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THE WORLD 作者:SEASONS

4月7日

314/4820

ここがあなたの

《サイド:美袋翔子》

ふう~。

新たな検定会場に着いてからすでに2時間以上が経過しているわね。

早々に最高位になった総魔と私の試合はもう終わっているわ。

総魔はたった一回の試合で18002番になったし。

私は20回以上の試合を繰り返して全戦全勝の18006番よ。

優奈ちゃんも試行錯誤の攻撃を繰り返しながら13戦13勝の無敗記録更新中。

ほぼ無敵状態の優奈ちゃんは
転んだり倒れた時に出来たかすり傷程度の被害だけで全試合を圧勝し続けているわ。

現在の番号は18013番ね。

圧倒的な実力差で勝ち進む私達だけど…。

でもね。

現実は何もかもなんて上手くは行かないのよ。

悪戦苦闘を繰り返す悠理ちゃんの対戦成績は24戦6勝18敗。

何とか番号を底上げして19786番まで順位を上げたものの。

ここが悠理ちゃんの限界なんだと思う。

「大丈夫?」

「はい。なんとか…」

尋ねる私に悠理ちゃんは落ち込んだ表情で答えてしまってる。

完全に疲れ果てた様子なのよ。

傷の手当と魔力の補給は総魔のおかげで完璧だけど。

精神的な疲労までは治せないわ。

「今日はもう休んだ方がいいんじゃない?」

「いえ!まだ、大丈夫です!」

説得してみたけれど、悠理ちゃんは首を横に振ってしまうのよ。

どうあっても諦めたくないようね。

空元気で気合いを入れる悠理ちゃんだけど。

疲労はすでに全身に広がってるようで、
両膝が小刻みに震えていたわ。

「ねえ、悠理ちゃん。無理はしない方がいいよ?」

「ぜ、全っ然、平気よっ」

心配する優奈ちゃんにも、無理に笑顔を返してしまってる。

誰がどう見ても限界なのに、それでも悠理ちゃんは諦めなかったのよ。

「まだまだ大丈夫ですっ!」

必死の想いで私達に追いつこうとする悠理ちゃんだけど…。

そんな簡単に勝ち上がれる程、この学園は甘くはないわ。

総魔と優奈ちゃんの二人は異常な結果を出してるけどね。

それは二人の能力があればこそよ。

普通の生徒なら一日に一回試合を行って、
10~20くらい番号が上がれば十分な結果なの。

すでに1000番以上の番号を勝ち上がってきただけでもね。

本来ならとても凄いことなのよ。

だから悠理ちゃんがこれ以上無理をする必要なんて何もないの。

私としてはそう思うんだけど…ね。

だけど悠理ちゃんに諦める気配はないみたい。

だから、多分。

これはきっと、私達の責任だと思う。

本来なら下位の会場にいるはずのない私と総魔が姿を見せたこと。

そして初心者同然の悠理ちゃんに手を貸してしまったこと。

それが私達の責任なのよ。

色んな事情でたまたまここにいるけれど。

単純な実力だけで考えれば私達がここにいるのは不自然なのよ。

ライオンがウサギを相手にするくらい実力が離れているんだから。

私と総魔が本来ならいてはいけない会場で圧勝するのは当たり前なの。

優奈ちゃんにしてもすでに100位圏内の実力を持っているわけだしね。

そんな中で…悠理ちゃんはただ一人、ごく普通の生徒なのよ。

私達に追い付こうとすること自体に無理があるの。

それなのに悠理ちゃんは無理をしてでも私達を追い掛けようとしているわ。

これは完全に私達の責任だと思う。

悠理ちゃんの心を追い詰めているのは私達だからよ。

精一杯頑張っても結果が出せない。

自分の限界を知ってるはずの悠理ちゃんを追い詰めているのは私達なの。

だから私達は決断しなきゃいけないわ。

いつかはその日が来るんだから。

必ずその日は来るんだから。

だから私は…

「悠理ちゃん」

悠理ちゃんの手をとって出来る限り優しく語りかけることにしたのよ。

「ごめんね」

「…えっ?」

謝り出した私を見て驚く悠理ちゃんだけど。

私は私の責任を果たそうと思うわ。

「悠理ちゃん。残念だけど現実を受け入れなさい。あなたは私達とは違うのよ。無理をしても結果は出ないわ」

「で、でも、わ、私は…」

通告する私の言葉を聞いて、
悠理ちゃんは今にも泣き出しそうな雰囲気で表情を歪めてしまってた。

だけど、ね。

ここで誤魔化すことはできないの。

悠理ちゃんに気を使ったところで、現実から目を背けることはできないからよ。

「もう諦めなさい。今のあなたの実力では私達を追いかけることはできないわ。だからこのまま無理を続けても、今以上の結果は出せないのよ」

「そ、それでも、私は…っ」

一緒にいたいと思うんでしょうね。

私達と、ではなくて、優奈ちゃんと、でしょうけど。

だけどその願いを叶えるためには優奈ちゃんが足を止めるしかないのよ。

でもね?

それはきっと甘えよ。

ただ一緒にいること。

ただ同じ場所にいること。

そこに甘えてしまったら、もうそこから動けなくなるわ。

優奈ちゃんの成長はここで止まってしまうでしょうし。

悠理ちゃんが次の一歩を踏み出すことはできなくなると思うの。

それでも一緒にいられれば…

あるいは二人で仲良くできるのならそれだけでいいと思うのなら。

それはそれで一つの選択肢だとは思うわ。

でもね?

私は約束したのよ。

悠理ちゃんを強くしてあげるってね。

そしてちゃんと伝えておいたわ。

私は龍馬と違って優しくはないってね。

その言葉の意味を伝えるために、私は私の役目を果たそうと思うのよ。

「優奈ちゃんの足止めをして、それであなたは満足できるの?」

「そ、それは…っ」

「違うでしょ?そうじゃないでしょ?」

「私、は…」

「現実を受け入れなさい。そして…」

いつまでも一緒にいようと思う甘えを捨てなさい、って言おうと思ったんだけど。

「待ってください!美袋先輩っ!」

優奈ちゃんが私の言葉を遮ってしまうのよ。

「悠理ちゃんはまだ…っ!」

話の間に割って入ろうとする優奈ちゃんだったけど。

「やめておけ」

優奈ちゃんの手を掴み取った総魔が優奈ちゃんを引き止めてくれたわ。

「ありがと、総魔」

ちゃんと協力してくれた総魔にお礼を言ってから、
私はもう一度悠理ちゃんと向き合うことにしたのよ。

「私も総魔もね、目的があるの。だからあなたを待つことは出来ないわ」

「…ま、待って下さいっ!」

総魔に引き止められながらも、懸命に私の言葉を遮ろうとする優奈ちゃんだけど。

私はもう、説得を止めるつもりはないのよ。

「ここが『あなたの限界』よ」

「………。」

私の言葉を聞いた瞬間に、悠理ちゃんはその場で泣き崩れたわ。

「私…っ。私、は…っ」

「悠理ちゃんっ!?」

泣き崩れる悠理ちゃんを見て、優奈ちゃんも泣き出してしまう。

そして、悠理ちゃんを庇おうとしてた。

「まだっ!まだ大丈夫ですっ!!悠理ちゃんならまだ…!」

「っ!もう止めなさいっ!!」

泣き叫ぶ優奈ちゃんに対して、私は厳しく責めることしかできなかったわ。

「これ以上続けるのは悠理ちゃんを追い込むだけなのよっ!まだ分からないのっ!?これ以上続ければ、必ず…。必ず、悠理ちゃんは倒れるわ!!」

それがただの昏倒程度ですめばまだいいのよ。

だけど…だけどね?

もしも悠理ちゃんが限界を隠して無理を続ければ、
いつか必ず命にかかわることになるわ。

本当は辛いのに、それでも辛いと言えない状況に追い込まれてしまったら、
あとはもう命を削ってでも続けるしかなくなってしまうからよ。

絶望しか見えない現実のなかで、
ただがむしゃらに自分を傷つけることしかできなくなってしまうの。

勝てないと分かっていながらも戦い続けて、
ただただ苦しみ続けることしかできなくなってしまうのよ。

そうなってしまったらもう、あとは時間の問題よ。

心が壊れるのが先か。

体が限界を超えるのが先か。

どちらにしても今の悠理ちゃんは失われてしまうでしょうね。

並の実力で私達と対等であろうとすれば必ずどこかで綻びが出てしまうのよ。

そしてその綻びは、必ず悠理ちゃんの命を奪うことになるわ。

それだけは何としてでも回避しなければいけないの。

それが私の役目だと思うからよ。

こうすることが悠理ちゃんを育てると決めた私の役目だから。

だから私は二人を甘やかすようなことは絶対にしないわ。

「あなたの優しさが、悠理ちゃんを死に導くのよ」

「…あ…う…っ…」

私の言葉を聞いて項垂れてしまう優奈ちゃんと、泣き続ける悠理ちゃん。

二人の関係を壊してしまうのは気が引けるけど。

私達は別々の道を選択しなくちゃいけないの。

悠理ちゃんに気を遣って下層に留まり続けるか?

それとも上を目指して歩き続けるか?

どちらかを選ばなくちゃいけないの。

「優奈ちゃん。もしもあなたが悠理ちゃんを想うなら、今すぐにここから立ち去りなさい。そして上を目指しなさい」

「い、いや、です…。」

微かな反抗を試みる優奈ちゃんだけど、私は言葉を止めない。

「あなたがいる限り。あなたを追い掛けて。悠理ちゃんは戦い続けるはずよ。そしていつか必ず…」

必ず悠理ちゃんは倒れる。

だけど、それ以上は言葉にしたくなかったわ。

何度も口に出したい言葉じゃないから。

だから優奈ちゃんに理解して欲しかったのよ。

「行きなさいっ!それが悠理ちゃんの為なのよ!!」

強く言い放つ言葉によって、
優奈ちゃんは泣きじゃくりながら総魔にしがみついてた。

「私、私はっ!悠理ちゃんと、一緒に!」

「どうするかは自分で決めろ。ただし、翔子の意見は正しいと俺も思う。俺達と一緒では…いや、お前と一緒ではいずれ必ず『その日』がくるだろう」

「…うぅっ、うっ…。でも、っ。それでも…」

「悠理を想うのなら、同情ではなく、友情を示せ」

「私、は、っ…」

泣きながら悠理ちゃんを見つめる優奈ちゃんはこれだけ説得してもまだ納得できないみたいだったわね。

だけど…。

「悠理、ちゃん…」

「優奈…。ありがとう。でも、もういいよ…」

悠理ちゃんは理解してくれたみたい。

「…えっ?」

戸惑う優奈ちゃんに、悠理ちゃんは精一杯の笑顔を見せてから微笑んでいたわ。

「ごめんね、優奈。私のせいで辛い思いをさせて…ごめんね。でも、もういいよ。優奈は、先に進んで」

「悠理、ちゃん…?」

「私なら大丈夫。心配はいらないから、だから優奈は…」

「い、や…っ。嫌だよ、悠理ちゃんっ!」

「優奈…」

泣き叫ぶ優奈ちゃんに、悠理ちゃんは最後まで笑顔を崩さずに話を続けてく。

「大丈夫。私なら大丈夫だから。だから優奈も泣かないで。あとで必ず追い掛けるから、ね。だから、その日まで…。優奈には笑って待っていてほしいな。」

精一杯の笑顔と小さな願い。

悠理ちゃんは絶望の中でも最後まで優奈ちゃんの親友で在り続けることを願ったのよ。

その気持ちを無駄にはできないわ。

現実と向き合う覚悟を決めた悠理ちゃんの想いを無駄にはできないのよ。

「強くなりなさい。今よりも強く、自分に自信を持てるようになりなさい。そうすれば必ず悠理ちゃんが望む未来は掴めるはずよ」

たった一つの試練を残して、悠理ちゃんに背中を向ける。

そして、優奈ちゃんの手を引いて歩きだす。

「行くわよ」

すぐには歩き出そうとしなかった優奈ちゃんだけど、
それでも私の手を振りほどこうとはしなかったわ。

「………。」

歩き出すことも、抵抗する様子もない優奈ちゃん。

そんな優奈ちゃんに向けて、悠理ちゃんが精一杯の笑顔で優しく語りかけてた。

「大丈夫だよ、優奈。また会えるよ…」

「…っ、ぅ…。」

悠理ちゃんの言葉を聞いた優奈ちゃんは、

「待ってるから。私、絶対に、待ってるからっ!」

悲しみを押し殺しながら精一杯の気持ちを込めて応えてた。

振り返ることを我慢して、力強く歩き出したのよ。

それぞれの道を選択するために。

二人は再会を誓い合って、別れを告げたの。

歩き続ける私と優奈ちゃん。

もちろん総魔も側にいるわ。

だけど悠理ちゃんはここに残ることになる。

私達と一緒にいることができない悠理ちゃんは一人で会場に残されることになったのよ。

だけど、これが最良の選択だと思うわ。

絶望を知ることで、現実を知ることで、人は強くなる意味を知るの。

何かを成し遂げたいと思う気持ちが力になるのよ。

だから私は…

悠理ちゃんの成長を願いながら、会場を離れることにしたのよ。
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