挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
THE WORLD 作者:SEASONS

4月14日

568/4820

本当は誰かに

《サイド:深海優奈》

ぁうぅぅ…。

ど、ど、どうすれば良いのでしょうか?

向かい合う総魔さんの顔を見つめる勇気が私にはありません。

盗み聞きをしていたという罪悪感が心に重くのしかかっているからです。

「優奈」

ただ名前を呼ばれただけなのに、『ビクッ…』と肩が震えてしまいました。

「あ、あのっ。その…。ご、ごめんなさい。私…」

どうして良いのかが分かりませんでした。

なんて答えれば良いのかが分からなかったんです。

そのせいで…。

泣いてしまいそうになりました。

「私、私…」

上手く言葉に出来ない自分が嫌になります。

出来ることなら逃げ出したいと思うのですが、
走り出す勇気さえありません。

ただただ総魔さんに責められることが怖くて…。

泣いてしまったんです。

「す、すみません…。ごめん、なさいっ」

謝ることしか出来ない私でしたが、
何故か総魔さんは怒りませんでした。

いえ…。

怒るどころか、そっと私の頭に手を置いて優しく撫でてくれたんです。

「気にするな」

とても優しい言葉に思えました。

ですがその優しい言葉が、余計に私の心を締め付けるんです。

「どうして、どうして怒らないんですか…?」

「怒るほどのことではないからな。それに、いずれ分かることだ」

私の頭から手を離した総魔さんは、
もう一度同じ言葉を繰り返しました。

「いずれ分かることだ。俺のことも、それ以外のこともな」

総魔さんのことというのは、
総魔さんの過去と復讐の理由だと思います。

そしてそれ以外のことというのは、
戦争が始まるということです。

ですがどんな話よりも、私はたった一つのことが頭から離れませんでした。

それは総魔さんのご両親が殺されたという出来事です。

その話がどうしても頭から離れませんでした。

両親が殺されるというのはどういう感情をもたらすのでしょうか?

両親に愛されて生きてきた私にはわかりません。

もしも私が総魔さんの立場だったとしたら、
私はどんな気持ちになるのでしょうか?

総魔さんのように、復讐を考えるでしょうか?

それとも何もできずに一人で死んでしまうのでしょうか?

家族を失い。

住む家も失い。

一人で孤独に生きるという人生は私には想像もできません。

どんな幸福にも見向きもせずに、
ただひたすらに復讐の為だけに生きている総魔さんは、
今までどんな気持ちで生きてきたのでしょうか?

能力に関する人間関係を別とすれば、
ごく平凡な人生だった私には真逆の人生を歩んできた総魔さんに対して言えることは何もありません。

ですが、聞かずにはいられませんでした。

「総魔さん」

恐る恐る見上げる総魔さんの表情はいつもと変わりません。

だけどそれがとても寂しく感じてしまいます。

総魔さんの瞳にいつもの優しさが感じられないからです。

まるで全てを諦めてしまったかのような遠い目をしているように見えたんです。

総魔さんの瞳はただただ絶望しか感じられなかったから、
復讐という目的の為だけに生きているという感情を象徴しているように見えました。

だから私は聞いてしまったんです。

「辛くはないですか?」

「いや。何も思うことはない」

「そう、ですか…。」

私の言葉を聞いても全く表情を変えることがありませんでした。

だからこそ。

総魔さんの本心が見えないことをとても寂しく感じてしまったんです。

だからでしょうか?

落ち込んでしまう私に、
総魔さんは今の気持ちを聞かせてくれました。

「これが俺の選んだ道だ。生きていくことに喜びも悲しみも必要ない。俺に必要なのは目的を成し遂げる為の『力』だけだ」

力だけ?

本当にそうでしょうか?

私はそうは思いません。

そんなの嘘だと思うからです。

だって、もしも本当にそうだとしたら、
私やみんなに笑顔を見せてくれたりしないはずです。

誰も必要とせずに、自分一人だけで戦うつもりだったのなら、
最初から私達と関わることはなかったはずです。

喜びも悲しみもいらないとすれば、
私達と関わる必要がなかったはずなんです。

だから、だから総魔さんは…。

本当は誰かに頼りたかったのではないでしょうか?

本当は誰かに助けて欲しかったのではないでしょうか?

孤独でいることが辛いから、
誰かと一緒にいたいと思ったのではないでしょうか?

そんなふうに聞きたいと思いました。

ですが、その言葉を口にすることは出来ません。

だって…。

だってもしもその言葉まで否定されてしまったら、
もう二度と総魔さんに会えないような、そんな気がしたからです。

私達の存在が必要じゃないと認めてしまった瞬間から、
私達の手の届かないどこかへ言ってしまうようなそんな気がしたんです。

だから私は、涙をこぼしながら別の問い掛けをしてみました。

「私では総魔さんのお役には立てませんか?私では総魔さんの支えにはなれませんか?」

それが私に出来る精一杯の問い掛けです。

この言葉を否定されたら私は立ち直れないかもしれません。

そんなふうに思いながらも見上げてみた総魔さんの表情は、
どこか寂しそうに見えました。

だけど、それだけです。

「………。」

総魔さんは何も答えてくれませんでした。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ