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THE WORLD 作者:SEASONS

4月15日

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諸刃の剣

「先手必勝!!ソニックブーム!!!!」

試合場を破壊しながら勢いよく突撃する北条は、
最速の一撃で彩花に襲い掛かる。

「あらあら、以前よりも速くなってるわね」

それほど驚いているようには見えないが、
彩花は急接近する北条に向けて『ゆっくり』と短剣を構えている。

どうするつもりなのだろうか?

北条の攻撃が届くのはホンの数秒だ。

即座に対応しなければ迎撃は間に合わないはず。

御堂や翔子のような攻撃特化には見えない彩花がどうやって北条の攻撃を止めるのか?

余裕を見せる彩花の行動を眺めていると、
何らかの魔術が発動されたようだった。

幻惑げんわく蜃気楼しんきろう

魔術が展開された瞬間に彩花の身体が揺らめいて見えた。

ゆらゆらと歪む景色。

俺の認識としては一瞬の出来事だったのだが、
試合場にいる北条は突如として動きを止めて攻撃を中断していた。

「ちぃっ!また幻かっ!?」

まぼろし

北条は何らかの影響を受けて戸惑う様子を見せているのだが、
ここから見る限りでは二人の状況に変化は見えない。

彩花は開始線に立ったままで、
北条は試合場の中央付近で立ち止まってしまったという程度だ。

どちらも無傷で、どちらも動きを止めている。

ただ、それだけだ。

僅かに試合場全域が揺らめいて見えるような気はするが、
慌てる程ではないように思える。

だがそれは俺が距離をとっているからであって、
影響下にいる北条には何らかの幻が見えている様子だった。

「くそっ!距離感が掴めねえ!」

揺らぐ景色と幻。

そして蜃気楼か。

北条が何を見ているのかは分からないが、
おそらくは歪んだ距離感を見せられているのだろう。

本物の彩花と偽物の蜃気楼。

その区別が出来なくなる幻覚のようだな。

あらゆる魔術を強行突破出来る北条と言えども、
さすがに幻までは回避出来ないようだ。

…と言うよりも。

物理的な攻撃ではない精神攻撃だからこそ、
北条にとってはもっとも相性の悪い相手なのかもしれないな。

「あらあら。早く逃げないと以前と同じ歴史を繰り返すことになるわよ?」

のんびりと歩みを進める彩花は、
手にした短剣を握り締めながら堂々と北条に近づいていく。

焦らず、急がず、ただ静かに。

立ち止まったままの北条に歩み寄っていく。

「さあ。どれが本当の私かしら?」

短剣を振りかざす彩花の動きに北条は全く対応できていない。

距離感が歪んでしまったことで、
敵が近くにいても遠くに感じているのようだ。

「ふふっ。やっぱりあなたはこの程度なのね」

周囲の状況が把握できない北条の背後から、
邪気を放つ短剣が振り下ろされようとしている。

「ちっ!!」

現実と幻の区別のつかない北条は、
緊急手段としてその場を中心としてラングリッサーを一直線に振り回していた。

「まとめて薙ぎ倒すっ!!」

風きり音を轟かせながら一回転する北条。

その攻撃は背後にいた彩花に直撃するはずだったのだが…。

「あらあら、怖い怖い。幻惑げんわく脱力だつりょく

攻撃が届く前に、さらなる幻術に飲まれてしまったようだ。

「くそっ!…力が…っ!?」

新たな魔術が発動したことで、北条の勢いが弱まっていく。

槍を振り回すどころか、
槍に振り回されていると言ったほうが正しいかもしれない。

それほど明確に動きが鈍っているのが見えた。

「ちぃっ!ちょっとはまともに戦いやがれっ!!」

立ち続ける気力さえ保てずにその場に崩れ落ちた北条は、
ルーンさえも手放してしまったことでとても戦えるようには思えない。

やはり北条にとって精神攻撃は最大の鬼門のようだ。

このままでは何もできずに敗北してしまうだろう。

「ふふっ。残念だったわね」

哀れみを込めるかのような瞳で北条を見下ろす彩花は、
短剣を構え直してから再び北条に切り掛かる。

そして。

容赦なく振り下ろされる短剣の刃が『ズッ…ブッ…』と北条の背中に突き刺さった。

「ぐあああああああああああああああっ!?」

肉が切れる音と共に響き渡る北条の悲鳴。

それでも彩花は手を緩めることなく、
『グリグリ』と短剣で北条の身体をえぐり続けていく。

「まだまだ、楽にはしてあげないわよ?」

優奈を攻め続けたピーターと同様の展開だが、
悪意があるという意味ではこちらのほうが残酷だろうな。

「があ、ああああああああああああっ!!!!」

血を吐きながら叫び続ける北条。

そんな北条の姿を見ていた彩花は妖しく微笑んだままだ。

「ふふっ。良い声ね」

北条の叫び声が心地よく聞こえるのだろうか?

徹底的に性格が歪んでいるように思えるが、
余裕を見せたその行動が彩花の運命を変えてしまうことになるようだ。

「う、ぜえっ!!」」

突如として北条が動き出した。

そして至近距離にいる彩花の手を掴みとった。

「…え…っ!?」

戸惑う彩花に対して、北条は血を吐きながらも微笑みを見せる。

「は、ははっ。彩花…油断したな」

「なに…を…っ!?」

笑顔が消え去り、表情を凍りつかせる彩花に北条が宣告する。

「お前を『捕まえた』。これでお前の負けだ。俺はもう、お前を逃がさねえ!」

「…っ!」

強く宣言する北条を見て、
彩花は蒼白の表情で北条の手を振り払おうとしていた。

だが。

北条は決して彩花の手を離さない。

「俺はお前を逃がさない。そして、お前に勝つ!!」

彩花を捕らえたまま、両手に力を込めている。

「ラングリッサー!!!」

叫ぶ北条の意志に呼応して、
試合場に転がっていた槍が瞬間的に動き出した。

一直線に主に向かい。

その間に捕らえられている彩花に、背後から刃を突き立てる。

「ぐっ!!」

「き…ゃ、あ、っ!?」

身体に突き刺さる槍が彩花の体を貫いた。

だが、その攻撃は諸刃の剣だったようだな。

彩花の体を突き抜けてしまったために、
北条自身も刃を受けて重傷を負ってしまっている。

「…ははっ。心中覚悟の反撃だが、体力のねえお前にはこれで十分だろ…っ」

肉を切らせて骨を断つと言ったところか。

槍を遠隔操作した北条は、
自らを犠牲にすることで彩花の身体に槍を突き刺すことに成功したようだ。

「う…ぅぅ…ぁぁっ!!」

倒れ込む彩花が魔術を途絶えさせたことで、全ての幻が消え去ったようだな。

「ようやく幻が消えたか」

北条は自らの身体に突き刺さったままの短剣に視線を向けてから、
まずはラングリッサーを引き抜いてゆっくりと立ち上がる。

「ちっ。急がねえと、やべぇな」

ふらつく身体で立ち上がった北条は、うずくまる彩花に視線を向けた。

「余裕をかまして俺に近付いたお前の負けだ!!」

彩花に刺さる槍に手をかける。

「大人しく眠りな!!」

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

北条が槍を引き抜くと同時に彩花の悲鳴が響き渡る。

傷ついた体を抉られるという痛みを彩花自身も味わってしまったようだ。

痛みに苦しむ彩花に対して、北条は再び槍を構えている。

「ぶっ飛べ!!ボルガノン!!!!」

「ぁぁぁぁぁっ!!!!!」

至近距離から放たれる刺突を受けた彩花は、
声を出すことさえ出来ずに試合場の外へと弾き飛ばされることになった。

「………!!!」

結界に激突してから場外に落ちた彩花は衝撃で意識を失ってしまったようだ。

「試合終了!!!勝者、ジェノス魔導学園!!!」

「…マジでやべぇ…」

審判の宣言の直後に呟いた北条も力尽きて、その場で崩れ落ちて倒れた。
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