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THE WORLD 作者:SEASONS

4月3日

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乱入、再び

《サイド:天城総魔》

図書室に訪れて1時間程度が過ぎたころ。

ようやく幾つかの魔道書に目を通し終えることができた。

すでに定位置となりつつあるいつもの席で作業を進めていたのだが、
ひとまず一通りの調査は終わったと言えるだろう。

簡単にだが圧縮魔術についての理論を自分なりにまとめることもできたからな。

調査はもう十分だろう。

今回調査した圧縮魔術だが。

これは一言でいえば魔術を発動寸前で待機させて保管しておくという技術だ。

技術そのものは確かに大きな利点がある。

ここぞという時の切り札として温存して多く事が出来るからな。

だが残念なことに俺の能力に組み込むには幾つもの問題点があった。

そもそもの前提として魔術の高速化を実現した俺からすれば圧縮魔術という技術は翼の理論の劣化版にすぎない。

詠唱時間を短縮するだけなら翼の能力ですでに実現しているからな。

複数の魔術を同時に展開出来るという利点ですら、
すでに試合で実践して成功させている。

だから魔術を発動させずに待機させるという方法に価値が見いだせない。

だがそれでも…。

それでも一つだけ参考に出来る理論があった。

それは文字通りの圧縮だ。

この技術の最大の利点はただ単に魔術の詠唱を前倒ししておくだけではない。

いつでも実行可能な状態を維持しておくことを前提として作られた理論だからだ。

とは言え。

ごく普通に考えて人の意識はそれだけに留めておく事が出来ないという問題がある。

どんな状況であっても複数の出来事に対処出来るように常に数多くの出来事に対して意識を向けておかなければならないからだ。

それは当然、魔術以外の事も考えなければならないという事になる。

試合中であれば相手の動きに視線を向けるだろう。

相手の魔術に対応する為の判断も迫られる。

試合中は常にどうやって戦うかを考えながら相手の動きや攻撃方法を考えなければならないからな。

それが例え日常生活であっても同じだ。

次にどこを歩いてどこへ行くのかを考える必要がある。

障害物があれば避けなければならないし誰かと出会えば話もするだろう。

そんなふうに常に変化する状況に対応する為に、
発動寸前の魔術を常時意識下において行動するというのは限りなく不可能に近い。

だからこそその欠点を補って、
意識から外れても暴発しないようにする為の理論として考えられた圧縮という技術。

その一点においてのみ多大な興味を惹かれていた。

これこそ求めてきた答えの一つと言えるだろう。

発動寸前の魔術に一旦鍵をかけて意識の奥へとしまい込むことで一時的に保管し、
再び発動する時に意識的に鍵を開くという手順が必要となるものの。

この手順を上手く行えれば魔術の暴発を防ぎながらも他の動作を行う事が出来るようになる。

この技術をうまく応用できれば翼の能力はさらに高まるはずだ。

その応用方法を考える為に。

現在の翼の理論にどのような形で圧縮の理論を組み込むかという部分で頭を悩ませている。

魔術を圧縮して保管する技術をどう使うべきか?

現段階でも吸収した魔術を自動的に翼から跳ね返す事は出来る。

だが魔術そのものを留めておく事は出来ない。

即座に反撃を行うからこそ、
俺の意思に関係なく自動的に反射が行えるようになるからな。

だから魔術を待機させておいて自らの意思によって魔術を発動するのであれば、
それは今までの技術と何も変わらない。

その為。

吸収した魔術を圧縮保管出来れば時間差をおいての反撃が可能になるのではないかと考えている。

複数の魔術を保管して一斉に開放できれば一人でも多種の魔術を展開できるのと同じだからな。

たった一人で一軍に匹敵する攻撃を行うことができるようになるかも知れない。

現状では俺でも一つずつしか魔術を使用できない。

高速化の恩恵によって連射が可能になったとは言え、
それでも一つずつ連続して発動しているだけでしかないからな。

決して同時に展開しているわけではない。

どうしても時差は発生してしまう。

その問題を解決する方法こそが魔術の圧縮にあると考えていた。

問題は保管方法なのだが、
もちろん保管場所は意識ではなく翼でなくてはならない。

問題は翼が一時的な魔術なので永続的な効果は望めないという部分だが、
それは仕方がないと割り切ることにする。

欲を言い出せばきりがないからな。

ある程度の範囲で満足することも大事だと思おう。

その上で状況に応じて改良していけばいい。

まずは机上の空論を実現させることから始める必要がある。

欠点はあとで補えば済む話でもあるからな。

そこまで判断してから、さらに思考を進めていく。

魔術の保管は翼で行う。

それは決定事項だ。

この場合、魔術の圧縮は翼が発動している間だけの一時的な保管でしかない。

発動から解除までの一試合だけが保管の限界となり、
翼の解除と共に保管していた圧縮魔術は消失してしまうだろう。

翼を解除せずに常時発動したままであれば圧縮魔術は維持出来るかもしれないものの。

翼は常に魔力を消費し続ける魔術なのであまり持続的な運用には適していないという問題がある。

そのため。

一時的な保管という考え方で理論を構築するしかない。

自身で保管するのは管理が難しいからな。

暴発の危険性を考慮すれば自らを実験台にするわけには行かないだろう。

失敗時の問題を想定するならば翼を代用するしかない。

そのあたりの欠点を考慮しても圧縮魔術の理論は大いに利用する価値があるはずだ。

翼を保管庫にする最大の利点は自らの意識から外れるということだからな。

それはつまり暴走の危険性がないということになる。

敵の魔術を吸収保管しつつ、
自身の魔術も同時に保管出来ることに大きな利点があるだろう。

これにより敵味方問わずにあらゆる種類の魔術を翼に保管する事が出来るはずだ。

そのうえで、保管された魔術は俺の気持ち一つでいつでも発動させる事が出来るようになる。

もちろん高速化という能力を付加した状態での発動だ。

その利点を生かすために。

高速化の能力を持つ翼に対して保管の能力を持たせられるように新たな理論を構築して細部を組み直す事にしたのだが。

研究を開始してからさらに1時間ほどが経過した頃だろうか。

図書室で試行錯誤を繰り返していると、
しばらく姿を見せなかった翔子が突然近づいてきた。

「やっほ~♪どう?研究は進んでる?」

相変わらずの笑顔だ。

ここにいる間は放っておいてくれるかと思って期待していたのだが、
さすがにそう上手くはいかないらしい。

ここは検定会場ではないとは言え。

調べられることは調べるのが翔子の役目だ。

完全に放置してくれるということはないのだろう。

翔子は俺の監視を行っているのだからな。

俺がどこにいようと関係なく調査を行うつもりなのだろう。

相変わらず元気な笑顔で近づいて来た翔子に一瞬だけ視線を向けはしたが、
特に相手をする必要はないので再び研究に意識を戻して集中し始めることにする。

「悪いが今は忙しいんだ。しばらく放っておいてくれ」

心の底から願いを込めてみたのだが、
もちろんその願いが叶えられることはないようだ。

「ねえ、ねえ♪」

こちらの願いを無視して翔子が話し掛けてくる。

「ちょっと話をしない?」

「残念だが、その気はない」

今は翔子の相手をしている暇などないからな。

「研究の邪魔はしないでくれ」

今回ははっきりと告げた。

余計な時間を取らせないためだ。

徹底的に無視を決め込むことにする。

「ねえ、ねえ♪」

「………。」

「ねえってば~」

「………。」

何度話しかけられても気にしない。

「ねえ、ねえ!」

「………。」

「ちょっと聞いてよっ!」

こちらが無視を続けても、
それでもめげずに翔子は話しかけてくる。

「ねえってば~!!」

元気一杯の翔子の声が図書室に響き渡った。

その結果。

翔子は俺ではなくて周囲で勉強していた他の生徒達から『うるさい』と非難を浴びる事になってしまった。

「…あ~。ごめんね~」

申し訳なさそうな態度で愛想笑いを浮かべながら翔子は周囲の生徒達に謝っている。

「あははは…。怒られちゃった」

気まずそうな表情を浮かべる翔子だが、
それでも話しかけることを止めるという選択肢はないのだろう。

「ねえ、ねえ」

結局、声が小さくなっただけで、翔子の呼びかけは終わらなかった。

ふう…。

ここまでか。

これ以上の研究続行は無理のようだ。

翔子が姿を見せた時点ですでに諦めかけていたのだが、
予想していた通り翔子の妨害は回避不可能だった。

だが、まあいい。

すでに調査は終わっているからな。

考えたいことは沢山あるが、
ここにいなければならないほどの理由はすでにない。

周りにどれほどの実害があろうと気にするつもりはないが、
今後も図書室を利用するうえで邪険にされる行為は控えておいたほうが良いだろう。

ひとまず、翔子がこれ以上騒ぎだす前に図書室を出たほうが無難かもしれない。

そう判断したことでこの場から離れるために席を立って歩きだそうとすると、
当然の様に翔子が追いかけてきた。

「あっ!?ちょっと、どこにいくのよ!?行くなら行くで、ちゃんと言ってよね~」

不満を呟きながら追い掛けて来る翔子だが、
そんな彼女に伝えるべき言葉は一つしか思い浮かばない。

もはや何を言っても無駄かもしれないが、
図書室を利用する者の最低限の礼儀として一言だけ告げることにしておこう。

「…静かにしろ…。」

ごく当たり前の言葉を告げてから図書室を出て行こうとしたのだが、
その努力はやはり無意味だったようだ。

「待ってってば~!」

黙々と歩き続ける俺を追い掛けるために大きな声で呼びかける翔子に再び冷たい視線が集まっている。

その事実に翔子は気付いていないようだが。

それでも翔子が去ったことで図書室に残っていた生徒達は揃って『やっと静かになった』と、心の中でため息を吐いていたように思う。

もちろん俺も翔子もそんな周囲の反応など全く気にしていないのだが、
これで図書室に平穏が戻ったのは事実だろう。

周囲に迷惑だけを振りまいて図書室を出た翔子は、
すぐに俺に追いついて隣に並んで歩きだす。

「それで?どうだった?少しは圧縮魔術について理解出来たの?」

諦めた様子もないまましつこく尋ねて来る翔子だが、
期待の眼差しを横目に眺めつつ小さくため息を吐いてみる。

またこの流れだからだ。

わざわざ翔子に説明する必要はないのだが、
話さない限り延々とこの状況は続くのだろう。

面倒だがこちらが黙っているといつまでもうるさいので仕方なく答えておくことにする。

「知識だけならおおよその内容は理解出来た。あとは実際に使ってみて、精確な情報を集めてから最終的な理論の修正を行うだけだ」

「おお~!もうそこまで進んでるのね~」

ちゃんと答えた俺の言葉を聞いて、
翔子は満面の笑みを浮かべている。

「じゃあ、今から行くわけね♪」

次の会場へ向かうと推測する翔子に無言で頷くと。

「おっけ~!さくっと行くわよ~!」

お気楽な笑顔を浮かべる翔子が当然の様に付いてくる。

「一応聞くが、まだ監視を続けるのか?」

「うん、もちろん!」

「………。」

不満はないが、言いたいことはある。

「監視が目的なら離れた場所で勝手にしろ」

隣に並ぶ必要はないと思うのだが、やはり翔子が離れることはなかった。

「まあまあ、気にしない気にしない。とりあえず話を聞かせてよ」

一方的に話しかける翔子によって試合会場へ向かうまでの間に質問攻めは続くことになる。

結局こうなるのだ。

結局のところ話しても話さなくても付きまとわられるのだ。

それならばと考えて、
一言も答えずにまっすぐに検定会場に向かって歩き続けることにした。
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