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THE WORLD 作者:SEASONS

4月10日

432/4820

甘党

《サイド:美袋翔子》

治癒魔術研究室と書かれた扉の前で、一度だけ深呼吸をしてみる。

ちょっぴり緊張しちゃうからよ。

実はここに来るのって初めてなのよね~。

別に立ち入り禁止っていうわけじゃないんだけど、
普段行かない場所に行くのって緊張するわ。

でもね。

行ってみないことには話が始まらないし。

呼びかけずに放っておくと、延々と出てこない気がするの。

沙織もそうだけど、とくに総魔が、ね。

まあ、確証はないんだけど。

それでも間違いなく、二人共ここにいると思って研究室までやってきたわ。

す~、は~。

気持ちを落ち着けてから『コンコン』と静かにノックをしてみる。

これで返事がなかったら、困っちゃうんだけど。

思っていたよりもすぐに扉が開かれたわ。

もしかして、たまたま近くにいたのかな?

即座に開かれた扉の向こう側に沙織がいてくれたのよ。

「あら?翔子、ここまで来るのは珍しいわね」

驚きながらも、沙織は私を中へと案内してくれる。

「どうぞ、入っていいわよ」

「えっと…やっぱり邪魔だったかな?」

控えめに尋ねてみるけれど。

「ふふっ。大丈夫よ」

沙織は笑顔を浮かべたまま、私の手をとって優しく手を繋いでくれたわ。

「案内するわね」

「う、うん。ごめんね。お邪魔します」

挨拶しながら研究室を進んでみる。

沢山の人達が仕事をしてる姿が見えるわね。

肝心の総魔の姿は…わりとすぐに見つかったわ。

だけど真剣な表情で資料に向き合う総魔は何となく声をかけづらい雰囲気だったわね。

「やっぱり邪魔だったかな~」

来ないほうがよかったかな?

なんて思ったけれど。

沙織は微笑んだまま、総魔がいる席まで案内してくれたわ。

その結果。

総魔の正面に着いちゃったことで、
ゆっくりと顔を上げた総魔と思いっきり目が合っちゃったのよ。

うあ…っ。

これはちょっとどころじゃなく緊張するわね。

知らない場所に入るよりも、総魔と向き合うほうが緊張してしまうのよ。

「や、やっほ~。総魔、調子はどう?」

ちょっと声が震えちゃったけど、総魔は気にしてないみたいね。

あっさりと聞き流して、逆に質問してきたわ。

「翔子もここには良く来るのか?」

「えっ?あっ、わ、私?私は、その、違うわよ。滅多に来ない、というか初めて来たんだけど、何となく、今日は…」

総魔がいると思ったから、とは言えないわよね…。

恥ずかしいっていうこともあるけど。

それ以前に、そんな理由で沙織の職場に乱入したなんて言えないわ。

「たまたま近くを通り掛かったから…っ!」

そんな適当な言い訳が精一杯だったわ。

だけどそれでも総魔は納得してくれたみたい。

「そうか」

あっさりと話を終えたのよ。

と言うか、追求する気がないのかな?

どっちか分からないけど、特に何も言わずに資料に視線を戻しちゃったわ。

う~ん。

これはこれでどうなのかな?

なんて言うかこう、私に対して興味がないっていう雰囲気をひしひしと感じちゃうのよね~。

もっと思い切って攻めるべきなのかな?

でも、ね~。

失敗したら絶望的な感じになるわよね?

どうするのが正解なのかな~?

総魔に相手にしてもらえないまま。

どう話しかけようか悩んでいると…。

「はい、どうぞ」

不意に沙織が話しかけてきてくれたわ。

声をかけられたことで振り向いてみる。

沙織が用意してくれたのかな?

すぐ側でオレンジジュースを差し出してくれてた。

「あ、ありがとう」

オレンジジュースを受けとって、すぐに一口飲み込んでみる。

………。

………。

………。

え?

なにこれ?

オレンジジュース…よね?

そのはずよね?

だけど、何かがおかしいわよね?

なんて言うのかな?

この微妙な味は絶対に何かが混ざってるはずよね?

だって尋常じゃなく『甘い』のよ。

一体、どれだけの砂糖を混ぜたらこうなるの?っていうくらい甘いの。

さすがにこれは甘党の私でも飲めないわ。

「ね、ねえ?沙織って甘いのが好きだったっけ?」

そんな記憶はないのにな~って思いながら尋ねてみると。

「違うわよ。

沙織は苦笑しながら答えてくれたわ。

「これは私の好みとかじゃなくて、神崎さんが用意してくれた物なの」

あぁ~。

なるほどね。

苦笑いを浮かべる沙織を見てすぐに思い出したわ。

確か神崎さんってびっくりするぐらい甘党なんだっけ?

沙織から噂を聞いた程度の微かな記憶でかろうじて覚えていたけど…。

まさかここまでとは思っていなかったわ。

「予想以上の甘党だったみたいね」

「え、ええ、そうでしょうね」

断りきれずに受け取ってしまった沙織も、
オレンジジュースを手にしてちょっぴり辛そうな表情で飲み続けてる。

これって、ある意味罰ゲームじゃない?

好きな人は好きでしょうけど、
苦手な人には拷問だと思うからよ。

「甘さもここまでくると頭痛を感じるわね」

「そ、そうね。ちょっと、きついわね…。」

本当なら断りたいんだろうな~って思うわ。

でもね?

立場上断れないんだろうな~とも思うのよ。

う~ん。

沙織も意外なところで苦労してるのね~。

「まずくはないんだけどね。でも、これってどうなの?」

「神崎さんは糖分の補給が大事だって言ってたわ。確かに必要な栄養素だとは思うけれど…。」

まあ、必要なのは分かるけど、過剰摂取は問題じゃないかな?

糖分がどうこう以前にこれだけ甘いジュースを
毎日飲み続けていたらいつかきっと病気になると思うわ。

糖尿病?だっけ?

知り合いにそういう人はいないけど、これは危険だと思うのよ。

って言うか、ただでさえ毎日のように沙織の家でケーキを食べてるのに、
これ以上の糖分は丁重にお断りしたいところなのよね…。

少なくとも太った自分を総魔に見せるようなぶざまな姿だけは絶対に嫌よ!

そんな未来は想像さえしたくないわ!

総魔には綺麗とか可愛いとか思ってもらいたいから、太るのは絶対に嫌っ!!

…なんてね。

心の中では全力で思うんだけど。

お邪魔してる立場を考えたら飲めないとは言えないわよね。

う~ん。

仕方ないか。

本当は飲みたくないけど、沙織だって我慢してるんだし。

ここは嫌でも飲むしか選択肢はないわね。

「す~は~」

思いっきり深呼吸をしてから一気にオレンジジュースを飲み干してみる。

その結果。

異常なくらい胸焼けを感じたけれど、
今はそんなことよりも大事なことが…っ!!

あとで…!!

あとでダイエットをするわっ!!

心の中で決意しながら、肝心の目的のために沙織に話しかけることにしたわ。
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