのが見て取れた。

「落ち着け!」

宗一郎の一喝を受けたことで感情を押さえ込む幹部達だが、
先頭に立つ男はその様子を見回しながら深々とため息を吐いていた。

「やはり、危険な存在ですね」

感情を見せずに美由紀と宗一郎を見つめる男の言葉には敵意がありありと見て取れる。

最初から話し合う気はないのかもしれない。

あるいは威圧も交渉の手段と考えているのかもしれないな。

「さすがは魔術師の国、というべきでしょうか」

「………。」

男の発言によって緊迫した空気が漂い始める。

この状況を何とか収めようとしようと考えたのだろう。

美由紀が精一杯の笑顔を浮かべながら男に話しかけた。

「本日は友好関係の向上とお伺いしておりますが?」

話題を変えようとする美由紀だったが、
その質問を遮るかのように王子が男に問いかけていた。

「そんな話だったか?」

「………。」

王子の発言によって、
美由紀の表情が引きつるのが見えた。

まるで話が噛み合っていないからな。

仕方のない反応だったとは思う。

だが、意外にも男の方は冷静に美由紀の質問を肯定してみせた。

「ええ、そうですよ。覚えておられませんか?」

堂々とした態度で来訪の目的を宣言する。

「両国の友好関係の為の交渉だと、お伝えしておいたはずですが?」

「ふん!バケモノ共と交渉など出来るはずがないだろう」

王子は男ほど冷静になれないようだ。

徹頭徹尾。

傲慢な態度をとり続けている。

その自信はどこから来るのだろうか?

周囲を取り囲まれながらも強気な態度を見せる王子の勇気は認めるものの。

状況を読めない蛮勇は決して利口とは思えない。

その気になれば…

いや、戦争を受け入れると決めた時点で全員を生かして返す必要はないからな。

下手に交渉が失敗して困るのは王子達のはずだ。

それでも王子は周りの魔術師に目もくれずに、男に質問を続けていく。

「九条。こんなことに何の意味がある?」

男の名前は九条というらしい。

九条はため息混じりに質問に答えた。

「互いの国の為です。それと不用意な発言は慎むようにとも、お願いしていたはずですが?」

「黙れっ!俺に命令するな!」

王子は九条の進言に耳を傾けるつもりはないようだ。

護衛を掻き分けて、単独で美由紀に歩み寄っていく。

「大人しく降伏すれば痛い思いをしなくて済むんだ。さっさとこの国を明け渡してもらおうか」

「くっ、国定くにさだ様!お待ちください!」

傲慢ごうまんな態度で脅迫しようとする王子を九条が引き止めるが、
王子の暴走は止まらない。

「うるさい!!俺に指図するな!!」

引き止める九条を振り払い。

美由紀の目前に歩み寄る。

「バケモノには見えない程のいい女だな。俺に忠誠を誓うのなら命くらいは助けてやってもいいぞ?」

美由紀の身体を眺めながら手を伸ばそうとする。

その前に宗一郎が割って入った。

「お待ち下さい」

「ふん!先代ごときが俺の邪魔をするなっ!!」

恫喝どうかつする国定だが、
宗一郎は一歩も引くことなく、美由紀を守るように歩み出る。

「交渉と聞いておりましたが、そのつもりはないと考えてよろしいのでしょうか?」

「当然だろう!!」

話し合うつもりがあるのかないのか?

根本的な疑問を問い掛けた宗一郎を国定は怒り心頭の表情で睨みつけた。

「貴様らのようなゴミ屑同然のバケモノ共を相手に交渉だと!?笑わせるなっ!!」

怒鳴り声をあげる国定だったが、
さすがにこの状況は危険だと感じたのだろう。

「いけませんっ!」

九条が国定を取り押さえ始めた。

「落ち着いてください!!」

殺気立つ魔術師達と争う意志を見せる護衛達がにらみ合う。

その間も暴れ続けようとする国定を必死に抑えながら、
九条が護衛の兵士達に指示を出す。

「全員、武器を下ろしなさい!!」

九条の指示を受けた護衛達が一斉に武器を収める。

現時点では国定よりも九条の判断が優先されるようだな。

「どういうつもりだっ!?」

叫ぶ国定に九条が冷静な態度で答える。

「今は交渉が優先です。今ここで争うのは得策ではありません」

九条は国定を護衛の戦士達の中へと押し戻してから宗一郎達に頭を下げた。

「失礼いたしました」

宗一郎と美由紀に対して謝罪してみせた。

その態度は好感が持てるのだが、
やはり視線と表情は敵対心を見せたままだ。

頭は下げても、本気で謝るつもりはないのだろう。

それでも形だけでも謝罪してみせたことで王子の不満はより一層高まっていく。

「九条ぉぉぉっ!!バケモノ共に頭を下げるなど!俺が許さんぞっ!」

大声で怒鳴り続ける国定だが、
九条は気にしない方針に決めたようだ。

「交渉を始めさせていただいてよろしいでしょうか?」

国定を無視して話し合いを始めていく。

「ああ、好きにしろ」

「わかりました。それでは…」

美由紀をかばったまま向かい合う宗一郎に、
九条は一方的な交渉内容を突き付けてきた。

「我々が望む交渉の内容はただ一つ。その条件を受けていただければ、私共わたしどもは大人しく国へ引き返えしましょう。そしてこの国と同盟関係を結ぶこともお約束いたします」

友好関係。

その証としての同盟。

そこまでの発言を聞いて、宗一郎が問い掛けた。

「その条件とは?」

「条件はただ一つ。全魔術師の処刑。ただそれだけです」

全ての魔術師の殺害。

それを九条はただそれだけだと言い切った。

「それは無理だ!」

反論する宗一郎だが、九条は一歩も引かずに警告する。

「条件を受け入れないとなると争いは回避出来ません。それがどういう意味かは分かりますね?」

戦争という言葉を、九条は如実にょじつに表していた。

「言いたいことは理解できる。だが、争う必要などないはずだ。和平の交渉を…」

「まだそのような夢物語を?実に愚かしいですね。」

宗一郎の提案に九条は呆れた表情を浮かべている。

どうあってもこちら側の言い分を聞くつもりはないようだ。

「我々とあなた方の関係がどういう状況なのかを、ちゃんと理解しているのですか?」

「状況を改善していくことにこそ、交渉の意味があるはずだ!」

「いいえ、無駄ですよ。」

和平を望む宗一郎だが、九条はあっさりと否定した。

「これはもう私達だけの問題ではないからです。すでに『魔術師という存在』は世界全土を巻き込む問題なのです。その問題の解決の為に、私達は立ち上がったのですから」

『解決』の為だと九条は言い切った。

その言葉を聞いた宗一郎は悔しそうな表情を見せている。

「そんなことは言われずとも分かっている!だがその問題を解決する為に!この共和国は存在しているのだ!!!」

反論する宗一郎も九条の意見を否定してしまった。

これで、この時点で和平への道は絶たれたも同然だ。

もはや両者の言い分は平行線だからな。

こうなってしまった以上。

どう考えても話し合いの続行は不可能だ。

九条も諦めの心境で美由紀に視線を向けている。

「交渉は決裂ということでよろしいでしょうか?」

「…他に道はないの?」

「残念ですが、他の選択肢などありません。どちらが先に『滅びる』か。その結果だけが歴史に名を刻むことが出来るのです。どちらが本当の『正義』なのかを、ね」

『正義』

どちらの意見が正しくて、
どちらの意見が勝ち残るか?

それを九条達は戦争という形で決着を付けようとしているようだ。

「互いに掲げる正義の為に戦うしかないのですよ。それがこの世界の宿命です」

「馬鹿げた宿命だわ。誰も殺しあう必要なんてないはずなのに」

「例えそうだとしても、この流れは止められません。例え我々が手を引いたところで、解決などしないのですからね」

この世界が抱える問題と魔術師という存在を、
どうあっても九条達は認めるつもりはないようだ。

「私達は和平の交渉以外受け入れないわ」

美由紀が宣言したことで、
九条は大きくため息を吐く。

「国民の命を預かる者の発言とは思えませんね」

「国を残す為に仲間を切り捨てるなんて!それこそ国を預かる者の発言ではないからよ!」

はっきりと宣言する美由紀の言葉に反論する者は誰一人としていなかった。

「なるほど…」

九条は周囲を取り囲む魔術師を見回してから、再びため息を吐く。

「魔術師に話を持ち掛けた判断が間違いだったかも知れませんね。あなた達ではなく、この国に住まう一般の者達に呼び掛けたほうが交渉は進んだでしょう」

話し合いを諦めた九条が宣言してしまう。

「魔術師であるがゆえに死を認められない代表など話し合う価値もない!」

交渉決裂。

話し合いを断念した九条に、美由紀が立ちはだかる。

「私達は抵抗するわ!」

「出来るものなら…」

互いに睨み合う美由紀と九条。

これにより、和平への道は完全に断たれた。
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