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THE WORLD 作者:SEASONS

4月11日

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こんな私でも

《サイド:深海優奈》

昼食を後回しにして食堂を離れたあと。

翔子先輩の案内を受けて医務室の奥に向かってみると、
魔力を失った沙織先輩が眠りについているのが見えました。

翔子先輩と試合をしていたそうなのですが、
見た限りでは怪我はしていないように思えます。

一応、治療は終わっているようですね。

現在は魔力が回復するまで目覚めないという状況のようでした。

「優奈ちゃん。お願い出来る?」

「はいっ!」

翔子先輩に頼まれて、沙織先輩の側に歩み寄ります。

「頑張れ、優奈~!」

小さな声で応援してくれる悠理ちゃんに微笑みを返してから、
沙織先輩の胸の上に手を置きました。

微かに感じる沙織先輩の温もり。

そして私とも翔子先輩とも異なる『魔力の波動』を感じとって、
私の魔力と沙織先輩の魔力を同調させてみます。

お互いの魔力を共有するような感覚ですね。

手の平を境界として、異なる魔力に変換していきました。

本来なら他人の魔力を変換して吸収するのが私の能力なのですが、
全く逆の手順を行うことで相手の魔力に戻すこともできるようです。

総魔さんに教えていただかなければ出来なかった技術ですが、
『魔力を変換する』という手法そのものはどちらも同じなのかもしれません。

私の魔力を沙織先輩の魔力に同調させながら、
限界まで魔力を送り込んでみました。

沙織先輩を包み込むように輝く魔力の光。

急激に失われていく私の魔力と引き換えに、
沙織先輩に魔力が宿っていくのがはっきりと分かります。

翔子先輩に続いて、沙織先輩の魔力も回復させているわけですが…。

二人とも莫大な量の魔力を扱えるので、
回復に必要な魔力もかなり多くなってしまいますね。

そのせいでしょうか?

たった2回の供給で、私の魔力のほとんどがなくなる勢いでした。

さすがに、どう考えても3回目は無理だと思います。

少なくとも今まで吸収してきた魔力は全て失ったはずです。

そのため。

すでに私自身の魔力も消費しているのですが、
沙織先輩の魔力の総量は本当に翔子先輩以上のようですね。

魔力の消費量を考えてみると。

確かに4割程度上回っているようです。

私自身の魔力はそれほど多くありませんので、
回復を終えるよりも先に私の魔力が底をついてしまいそうな気がしてしまいます。

…ですが。

実際には私の魔力が3割を下回ったところで沙織先輩の魔力は完全に戻りったようです。

胸の上から手を放して様子を見ます。

私と翔子先輩と悠理ちゃんの視線が集まる中で。

「…ん…?」

意識を取り戻した沙織先輩が目を覚ましました。

そして静かに体を起こす沙織先輩は、
私達が側にいることに気付いて優しく微笑んでくれたんです。

悠理ちゃん、翔子先輩、そして私に視線を向けて、
それぞれに優しく微笑んでくれたんです。

「ありがとう、優奈ちゃん。あなたが助けてくれたのね」

感謝の気持ちが込められたとても優しい言葉でした。

その言葉が私の心に強く響きます。

沙織先輩の言葉が、とても嬉しかったからです。

「お役に立ててなによりです」

本当にそう思います。

私の能力で人助けができるのなら、
何度でも協力したいと思うんです。

私には…それくらいのことしかできないと思うからです。

今でもまだ、私は私の力を理解出来ていません。

なぜ吸収の能力があるのでしょうか?

なぜ私だけがこの能力を持っているのでしょうか?

どうして?

何の為に?

そんな疑問をずっと抱えているんです。

ですが。

沙織先輩の言葉のおかげで、私は少しだけ自分に自信を持てる気がしました。

魔力を奪うだけの能力じゃなかったんです。

私の力でも誰かを助けることが出来ると思うだけで、
少しは自分の力と向き合えるような…そんな気がしました。

「その…。私は私の出来ることをしただけですから」

沙織先輩の感謝が照れ臭くて、
顔を赤くしながらうつむいてしまいます。

それでも、沙織先輩は私のことを褒めてくれました。

「そんなふうに恥ずかしがることはないわ。あなたの能力はとても素敵な力よ。それは他の誰にも真似出来ないとても大切な力だと私は思うの。優奈ちゃんだから出来ることだし、優奈ちゃんにしか出来ないことなの。だから、自信を持ってね」

………。

私を励ましてくれる沙織先輩の言葉がとても優しくて、
その想いがすごく嬉しくて、自然と涙を流してしまいました。

「優奈?」

心配そうな表情で私の顔を覗き込んでくれる悠理ちゃん。

だけど心配してもらわなくても大丈夫です。

悲しいわけではありませんので…。

辛いわけではありませんので…。

涙を流しながらも精一杯の笑顔を浮かべました。

泣き笑い…。

いえ、嬉し泣きというのでしょうか?

ちょっぴり恥ずかしいのですが。

こんな私でも誰かの役に立つことが出来ると思えただけで、
嬉しくて涙が止まらなかったんです。

こんな私でも…。

誰かのお役に立てるんです。
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