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THE WORLD 作者:SEASONS

4月3日

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エンジェル・ウイング

第6検定試験会場。

昨日、最後に試合をした検定会場に再びやってきた。

すでに隠れる様子のない翔子が堂々と隣に並んでいるのが気になるが、
今は特に話をすることもないので黙って会場内へと進んで行く。

今日はもう様子見は必要ないだろう。

初戦から最も強い対戦相手を選ぶつもりで受付に向かうことにする。

「試合がしたい。今、この会場で一番強いのは誰だ?」

昨日もいた係員に生徒手帳を見せながら問いかけてみると、
名簿の上から三番目の欄に記されている生徒を教えてくれた。

「一番ではありませんが、試合可能なのはこちらの方になりますね。上位お二方はすでに下位対戦を行われていますので挑戦を受けてもらえるかどうかは確認してみないとわかりませんが、こちらの方でしたら即座に試合を行えます」

今回は一番強い生徒とはいかないようだが、
生徒番号8019番の春藤麗香(しゅんどうれいか)という名前の女子生徒とは試合ができるようだ。

「それでいい」

すでに試合済みの上位二人と比べてみても番号自体は数番しか離れていないからな。

この程度の誤差なら気にする必要はないだろう。

「分かりました。それでは手続きを始めますので試合場のB-4番へとお進みください」

「ああ」

受付で申請を済ませてから翔子と共に試合場に向かってみると、
数分もしないうちに対戦相手である春藤麗香が現れた。

「こんにちわ。あなたが対戦相手の天城総魔さん、かしら?」

「ああ、そうだ」

「ふ~ん。あなたの噂は聞いてるわよ。とんでもない結界士らしいわね」

結界士なのか?

どうだろうな?

まあ、そういう表現もあるだろう。

個人的には純粋な結界とは少し違う気もするが、
俺の知らない間に色々と噂が出回っているようだ。

「わざわざ否定するつもりはないが、あまり正しい情報ではないな」

「あら?それはどういう意味かしら?」

「説明する必要はないだろう。戦えば分かる事だからな」

わざわざ教えるつもりはない。

これから戦う相手に情報を与える必要はないだろう。

知りたければ試合の中で自分自身で調べればいい。

「噂は所詮、噂でしかないと思えばいい」

あいまいに答えて麗香との会話を打ち切る。

その行動の結果として、
これ以上の話し合いは出来ないと感じたのだろう。

麗香は話し合いを諦めて大人しく試合場の開始線に立った。

「まあ、とりあえず戦うしかないわよね」

気持ちを切り替える麗香に続いて俺も開始線に立つと、
今回の審判員は少し遅れて試合場の中央に進み出てきた。

「それではただいまより試合を行います」

試合開始の号令をかけるためにゆっくりと右手を掲げる審判員に少しだけ視線を向けてみる。

同時に、試合場のすぐ近くで応援してくれている翔子の姿も見えたが今は気にしている場合ではない。

「それでは、試合始めっ!!」

審判員の号令によって試合が始まった。

まずは結界の展開だ。

即座に詠唱を開始して魔術を発動させる。

「ホワイト・アウト」

回を増すたびに、
少しずつだが詠唱が早くなっている気がするな。

これも慣れだろう。

秒単位で発動が早くなっていく感覚を感じながら最速で魔術を展開させると、
瞬く間に結界が発生して周囲を真っ白な霧が包み込んだ。

これで第一段階は完成だ。

「ふ~ん」

霧が広がった様子を眺める麗香は、
値踏みするかのようにぶつぶつと何かを呟いている。

「それが噂のドレイン・フィールドなのね~」

どうやら不用意に魔術を使う気はないようだな。

じっくりと様子を伺っている。

「それで、どうする気なの?魔術を吸収する結界らしいけど、吸収されると分かっていて攻撃するほど私はバカじゃないわよ?」

まあ、そうだろうな。

「賢い選択だが、攻撃しなければ勝つ事は出来ないだろう?」

「それはあなたも同じでしょ?」

いや。

それは違う。

麗香の指摘は間違っている。

霧の結界はそんなに生易しいものではないからな。

「お前の勘違いを一つだけ訂正してやろう」

右手を麗香に向けて突き出してから、
そっと力を込めてみる。

その単純な動きの直後。

俺の周囲を取り巻く霧が僅かに揺らいで、
結界の一部が動き出す。

もちろん麗香に向かってだ。

霧に決まった形状はないからな。

俺の意思に従って自在に動かすことができる。

その気になれば、
霧を直接麗香にぶつけることもできるということだ。

「言うまでもないだろうが、霧に触れれば魔力を全て奪われる。お前はこの霧から逃れられるのか?」

「くっ…!」

じわじわと迫り来る霧から逃げるために、
麗香は慌てて背中を向けて走り出した。

…だが…。

ここは限定された試合場内だ。

霧から完全に逃げることなどできはしない。

今はまだ試合場の端まで勢力を広げてないが、
もしもホワイト・アウトを試合場内全体に発現した場合。

麗香に限らず、
どんな対戦相手であっても逃げる事も戦う事も出来ないまま全ての魔力を失って倒れるだろう。

「逃げきれない…っ!?」

防御も回避も不可能だ。

霧を消し飛ばすこともできず。

霧を突き抜けることもできない。

どうあがいても霧から逃げることはできない。

その事実を見せつけられて焦る麗香は体を小さく震わせながら拳を強く握り締めている。

「こんなの、反則よ…っ」

試合場の隅にまで追い詰められたからだろう。

ついに麗香は絶望的な表情を浮かべながらゆっくりと俯いて完全に動きを止めてしまった。

「こんなの卑怯よっ!!」

何一つ抵抗できないまま。

麗香は敗北を実感したようだ。

「こんなのどうしろっていうのよっ」

試合場という限られた範囲内でしか動けない限定空間において霧は絶対的な支配力があるからな。

シールドのような防壁結界とは意味が違う。

広範囲を支配できる霧はまさに逃れようのない悪夢といえるだろう。

「こんな…終わり方…っ」

戦うことも逃げることもできずに負けるという現実。

その現実に対して悔しさをにじませる麗香が敗北を受け入れようとした直前に。

一旦、霧の動きを停止させることにした。

そして試合場内全域に広がっていた全ての霧を消滅させる。

「ぇ…?どういうこと?」

突然の出来事に戸惑う麗香が呆然と立ち尽くす様子を眺めつつ。

ホワイト・アウトの実験を終了して次の実験に移る事にした。

「どうだ?霧の魔術に関しては理解したか?」

「………。」

麗香は何も答えないが最初から返事は期待していない。

だから麗香の言葉を待つこともせずに次の実験に向けて行動を開始する。

「個人的な見解になるが俺は特別な感情で『最強』という言葉に興味はない。近づきたいとは思うが、そう在りたいとは思わない。それが何故か分かるか?」

何を言われても麗香は困惑するばかり。

口を開きはするが言葉を出せずにいる。

そんな麗香の様子を気にもせず、
試合を観戦している翔子へと視線を向けてみる。

「極めてしまったらその先はないからだ。それはつまらない事だと思わないか?極める為の過程が面白いのであって、極めてしまう事に興味はない。だからこそ俺は常に高みを望み続ける」

はっきりと宣言する言葉の真意を測りかねているのか、
翔子も戸惑っているように見える。

だがそれでも。

今の言葉に確かな何かを感じたのだろう。

戸惑う瞳の奥に明らかな恐怖が感じ取れる。

おそらく俺の言いたいことが理解できたのだろう。

これから見せるものが翔子の望んでいた答えだからな。

図書室で翔子が問いかけてきた答えを今この場所で示す。

「俺の望む力の象徴を見せてやろう」

翔子に対して宣言してから新たな魔術の詠唱を開始する。

その間。

麗香は全く動かない。

すでに勝負を諦めているのだろうか?

麗香は抵抗する様子を見せずにただじっとこちらを見つめている。

そしてそれは翔子も同じだった。

麗香と翔子。

二人の視線を感じながら詠唱を続けて20秒ほど経過した頃。

ついに魔術が完成した。

初めての展開で少々時間を取られたが、
魔術の詠唱は成功したはずだ。

今ここで新たな力が発現する。

「エンジェル・ウイング!!」

魔術が発動すると同時に、
俺の背後で眩しいほどの光が輝く。

展開も成功したようだ。

まるで白鳥が純白の翼を広げるかのように、
俺の背中に一対の純白の翼が煌く光を帯ながらその姿を現した。

「…つばさ?」

今まで以上の戸惑いを見せる麗香は純白の翼をまじまじと見つめている。

「…綺麗…」

試合場の外に居る翔子も予想外のできごとに驚きを隠せずにいるようだ。

「魔術でこんなこともできるの?」

きらめく翼に心を奪われる翔子だが、
それは決して翔子だけではないだろう。

俺の身長を遥かに越える広さと大きさを持つ翼は神秘的なまでに美しく、
見る者全てを魅了しているように思える。

すぐそばにいる審判員も、
周囲にたまたま居合わせた生徒達も、
そして騒ぎを聞きつけて駆け寄ってくる係員達でさえも、
一様に翼を見つめながら驚き戸惑っている。

そんな中で翔子がおそるおそる問いかけてきた。

「この翼が、答えなの?」

小さく呟いた翔子に一度だけ視線を向けて頷く。

そして翼の持つ力を解放する。

「これが力だ」

ただ静かに宣言する。

「終局を…」

それがこの日、
麗香が最後に聞いた言葉だっただろう。

突然失われる意識。

崩れ落ちる体。

一体、麗香に何が起きたのか?

正確に事態を把握できた者は一人もいなかったかもしれない。

少なくとも翔子には何が起きたのか全く理解できなかったようだ。

「今、何が…?」

翔子に理解出来たのはホンの僅かのできごとだろう。

天使の翼が生み出した突風によって麗香の体があっさりと吹き飛んだ事と、
翼から放たれた光が麗香を気絶させるに足りる力を持っていたという事。

ただそれだけのようだ。

「一体、何が起きたの?」

戸惑う翔子に説明するのは簡単だが、
今この状況で説明する必要はないだろう。

重要なのは翼の一撃によって戦闘不能になった麗香が試合場に倒れ込んでいるということだ。

その様子を確認してから翼の魔術を解除した。

それら一連の流れだけが翔子に理解出来る範囲だっただろうな。

「し、試合終了っ!!」

審判員でさえも戸惑いながら試合終了を宣言し。

麗香との試合は無事に終了した。

「実験は成功だ」

試合結果に満足したことで試合場を離れて受付に向かう。

その間に、翔子が慌てて後を追いかけてきた。
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