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THE WORLD 作者:SEASONS

4月9日

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もう一人の天才

「試合始めっ!!!」

即座に反応して魔術の詠唱を始める絹川さんだけど、
先輩は堂々とした態度で絹川さんに視線を向けてた。

動き出す気配さえなくて、魔術の詠唱すら行わなかったのよ。

そんな先輩の態度に動揺しているのか、
絹川さんは眉をひそめながら先輩を見つめてた。

そして僅か数秒で魔術を完成させた絹川さんは何もしない先輩に向けて魔術を発動させたのよ。

「フレア・ウェーブ!!!」

圧倒的な威圧感を放つ炎の壁が絹川さんの目の前に発生して、
先輩に向かって波のように襲い掛かったわ。

押し寄せる炎の波。

それでも先輩は右手を差し出しただけで、
それ以上の行動は見せなかった。

先輩に迫る炎の波が先輩の体を飲み込もうとしたその瞬間。

先輩は少しだけ…本当に軽く腕を振ったのよ。

まるで虫を追い払うかのような小さな動きだったわね。

ただそれだけの動きなのに、
ただそれだけの動きで炎の波があっさりと引き裂かれてしまったのよ。

一瞬にして消失する炎。

ただ腕を振っただけなのに。

何の魔術も発動していなかったはずなのに。

それなのに絹川さんの魔術はあっさりと消滅してしまったわ。

その事実に驚き戸惑う絹川さんに先輩が話し掛けてる。

「降参するのなら攻撃しない」

宣告としか思えない発言。

見下すというよりも、先輩の表情からは先を急いでいるようなそんな焦りが感じられるわね。

だけど今の一言で戦闘意欲を失ってしまった絹川さんは、
圧倒的な実力差を受け止めて静かに敗北を宣言してた。

「棄権するわ」

「試合終了!!」

絹川さんが棄権したことで、
新たな番号を手に入れた先輩は足早に会場を去ってしまう。

結局、話しかける勇気どころか、その時間さえなかったと思うわ。

あとに残された絹川さんを見てみると。

「………。」

絹川さんの体ははっきりと分かるくらい震えてた。

先輩の名前は知ってたと思うし。

元学園1位の生徒に勝てるわけがないと思うから。

負けるのは仕方がないとも思う。

だけど、何もできずに敗北を受け入れるしかないという現実なんて見たくないわよね?

絹川さんの瞳からこぼれ落ちる涙が悔しさなのか。

それとも恐怖なのかは私には分からないわ。

だけど彼女を可哀相だとは思わない。

それが『戦い』で、私達はそういう試合をしてるんだから。

誰かが勝てば、誰かが負けるの。

そんな試合をしているんだから、これは仕方のないことなのよ。

誰も先輩を責めることは出来ないわ。

みんなそうやって、戦い続けているんだから。

だから彼女の敗北は彼女の責任だし。

同情なんて必要ないわ。

そう考えてから私は絹川さんから視線を逸らして出口の方角へと視線を向けてみたのよ。

だけど。

今はもう先輩の姿は見えなかったわ。

たぶん、次の会場に向かったんだと思う。

圧倒的な実力を見せ付けて立ち去った先輩は
ついこの間までとは全く違う雰囲気を持っていた気がする。

だからきっと、先輩は『自分の力』に気付いたんだと思う。

今の試合で見せた力はその片鱗なんだと思うの。

私とは次元の違う能力。

あっという間に上へと突き進んでいく先輩が素直にすごいと思う。

天城総魔に対抗出来る『もう一人の天才』が頂点を目指して戦い続けているのよ。

私もそんなふうに戦えればいいのに、って思うけれど。

現実はそうそう上手くはいかないわ。

絹川さんと同じように、
私も震えながら見上げることしかできない立場だから。

だから先輩のようにはなれないの。

そのことを理解してるから天才になろうとは思わない。

凡人には凡人の。

落ちこぼれには落ちこぼれの。

雑魚には雑魚の戦い方があるからよ。

だから私は自己嫌悪に陥りそうになる心を無理矢理奮い立たせて、
自分のやるべきことに立ち向かう決意を固めるのよ。

必ずみんなに追いついて見せる!!ってね。

ただそれだけを願い続けるの。

だから先輩。

そして優奈も。

みんな待っててね。

必ず、必ず追いつくから!
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