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THE WORLD 作者:SEASONS

4月10日

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道しるべ

《サイド:天城総魔》

食堂を離れたあと。

沙織に連れられて訪れたのは魔術研究所の一室だった。

今まで何度も魔術研究所には訪れているものの。

地下にあるルーン研究所以外の部署には行ったことがないからな。

ここに来るのは初めてだ。

沙織の説明によると、ここは治癒魔術研究室というらしい。

回復系魔術を専門とする研究室のようだ。

「神崎さん、おはようございます」

室内に入ってからすぐに丁寧に頭を下げて挨拶をする沙織。

その後ろから神崎と呼ばれた男に視線を向けてみた。

初めて見る人物だな。

どこかで出会っているということはないだろう。

お互いに初対面のはずだ。

その事実を示すかのように、神崎もじっと俺を見つめている。

年齢は黒柳とそれほど変わらないだろうか?

30代後半から、40代前半というところだろう。

だが、一目見ただけで黒柳とは明らかに違う部分がある。

身なりがしっかりとしていて、清潔感が感じられるということだ。

無精ひげなど一切なく、
髪もきれいに整えられていて、
白衣には汚れ一つ見当たらない。

実際の性格はどうか知らないが、
見た目だけで言えば西園寺に近いように思える。

感じ取れる雰囲気も人当たりが良さそうだ。

御堂が年を重ねれば、こんなふうになるのかもしれないな。

…などと考えていると。

神崎が微笑みながら話しかけてきた。

「初めて見る顔だな。一応、挨拶をしておこうか。私の名前は神崎かんざき慶一郎けいいちろうだ。この研究室の室長をさせてもらっている」

室長、か。

なるほどな。

おそらく、沙織の指導者ということだろう。

魔術師としての実力は不明だが、
魔力は美由紀と同格のように思える。

戦闘が得意かどうかはわからないものの。

治癒術師としてはかなり高位の実力者なのかもしれない。

「今年度の新入生の天城総魔だ」

「おお、きみが天城総魔君か。色々と黒柳から噂は聞いているよ。学園史上、最強の魔術師だとね」

史上最強の魔術師か。

それはどうか知らないが、
黒柳と関係のある人物だということはわかった。

「黒柳の知り合いか?」

「酒飲み仲間だと思ってもらえばいい。もっとも、お互い忙しい身でなかなか休みが取れないのが実情ではあるがな」

「…そうか。」

以前から考えていたことだが、
やはり黒柳に実験に協力してもらうのは無理があるのかもしれないな。

本来の職務もあるはずだ。

こちらの都合で手を貸してもらうのは控えるべきなのかもしれない。

そう思ったのだが。

神崎は楽しそうに微笑んでいた。

「まあ、休みがないのは仕事以外の部分で気合いを入れすぎているのが主な原因だな。」

「仕事以外か?」

「ああ、そうだ。きみや沙織君のように優秀な人材を探して手を貸すのが趣味になっているからな。そういう趣味に情熱を注ぎ込んだ結果として必要以上に時間がなくなっているだけで、仕事そのものはそれほど忙しいわけではないから気にしないでくれ」

本来の仕事そのものよりも、
人材教育が主になってしまっているということだろうか。

神崎は気にするなと言っているが、
それでも沙織は申し訳なさそうに再び頭を下げていた。

「ご迷惑をおかけしてばかりで、すみません」

「いやいやいや。個人的な趣味で好きでやっていることだからな。あまり気にしないでくれ。それよりも今日は彼を連れてきてどうするつもりかな?」

「えっと、その…。実験に関して何か参考になる意見が聞ければと思いまして…」

「ああ、なるほど。確かに第三者に意見を聞くことも必要な判断だと思う。私達では思いも付かない意見が出ることは良くある話だからな。特に彼のように優秀な人材の意見であれば無駄な時間にはならないだろう。私達に気を遣わずに存分に話し合ってみるといい」

「はい。ありがとうございます」

沙織は三度頭を下げてから神崎に背中を向けて歩きだした。

その様子を眺めながら沙織のあとを追おうとしたのだが、
歩き出す前に神崎が小さな声で話しかけてきた。

「天城君」

呼び止められたことで、足を止めて振り返る。

「何だ?」

俺が居ることが迷惑ならすぐに出て行ってもいいと思っていたのだが、
どうやらそういう話ではないようだ。

神崎は頭を下げてから、
囁くような声で俺に願いを告げてきた。

「彼女を…沙織君を助けてあげてくれないか?」

助ける?

どういう意味だろうか?

「彼女は今、道しるべを見失って行き詰っている状況なのだ。」

道しるべ、か。

それはつまり。

「目的を見失ったということか?」

「ああ、そうだ。自分の限界を知ってしまい、進むべき道を見失ってしまったということだ」

なるほどな。

そういう意味なら理解できる。

要するに、沙織の進むべき道を探せという意味だ。

「どうすればいい?」

「もしも出来ることならば、彼女に希望という名の光を与えてあげてくれないか?もちろんすぐに結果を出そうとしなくても良いんだ。きみにできる範囲内でいい」

俺にできる範囲内でか。

それは構わないが…。

「沙織は何をしようとしている?」

「その説明はこれから聞けるだろう。だが彼女の目的は私では叶えられないかもしれない。私自身もこれまでに何度も挫折してきたことだからな」

挫折か…。

「それほど難しいことなのか?」

「ああ、とても難しいことだ。少なくとも私が知る限り、彼女と同じ悩みを解決出来た者は一人もいないだろう。だがきみなら、きみの実力ならば不可能を可能に変えることが出来るかもしれないと期待している。国内において最高峰の頭脳を持つ黒柳が声を大にして絶賛するほどだからな。だからこそきみには期待しているんだ。黒柳が認めるほどの素晴らしき才能にな」

俺に期待している言った神崎は、
笑顔を浮かべてから話を締めくくった。

「頑張りたまえ!」

応援してくれるのは良いのだが。

神崎は何を願っているのだろうか?

そして沙織の研究は何なのだろうか?

俺はまだ何も知らない。

だから何を答えればいいのかがわからない。

だが、もしも。

もしも本当に俺に出来ることがあるのだとすれば、
沙織への協力を惜しむつもりはない。

その程度の恩は受けているつもりだからな。

「出来る限りのことはする」

「ああ、今はその言葉だけで十分だ」

神埼との会話を終えたことで先行していた沙織に歩み寄ってみると、
会話の様子を気にしていた沙織が尋ねてきた。

「神崎さんと何かあったの?」

「いや…。」

先ほどの話の内容を気にする沙織だが、答えるべき言葉は何もない。

そもそも俺はまだ何も知らないからな。

説明すべきことは何もないと思う。

「何でもない」

「そうなの?」

不思議そうに俺を見つめる沙織だが、
問い詰めても無駄だと判断したのだろうか?

すぐに気持ちを切り替えてから分厚い書類の束を机の上に取り出した。

「ごめんね。量が多くて申し訳ないんだけど、これが私の研究資料なの。全部とは言わないけれど、まずは一通り目を通してもらえるかしら?」

「ああ、いいだろう」

時間は十分にあるからな。

それに神崎が初対面の俺に頭を下げてまで頼んできた沙織の研究がなんなのかという部分に興味もある。

「借りるぞ」

沙織に薦められるまま席について、資料へと手を伸ばしてみる。

手にした書類の題名には【視覚障害の治療法】と記されていた。

中身は治療法に伴う研究記録だな。

これが沙織の研究している内容なのだろうか?

「目の治療法か?」

「ええ、そうなの。私には妹がいるんだけど、生まれつき目が見えないの。だからその視覚障害をなんとか治してあげたいんだけど…」

「上手くいかないということか」

「ええ」

なるほどな。

妹の治療のための研究ということか。

「生まれつき光が感じられない瞳か…。」

その瞳に光を宿すための研究を行っているようだな。

悪くない課題だと思う。

やりごたえは十分にあるはずだ。

すぐに結果が出せるものではないかもしれないが、
誰にも考え出せない理論を実現するのが俺の能力だ。

それに沙織の研究に協力することは俺の構呪の実験にもなると思う。

「俺自身の能力を実証するためにも、協力させてもらおう」

いまだに誰も達成したことのない治療法。

その技術を確立するために。

午前中の時間を全て費やすつもりで、
沙織の資料を読み進めて行くことにした。
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