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THE WORLD 作者:SEASONS

4月4日

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8対1

そして訪れた試合場はA-1番だ。

俺が試合場へ着くと、
周囲に『9人』の生徒達が集まってきた。

8人は対戦相手だが、残り一人は北条真哉だ。

生徒数よりも多くなってしまった審判員や係員達までが、
この異常な事態に興味を惹かれて試合場を取り囲むように集まっている。

そんな状況の中で8人の生徒達が口々に話し掛けて来るが、
いちいち答える気はないので沈黙したまま試合場に立つ。

そんな素っ気ない俺の態度を見て、
ぶつぶつと文句を言いながらも試合場に入る8人の生徒達。

周囲の観客からの注目を浴びながら。

8対1の試合が始まろうとしていた。

…のだが…。

今回はいつもとは違って審判員が試合場に入ってくる様子がなかった。

誰が審判を行うかで迷っているのだろうか?

通常、試合場ごとに審判員が決まっているので話し合う余地などないと思うのだが、
本来ならば審判を務めるべき係員が試合場に入ってこようとしない。

この状況を不思議に思うのは俺だけではなく、
対戦相手である8人の生徒達も同様のようだ。

「審判はどうした?」

試合場内において最も離れた場所にいた松尾篤が審判不在の理由を問いかけてみると、
観客を分け入って一人の生徒が歩み出てきた。

「今回の審判は俺がやる」

率先して出て来たのが誰かは考えるまでもない。

学園2位の北条真哉だ。

「まあ、普通に考えれば、試合場に9人もいれば大混戦となるわけだが、そうなると審判員にも被害が出かねないからな。だから、この試合の審判は俺がやる」

自信満々に宣言した北条だが、
その言葉には裏があるように思える。

他の審判員達では被害を免れることはできないが、
自分なら被害はないと言っているに等しい発言だからだ。

そしておそらく実際にそうなるだろうと思う。

北条の自信がただの過剰でない事は間違いないはずだ。

少なくとも他の生徒達は北条の事を知っているようで、
誰一人として異論を唱える者がいなかった。

「どうやら、文句はねえようだな」

誰も反論しないことを確認した北条はこれまで以上に楽しそうな笑顔を浮かべている。

「なら、始めようぜ」

満足げに微笑んだ北条が足音も立てずに試合場の中央に立つ。

「まあ、なんだ。ただ単に一度やってみたかっただけなんだけどな」

嬉しそうな表情を浮かべながらも、
北条は俺に聞こえるように小さな声で囁いてきた。

「とりあえず段取りは整えてやったぜ」

「ああ、感謝する」

今は素直に感謝の言葉を返しておくことにする。

現状、北条の協力によって俺の都合のいいように事態は動いているからな。

不満などあるはずもない。

「面倒をかけてすまない」

「ははっ。気にすんな。これも俺の役目だからな」

翔子の代わりに監視を行う。

その役目を遂行するために動いているだけだと告げてから、
北条は右手を高く掲げて試合開始を宣言する。

「それじゃあ、始めるぜ!試合、始めっ!!」

試合開始を宣言すると同時に、即座に後方に下がる北条。

その北条と入れ代わるように一気に前へと飛び出す。

ここまでお膳立てをされて負けるわけにはいかないだろう。

翔子を意識不明の状態に追い込んだ上で、
学園の校則を無視してまで試合を行っているのだからな。

ここで敗北するようなことがあれば、
北条だけではなく翔子にも合わせる顔がない。

「こちらの都合に巻き込んでおいて申し訳ないが、全力で切り伏せる!!」

ルーンを発動させて一直線に試合場を駆け抜ける俺の動きを見て8人の対戦相手達はちょっとした混乱状態に陥った。

その理由はこちらが魔剣を発動したから、ではない。

試合場という限られた範囲に問題があるからだ。

「散開しろっ!!」

115番の東矢春樹が大声で叫ぶが、
個人戦ばかりで連携など練習したことのない生徒達は的確な配置につくことができずにおろおろと戸惑っている。

「八方に移動するのよっ!!」

104番の宮島京香が指示を出したことで8人の生徒達は大慌てで散開し始めた。

試合場内は1対1でならば十分な広さがあるものの。

8人が密集するとかなり狭く感じられる。

どこにいようと魔術を放つ事は簡単なのだが、
その余波や流れ弾によって他の誰かを巻き込みかねないからな。

そんな不安を感じながらの試合となるために、
散開しようとする生徒達の行動は正しいと思うのだが。

一つだけ決定的な問題が残っている。

悪くはない判断だが動きが遅すぎるということだ。

全力で前に突き進んだために、
すでに俺は試合場の中心付近にいる。

対する生徒達はまだ配置についていない。

それぞれが8方向に避難しようとしている途中だ。

だが無理に8方向に散ろうとすれば必然的に俺の後方にも回り込まなければならないことになる。

そのための移動が明らかに遅かった。

「やはり複数による戦闘は苦手か」

学園の方針とは言え。

個人戦ばかり行っている生徒達に効率よく戦えと思うのは無理があるようで、
対戦相手の誰もが味方への誤射を恐れて消極的な動きを見せている。

「だが、始めた以上、手加減はしない」

いくら生徒達が複数戦を得意としていないとは言え、
全方向を囲まれればこちらが不利になるのは避けられないからな。

そうなる前に包囲網を乱す必要がある。

「順番に眠ってもらう」

突撃していた状況から一転して、
即座に後方へと引き返す。

まだ背後に回りきれていない生徒を真っ先に排除するためだ。

「まずはお前からだ」

「!?」

各生徒達が口々に魔術の詠唱を始めているが、
背後に回り込もうとしていた生徒に迷う事なく狙いを定めた。

標的は109番の山崎信太だ。

「くそっ!背後に回り込むつもりが、接近しすぎたっ!」

真っ先に狙われたことで絶望的な表情を浮かべる山崎だが後悔しても既に遅い。

包囲網の一角である山崎を手にした魔剣で一刀両断に切り捨てる。

下段から上段へ切り上げる一撃だ。

物理的な攻撃は行わずに魔力だけを斬った。

その結果として一見無傷な山崎だが、
寸断された魔力を根こそぎ魔剣に奪い取られたことで意識を失って倒れ込んでしまう。

「………。」

倒れた山崎は動かない。

あまりにも一方的な結果によって他の生徒達も絶句している。

「一撃だと…?」

驚くのも無理はない。

あまりにも一瞬の出来事だったからな。

実際に目の前で起きているにもかかわらず、
信じられない気持ちになるのも当然だろう。

「うわ~。無茶苦茶よね…。」

一瞬の出来事によってあっさりと一人が脱落したことを驚いて詠唱中だった魔術を中断する者達が続出する中で、
これまでの状況を見ていた北条は真剣な表情で試合を眺めている。

「そうだよな。最低限、この程度は頑張ってもらわないとな。せっかくここまで来た甲斐がないってもんだぜ」

俺の実力を確認したことでどこか楽しそうにも見える北条だが、
今は北条に気を向けていられるほど暇ではない。

早急に次の生徒を排除しなければならないからだ。

「次はお前だ」

山崎が倒れたことで詠唱を中断してしまい、
油断を見せてしまった次の生徒に狙いを定めて一気に駆け寄る。

「く、くるなっ!!!!!!!!」

慌てて逃げようとするがすでに遅い。

こちらはすでに刃が届く位置にいる。

「逃がしはしないっ」

魔剣を振りかざす。

ただそれだけの行動で恐怖の表情をあらわにしたのは東矢春樹だ。

「や、やめろっ」

おそらく自分でも勘付いているのだろう。

魔剣の一撃を受ければ確実に倒れる、と。

そうなる前に必死に逃げようとする東矢だが、
背中を見せた東矢の背後から容赦なく魔剣を突き立てた。

全力での突きだ。

手加減はしていない。

「…!?」

体を貫かれた東矢は声も無いまま力尽きて倒れる。

「これで二人」

東矢が倒れたことで別の生徒へ狙いを向けようとしたその直前に、
112番の奥野あずみの魔術が完成したようだ。

「今なら誤射の心配はないわ!!エクスカリバー!!!」

俺に向かって放つ無数の風の刃。

その攻撃に迷いがないことは即座に判断できた。

「良い判断だ」

すでに東矢が倒れているために味方を気にする必要がなくなったあずみは試合場に倒れこんでいる東矢を巻き込むことも構わずに全力で魔術を放ってきたようだ。

「だが、一人の攻撃では俺には届かない」

倒すべき相手はまだ6人もいる。

上手く連携をとられれば苦戦するかもしれないが、
単独で放つ魔術ならば魔剣だけで十分に対処できる自信がある。

「全てを喰らう」

迫り来る不可視の風の刃の驚異を直感で感じ取りながら即座に体勢を立て直して魔剣を構えた。

「消え去れ」

真一文字に剣を振った直後。

不可視の風の刃を魔剣が一つ残らず切り裂いた。

「そんなっ!?目では見えないのよっ!?いえ、そもそも数百に及ぶ風の刃をひと振りで消し去るなんて、そんなの有り得ないわっ!!!」

現実を認められずに目の前で起きた現象を全力で否定するあずみだが、
どれほど否定したところで事実は変わらない。

あずみが放った風の刃は完全に消え去ったからな。

その一瞬の攻防には北条でさえも戦慄を感じたようだ。

「まじか…っ!?」

あずみの放った魔術が何事もなかったかのように消滅したことを驚いている。

自分ならば真っ向から対立できると自信を持つ北条であっても不可視の風の刃を消滅させられるかと問われれば実現できる自信がなかったのだろう。

驚くあずみと北条。

その一瞬の油断を逃さずに駆け出した俺の一撃があずみの体を一直線に斬り裂いた。

「ぁ…ぐぅっ…!?」

現実を受け止められないまま、あずみは試合場に倒れる。

試合開始からわずか2分での出来事だ。

ここまでの短い時間の間に倒れた生徒は3人。

それでもまだ5人の生徒が残っているため。

彼らは俺に狙いを定めて魔術を放とうと行動している。

「次は…」

各方面から狙い撃ちにされかねない状況だが、
迷う事なく次の生徒に狙いを定める。

最も近場にいた104番の宮島京香だ。

「…お前だ」

視線を向けたことで自分が狙われている事を悟った京香はなんとか逃れようとして準備を終えていた魔術を放つ。

「メガ・ウイン!!」

魔術が発動すると同時に台風に匹敵する強烈な突風が生まれてこちらを吹き飛ばそうとした。

…だが…。

魔剣を風に向ける。

ただそれだけで突風は消滅する。

「そんな、どうしてっ!?」

驚き戸惑う京香だが、
その目前には風を断ち切った魔剣がすでに迫っている。

「い、いやぁ…っ!?」

目の前に迫り来る恐怖を感じて怯える京香に迫る魔剣の刃。

魔剣の一撃を受けた京香は叫び声さえあげる事なく意識を失って倒れ込んだ。

これで4人。

試合開始から3分と経たずに半数の生徒が脱落した。

「次は…」

京香から視線を逸らして次の生徒の姿を捉えようとしたその瞬間に残る4人の生徒の魔術が発動した。

「ファイアー・ボール!!」

「アイシクル・ランス!」

「サンダー・ウォール!!!」

「バースト・フレア!!」

ほぼ同時に放たれた4種類の魔術。

それらを視界に捉えて即座に行動を開始する。

まずは初撃のファイアー・ボールから。

頭上から降り注ぐ炎の玉を斬り裂くために、
魔剣を下段に構えて左下から右上に向かって一直線に振り抜いた。

その瞬間に炎の玉は消滅する。

続いて切り返す刃が真正面から飛来するアイシクル・ランスを分断する。

これで2手。

だが迫り来る魔術はあと二つある。

全ての魔術には対応出来ていない。

さすがに全てを切り捨てるのは無理だったようだ。

反応速度の限界によって対応しきれなかった魔術が周囲を取り囲んで雷壁を発生させてしまう。

そしてその隙間を突き抜けてくる炎の炸裂弾が目前に迫る。

回避は不可能だ。

雷壁と爆炎。

どちらも俺に対して決定的な一撃を与えるに相応しい攻撃だとは思う。

だが、結果としてそうはならなかった。

シールドを展開して両方の魔術の攻撃を防ぎきったからな。

霧の結界ではない通常の防御結界だが全ての魔力を遮断する絶対防御だ。

かつては扱いづらい魔術だと考えていたが、
魔剣を手にした現状ではただの結界も最強の盾に等しい効果をもたらしてくれる。

「一応言っておくが、『魔術を使わない』と言った覚えはない」

今のところ霧と魔術を使う予定はないものの。

だからと言って全ての魔術を使わないと決めたわけではない。

必要に応じて魔術を使い分けるつもりはある。

「さあ、再開しようか」

結界を解除して改めて攻撃を再開するのだが、
全ての攻撃が不発に終わった事に驚く4人の生徒達の動きは鈍い。

おそらく結界を突き抜ける攻撃が思い浮かばないのだろう。

だが、北条だけは気付いてしまったようだった。
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