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THE WORLD 作者:SEASONS

4月14日

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マールグリナ

「先に紹介しておこう。隣にいるのはマールグリナで学園長を務めている琴平重郎ことひらじゅうろうだ」

宗一郎の言葉に続いて、琴平が俺に頭を下げて挨拶をしてきた。

「琴平重郎と申します」

一見すると威厳や威圧など一切感じさせないごく普通の男に見えるが、
その瞳の奥には強い意志を感じさせる輝きがある。

今はにこやかに微笑んでいるものの。

明らかに俺という人間を観察して分析しようとしているのが感じられた。

とは言え、明確な敵意は感じられない。

おそらく俺がどういう人物なのかを確かめようとしているだけだろう。

「天城総魔だ」

こちらからも名乗ったことで、琴平は楽しそうな笑みを見せた。

「ええ、存知ていますよ。すでに米倉から話は聞いていますので…」

どうやら宗一郎から俺の話を聞いていたようだ。

どの程度まで話したのかは知らないが、
俺がアストリア王国を憎んでいる理由くらいは聞いているだろう。

そうでなければ俺がここに招かれる理由がないからな。

挨拶を終えた琴平に続いて、宗一郎も俺に話し掛けてきた。

「きみの目的と、きみが例の砦を見たという話を琴平には伝えてある。そしてきみをここに呼んだ理由はただ一つ。問題の砦に関して話があるからだ」

宗一郎が話し合いを始めたことで、
栗原薫が砦の図面をテーブルの上に広げ始めた。

先程の話し合いで宗一郎が持っていた図面を拡大したもののようだが、
おそらくこちらが実物で宗一郎が手にしている図面は書き写したものだろう。

そう判断してから、宗一郎に問い掛けることにした。

「なぜ、ここで話し合うことになった?」

砦に関しての会議ならここである必要はないはずだ。

それこそ特別観覧席でも問題はないだろう。

共和国全体に関わる問題なのだから
他の主要な幹部たちも交えて話し合うのが当然の流れのはずだ。

それにマールグリナの生徒達を巻き込む必要はない…と、
そこまで考えてから俺はあることを思い出した。

ああ、なるほどな。

そういうことか。

マールグリナの生徒達を会議に参加させる理由に気づいた。

つまりは、そういうことだ。

俺の僅かな表情の変化を感じ取ったのか、
宗一郎は小さく頷いてから話を続けていく。

「きみもすでに知っていると思うが、マールグリナは例の『砦』が建設された国境沿いに最も近い町だ。共和国最北の町『マールグリナ』。ここにいる生徒達を含め、砦の建設当初からマールグリナは隠密に砦の調査を行っていたのだ。この図面も彼等の努力によって手に入れることが出来たものだ」

マールグリナの諜報部隊の活躍によって図面を手に入れることができたようだ。

その活躍は讃えるべき出来事だが、
図面に視線を向けた宗一郎は深く溜息を吐いていた。

「だが、残念なことに調査の段階で何人もの魔術師が命を落としていることも事実だ。この図面を手に入れるためだけに両手で数え切れないほどの死者も出ている。これは、この図面はそういった犠牲の上で手に入れた物なのだ」

悔しさを堪えるために拳を握り締める宗一郎だが、
そんな宗一郎の肩に手を置いた琴平はまっすぐに俺を見つめながら話し掛けてきた。

「貴方の実力は先程の試合で拝見させてもらいました。実に優秀で、実に恐ろしい。驚くべき才能です。間違いなく、共和国最上位の実力と言えるでしょう。だからこそ、もしも貴方にその気があるのなら、我々と一つだけ取引をしませんか?」

取引だと?

不審に思う俺に琴平は難問を突きつけてくる。

「そう、取引ですよ。こちらが提示する条件をご理解いただけるのでしたら、こちらもあなたの望みを叶えましょう」

「俺の望みか、色々と疑問に思うことはあるが、その前に聞かせてもらおう。共和国が提示する条件はなんだ?」

「こちらの願いはただ一つ。『砦の破壊』ただそれだけです」

簡単に口にする琴平だがそれは決して簡単なことではないだろう。

「そんなの無茶よ!!」

美由紀も批判している。

その理由は単純だ。

単独で敵国の砦を潰すなど到底実現可能な話ではないからだ。

もちろん、そんなことは琴平も分かっているだろう。

美由紀の反対意見を遮って話を続けていく。

「もちろん、一人でなどと言うつもりはありません。こちらの戦力に参加していただける意志があるなら、という意味です」

「戦力か、それがどれほどのものかは知らないが、砦に手を出せば戦争は止められなくなるだろう」

根本的な問題を指摘してみると、
琴平は悩むそぶりさえ見せずに鼻で笑ってみせた。

「それこそ今更ですよ。向こうはそのつもりで準備を進めています。ですからこちらも早急に対処しなくては向こうが攻めて来てからでは間に合わないのです。こちらから先手を打たなければ大変なことになるのです。そう、とても大変なことに、です」

何かを企むかのように話す琴平に続いて、
今度は宗一郎が説明を始めた。

「すでに知っていると思うが、この国はアストリア以外にも周辺諸国と対立関係にある。アストリアが動き出したとなれば当然他の国々も同調してこの国へと攻め寄せて来るだろう。それらを未然に防ぎ、牽制する為にはこちらから先手を打たなければならない」

「ねえ、父さん。共和国はもうすでにそこまで追い込まれているの?」

「ああ、そうだ。」

現状を聞いたことで美由紀が問い掛けると、
宗一郎は悔しそうな表情で頷いていた。

「すでに事態は最悪の展開に進みつつある。いや、言い直すなら全ての準備が整った為に、アストリアが動き出したと考えるべきだろう」

全ての準備とはつまり共和国を滅亡させる為の包囲網が出来上がったという意味だ。

共和国に隣接する国は3つ。

北のアストリア。
西のセルビナ。
そして北西のミッドガルム。

この3国が連合して共和国に攻め込んで来るとしたら、
共和国の軍事力では到底守りきれないだろう。

それは単純に3対1という差ではなく、軍事力そのものの差だ。

多方面から押し寄せてくる敵軍に対して
共和国が送り出せる迎撃部隊はそれほど多くはないと思われる。

兵力という絶対数が負けている以上。

戦力を分散させることは各個撃破をされに行くようなものだ。

「3国が『連合』を確立する前にアストリアを叩く…ということだな?」

俺の言葉を聞いた琴平が笑みを浮かべながら頷いた。

「その通りです。魔術だけではなく、頭の回転も人並み以上ですね。私達の考えは貴方の想像通りです。戦争が共和国全土を飲み込む前に、砦を、そしてアストリアを叩く。それが私達に残された最後の希望です」

最後の希望か。

確かにそれ以外の方法は考えられないだろう。

戦争を止められないのなら、各国を個別に撃破するしかない。

連合となればこちらの戦力は分散され、防衛すらままならなくなるからな。

そうなる前にこちらから攻め込めればまだ希望は残るはずだ。

だからこそ『戦争』という名の戦いの中心に俺の居場所が用意された。

つまりはそういうことだった。
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