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THE WORLD 作者:SEASONS

4月9日

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長野淳弥

《サイド:美袋翔子》

ふぅ~~~。

時刻は午前9時過ぎ。

最後の会場の一個手前の会場。

100番から1999番までの生徒の集まる第2検定試験会場に私は来ているわ。

今日すでに7回の試合をして全て勝利してきた私は、
次の対戦相手を求めて第3検定試験会場から移動してきたのよ。

結局、美春には会えなかったんだけどね。

美春が所属している会場をあっさりと勝ち抜いた私は次の会場に向かって、
4度の試合を勝ち抜いてからようやくこの会場にたどり着いたところよ。

だけど。

いまだに自分の能力が何なのかに気付けないままでいるのよね~。

出来ればこの会場にいる間に自分の潜在能力が何なのかを知っておきたいって本気で思うわ。

それが出来なければ何も分からないまま最後の会場に向かうことになってしまうからよ。

それはかなりまずい出来事じゃないかしら?

ただでさえ私は実力的に皆よりも劣ってるのよ?

このまま勝ち上がったとしても、
能力が不明なままだと頂点を目指す戦いに参加することは夢のまた夢でしょうね。

だから何が何でも自分の力を把握しないといけないの。

皆に…総魔に追いつくためにね。

色々と不安や焦りを感じるけれど。

今は焦り以上に、自分の力を理解出来ない自分自身を不甲斐なく感じているわ。

私はどうすればいいのかな?

心に問い掛けてみても答えは返ってこない。

募る苛立ちと焦る気持ち。

必死に考えても分からない答え。

私は自分の能力に気付くことが出来るのかな?

不安になってしまうわね。

それでも私に歩みを止めている暇はないのよ。

次の試合の為に受付に向かうしかないの。

だけど、ね。

受付で名簿を受けとろうとした私に話しかけてくる生徒がいたわ。

「久し振りだな、翔子」

「…えっ?」

突然の呼び掛けに振り返ると、
すぐ後ろに一人の男子生徒がいたのよ。

名前は長野淳弥ながのあつや

私と同じ『特風』の一人よ。

でもね。

淳弥は特風の中でも唯一フォース・ステージじゃない生徒なのよ。

サード・ステージにいながらも特風へと参加の認められた生徒なの。

淳弥の試合を見たことはないけれど。

番号以上の実力があることは間違いないでしょうね。

「淳弥じゃない。何でここにいるのよ?」

どうしてここにいるのかを尋ねてみると、
淳弥は当然とばかりに答え始めたわ。

「俺は『他』とは違って、この会場所属だからな。ここにいるのが当然だろ?」

「それは分かるけど。そうじゃなくて。何で・今・ここに・いるの?って聞いてるの」

「んー?あー、まあ、何となく、そろそろ翔子が来るんじゃないかなーって思ったから、じゃダメか?」

「はぁ?何よそれ?ってか、暇なの?」

「いやいや。暇っていうわけじゃないけどな。前にも言っただろ?『お前が好きだから、お前の側にいる!』ってな」

あぁ~…。

確かにそんなことがあった…ような?

思い返してみれば何ヶ月か前に、淳弥に告白されたことがあった…ような気がするわね。

あの時は大して気にもしてなかったからあっさりと断っちゃったけど。

そのあと淳弥は自分の実力を最大限に発揮して、
サードにいながら『特風』に参加するまでに成長したのよ。

告白を断ってから次に淳弥に再会したのは『特風』に入ってからだと思う。

確かその時に『お前が好きだから、お前の側にいる!』とか何とか言ってた気がするわね。

まあ、今ここで言われるまで完璧に忘れてたわけだけどね。

「そんなことはどうでもいいのよ」

「いや、どうでもいいとか言われると、結構傷付くんだぞ?」

何か言いたげな淳弥の言葉をあっさりと聞き流しながすことにして質問を続けてみる。

「それより淳弥って今は何番なの?」

「ん?俺か?今の生徒番号は128番だ。まあ、可もなく不可もなくって感じだな」

128番ね~。

確かに特筆するには少し低い気がするわ。

まあそれでも、現在1004番の私と比べれば掛け離れて上位の番号なんだけどね。

「で?まだ次の会場には行かないの?」

その気になれば一桁まで行けると思う私に、淳弥は余裕の笑みを浮かべながら答えてくれる。

「まだしばらくここにいるつもりなんでな。当分、上を目指すつもりはない」

はあ?

何よそれ。

「そこが分からないのよね~。何でここに留まる必要があるのよ?淳弥ならもっと上まで行けるんじゃないの?」

「さあな。勝ち上がれるかどうか知らないが、今の所は興味がないとしか言いようがないな」

興味がない?

変な奴。

一体何がしたいんだろ?

「まあ、俺には俺の目的があるってことだ。あまり気にしないでくれ」

「わけわかんない」

「色々あるんだよ。色々な…」

「別にどうでもいいけどね~」

「いや、だから、お前にどうでもいいとか言われると、かなり傷付くんだぞ?」

「知らないわよ、そんなこと。それよりもわざわざ私に会いに来たわけじゃないでしょ?何か用でもあるの?」

「………。」

私の質問を聞いた淳弥の頬に、一筋の汗が流れた気がするわね。

「いや、だから翔子に会いに来たんだ。ただそれだけだ」

「本気で言ってるの?」

「そうだよ。悪いか?」

真剣な表情の淳弥の本心がわからないわね。

だけど。

もしかしたら淳弥は本当に私に会いに来ただけなのかもしれないわ。

「やっぱり暇なのね?」

「いや、暇とかそういうことじゃなくてだな。試合で何度も敗北してるって話を聞いたから、心配になって様子を見に来たんだよ」

敗北?

ああ…。

確かにここへ来るまでに2回も負けてるわね。

最初の試合に関しては運が悪かったというか何と言うか…。

優奈ちゃんに勝てなかったのは確かに敗北って言えると思うわ。

でも美春に負けたのは完全に油断していたからとしか言いようがないでしょうね。

勝てると思い込んで全力で戦わなかったから。

手を抜いても勝てると思っていたから。

だから、あっさりと敗北してしまったのよ。

だけどそれは私の心の問題で、実力的に負けたわけじゃない…と、思ってる。

もちろん美春の実力も認めるけどね。

それでも美春に負けた最大の理由は『油断』だと思うわ。

まあ、どんな理由かに関係なく、負けたことに変わりはないんだけどね。

「それで?心配して来たってのはわかったけど、来てどうしたいのよ?」

「どうってこともないだろ?好きな女が落ち込んでるんじゃないか?って思って気になっただけだ」

自信満々に宣言してる淳弥。

悪い奴じゃないけれど、だからって心を開くつもりはないわよ?

…だって…

…だって…

…だって…

私が『好き』なのは総魔だから!

淳弥の気持ちは嬉しく思うけれど。

今の私の心の中に入り込む余地は一切ないの。

「だからまあ、それは置いといて」

「結構傷付くぞ、その態度は…」

落ち込む淳弥を気にすることなく、もう一度だけ尋ねてみる。

「それで?何しに来たのよ?」

「だから、翔子に会いに…」

「それはもういいってば…」

「いや、そこが大事なところだと思うぞ?」

「放置」

話し合うのを放棄して、私は再び名簿へと視線を戻したわ。

「きつ…」

落ち込む淳弥だけど、淳弥に構っていられるほど暇じゃないのよ。

1秒でも早く自分の力を知る為に、足を止めている暇はないの。

「誰にしようかな?」

名簿を眺める私に、淳弥が控えめな声で話しかけてくる。

「翔子。」

「だから何よ?私は忙しいんだから…」

「いや、良かったら俺と試合をしないか?」

「はあ?」

唐突な発言に首を傾げてしまう。

仕方がないから、もう一度だけ淳弥に振り返ってあげたわ。

「だから、一体、何が、したいのよ?」

「いや、まあ、何ってこともないんだが。ちょっとは翔子の役に立てるかな?って思ってだな」

控え目に話す淳弥だけど。

正直な話を言うと、今の私には淳弥に勝てる自信なんてないわ。

指輪を外して全力で戦えるのなら、こんなふうに考えることもないけれど。

今の私には大した力がないことは事実だからよ。

ただでさえ番号が離れているということもあるけれど。

それ以上に淳弥の実力はもっと上にある気がしているの。

淳弥が本気で上を目指していればこんなところにいるはずがないわ。

そう思える程度には、淳弥を評価してるつもりよ。

だからこそ思うの。

今の私だと淳弥には勝てないかもしれない、ってね。

油断でもなんでもなくて、全力で戦っても勝てないかもしれないって思える相手なの。

淳弥はそういう存在なのよ。

「俺なら翔子の役に立てるかもしれないからな」

自信を持って宣言する淳弥だけど、その自信の根拠は何なの?

色々と気になるけれど。

聞いて確認するよりも、
実際に試合をしてみたほうが早いかもしれないわね。

「別に試合をするのは構わないけれど…」

「良し!ならさっそく手続きをしよう!」

笑顔で受付に向かう淳弥。

何がそんなに嬉しいのか知らないけれど、
淳弥は上機嫌で手続きを終えたわ。

「行こうぜ翔子。試合場はBー5番だ」

歩きだす淳弥の後を追って、私もしぶしぶ歩きだすことにしたのよ。
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