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THE WORLD 作者:SEASONS

4月15日

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番犬

「私は私です」

「ええ、そうね。」

………。

まっすぐに金田さんと見つめ合っていると、
私達の間に立った審判員さんが試合開始を宣言しました。

「それでは、試合始めっ!!」

試合が始まったことで、急いでルーンを発動させます。

相変わらず魔術の詠唱は苦手なままなので、
ルーンに頼らなければまともに攻撃ができないからです。

両手が光り輝いてからわずか数秒。

ひと呼吸の間に、使い馴れた弓『ヴァンガード』が現れました。

「ふ~ん。あなたは弓の使い手なのね」

金田さんもルーンを発動させてから両手でしっかりと構えています。

光り輝く手に現れたのは少し小さめの剣ですね。

分類的にはショートソードと言うのでしょうか?

今まで見たルーンの中では最も小さな剣だと思います。

長さは50センチ程度でしょうか?

短剣と呼ぶには大きい気がしますし、
剣と呼ぶには小さい気がします。

丁度、剣と短剣の中間くらいでしょうか?

「マインゴージュ。それがこの剣の名前よ」

マインゴージュと呼ばれた剣の刃は微かに青く光っているように見えます。

まるで冷気を帯びているかのような、そんな輝きです。

「大抵の相手にはこのルーンだけで対処できる自信はあるつもりだけど、すでに一敗してる状況だから手加減なんてしないわよ」

ルーンを構えながら、
金田さんは『もう一つ』の力を発動させました。

「見せてあげるわね。私の精霊を!!」

瞬時に冷気が渦を巻いて『何か』が形作られます。

「召喚!!フェンリル!!!」

金田さんがルーンを振りかざした瞬間に冷気の渦が一つの形になりました。

青白い光を帯びた『狼』が試合場に現れたんです。

体長は2メートルを越える大型の狼ですね。

大きな口から吐き出される冷気は翔子先輩の魔術に匹敵するように思えます。

それだけでも十分すぎるほどの脅威を感じるのですが、
狼の瞳には獲物を狙う動物の本能が感じられることが何よりも怖いと思いました。

「それが、金田さんの精霊なんですね」

「ええ、そうよ。魔狼フェンリル…って言っても、実在するかどうか疑わしい神話の生き物だけどね。一応、精霊の『形』は術者の想像力次第だから属性や能力と姿形には何の関連性もないわ。ルーンに似て非なる存在。これが私の使役する精霊なのよ」

金田さんは狼さんの頭を撫でています。

見た目はすごく触り心地が良さそうに思えるのですが、
魔力で出来た精霊に毛触りはあるのでしょうか?

よくわかりませんが、
どちらにしても私が触るのは難しいと思います。

多分ですが…。

触る前に噛み付かれそうな気がするからです。

「私にとっては『最強の番犬』よ。まあ、狼だけどね。あなたは『私達』に勝てるかしら?」

私達…ですか。

余裕の笑みを浮かべる金田さんと狼さんに視線を向けながら考えてみます。

ルーンによる攻撃はどう考えても防げません。

ピーターさんとの試合によってすでに明らかになっていることなのですが、
今の私ではルーンによる攻撃は吸収できないからです。

そしてそれは魔術に関しても言えることですので、
狼さんの直接的な攻撃も防ぐことはできないと思います。

遠距離からの攻撃なら全て吸収出来ると思いますので、
接近さえされなければ勝てるはずなのですが
上手く距離を維持できるかどうかは正直に言って自信がありません。

金田さん一人が相手ならまだ何とかなるかもしれませんが、
狼さんも警戒しなければいけないんです。

2対1ではどう対処すればいいのか想像さえもできません。

だからこそ、ゆっくりと深呼吸をしてみます。

気持ちを落ち着けるためです。

焦って考えても答えなんて出ないからです。

私には戦いの技術なんて何もありません。

魔力を吸収して、負けない努力をするしかないんです。

だったらあれこれ無理に考えるよりも、
流れに身を任せてしまったほうがいいと思います。

「2対1でも私は負けません!私は今よりももっともっと強くならなければいけないんです。だから!だからあなたにも勝ってみせます!」

勝利を宣言してから、力一杯に弓を引き絞りました。

ここからが私の戦いです。

「だったら勝ってみなさい。出来るものなら、だけどね!」

ルーンを構える金田さんの意思に応じて、狼さんが駆け出します。

どういう原理で動いているのかわかりませんが、
ある程度自動で敵に襲い掛かるようですね

「恐怖しなさい!私の力に!!」

宣言する金田さんのルーンが輝きを増しました。

『ブゥゥゥゥゥゥン……。』と、微かな振動音が聞こえます。

ルーンから放たれる冷気。

金田さんから一直線に伸びる冷気が、
試合場を凍りつかせながら私へと襲い掛かろうとしていました。

「ファルシオン!!!」

冷気系最上級魔術ですね。

ですが…

「負けません!」

光の矢を放って迫り来る冷気に突き刺します。

押し負けてしまったらどうしようかと一瞬だけ不安を感じてしまいましたが、
どうやらその心配は必要ないようです。

光の矢によって冷気はあっさりと吹き飛びました。

その次の瞬間に。

私の吸収の特性によって、冷気は跡形もなく消失します。

「な…っ!?」

驚く金田さんは足を止めていたのですが、
別方向から駆け寄ってくる狼さんは私に向けて口から冷気を吐き出そうとしていました。

ブレスとでも言うのでしょうか?

どんな魔術よりも強力に思える冷気です。

ですがどれほど強力な冷気でも、
私に触れると同時にキラキラと光り輝きながら消失してしまいます。

今の攻防で私の魔力が上昇しました。

つまり、精霊の攻撃も私には通じないということです。

噛み付かれるのは困りますが、ブレスなら怖くありません。

「この程度ならまだ大丈夫です」

「くっ!まさかこれ程なんて…」

魔力を奪われたことを実感したのか、
金田さんは強く私をにらみつけてきました。

そして唇を強く噛み締めているのが見えます。

魔力を奪われたことで悔しいと思ったのでしょうか?

実際にどうかはわかりませんが、
それでも金田さんは諦めようとはせずに即座に気持ちを切り替えてから微笑みました。

「厄介な能力なのは認めるけれど、『直接』攻撃すれば効果があることは知ってるわよっ!!」

どうやら前回の試合で敗北した私の欠点を知っているようですね。

新たな魔術を詠唱しながら私へと駆け寄る金田さんは、
私にではなくて自分自身に魔術を発動させるようです。

「ヘイスト!!!」

身体能力を強化する魔術ですね。

魔術が発動した瞬間に金田さんの動きが加速したように思えます。

学園での試合でも何度か目にしたことがある魔術なので、
どういう効果があるのかは知っているつもりです。

「遠慮はしないわよっ!!」

「…うぅ~。」

目前に迫って剣を振る金田さんから逃げようとしたのですが、
どう考えても逃げ切れません。

あっさりと私を捕捉した金田さんがルーンで切り掛かってきます。

「まずは一撃っ!」

「…っ…!!」

逃げ切れずに掠めた刃が私の左肩を切り裂いて、
流れ落ちる血が試合場を赤く染めていました。

「まだまだ行くわよっ!!!」

あぅぅぅ~。

加速したまま更に追い撃ちをかけてくる金田さんから必死に逃げようとしたのですが、
その間に背後に回り込んできた狼さんが接近してきているようです。

この状況は危険すぎます。

大きく広がる狼さんの牙が私に狙いを定めているのが見えてしまいました。

正面の金田さんと背後の狼さん。

どう考えても逃げることは出来ません。

「これで終わりよっ!!!」

剣を振り下ろす金田さんと背後から迫る狼さんの牙が同時に襲い掛かってきました。

金田さんの剣が私の体を斬り。

狼さんが私の足に食いつき。

…ぁ、ぅぅ…っ!!

私は何も出来ないまま試合場に倒れてしまったんです。
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