挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
THE WORLD 作者:SEASONS

4月3日

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

37/4820

一年前

《サイド:美袋翔子》

総魔がいなくなってから数分後。

取り残された私達は総魔がいなくなったあとも立ち止まったままでいたんだけど、
結局、私も鈴置さんも無理に総魔を追いかけようとはしなかったわ。

ただ静かに総魔の背中を見送っていたせいで、
二人きりになったことで自然とお互いの顔を見合わせることになってしまう。

だけど。

しばらくの間、私達に会話はなかったわ。

お互いに相手のことを何も知らないから会話が始まらないのも当然なんだけどね。

私としては『とりあえずこれからどうしようかな~?』って悩んでいるところよ。

その結果。

ちょっぴり気まずささえ感じ始める状況の中で、
鈴置さんから先に話しかけてきたわ。

「まあ、彼のことは横に置いておくとして、それにしても久しぶりね。美袋翔子」

ん?

え?

突然の挨拶、っていうべきかな?

鈴置さんの挨拶を不自然に感じたせいで首を傾げてしまったわ。

今、久しぶりって言ったわよね?

その単純な言葉の意味が分からないからよ。

もしかして知り合いだったのかな?

でも、彼女とは今日が初対面のはずよね。

そう思ってしまったから、
久しぶりと言われた意味がわからなかったのよ。

………。

考えてもわからない。

どこかで出会った覚えもないのよ。

それなのに鈴置さんは私のことを知っているみたい。

ん~?

全く思い出せない。

知り合いなのかな~?

全力で悩んでしまったことで。

「……。」

思いっきり沈黙が生まれちゃったわ。

「……。」

何も言わない私を鈴置さんが不審そうな表情で見てる。

それでも全っ然、思い出せないのよね~。

…っていうか、誰?っていう感じ。

全く見覚えがないのよ?

思い出しようがないわよね。

鈴置さんの顔をまじまじと見つめてみても、全く何も思い出せない。

まさか人違い…なわけ、ないわよね~。

鈴置さんはちゃんと私の名前を言っているんだから人違いなわけがないわ。

同姓同名かつ、
よく似た誰かと間違われてるって考えるのは無理があるわよね?

私が知らないだけで向こうは知ってるっていう可能性も否定できないけど、
その場合『久しぶり』って言われることはないと思う。

彼女の勘違いじゃないとすると、
一度は会ってるっていうことになるはずなのよ。

だけどその一度がいつの話なのかが分からないのよね。

思い出せないくらい昔…なのかな?

もしもそうだとすると、考えるだけ無駄な気がするわ。

素直に聞いたほうがいいかな?

そんなふうに考えながら首をかしげていると、
見間違いじゃなくて確かに鈴置さんの表情が少し引きつったように見えた。

「…って、ちょっと!?もしかして、私のこと覚えてないのっ!?」

聞かれてすぐに『うん』と答えて素直に首を縦に振ってみると、
彼女は驚きのあまりに絶句してたわね。

「………」

再び訪れた沈黙。

居たたまれない気まずさが一段階増した状況の中でそれでも私は必死に記憶を探り続けていたんだけど、
あいかわらず何も思い出せなかったわ。

う~ん。

どこかで会ったことがあるのかな~?

本気で思い出せないのよ。

それでも何とか思い出そうと考えて小さな声でうなりながら悩み続けていると、
鈴置さんの両肩が徐々に震え始めたわ。

「ったく!!もうっ!自分の対戦相手!それも自分が負けた時の相手の名前くらい覚えておきなさいよっ!!」

全力で叫んだ鈴置さんの表情は苛立っているように見えた。

そして。

今の発言によって一気に記憶が覚醒したわ。

「…あっ…ああああああっ!!!!!!!」

いまさらって思われてるだろうけど、
やっと一年ほど前のできごとを思い出すことができたのよ。

「あ~~~っ!思い出した!!なんか、聞いた事のある名前だと思ってたら!鈴置美春!!まだこの学園にいたのっ!?」

ようやく思い出せたことで美春の存在に驚いたんだけど、
そんな私の様子を見ていた美春は両肩をがっくりと落として大きなため息を吐いてる。

「はあ。思い出した直後に言うべき言葉がそれなの?ったく、いちゃわるい?」

「え?ううん。ごめん。そういうわけじゃないんだけど…」

あまりにも長い間、会うことがなかったせいで、
もう学園をやめたのかなって勝手に思い込んでいたんだけど…。

そんなこと言えないわよね?

でもまあそのせいで美春のことを思い出せなかったんだけどね。

こうしてまた出会えたことで去年の出来事を思い出せたわ。

そっかそっか~。

もう一年前になるのね。

私がこの学園に入学してから丸2年になるんだけど、
1年前の私はまだ今の総魔と同じようにセカンド・ステージにいたわ。

生徒番号としては一つ前の会場にいた頃だと思う。

正確な数字までは覚えてないんだけど、
7000番の後半程度だったと思うのよね。

そう考えると、結構状況が変わった気がするわ。

美春はこの一年間で一つ上の会場に進んでたみたい。

総魔に負けなければ4010番だったのよね。

現時点では2000落ちっていう不名誉な状況にいるけれど、
一度たどり着いた成績を取り戻すのはそれほど難しいことじゃないわ。

数日もあればまた元の成績にたどり着けると思うし。

うんうん。

あれから3000ほど進んでいたのね~。

1年間の結果としてはそれなりの平均点って言える成績だけど、
すでに次の検定会場に向かえる実力があることを考えれば十分なくらい上位の実力者って言えると思う。

あと1年もあればサード・ステージに来られるんじゃないかな?

さらに3000番ほど進められたとすれば
1000番を切ることも不可能じゃないと思うわ。

そこまで実力を伸ばせればっていう前提での話だけど、
2年がかりでもここまで進んでこられた実力は評価に値すると思う。

まあ、私とは違うけどね。

私はこの一年間で学園4位にまで上り詰めたのよ。

徹底的に試合を繰り返していたから成績だけはいいの。

だから試合に偏りすぎたせいで勉強が追いついてないっていう問題があるのは内緒よ。

知識よりも実戦を求めて試合を繰り返した結果。

私は学園4位にまで上り詰めたの。

だから成績だけを見れば美春とは格が違うと言えるでしょうね。

でも成績に対して中身がともなっていないことを自分でも自覚しているから、
成績の差で美春を見下すようなことはしないわ。

中身は昔と変わらないしね。

当時の私はまだそれ程強くなかったし。

一年前の時点ではまだ少しずつ上を目指しながら毎日試合を繰り返している程度だったのよ。

美春や他の生徒達と何も変わらない日々を過ごしていたでしょうね。

そんな一年前のある日。

私と美春の出会いは丁度、去年の今頃だったと思う。

桜の花が咲き乱れる4月某日。

第5検定試験会場で当時の私よりも少しだけ番号が上だった鈴置美春に戦いを挑んだ事があったのよ。

だけど、結果は敗北。

僅差だったけれど確かに敗北だったわ。

光魔術を駆使する美春に勝てなかったのよ。

接戦による僅差だったせいで勝てなかったことがとても悔しかったっていう思い出があるわ。

さらに言えば学園に入学して以来、
初めての敗北という事でもあったわね。

そのせいでかなり落ち込んでいた時期があったのを覚えてる。

初めての敗北。

それで美春の名前は絶対に忘れないと宣言してたはずなのよ。

それなのに結果として美春の名前は完全に忘れていたわ。

まあ、落ち込んでた時期のことはあまり思い出したくないからさっさと忘れようとしてたのが原因かもしれないけどね~。

落ち込んで悩んでいた時期があったんだけど、
私の性格上、いつまでも悩んでいることはなかったわ。

悩んでも仕方がないから前向きに頑張ろうと考えて、
美春に敗北してから数日後に立ち直ったのよ。

そして美春との再挑戦を考えていたんだけど、
その目的は叶えられなかったの。

運が悪かったのかどうか分からないけれど、
会場で美春と再会する事がなかったからよ。

そして今日まで一度も出会う事がなかったから、
綺麗さっぱりと美春の名前を忘れてたんだけどね。

「ごめん。ごめん。完全に忘れてたわ」

ちゃんと思い出せたから笑顔で謝ってみたんだけど、
美春は呆れたような表情を浮かべながら再び大きなため息を吐いてる。

「まあ、忘れてたのは別にいいんだけどね。だけど私は覚えていたわよ。当時はまだそうじゃなかったとは言え、今では学園の暗部の一員になった翔子のことはね」

「………。」

美春の指摘に対して何も言い返せない。

暗部という表現が正しいかどうかは別としても、
自分がとある組織に所属していることは事実だから。

だから否定はできなかったわ。

「まあ、そういう役割も必要だとは思うわよ。こういう言い方も正しいかどうかは分からないけれど、『必要悪』っていう言葉は確かにあると思うしね」

「別に悪ぶってるつもりはないんだけどね~」

「自分がどう思うかじゃなくて、周りがどう思うかでしょ?そういう意味で言えば翔子は間違いなく裏方じゃない?」

「…まあ、そうかもね」

「私としてはありだと思うわよ。翔子のおかげで学園の治安が維持されてるわけだしね」

「私は何もしてないわよ」

「翔子の存在自体に意味があるのよ。学園でも1、2を争う美少女。そんな女の子が汚名をかぶってでも活躍してるわけだしね。私の周りでも翔子の応援をしてる友達は沢山いるのよ」

「汚名って…」

それは言い過ぎだと思う私の表情を見て苦笑する美春だけど、
それでも訂正はしてくれなかった。

「まあ、表現はいろいろあるとしても、翔子の知名度が学園の平和の一端を担ってるんだから、とりあえずはそれでいいんじゃない?」

「いいの?それで?わりと良くない評価よね?」

汚名をかぶる行為がいいわけ無いと思うんだけど、
美春は笑顔を浮かべながら肯定してくれる。

「良いと思うわよ。少なくとも私はね」

「う~ん。そう言ってもらえるのはちょっぴり嬉しいかも」

「そう?でもまあ、今の翔子を見てると少し同情したくなるかもね」

「え?どうして?」

話の流れが理解できずに戸惑うと、
そんな私を見つめる美春の瞳は哀れみに満ちていたわ。

「だって、今の翔子の任務は彼の説得か…あるいは…」

後半の言葉を濁した美春だけど、
それでも美春の言いたかった言葉は正確に理解できたわ。

「あ~、まあ、確かにそんな感じね」

「どちらにしても、荷が重くない?」

「うん。かなりね」

自分でもちゃんと十分理解してるつもりなのよ。

理事長から受けた任務がいかに面倒で、
いかに難易度が高いのかを嫌というほど理解してるわ。

「だから同情してるのよ。まあ、私には関係のない話だけどね」

「うう、その言い方は冷たくない?」

「私のことを忘れてた人に言われたくないわ」

「あう…。そこを追求されると返す言葉がないわね」

今まで美春のことを忘れていたのは事実だし。

それなのに助けを求めるのは無理があると自分でも思う。

「ふふっ。まあ、翔子は翔子で大変だろうけど、出来る範囲内で頑張ればいいんじゃない?私は私で試合に負けちゃったからもう一度成績を取り戻さなきゃいけないし、検定会場に戻って試合をしてくるわ」

美春は忘れ去られていたという事実をさっさと忘れることにしたみたい。

笑顔で別れて出てきたばかりの会場へと戻って行ったわ。

そんな寂しげな後ろ姿を見送ったあとで、
これからどうしようかなって考えてみる。

「う~ん。悪い事しちゃったかな~?」

一瞬、そんなふうにも考えたけれど、
去って行く美春に言える言葉は何も思い浮かばないわね。

一応美春は許してくれたんだし、
私を応援してくれたんだから、
わざわざ謝りに行く必要はないわよね?

「まあ、いっか」

ひとまず今は気にしないことにする。

「また出会えた時に謝ればいいし」

一旦、美春のことは忘れることにして、
周囲の様子に視線を向けながらこれからのことを考えてみる。

「どうしようかな~?」

現時点だと、やるべきことが何もない気がするのよね。

総魔は図書館に行ったし。

美春を追いかける理由もないでしょ?

「う~ん」

検定会場と校舎に交互に視線を向けつつ、
次の行動を考えてみる。

「一度報告に戻ったほうがいいのかな?」

現時点でできること。

それは一つだけだと思う。

総魔が試合をしないなら、
報告書をまとめて提出するのが私の仕事なのよ。

「とりあえず、戻ろうかな」

次の行動を判断したあとで、
自分の役目を果たすために校舎に向かって歩きだしたわ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ