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THE WORLD 作者:SEASONS

4月15日

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新たな装備

《サイド:天城総魔》

試合場を離れたあとで、
美由紀の案内を受けて移動した俺は
3階にある米倉宗一郎の部屋へとたどり着いた。

「中で父さんが待ってるわ」

美由紀が扉を開く。

『ガチャッ』と、音を立てながら開かれる扉の向こう側に、
米倉宗一郎が待っているようだ。

決して大きくはない部屋だが、
室内には宗一郎と琴平重郎が見えた。

そして何故か栗原薫もいるようだった。

「ついに来たか」

「お待たせしました」

話しかけてきた宗一郎に、
美由紀が頭を下げてから部屋の中へと足を踏み入れていく。

その後ろを追って、俺も歩みを進めていく。

室内で待っていた3人の視線を受けながら、
俺も美由紀も席についた。

その間に僅かな沈黙が訪れていたが、
最初に口を開いたのはやはり宗一郎だった。

「色々と話すべきことはあるが、その前にこれだけは言っておこう」

笑顔を浮かべながら、俺に話し掛けてくる。

「先程のきみの試合も見させてもらった。まさか『精霊』まで使いこなせるとは思っていなかったが、実に素晴らしい力だな。擬似的ぎじてき模倣もほうとはいえ、この目で『天使』が見れるとは予想していなかったことだ」

「確かに…。」

笑顔で語る宗一郎に続いて、琴平も話し掛けてくる。

「恐怖さえ感じるほどの力ですよ。単なる作り物ではない神の威光というものを感じてしまいましたからね」

神の威光か。

そんなものが実際に存在するかどうかは知らないが、
宗一郎や琴平を驚かせるには十分なほどの完成度だったようだ。

「もしかすると、すでにあなたの実力は『米倉代表』以上かも知れませんね」

どうだろうな。

美由紀の実力を知らないために俺自身では判断できないものの。

すでに俺は国内最強の魔術師と呼ばれている美由紀を上回ると判断されているようだ。

そしてその判断に関して、美由紀に不満はないようだった。

「まあ、そうかもしれないわね…。」

美由紀自身も認めているようだ。

「純粋な戦闘力…。あるいは魔術の技術。そういう意味では私以上だと認めるわ。本気で戦えばあなたが勝つでしょうね」

美由紀との実力差か…。

俺達が戦うことはないと思うが、
美由紀の実力を知らないからな。

周りがどう思うかに関係なく、俺としては判断のしようがない。

「そんなことはどうでも良い。それよりも例の王族は到着したのか?」

俺にとって重要なのはアストリアの王族の行方だけだ。

その動向を知る宗一郎が現時点での情報を教えてくれた。

「いや。そろそろだとは思うがまだ到着はしていないようだ。すでに町の中には入っているようだが、この会場へ到着するまでに10分程度はかかるだろう。…と、言っても、特別観戦席までの移動時間を考えるともう少しかかるとは思うがな」

まあ、そうだな。

移動時間を考えれば、ある程度時間がかかるのは仕方がないだろう。

それでも30分と経たずに対面することになるはずだ。

僅か数十分。

たったそれだけの時間を待つだけで、
復讐すべき相手と出会うことができるということになる。

だとすれば今更ここで慌てる必要はないだろう。

そんなふうに考えていると、
今まで黙って待機していた栗原薫が話し掛けてきた。

「まあまあ、それはそれとして。」

栗原が足元に用意していた袋を俺に差し出してくる。

「学園長に頼まれて用意してきたんだけど、これで良かったかしら?」

用意?

何を頼まれたのだろうか?

袋を受けとってから中身を確かめてみる。

中に入っているのは一式の服と一本のナイフのようだ。

それらを眺めていると、琴平が話し掛けてきた。

「さすがにジェノス魔導学園の制服のままでは行動しにくいだろうと思いまして、栗原さんに用意してもらっていたのですよ」

ああ、確かにな。

学園の制服のまま行動するのは色々と問題があるだろう。

「それと、そちらナイフも差し上げますよ。ここグランバニアの学園長から譲っていただいた逸品です。魔力を込めることによって物理的に形を変える使い勝手の良い武器ですので、護身用として持っておくと良いでしょう」

これは護身用か。

使い方を聞いたことでナイフに魔力を込めてみる。

『ブン…ッ。』と、微かな振動と共に意思に応じて変化するナイフの形。

込めた魔力の量に応じて、剣や斧や槍にも姿を変えるようだ。

魔力で作られるルーンに似た性能だが、
物理的な武器として考えれば使い勝手は良さそうに思える。

使うことがあるかどうかはわからないものの。

あって困るものではないだろう。

状況次第だとは思うが、
今はありがたくもらっておこう。

「感謝する」

礼を言ってから、服とナイフを受けとることにした。

「いえいえ、お礼はいいですよ。それらはこちらで用意できる最低限の物資です。本来なら可能な限りの魔道具を用意してお渡ししたいところなのですが、現時点で用意できるのはそれだけでした。もう少し時間があれば色々と用意できたとは思うのですが、なにぶんアストリアへ派遣する部隊にも物資を揃える必要がありますので現状ではこれだけが精一杯なのです」

「ああ、それは構わない。こうして協力してもらえるだけでも十分すぎるほど有難いと思ってる」

本来なら一人で戦うつもりでいたからな。

物資や情報も含めて協力してもらえるだけ十分だ。

「ありがとうございます。そう言ってもらえるとなによりです」

説明を終えた琴平は隣の部屋を指し示した。

「一応、時間は余裕とは言えませんが、まだありますので、今のうちに着替えておいた方がいいでしょう。そちらの部屋を自由にお使い下さい」

「ああ、わかった」

琴平に勧められたことで隣室へと移動する。

ここは宿泊用の個室とほぼ同じようだな。

当然だが誰もいないようだ。

さっさと着替えて話し合いに戻るべきだろう。

この2週間ほどで着慣れたと感じていた制服の一着だが、
惜しむことなく制服を脱いでから新たな服に着替える。

全体を黒で統一された服だ。

密偵用か、あるいは暗殺者仕様だろうか?

防刃性能と耐炎性能が組み込まれているのが分かる。

…とは言え。

基本的には布の服だからな。

耐久性はそれほど高くはないだろう。

あくまでも動きやすさが重視されているように思う。

ただ、各所に複雑な紋様と装飾が施されているが少し気になった。

目立つほどではないものの。

魔術的な紋様自体になんらかの仕掛けがあるように思える。

そう言えば、琴平はこれらが魔道具だと言っていたな。

だとすれば魔力に反応するのかもしれない。

確認のために魔力を込めてみると、
服に施されている紋様が微かな光を放ち始めた。

白銀の輝きだ。

ぼんやりと輝いて見える程度の光量だが、
その光を見ただけで、おおよその見当は付いた。

間違いなく物理的な防御力の上昇だ。

おそらくは白兵戦を見越しての魔術的な鎧なのだろう。

これからそうそう簡単に服が破壊されることはないように思える。

「良い装備だ」

服を着替え終えたことで、次にナイフを手にしてみた。

直径20センチ程の長さだ。

標準よりも細長いために大きいとは言えないだろう。

さやに納められたナイフを上着の内側へと仕舞ってから着替えを終えることにした。

「あとは…」

着替え終えたことで、脱ぎ捨てた制服に視線を向けてみる。

おそらくもう二度と着ることはないだろう。

このままここに残しておく意味もなければ、
大事に保管する意味もないように思える。

「燃やすか…。」

今の俺にはもう必要ないからな。

制服を一カ所にまとめて燃やすことにした。

「フレア」

炎を生み出して、制服を焼き払う。

後悔はない。

ここまでは俺の望み通りに動いているからな。

今更ジェノスに帰ろうなどとは思わない。

「これで良い。」

灰となって消えた制服の残骸を僅かに眺めてから部屋を出ることにした。
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