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THE WORLD 作者:SEASONS

4月14日

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沙織の成長

《サイド:天城総魔》

「自分の力で優奈を救え」

俺の指示によって、沙織は優奈と向き合った。

だが、それだけだ。

すぐに動こうとはしなかった。

「…無理です。私には出来ません。」

自信を持てずに俯いてしまう沙織は挑戦する前からすでに諦めてしまっているようだな。

今は辛うじて沙織の治療で即死を回避しているが、
このまま血が流れ続ければ優奈は確実に死んでしまうだろう。

その状況にあっても沙織は諦めようとしている。

自分では出来ないと思うことで優奈を助ける意思を持てずにいる。

そんな沙織を見つめながら、俺は一度だけ問い掛けることにした。

「助けられないのなら優奈が死ぬことになる。もしもここに俺がいなかったとしたら、お前はこのまま何もせずに見捨てるのか?」

いつも俺が傍にいられるわけではないからな。

沙織には俺がいなくても対処できるようになってもらいたかったのだが、
沙織に理解させるよりも先に苛立ちを抑えきれなくなった翔子が掴みかかってきた。

「ふざけないでよっ!!何もしないのは総魔でしょっ!?早く優奈ちゃんを助けてよっ!じゃないと、本当に優奈ちゃんが…!」

全力で叫ぶ翔子だが、
今ここで翔子と言い争うつもりはない。

そんな時間はないからな。

無駄な時間をかければ間違いなく優奈は死んでしまうだろう。

そうなってしまえば俺でも治療はできない。

死者を蘇らせることなどできはしないからな。

だからこそ。

限りある時間を無駄にしないために、
翔子を退けてから再び沙織に話しかけることにした。

「沙織なら出来るはずだ。」

すでに沙織にはそれだけの力があるからな。

「自分で限界を作るのではなく、自分で限界を乗り越えろ」

「自分…で?」

戸惑いながらも優奈と向き合う沙織は、
傷口に添える手に僅かに力を込めたようだ。

「私にも…出来ますか?」

ああ、沙織なら必ず出来る。

「すでにお前は俺の魔術を目にしているはずだ。その結果を逆算して新たに理論を組み直せ。その先に、見えるものがあるはずだ。」

「その先に見えるもの?」

瞳を閉じた沙織は、深く…深く…思考を始めた。

「魔術の逆算…。」

解析は沙織の得意分野だからな。

必ずできるはずだ。

「必要なのは気付くことだ」

「気付く、こと?」

俺の言葉を復唱する沙織は緊迫した状況の中で新たな理論を構築したようだ。

「やってみます!」

宣言した沙織が新たな魔術を発動させた。

「ライブ・ア・ライブ!!」

魔力のきらめきが優奈の体を包み込んでいく。

その光は俺の魔術と同様に優奈の体を光で満たし、
血の再生さえも実現させながら優奈の傷口を瞬く間に塞いでいった。

その結果として。

優奈は意識を取り戻すことができたようだ。

「…ん…っ…」

「優奈ちゃん!!!」

目覚めた優奈が視線をさまよわせる姿を見て、
翔子が慌てて優奈に抱き着く。

「え?え?」

状況が飲み込めない様子の優奈だが、
翔子は喜びを表現するかのように強く優奈を抱きしめていた。

「無事で良かった~。本気で心配したのよ?」

「あ、あの、その、私…。」

戸惑い続ける優奈だったが、
御堂は優奈の努力を褒め称えていた。

「良く頑張ったね」

「で、でも、私、試合に…」

負けたと言い終える前に、北条も優奈に話し掛ける。

「あれだけ出来れば十分じゃねえか?今回の結果は素直に受け止めて、次の試合で頑張れば良いんだよ。誰だって勝てないことはあるからな。そこで諦めれば終わりだが、諦めなければまだまだ強くなれる。勝負ってのはそういうもんだ」

「先輩」

御堂と北条の二人の言葉を聞いた優奈は静かに涙を流していた。

「お役に立てなくてすみません。でも次は…次は必ず勝ちます。だから、だからっ…」

願いを込めて御堂達を見つめる優奈だが、
想いを口に出す前に、翔子が優奈の頭を撫でていた。

「大丈夫よ。次は勝てるわ。きっとね」

敗北を経験することで得られるものもある。

次の試合に込める想いは優奈を確実に成長させるだろう。

例えそれが僅かな差異だとしても、その成長を認めようと思う。

今はこれで十分だ。

強くなりたいと願う思いさえあれば人は必ず成長できる。

今回の敗北によって優奈の気持ちは切り替わったはずだ。

魔術師としてではなく、一人の人間としてだが。

精神的な成長こそが優奈にとって必要な成長だと思っている。

戦うことの意味を知り。

勝つことへの意識を高めることで優奈は強くなれると判断していた。

「ねえ、天城君?」

優奈の無事を確認した沙織が話しかけてきた。

「どうした?」

「その、ね。天城君は私のことも考えてくれていたの?」

「え?ってことは、沙織の為にわざと手を貸さなかったってこと?」

「………。」

沙織の言葉に反応する翔子だったが、
俺は翔子の問い掛けに何も答えなかった。

恩を売るつもりもなければ礼を求めるつもりもないからだ。

だから今は、沙織に視線を向けたままで、
俺は俺の思う質問を問い掛けることにした。

「本当の意味で魔術を使いこなせるということがどういう意味か、少しは理解出来たか?」

「えっ?」

驚き戸惑う沙織だが、それは一瞬のことですぐに静かに頷いてみせた。

「え、ええ。何となくだけど。私は気付けたかもしれないわ。自分の限界に…。そしてそれが偽りだということに…」

「ああ、それでいい。それが『魔術の法を理解して魔力を行使できる力』だ」

「魔術の法を行使できる力?それじゃあ、これが魔法なのですか?」

「ああ、そうだ。」

単純な能力の優劣ではなく、魔法使いとしての才能。

それが沙織の能力だと俺は判断している。

「今はまだ回復魔術だけかもしれないが、このまま腕を磨けばあらゆる魔術を魔法として行使できるようになるだろう」

優奈が吸収の能力に特化しているように。

翔子が一撃の攻撃力に特化しているように。

沙織も全ての魔術を魔法として使えるようになる。

それが沙織の成長だと俺は考えていた。

「限界を決めるのは自分自身だ。逆に言えば、限界を超えるのも自分自身だ」

「ええ、そうね。そうかもしれないわね」

今はまだ実感がわかないようだが、
新たな力に覚醒した結果として沙織は魔法を使えるようになったはず。

そしてその力によって優奈の出血は止まり、無事に治療が終了していた。

「魔法を極めれば、妹の目を治療することもできるだろう」

「え?ほ、本当ですか!?」

「幾つか方法は考えてある。だがどの方法を試すにしても沙織自身が腕を磨かなければ実現することはできないとも考えている」

「そのために、あえて私に任せたのですか?」

「治療に協力すると約束したからな」

例えそれが効力を持たない口約束だとしても、
約束を反故にするつもりはない。

「それに、どんな治療法を考えても実行できなければ意味がないからな」

「…そうですね。私自身も努力をするべきだったんですね」

単に魔術を開発するだけでは意味がない。

術者自身の力量を上げなければ使いこなせないからだ。

そのために偽りの限界を崩して、新たな道を切り開くこと。

それが沙織にとって必要な一手だったと思っている。

自分にはこれが精一杯だという『思い込み』を排除することで見える『先』がある。

そのことに沙織も気付いただろう。

ただそれだけのことだが、
気づくことができたことで沙織も成長出来るはずだ。

ただ魔術を『使える』だけではなく。

魔術を『使いこなせる』ということの意味を知った沙織なら、
俺が手を貸さなくてもあとは自分の意思で成長していくはず。

そう考えて、話を打ち切ることにした。

「あとは自分の意思で考えろ」

沙織との話を終えたことで、俺はその場を離れようとしたのだが…

「総魔さん」

その前に優奈が話しかけてきた。

「なんだ?」

「あ、いえ…。あの、ありがとうございます」

優奈は恥ずかしそうに礼を言ってからうつむいた。

その行動だけではどういう意味かわからない。

そもそも俺は何もしていないからな。

「礼を言われる覚えはない」

「いえ。その、ただ、伝えたかっただけなんです」

………。

優奈が何を伝えたかったのかは分からない。

だが、悪い気はしなかった。

「良く頑張ったな」

優奈の努力を労ってから歩きだす。

そのあとに続く翔子達も試合場から離れたことで、
事態が収まったことを確認した係員が進行を再開しようとしていた。
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