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THE WORLD 作者:SEASONS

4月9日

399/4820

血筋

《サイド:深海優奈》

ふぅ。

ため息が出てしまいますね。

悠理ちゃんに何があったのでしょうか?

その一言がなかなか言い出せませなかったからです。

ですが多分それは翔子先輩も同じだったと思います。

直接確認したわけではないのですが、
翔子先輩の表情を見ていれば何となく分かりました。

言いたくても言い出せない。

そんな気持ちが感じられたからです。

だから…

だから私は思い切って悠理ちゃんに尋ねてみることにしました。

悠理ちゃんに何があったのかを…です。

理事長さんの言う『噂』ってなんなのでしょうか?

どうして悠理ちゃんが辛そうな表情を浮かべるのかを尋ねてみたんです。

「教えてくれる?」

もう一度尋ねてみると。

「…うん。」

悠理ちゃんは小さく頷いてから話してくれました。

「私の家はね。自分で言うのもどうかと思うけど結構有名な家柄なのよ。由緒正しいっていう表現があってるかどうかは分からないけれど、近藤家の名前は国中に広がるくらいに有名な名前なの」

共和国全土に名を広める近藤家。

それはあまり噂話に詳しくない私でも知っている名前です。

…と言っても。

御堂先輩が指摘するまで私は何も考えていませんでしたので、
悠理ちゃんが近藤家の一員だとは気づいていませんでした。

似た名前だとかそんなことすら思ってなかったんです。

何も考えていませんでした。

ですが近藤という名前は理事長さんの米倉の名前の次くらいに有名です。

この国を代表する人物の名前だからです。

だから言われてみれば、ああ、そうなんだ、とは思いました。

思ったからといって何が変わるわけでもないのですが。

すごい家系なのは知っています。

この学園の学園長である『近藤誠治』さんの名前は
知らない人がいないと思うほど有名な名前だからです。

単なる学園長ではなくて、政治家としてすごく有名なんです。

それに。

近藤家の血筋の方々は全員が何らかの役職についていて、
この国を支える基盤になっているとも聞いています。

それほど有名な家柄なのは知っていました。

ですが。

私が知っているのはその程度です。

悠理ちゃんのことは知りませんし。

近藤家の人がどういう人なのかなんて私は何も知りません。

「悠理ちゃんは学園長のお孫さんなんだよね?」

以前、御堂先輩が言っていました。

なので確認してみたのですが…。

「うん、そうだよ。」

悠理ちゃんは少し辛そうな表情で答えてくれました。

「おじいちゃんはこの学園の学園長で、お父さんはこの町の副知事だから理事長の一つ下の役職だし。お母さんも有名な魔術師でこの町の治安維持部隊の責任者をしてるわ。あとは…二人るお兄ちゃんも国境警備隊の隊長を任せられてるくらいだから優秀な血筋だと思う」

『優秀な血筋』

その言葉を口にした時の悠理ちゃんの表情はとても辛そうに見えました。

「でもね。私は違うの。私は『近藤家の落ちこぼれ』だから。お父さんにも、お母さんにも、兄弟にも見捨てられた役立たずなの。だから、ね。家族に冷たい目で見られて、家にいることさえ出来なくなって、どこにも行き場がなくて、学園に逃げてきただけのただの弱虫。それが、私なの」

ただの弱虫。

自分をそんなふうに表現して必死に涙を堪える悠理ちゃんの姿が…

とても…とても可哀相に思えました。

私には理解できません。

どうして家族に見捨てられる必要があるのでしょうか?

生まれた家がたまたま『近藤家』だっただけなのに。

ただそれだけのことなのに。

それだけの理由で家族から見放されるなんて私には理解できません。

悔しさに肩を震わせながら必死に涙を堪える悠理ちゃんがとても可哀相に思えました。

「おうちに、いられなかったの?」

「…うん。お前には才能がないって言われたあの日から、私は近藤家から除外された存在なの。だから私の居場所はあの家にはなかったと思う」

唇を噛み締めて辛い表情を見せる悠理ちゃん。

家族に見放され。

誰にも頼ることが出来ずに生きてきた日々。

その辛さが悠理ちゃんの表情に現れていました。

だけど、そんなのおかしいです。

落ちこぼれだなんて、家族が言うべき言葉だとは思えません。

もっと支え合うのが家族ではないでしょうか?。

才能がないと思うのなら、助けてあげるのが家族ではないですか?

私はそう思います。

ですが…。

悠理ちゃんのおうちはそうじゃなかったようです。

『近藤家のおちこぼれ』

それが悠理ちゃんを苦しめる言葉の鎖になっているんです。

家族にさえ認めてもらえなかった悠理ちゃんの絶望。

その悲しみが、悠理ちゃんを苦しめているようでした。

「悠理ちゃん…。」

優秀ではないというただそれだけの理由で存在さえも否定されるなんて、
その苦しみは私には到底理解出来ることではありません。

私も能力のせいで異端児として見られてきた過去がありますが、
それでも平凡にごく普通の生活をしてきたと思うからです。

周りの人達から冷たい目で見られることはありましたが。

それでもこんな私を両親は愛してくれたんです。

だから私には悠理ちゃんの苦しみがわかりません。

私にはちゃんと家族がいてくれたから。

だから私には悠理ちゃんの苦しみは分かち合えません。

ですが、それでも…。

少しだけでもいいから、悠理ちゃんの苦しみを和らげてあげたいと思うんです。

私に出来ることがあるのかどうかは分かりませんが。

私にとって悠理ちゃんは初めて出来た友達なんです。

だからこれからもずっと。

ずっとずっと。

悠理ちゃんと友達でいたいと思います。
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