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THE WORLD 作者:SEASONS

4月3日

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立ち入り禁止の意味

再び歩みを進める地下通路。

黒柳の後を追って薄暗い通路を進んでいくと、
今度はごく普通の扉の前へと案内された。

扉には『所長室』と書かれている。

だとすれば、ここは黒柳の部屋なのだろう。

入る前からある程度の予想は出来ていたものの。

実際に室内に入ってみると、
思っていた以上に足の踏み場がないほど荒れ果てていた。

性格的な問題だとは思うが、
片付けるつもりはなさそうだ。

見た目通りの雑な性格なのだろうか?

室内には多数の書類が撒き散らかっていて、
場所によっては衣類も脱ぎ捨てられているのが見える。

そんな室内を見回していると、
黒柳は苦笑いを浮かべながら話し掛けてきた。

「職業病のようなものでな。毎日仕事に追われていてゆっくりと休む暇がないんだ。これでもまだマシ…というか、とりあえず必要なものだけはちゃんとより分けて保管してあるからあまり気を遣わなくていい。適当に踏み分けて入ってくれ。研究に没頭すると部屋が荒れるのは、研究者の定めのようなものだからな」

そうだろうか?

ここまで荒れ果ててくればさすがに業務に支障が出ると思うのだが。

黒柳はそうは思わないのだろうか?

「まあ、見るに見かねて片付けてくれる職員がいるからいつもこうというわけではないんだがな。はっはっは!」

豪快に笑って誤魔化そうとする黒柳だが、
その笑顔に反してどことなく疲れているように思えた。

「疲れているのか?」

「ん?どうしてそう思う?」

「顔では笑っていても目が死んでいるからな」

「ははははっ。これは痛いところをつかれたな。まあ、ここ数日ほど徹夜続きで睡眠時間が削られているのは事実だな」

「何かあったのか?」

「いや、差し迫った問題はない。ただ上からの命令でな。早急に最新の防御結界を構築しろと言われているだけだ」

「それがさっきの実験か?」

「まあ、そうなるな。学園の総力を上げれば彼の力を防げる防御結界は展開できるんだが、それだと彼が戦う度に消費する魔力の量が笑えない数値になってしまうんでな。その消費を抑えるための低燃費策を考えろというのが上からのお達しだ」

「なるほど。その言葉を信じるなら、あれほどの破壊力を防ぎきる防御結界が存在するということだな?」

「ああ、それならある。というか君も知っているだろう。検定会場の防御結界がそれにあたる。あの結界は君が思っている以上に優秀でな。彼が本格的に暴れてもビクともしない強度を誇っているのだ。まあ、そこまでの強度を生み出すのに莫大な魔力を消費しているのが現状ではあるがな」

そういうことか。

「それなら理解できる」

「ああ、というわけで、結界の効率化が今の俺の仕事ということになる」

そうか。

それはいいが、それよりも他に色々と聞きたい事がある。

「幾つか質問してもいいか?」

「当然だ。そのために君をここに招いたのだからな」

問い掛けてみると黒柳は真剣な目つきで頷いてくれた。

「ただ、俺に答えられる範囲でよければ…という条件は付くがな」

ああ、それで構わない。

答えられる範囲内で話を聞かせてもらえれば十分だ。

黒柳の条件を受け入れることで、
ようやく話の本題へ入る事が出来るようになった。

まずは、そうだな。

聞きたい事は幾つもあるが、
ひとまず根本的なルーンの説明を求めることにしよう。

「ルーンついて基本的な話が聞きたい」

「まあ、そうなるだろうな。漠然とした質問だが、ひとまず順番に説明しよう。とりあえず座るといい」

説明の前に席を勧める黒柳に従って手近なソファーに腰を下ろした。

その向かい側に座った黒柳は白紙の紙とペンを取り出してから丁寧に説明を始めてくれた。

「では、始めようか」

まず最初に。

ルーンとは『魔力の結晶』であるという事から始まる。

自在に操れる魔術とは違い。

ルーンは魔力の総量や性質が深く関係していて、
術者によってそれぞれに性能が変わるらしい。

魔力の総量とは単純な魔力の『絶対量』であり、
込められる量が多ければ多いほどルーンの威力が高まっていくようだ。

そして性質とは術者の性格や知識や特性等の総合的な能力ということだ。

例えば炎が得意な術者の場合。

所持するルーンが炎の効果を持っている確率が圧倒的に高いようで、
他の『属性』であっても結果は同様になるようだ。

だからこそ術者の能力がルーンに大きく影響するということだった。

そして何よりも重要なのは単純に武器を生み出せれば良いというわけではないということだ。

術者次第でその形も様々な為に分かりやすく武器の形をしているとは限らない。

人目を避けるように隠し持ってルーンの持つ能力を使用する術者もいるようだ。

「まだまだ研究され始めた分野のために、はっきりこういうものだと言えることはあまり多くはないのが実情だがな」

現時点ではルーンの定義を研究者の間では魔力の結晶化としているが、
それ以上の説明は難しいようだ。

形は千差万別であり、
能力は術者次第で威力は魔力次第。

そんなあやふやなものに確固たる定義を決め付けるのは難航しているらしく。

大まかな流れだけを黒柳は説明してくれた。

「すでに君も感じているとは思うが、はっきりこういうものだとは言い難い部分がある。だからこそ、君には実験に付き合ってもらったわけだ。あやふやな概念を説明するよりも直接見せたほうが早いからな」

ああ、そうだな。

そうかもしれない。

「それでだ、ルーンに関してこれ以上の説明ははっきり言って難しい。実物を見せるのは簡単だが、術者次第で出来上がるものは異なるからな。色々と知識を集めて習うよりも実際に扱って慣れろと言うしかない」

そこまで言って席を立った黒柳は、
お茶を二つ入れてから片方をこちらに差し出してくれた。

「まあ、お茶でも飲みながら続けよう。まだ質問はあるか?」

…そうだな。

あまり質問をしても意味がないような気もするが、
ついでに聞いておこう。

「ルーンの能力というのは自由に決められるものなのか?今の話を聞いた限りでは、そうではないように聞こえた気がするんだが」

何気ない疑問を問いかけてみると、
黒柳は何故か楽しそうに微笑んだ。

「いい質問だ。そこに気付いたのならば話が早い。ただ、その問いに答える前に言わなければならない事がある」

手にしていたお茶を一気に飲み干してから、
黒柳は話を続けていく。

「今回、君は許可を得てここへ来た。だが、基本的に君はここへ来る事は認められない。それが何故か分かるか?」

「『立入禁止』。それ自体に意味があるという事か?」

思い浮かぶことを問いかけてみると、
黒柳はう頷いてから答えてくれた。

「それほど難しい事ではないんだが、ただ単純に今の君がルーンを知らないからだ。そしてそれが今の君にとっては『重要』な問題になる」

「どういう意味だ?」

「ルーンとは術者の能力そのものと言ってしまってもいいだろう。すでに君の成績や対戦結果に関してある程度の話は聞いているからな。おおよそ君が持つルーンの能力はこうなるだろうと思う事はある。だが、それはあくまでも俺の個人的な意見だ。それを話すことで君に余計な先入観を持たせかねない。そこで、だ。これだけは先に言っておく」

一息ついてから黒柳は言葉を続けた。

「ルーンとは術者の能力そのものであり、他人の意見に左右されるべきものではない。他人の意見に左右された時点で、それはもう君自身の能力とはかけ離れているからだ」

他人の意見をあてにしてはならない。

そう付け加えた黒柳は、
まっすぐに俺の目を見つめながら話を続けていく。

「ここはルーンの『研究所』。本来ならば、君がルーンを使えるようになってから来るべき場所だ。それでも知識を求めるというのならそれでもいいが、研究者の一人としての意見を言わせてもらうのならば余分な先入観は持たないほうがいいと俺は思う。まあ、どうするかは君次第だがな。どうする?俺の推測を聞くか?」

黒柳の話を聞くべきかどうか?

その価値を考えてみる。

確かに余計な先入観があればルーンを使いこなす事は難しいだろう。

そういうものだと思ってしまえば、
その時点で『それ』は自分の力ではなくなるからだ。

他人に与えられた力という事になってしまうからな。

だが、ルーンとは術者の能力の結晶だ。

その能力は術者の意志によって決められるべきであり、
与えられた知識によって作り出すものではない。

他人に頼るべきではないということだ。

そう考えて結論をだす。

「いや、やめておこう」

「良い判断だ。ただ、先程の質問だけなら支障は無いだろう。答えはイエスだ。能力は自分で決めるものではない。あくまでも君の能力が反映されるだけであって、自由に設定出来るものではない。簡単に説明するなら、ルーンとは術者の能力を写す鏡なのだ。鏡の中の世界は操れないだろう?だから能力を付け替える事など出来ないわけだ。とまあ、それぐらいならば覚えておいても問題はないだろう」

なるほどな。

「なんとなくだが、ルーンというものが理解出来てきた気がする」

「そうか、それは良かった」

笑顔を浮かべた黒柳は再びいれたお茶を一気に飲み干した。

「君はなかなか飲み込みが早いな。どこかで勉強でもしてきたのか?」

「いや、特にそういったことはしていない」

「そうか、だが君のようにすんなりと忠告を受け入れる生徒は珍しいものだ。大抵は欲を張って余分な知識を求めるものだからな」

「それも悪くはないが、自分で考えるのも好きだからな」

「それは良い心構えだ」

「どうだろうな?冷めているといえばそうだとも思う」

自分自身をそんなふうに評価しながら手元の冷めたお茶を飲んで一息つく。

「あまり他人に頼るということが出来ない性格だからな」

「ははははっ!まあ、性格は人それぞれだからな。言うべきことは何もない。それより、もう一杯いるか?」

気を遣ってくれる黒柳に首を左右に振って断る。

「いや、もう十分だ」

「そうか。ならいいんだが、聞きたい事があればいつでもここに来るといい。ここは『ルーン研究所』。ルーンを持つ者は拒まない」

黒柳は笑顔でそう言ってくれたが、
言葉を返せばルーンがなければ『来る場所ではない』と言っているのに等しい。

その言葉の裏を読み取って静かに立ち去ることにした。

「協力に感謝する」

感謝の言葉を伝えてから所長室を出ようとすると…

「君ならばたどり着けるだろう。だから次に会う日を『楽しみ』に待っている」

笑顔で告げる黒柳が見送ってくれた。

「ああ、またくる」

それだけを告げてから、ルーン研究所を後にした。






その後。

研究所を出てからしばらくの間。

目的もないまま学園内を歩き続けていた。

ルーンについて色々と考え事をしていたのだが。

時間を気にせずに歩いているうちに、
通い慣れた場所にたどり着いていた。

ここは図書室だ。

学園内のあらゆる書物が保管されたこの場所で、
これまで数え切れないほど多くの書物を手に取って数々の魔術を学んできた。

おそらくルーンに関しての書物も探せば必ずあるだろう。

少し調べてみるべきだろうか?

いつものように魔道書を集めて調べて見ようかとも思ったが、
今は止めておくことにした。

無駄な努力だと思うからな。

余計な知識は必要ないと思い直してから、
そのまま図書室の前を通り過ぎることにした。
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