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THE WORLD 作者:SEASONS

4月2日

27/4820

あと1分

次にやってきたのは第7検定試験会場だ。

ここには10000から11999番までの生徒が所属しているらしい。

新たな会場にたどり着いてからすぐに受付で次の対戦相手に関して問い掛けることにした。

「今この会場で一番強いのは誰だ?」

質問によって選ばれたのは生徒番号10011番の江利川聡志(えりかわさとし)という名前の少年だった。

「先程試合をされて順位を上げられています。まだ、会場内にいるようですので連絡を…」

対戦相手と連絡を取るために手続きをしようとした丁度その時。

一人の少年が隣の受付に現れた。

「試合に勝ったので手続きをお願いします。それと、今日はもう帰りますので名簿からの除名もしておいてください」

試合の結果を報告しながら受付で手続きをして会場を出ようとしているようだ。

その少年に視線を向けた受付の女性は少し困ったような表情をうかべつつ、
ため息混じりに試合を通告している。

「残念ですが、すでに試合の申し込みがありましたので、試合場Bー3へお願いします」

「えっ?まじ…!?」

「まじです」

苦笑気味に笑う受付の女性は哀れみを込めた瞳で見つめながら少年に現実を突きつける。

「あと1分、早かったら回避できましたね」

「うわぁ、最悪だ。」

僅かな時間差によって試合が組まれてしまった少年は隠すこともなく大きな溜息を吐いていた。

「はぁ…。で、相手は?」

「こちらにいるかたです」

帰るつもりだった少年が隣にいる俺に視線を向けて再び小さくため息を吐いた。

「まさかここで捕まるとは…。」

どうやら隣で溜息を吐いている少年が江利川聡志らしい。

よほど疲れているのだろう。

江利川は目を閉じて軽く頭を振ってからこちらの番号を確認してきた。

「12064番?思いっきり離れてるんだけど、まあ、格下が相手なだけまだましかな?」

俺の番号を知って少しだけ元気を取り戻したらしいがその期待は間違っている。

まだましどころか冗談ではなく最悪の状況だろうからな。

あと1分早く会場を出ていれば成績を上げたせっかくの努力も無駄にはならなかったはずだ。

今日この時間に会場にいたことは相当な不運でしかない。

あるいは先ほどの試合で負けていた方がまだましだったかもしれない。

疲れた様子の江利川を見て俺も小さくため息を吐く。

「疲れているなら無理をしなくてもいい。戦う気力のない者を倒しても意味がないからな。他にも相手は沢山いる。戦う気がないなら試合は取り消すからさっさと帰ればいい」

数をこなすだけの試合に興味はないからな。

全力での試合を望むからこそ江利川を開放しようとしたのだが、
その判断が逆に江利川の気分を害したらしい。

「そう言われると帰りにくいよね」

格下から見逃してもらうということが気に入らなかったようだな。

江利川は甘い考えを捨てて堂々と試合を受け入れた。

「どんな状況だろうと逃げたと思われるのは気に入らないからね。例えここで負けたとしても、今の番号まで戻ってくる自信はある。だからつまらない気を使ってもらう必要はないよ」

胸を張って答えた江利川は先程まで見せていた疲労を無理に押し隠して正面から俺と向き合った。

「僕自身の誇りにかけて、逃げるつもりは一切ない」

互いの実力を知らないとはいえ自身の誇りをかけて勝負を避けるつもりはないようだ。

懸命に強がってみせる江利川だが、
その強がりを笑おうとは思わない。

やる気になった相手をけなす趣味はないからな。

「その心意気を尊重しよう」

「ありがとう。だけどそうそう簡単には負けてあげないよ」

強がる江利川が試合を受けた事により、
二人揃って試合場に向かうことになった。




そしてたどり着く試合場Bー3。

試合場について早々に江利川との試合が始まる。

「それでは、試合始め!!」

審判員の掛け声と共に試合が始まり、
ほぼ同時に魔術の詠唱を開始した。

まずは防御だ。

結界の実験はまだ続ける必要がある。

「ホワイト・アウト」

ホンのわずかに俺の詠唱が先に終わり、
霧の結界が周囲に発生した。

その直後に。

「サンダー・ショット!!」

直径30センチを越える雷を帯びた球体の弾が結界目掛けて放たれた。

バチバチッと弾けるような音を発しながら勢いよく放たれる雷撃の弾。

触れれば痛いと思うだけでは済まないだろう強烈な雷撃を放つ球体なのだが、
霧の結界に触れた瞬間に雷撃はあっさりと消滅した。

「ちっ!防御結界か」

魔術の消滅に関して一瞬だけ驚いた様子の江利川だったが、
すぐに気持ちを切り替えて追撃に出る。

「雷を通さない霧なのか、それとも他に理由があるのか…。とにかく攻撃あるのみ!トルネード・クラッシュ!!」

新たに生み出された小さな竜巻が霧の結界に襲いかかる。

「これで霧を吹き飛ばすっ!!」

小さな竜巻は結界に激突すると同時に激しい勢いで炸裂して強烈な突風を生み出した。

だが…。

「突風が通じない…っ!?」

江利川の魔術は霧の結界に対して何の影響も与える事ができなかった。

「雷撃も暴風も通じない霧があるのか?」

目の前に存在する結界に疑問を積み重ねる江利川だが、
霧の結界は消滅する事もかき消される事もなくそのままの形で存在し続けている。

「ただの霧じゃないのか。つまりそれ事態が意味を持つ、一種のアンチ・マジック・フィールドと考えるべきかな。やっかいな能力だ」

結界を破るために、
江利川は更なる詠唱を開始する。

「これならどうだ!アンチ・スペル!!」

補助系の中でも上位に位置し、
ほぼ全ての魔術の影響を打ち消す効果を持つ魔術『アンチ・スペル』

江利川が発動する解呪系魔術が霧の結界と相殺しあう。

「これで消滅しなかったら打つ手なしだ」

解呪と防御。

二つの魔術はキラキラと鮮やかな光を放ちながら互いに互いを侵食し合った。

『アンチ・スペル』と『ホワイト・アウト』

二つの魔術が侵食しあう中で俺は静かに笑みを浮かべていた。

その理由はただ一つ。

密かに恐れていた解呪系魔術の影響を受けてもなお霧の結界が消滅しなかったからだ。

どうやら解呪さえ通じないようだ。

これは驚異的な結果と言える。

魔力の遮断率が低下しているにも関わらず、
完全遮断魔術である『シールド』に匹敵する防御力を誇る事を意味するからな。

「くっ!」

江利川は試合前よりもさらに疲れた表情を見せている。

「これでもダメなのか…」

「攻撃は終わりか?なら次は俺の番だな」

今度はこちらからの攻撃を宣言してみると、
江利川は悔しそうな表情で唇を噛み締めた。

「ダメだ。完全に打つ手なし、か」

自分の攻撃は何一つ通じない事実を痛感した江利川は、
おとなしく敗北を認めて素直に試合を棄権した。

「僕の負けだ。」

その一言に悔しさをにじませる江利川だが、
棄権を選択したことで審判員が試合終了を宣言して今回の試合は終了した。
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