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THE WORLD 作者:SEASONS

4月15日

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覚醒

………。

徐々に薄れていく意識。

結局、私はまた何も出来ないようでした。

「優奈ちゃん!!頑張って!!」

応援してくれる翔子先輩の声が聞こえた気がします。

ですが今の私には返事を返す余裕さえなくて。

意識が途絶えて意識を失ってしまう…

その寸前で…

『このまま諦めるのか?』

不意にどこかから声が聞こえたような気がしました。

…声?

どこから聞こえたのでしょうか?

よくわかりません。

ですが試合場には私と金田さんしかいないはずです。

もちろん審判員さんはいますが、
審判員さんが話しかけてくることはありません。

少なくとも、今までは一度もありませんでした。

だから一瞬、翔子先輩かなと思いましたが、
すぐにそれが間違いなのは分かりました。

聞こえたのは男性の声だったからです。

はっきりとは聞き取れませんでしたが翔子先輩ではありません。

だとしたら、御堂先輩か北条真哉先輩でしょうか?

確認してみたいのですが、
今はもう周囲を見回すことさえ出来ません。

意識が消えかかっていることで、体が全く動かないからです。

気持ちとしては諦めるつもりなんてないのですが、
気持ちに反して体は言うことを聞いてくれません。

そのせいで何もできずにいる私に、
もう一度声が聞こえてきました。

『お前は俺が認めた魔術師だ。自分を信じて立ち上がれ。そして自分自身の本当の力に覚醒してみせろ』

この声は…総魔さんですよね?

不思議と心地よくて、懐かしささえ感じさせる声です。

もうここにはいないはずなのに。

それなのに総魔さんの声が聞こえたような気がしたんです。

ですが…。

私はどうすればいいのでしょうか?

立ち上がれと言ってくれた総魔さんの言葉の意味がわかりません。

私の本当の力って何ですか?

それが何かは分からないのですが、
それでもこのまま倒れることは私の『心』が許しませんでした。

私はまだ戦えるんです。

例えこの体が壊れたとしても、
心が残っている間は絶対に諦めようとは思いません。

「私はまだ…っ!戦えるんですっ!」

体の痛みを堪えながら、必死に立ち上がります。

ですが、それだけです。

体の痛みは消えませんし、
途切れそうな意識も安定しそうにありません。

ただ立ち上がっただけで、
反撃ができるような余裕はどこにもありませんでした。

「その勇気だけは認めてあげるわ」

苦しむ私を見て剣を構える金田さんがゆっくりと私に近づいてきます。

「苦しまないように楽にしてあげるわね」

宣言して振り下ろす刃が…私の体に突き刺さりました。

「ぁ…ぅ…っ」

死ぬ、と思いました。

今までで一番危険な攻撃だったように思うんです。

たった一撃で、『死』を実感してしまうほどの激痛が体中を駆け巡りました。

ピーターさんとの試合以上の致命傷だったと思います。

今の一撃によって私の体の感覚は完全に途絶えてしまいました。

今はもう、痛みさえも感じられなくなってしまったようですね。

目の前が急速に暗転して、
急速に意識も途絶えてしまいます。

すみません…。

総魔さん…。

やっぱり私には…勝てませんでした。

それだけを悲しく思い。

消えそうになる意識のなかで。

このまま死ぬかもしれないと思ったのですが…。

えっ?

何故か急に視界が元に戻りました。

どうして…?

真っ暗になりかけた視界が、急速に元に戻ったんです。

何が起きたのでしょうか?

ゆっくりと開く瞳の視線の先で、何かに驚く金田さんがいます。

どうかしたのでしょうか?

色々と疑問を感じてしまいましたが、すぐに異変に気付けました。

あれ…?

体中の痛みが全て消えていたんです。

それは痛みが感じられなくなったとかそういうことではなかったんです。

動く手と動く足。

斬られたはずの体も出血は完全に止まっているようでした。

「何なのっ?何なのよっ!?」

戸惑う金田さんの手元に視線を向けてみます。

…えっ?

自分でも理解出来きません。

ですが。

そこに在るはずの物がそこにはなかったんです。

「ルーンが…消された!?」

驚き戸惑う金田さんの言葉を聞いてから考えてみました。

金田さんのルーンが消えたそうです。

それはつまり、私が吸収したということでしょうか?

つまりそれは、ルーンも吸収出来るようになったということなのでしょうか?

大量の魔力を吸収した結果として、
私は無意識のうちに自分の体を回復していたのかもしれません。

「…どうして…?」

戸惑う金田さんを見てようやく理解できました。

私は私の限界を超えることができたのかもしれないということにです。

総魔さんに指摘されてしまった私の欠点。

『危機感』という心の問題が瀕死に陥った瞬間に改善されたんだと思います。

だとしたら。

私に恐れるものはもうなにもありません。

「あなたのおかげです。」

ルーンの攻撃さえも吸収できるのだとしたら、
私はもう、本当の意味で全ての魔術を吸収することが出来るはずです。

「『死』を実感したことで、私はようやく『覚醒かくせい』出来ました」

「覚、醒?」

「今の私に吸収出来ない魔力は存在しません」

今なら出来るはずです。

何もかも、奪い取れるはずなんです。

「今はもう…精霊も怖くはありません」

狼さんの頭にそっと触れます。

その瞬間に狼さんは姿を消しました。

「そんなっ!?精霊までっ!?」

怯えるかのような瞳で私を見つめる金田さんに、
まずはお礼を言っておくことにしました。

「ありがとうございます。金田さんのおかげで私は『もう一つ』力を手にすることが出来ました」

狼さんを吸収したことで、新たな力を手に入れたんです。

「これが私の能力です」

右手を足元に向けながら力を発動させます。

金田さんの精霊を吸収したことで、
なんとなくですが使いこなせるような気がしたからです。

「そしてこれが私の精霊です!」

足元に向けて放つ魔力が、
小さく渦を巻きながら一つの形として現れます。

ふわっと優しく吹く風の中心で『小さな命』が生まれたんです。

実際には生物ではないので『命』という表現は適切ではないかも知れませんが、
私にとっては命に等しい存在です。

私が願い。

想像する『精霊』

それはとてもとても小さな存在だと思います。

大きさや格好良さなんて求めません。

綺麗で繊細でなくても良いんです。

強くなくても構いません。

私の心を現して、私と同じ様に成長してくれればそれだけで良いんです。

そんな思いを込めて、私は『この子』を想像しました。
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