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THE WORLD 作者:SEASONS

4月3日

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セカンド・ステージ

第5検定試験会場についた。

翔子への説明を切り上げたあとにたどり着いた受付で手続きを済ませてから、
指示された試合場に向かって対戦相手の到着を待つことにする。

この会場を乗り越えられれば、
いよいよ次の検定試験会場で5000番越えを狙えるようになるからな。

まずはここでの戦いに集中するべきだろう。

今回の対戦相手は生徒番号6005番。

三船錬次(みふねれんじ)という名前の男子生徒だ。

聞いてもいないのに一方的に解説をしたがる翔子が言うには、
この会場にいる生徒なら最上級魔術を使える生徒が数多くいるらしい。

今まで以上に難易度が高いという話だった。

色々と思うことはあるが、
対戦相手が強くなるのは好都合だ。

翔子達と戦うまでに強力な魔術を習得しておきたいからな。

ホワイト・アウトやエンジェル・ウイングのような特殊な魔術ではなく、
学園で学ぶことのできる様々な魔術にも興味がある。

特に最上級魔術を習得しておけば、
今よりも戦略の幅が広がるだろう。

一つでも多くの強力な魔術を手に入れること。

その特性を把握することでこれまで以上にあらゆる状況に対応できるようになるはずだ。

最上位の生徒達に挑む前に強力な魔術に対する対抗策を手にすることができれば、
それだけで大きな利点になるだろう。

だからこそ。

より上位の魔術を習得するために、
強力な魔術が使用できる生徒とは少しでも多く対戦しておきたいと思う。

「とりあえず応援してるから頑張ってね~!」

………。

その行動は正しいのか?

応援するのは勝手だが、
自分の役目を忘れているのではないだろうか?

本当に監視役なのかどうかさえ疑問に感じてしまう。

一体、何を考えているのか?

度々疑いたくなってしまう行動をとる翔子だが、
ひとまず今は考えないようにしよう。

どうせ考えても答えは出ない。

考えるだけ時間の無駄だ。

翔子は無視して早々に試合場に足を踏み入れることにする。

だが、対戦相手はまだ現れていない。

見渡せる範囲内ではこちらへ向かってくる生徒の気配も感じられない。

今回の対戦相手がどんな生徒なのか何も知らないために探しようもないのだが、
特に急ぐ理由もないので試合場の開始線に立ったまま対戦相手の三船が現れるのを待つことにした。

その間に少し気持ちを落ち着かせようと考えて静かに目を閉じて深呼吸を繰り返してみる。

先ほどの試合で僅かに魔力が減少しているが、
それ以外は特に問題ないだろう。

翼を展開するために3割ほどの魔力を消費していたように思う。

その内の半分程度はすでに回復してきているものの。

まだまだ完全とは言い切れない状態だ。

それでも試合中に魔力を奪い取ることを考えれば完全でなくとも問題はない。

魔力吸収の力がある限り、
何度連戦したとしても魔力が底をつくことはないからな。

少なくとも。

魔術師と戦い続ける限り、
魔力が足りないという事態にはならないだろう。

相手が強ければ強いほど奪える魔力の量も増えるからな。

試合を繰り返して魔力を吸収し続ける。

その結果として翔子を超える魔力を手に入れる。

そこまでたどり着ければ頂点に立つ生徒との実力差を一気に詰めることができるだろう。

道筋は既に見えている。

初手として、
まずは翔子に匹敵する魔力を蓄える。

そして翔子の魔力も喰らうことで、
翔子二人分の魔力を手にする。

その後。

次手として翔子よりも格上となる学園3位の生徒を倒す。

続けて学園2位の生徒を倒すところまで順当に進むことさえできれば、
計算上は翔子単体の数倍の魔力を集めることもできるだろう。

魔力の量が強さの基準ではないものの。

魔力が足りないために攻撃も防御も通じないという事態は避けられるはずだ。

その道筋を進むために。

まずは翔子へたどり着く前に少しでも多くの魔力を集める必要がある。

問題はどこまで順調に計画を進められるかだが。

その辺りは実際にやってみなければわからない。

とにかく今は戦い続けるしかないだろう。

そんなふうに目を閉じて考え事をしていると、
自然と聴覚に意識が向いて周囲の騒音がいつもより大きく聞こえてくる。

それらに興味があるわけではないが、
会場内の各地で試合が行われているために騒々しい雰囲気が感じられる。

そんな中で翔子の呑気な声援も聞こえていた。

「頑張れ~!」

本気で応援するつもりなのか?

まだ対戦相手もいない状況で応援をする意味があるのかどうかという部分からすでに疑問を感じるが、
監視の役目を持っているはずの翔子が堂々と応援している姿はどう考えても不自然としか思えない。

とは言え。

以前のようにこそこそとかぎ回られるよりはまだましかもしれないとも思う。

どちらが良いのだろうか?

一瞬考えてみたが、結論から言えばどちらも迷惑なのは事実だ。

やはり考えるだけ時間の無駄かもしれない。

まあ、どうでもいい事だな。

今のところ翔子と深く関わるつもりはないからな。

少なからず信用できる人物だとは思うが、
いずれ戦うことになる相手の一人でしかない。

必要以上に関わるつもりはないだろう。

戦うべき相手と仲良くなる必要もない。

そう思うからこそ翔子の能力を聞く気もなければ、
翔子の上にいる者達の名前を知ろうとも思わない。

情報を集めることは大事だが、
相手の力が分からないからこそ戦いに緊張感が生まれるのであって、
相手の実力を知ってしまったら戦う興味すらなくなってしまうからな。

だから今は気にする必要がない。

翔子の存在は無視しよう。

監視も応援も好きにすればいい。

どういう意図があるにしても、
こちらから関わろうとは思わないからな。

そんなことを考えながら対戦相手の到着を待ち続けていると、
しばらくしてから三船と思われる人物が試合場に駆け寄ってきた。

ようやく来たか。

思考を中断してゆっくりと目を開いてみると、
試合場に到着したばかりの三船が真剣な表情を浮かべながら話しかけてきた。

「やあ、君が今回の挑戦者かい?噂は色々と聞いてるよ。たった一日でセカンド・ステージまで上り詰めたらしいね」

セカンド・ステージ?

また聞きなれない言葉が出てきたな。

どういう意味だろうか?

「なんだそれは?」

何か重要な区分けでもあるのだろうか?

「あれ?まだ知らないのかい?1000番から9999番までの4桁台の生徒をそう呼ぶんだよ。3桁ならサード・ステージだし、2桁ならフォース・ステージって感じだね。ちなみに10000以下の5桁はファースト・ステージって呼ばれてるんだよ。わかりやすくいえば初心者の集まりだね」

なるほど。

新入生を含む1万以下の生徒達はファースト・ステージと呼ばれるらしく、
1千以下の生徒達だとセカンド・ステージと呼ばれるらしい。

「そんな区切りがあったのか?」

「まあ、こういう話はファースト・ステージではあまり話題にならないかもしれないね。区分けそのものにそれほど意味はないし、数字的に分かりやすく分割してるだけだからね」

あまり大きな意味はないらしい。

単純な区切りだけのようだ。

気にするほどの話じゃないと言いつつも簡単な区切りを説明してから会話を終えた三船も試合場に立った。

「とりあえず新入生の君がここまで勝ち上がってきた事実は素直に認めるよ。だから君を甘く見るつもりはないし、最初から全力で戦わせてもらうつもりだ」

開始線で足を止めてから早々に油断なく構えた三船にかすかな殺気が漂い始める。

どうやら本気で戦うつもりらしい。

俺が格下だと思って油断するつもりはないようだな。

「僕はね、これでも3年がかりでここまできたんだ。だから君がどれほど強いとしても、新入生には絶対に負けられないっ!!」

これまで培ってきた努力を否定させないためだろう。

全力で気合を入れる三船の瞳が真剣な眼差しに変わっている。

「君の挑戦はここまでだ」

強気な態度で宣言する三船からは、
これまで戦ってきたどの生徒よりも強力な威圧感が漂っているように思えた。

文字通り、強者の貫禄だ。

良い気迫だと思う。

言葉だけではない確かな実力が感じられるからだ。

鬼気迫る迫力がある。

だが、だからこそ戦う意味があると思う。

全力で戦う相手を倒すことでつかみ取れる何かがあるからだ。

そう思うからこそ、
三船が放つ気迫は少なからず心地よく感じられる。

「挑戦させてもらおう」

「返り討ちにするだけさ」

互いに睨み合う中で、
審判員が試合場の中央に歩み出る。

「双方、準備はよろしいですね?」

最終確認を取る審判員だが、
その行動に意味はない。

すでに互いの意思は確定しているからな。

「それでは、試合、始めっ!!」

審判員の号令によって試合が始まってからすぐに、
俺達は同時に詠唱を開始した。

そして僅かな時間差で、
それぞれの魔術が発動する。

「エクスカリバー!!」

「ホワイト・アウト」

僅かに三船の方が先に魔術を完成させて発動したようだが、
こちらに届く前にはすでに霧の結界が完成していた。

「突き抜けろっ!!」

気合を入れて放つ数千に及ぶ最大級の風の刃が霧の結界に襲いかかってくる。

だが…。

放たれた全ての風が霧に飲み込まれて消滅してしまう。

「ちっ!最上級魔術ですら防ぎきるのか…っ」

「ああ、この程度の威力で霧の突破は不可能だ」

高威力の風の刃だったが、
それでも結界は突き抜けられないと宣言しておいた。

「なら、これならどうだっ!!テスタメント!!!!」

三船の放つのは絶対零度の冷気だ。

全てを凍てつかせる冷気が霧の結界に降り注ぐ。

だが、それでも霧を凍結させるには至らない。

絶対零度の冷気でさえも、
結界に影響を与えることなく消失した。

「くっ。シールドでさえも凍結するはずなのに、なんて結界なんだ…」

予想していた以上だったのだろう。

鉄壁を誇る結界に対して小さく舌打ちしてから、
三船は更なる魔術を発動させる。

「正攻法がダメなら力で押しきるまでだ!!ダンシング・フレア!!」

魔術が発動すると同時に。

三船の両手から膨大な紅蓮の炎が生まれて霧の結界の周りを包み込んでいく。

そして勢いよくうねり踊るように結界の周囲で燃え広がっていった。

「全てを燃やし尽くしてみせるっ!!」

全力で放つ炎に思いを込める三船だが、
霧に接触している部分から徐々に炎が消えてしまう。

「無駄だ。炎も通じはしない」

「…かもしれないね。だけどこれでいいんだ!」

三船の目的は炎による霧の破壊ではないようだ。

霧そのものではなく、
結界の外周に視線を向けている。

「そうか、そこが狙いか」

徐々に勢いを弱めていく炎だが、
それは結界の力による影響ではない。

「結界ではなく、直接俺を狙ってきたか」

三船の狙いに気付いて小さく笑う。

「だがその為にはまだ力が足りないな」

目的を瞬時に判断したことでその欠点を指摘してみると、
三船も微かに笑みを浮かべていた。

「そんな事は分かってる!だからこうするのさ!!」

炎の影響が消える前に、
三船は続けざまに魔術を生み出した。

「ダンシング・フレア!!」

再び放たれた紅蓮の炎。

踊り狂う炎が再び霧の周囲を取り囲んでいく。

「この炎で全ての酸素を食い尽くす!いかに強力な魔術師といえども人である限りは酸素を失って意識を維持する事は不可能だ。だから僕の魔力と君の意識、力尽きるのがどちらが先か…気力の勝負だ!!」

魔力のある限り炎を生み出し続けて酸欠による勝利を狙う。

その作戦そのものは有効的かも知れないな。

悪くないとは思う。

だが、気力の勝負に持ち込んだ以上。

ここから三船が挽回する手段はなさそうにも思える。

「一つだけ聞いてもいいか?」

「何だ?」

「もしもこの攻撃を俺が乗り切った場合。次にお前はどうする?」

「………。」

こちらの問いかけに対して三船は何も答えない。

やはり、これが限界なのだろうか?

三船を責めるつもりはないが、
これ以上戦う意味はなさそうに思える。

正直に言えば炎をかき消すことも酸欠を回避することも簡単だが、
無理に最後まで付き合う必要はないだろうな。

「ここまでか」

炎に包まれた結界の内部で第二の魔術を発動させる。

「エンジェル・ウイング」

魔術を展開した途端。

先ほどの試合と同様の神々しさを感じさせる光が試合場に満ち溢れて、
霧の内部にいる俺の背後に天使の翼が出現した。

「さあ、覚悟はいいか?」

「なっ…?何なんだっ、その翼は…っ!?」

状況がまだ把握できていないのだろう。

三船は驚愕の表情を浮かべている。

「何をするつもりだっ!?」

これから何が起きるのかが分からないのだろう。

慌てふためく三船に向けてゆっくりと右手を掲げてから宣告する。

「穿て(うがて)!!」

たった一言を告げた直後。

その一瞬に、
一対の翼は強烈な光を放って三船の体を貫いた。

「ぐあぁぁっ!!!???」

突然放たれた光に打ち抜かれた三船の体は試合場の隅にまで弾き飛ばされる。

そしてそのまま試合が終わる。

逃げるどころか何が起きたのかを判断する余裕すらないまま、
試合場に倒れ込んだ三船は戦闘不能へと陥ったからだ。

「………。」

意識を失って倒れ込む三船に立ち上がる気配はない。

何が起きたのかは誰にも分からないようだ。

見ているだけでは不可思議なこの光景を目にするのが二度目の翔子はまだかろうじて平静を保っていられるようだが、
審判員や周辺の生徒達は一様に驚愕の眼差しを俺に向けている。

「な、何が…?」

驚き戸惑う審判員にゆっくりと振り向いて問いかけてみる。

「俺の勝ちだな?」

「え?あ、は、はい…」

三船が倒れたことで確認を取ってみたところ。

審判員はゆっくりと周囲に視線を彷徨わせてから震える声で試合終了を宣言した。

「し、試合終了?勝者、天城総魔…!」

試合内容を理解できないまま試合終了を宣言した審判員の宣言を聞き届けて、
試合場をあとにしようとした…のだが、
受付で手続きを済ませてから次の会場に向かおうとしたその途中でまたもや翔子の追求を受けて足止めされることになってしまった。

「ねえ!今度は何をしたの!?」

ふう。

また質問か。

「少しは自分で考えたらどうだ?」

「だから、考えても分からないから聞いてるんでしょっ!!」

分からないからと言って怒鳴られても困るのだが、
ここで説明を拒否すればいつまでもしつこく問い詰めてくるのはすでに十分理解しているので今回は早々に答えておくことにした。

「今回も大した事はしていない。単純にエクスカリバーを発動しただけだ。ただし、その射撃速度は通常の十数倍の早さを持っていたかもしれないな」

「へ?それってつまり、あの翼はエクスカリバーも使えるっていうこと?」

「ああ、そうだ。俺の知っている魔術なら全て撃ち出せる」

「そうなの?…っていうことは、全ての属性を持ってるっていう事?」

「まあ、そうなるな」

「それってかなり凄い事なんじゃない?」

どうだろうな?

「あくまでも実験途中の魔術だ。完成してみない事には判断出来ない」

「えぇっ!?うそっ!?あれでまだ未完成なのっ!?」

「ああ、現状ではまだ魔術を発動出来る『程度』の能力しかないからな。俺が目的としているのはその先にある」

「その先って何?」

「翼は攻撃の為にあるわけではない。いや、正確にいえばそのつもりだったが、予定が変わったといった方がいいかもしれないな」

少し前まではそのつもりだった。

だが、翔子と話をしたことで当初の予定は崩された。

「予定が変わったって、どういう事?」

「さっきの話を聞いて俺の求める形がはっきりと分かったからだ。おそらく今日中に翼は完成するだろう。そして明日には攻撃の為の力を手に入れられるはずだ」

すでにきっかけは掴んでいる。

あとはどうやって力を手に入れるか?

それを考えるだけだ。

「攻撃の為の力って何なの?」

「お前が言っていたことだ」

「え?私?何か言ったっけ?」

「ああ、お前が言っていたことだ。武器として扱う力があるということをな」

「あ…っ!!」

翔子はようやく思い出したらしい。

「ルーンね!!」

「正解だ」

「そう言えばそんな話をしたことをすっかり忘れてたわ」

「お前は何のために俺の監視しているんだ?」

「う…。そこを追求されると辛いかも…」

俺のルーンを確認する為に、翔子は朝からずっと観察していたはずだ。

それを忘れてしまっていた事実に気づいて、
気まずそうな表情を見せている。

「でも…そっか。そうなのよね」

防御の要である霧の結界と魔術を自在に発動出来る翼。

そこに攻撃の要となるルーンが加わったとしたら?

俺の実力は翔子の想像を遥かに凌駕する場所にあるのではないだろうか?

そのことに翔子はようやく気が付いたようだ。

「『攻』『防』『魔』の、3種類の力を自在に発現出来るとなれば…」

そんなふうに呟いた俺の言葉を聞いて翔子は体を震わせている。

「そ、そんなの異常よっ」

ありえないと翔子は思っているようだな。

だがもしもその理想が実現できるとすれば、
それは翔子の想像を遥かに超えた力になるだろう。

「でも…」

恐怖ではない興味を感じたことも事実のようだ。

「見てみたいかも」

俺の実力を知りたいと、
翔子はこの時初めて思ったのかもしれない。
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