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THE WORLD 作者:SEASONS

4月2日

30/4820

報告

《サイド:美袋翔子》

ふう。

時計の針が午後6時を過ぎた頃。

天城総魔の監視を終えた私は校舎の最上階にある理事長室に移動したわ。

だけど、仮にも国の代表と同室っていうのは緊張するわね~。

現在、理事長室にいるにはたった二人だけ。

学園の理事長であり、
共和国の代表でもある米倉美由紀理事長と、
学園の一生徒でしかない私の二人だけなのよ。

今は小さなテーブルを挟んで互いに向かい合うソファーに座ってるところね。

「とりあえず、今日の報告ですけど…」

気持ちを落ち着けるために小さなため息を交えながら、
今日一日の出来事を報告し始めてみる。

午前中の試合内容や午後からの出来事。

10回に及ぶ試合の詳細を覚えている限り全て説明していく。

その話の流れの中で『ホワイト・アウト』に関する報告も順次していくんだけど、
全てを説明しようとすると思っていた以上に時間がかかりそうだったわ。

まさか、ここまで成績を伸ばしてくるなんて予想してなかったしね~。

本来なら一日に1度か2度の試合を行う生徒しかいないのよ?

全力で試合をすれば魔力が底をつくのでそれが当然の判断なんだけど、
総魔は魔力の底を感じさせずに全ての試合を勝ち続けていたわ。

だからこそ通常よりも5倍ほど説明の内容が増えちゃってるのよね。

自分で確認しておいてなんだけど、
説明してる内容が信じられないくらいだったりするわ。

例外中の例外としか言い様のない出来事があまりにも続いていたからよ。

直接見ていた自分はともかく、
話を聞いているだけの理事長には信じてもらえないんじゃないかなって思ってしまうわね。

「…とまあ、今日のところはそんな感じでした」

総魔の試合を調査していた私はさっきの対すみれ戦も当然観戦していたんだけれど、
試合終了後に会場を出た総魔は次の会場じゃなくて図書室に移動して調べ物を始めたから今日はもう試合はないと判断して監視を中断したの。

で、その後。

理事長への報告のためにここまできたんだけど、
今日一日の出来事を報告しただけで理事長の表情は軽く引きつっているように見えたわ。

「う~ん。マジック・ドレイン・フィールド、ね~」

私の報告を受けた理事長は確かな戸惑いを感じながらも、
どこか楽しそうに微笑んでいるようにも見える。

「魔力の吸収結界なんて、とんでもない魔術を考えたものね」

「ええ、そうですね。」

「魔術師なら誰もが理想とする究極の魔術だけど、今まで誰一人として実現できなかった魔術よ。それを使えるなんて、羨ましいというよりも正直に言って簡単には信じられないわね」

「私も実際に確認したわけではないので絶対とは言い切れませんが、魔力の吸収という現象は実際にこの目で確認しました。それでもまだ信じられないくらいですけど」

私の報告を聞いてから理事長は小さく頷く。

「事実確認はこれから行うとして、もしも彼の魔術が本物だとすると色々と面倒なことになるでしょうね。単純に魔術の格付けをするなら、間違いなく禁呪に位置するでしょうし、結界に触れただけで全ての魔力を吸い取られるとなると対魔術師戦では無敵の魔術になるわ。魔術を奪い取れるだけでも異常なのに、強制的に魔力を吸収するなんて、歴史上初めての能力よ」

「そうですね。一体、彼は何者なのでしょうか?」

当然の疑問を感じるけれど、
その問いに答えられるのは本人だけなのよね。

何も知らない二人がここで話し合っていてもその答えが出ることはないと思うわ。

だからこそ理事長は笑顔を絶やす事なく当然のように宣言してくれる。

「それを調べるのがあなた達の仕事でしょう?」

「………。他はともかく、私は探偵ではありませんし、そういった職業についているつもりもありません」

「そうだったかしら?」

あからさまに何かを企んでいるかのような笑顔を浮かべながら、
理事長は小さく首をかしげてる。

「あなたには学園の治安を維持するための役職と学園内の暗部を統括する諜報部門の全権を委ねていたと思うけれど」

どうやら本気で私を探偵役に考えてるみたい。

普段は笑顔を絶やさない私だけど、
さすがにこの理事長の前でだけはため息が尽きる事がないわ。

「はぁ。そこに関しては色々と言いたいことはありますし、個人的に面倒なことはしたくないと何度も言ってるはずなんですが?」

「じゃあ、親友に丸投げしてみる?現状で翔子の代わりができるのは沙織くらいじゃないかしら?」

「う…。それは、ちょっと…」

「でしょうね~。あの子の自由を約束する代わりに翔子が頑張るという条件だったはずよね?だからちゃんと与えられた役目を果たしてもらわないと困るわ」

「あぅ。ぅぅ…。」

理事長の指摘に関して反論出来ないのよね…。

ここで仕事を放棄するのは簡単なんだけど、
それをしてしまうと大事な親友に迷惑がかかってしまうからよ。

というか。

それどころかもっと切実な問題まで発生してしまいかねないわ。

その程度のことは十分に理解してるから個人的な事情で理事長の指示に逆らうことはできないの。

「弱みを握られてる以上、仕方がないですね。」

「ええ、わかってくれて嬉しいわ」

抵抗を諦めて大人しく従う私を見て嬉しそうに微笑む理事長。

そんな悪魔の笑顔を浮かべる理事長を冷たい目で見つめてみるものの。

当の本人は一切気にしていないみたい。

「ちゃんと働いてくれればみんな幸せになれるのよ」

あっさりと無責任なことを言ってくれる。

「さあ、どうでしょうね?」

「あら、沙織を見捨てるの?」

「まさか、それはないですよ。ただ、弱みが強みに変わることもあるんですよ?」

「沙織にその選択肢はないんじゃないかしら?」

「私が一緒に行動するとしても、ですか?」

「う…。」

私の反撃によって理事長の表情が一気に青ざめる。

「理事長が沙織を拘束することはできません。すでに向こう側からは推薦状も来ていますから」

「そ、それは、ちょっと…」

切り札を失いかけていることに戸惑いを見せる理事長にここぞとばかりに微笑み返す。

「私を鎖で繋げるなんて思わないでくださいね?」

「え、ええ、そ、そうね…。」

手駒として考えていた私に何も言えなくなってしまう理事長を見て少しは気持ちが晴れた私は駆け引きを放棄して大人しく身を引くことにしたわ。

「まあ、『理事長』に対して逆らうのは簡単ですけど、『共和国代表』に逆らったところで良い事があるとは思えませんから今のところは大人しく言うことを聞いておきます。」

「え、ええ。そうしてくれると助かるわ」

「それで、明日もまだ観察を続けるつりですか?」

「それはもちろん、当然でしょ」

はっきりと逆らうつもりはないと宣言したことが良かったのかな?

理事長は一片の迷いも見せずに満面の笑顔でうなずいてる。

「たった一日で1万以上もの生徒を乗り越えた実力と独特の技術と発想力。それを踏まえた上で考えれば、おそらく数日中にはルーンに辿り着くはずよ。まずは彼のルーンを確認する事。それが現段階での最優先事項、ってところかしらね?」

「天城総魔の力がただのアンチ・マジックではなくて、マジック・ドレインである事を考えれば、明日中にはフォース・ステージまで上り詰めるかもしれません」

「その可能性も高いわね。その場合は数日どころか明日か明後日。そのどちらかで彼の能力の全貌を判断出来そうね」

理事長は私の報告を聞いて機嫌良く微笑みを浮かべてる。

「というわけで、明日もよろしくね♪」

「はぁ…。わかりました」

ため息混じりだけれど一応首を縦に振っておく。

その結果として私は明日も総魔の観察を続行する事になったのよ。
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