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THE WORLD 作者:SEASONS

4月2日

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ホワイト・アウト

まだ来ていないようだな。

美弥の時とは違って今回の対戦相手はまだ到着していなかった。

少し待つか。

何十分も待たされるわけではないからな。

大人しく待とうとしたのだが。

2分と経たずに対戦相手である来宮がやや駆け足ぎみに近付いてきた。

「あー、やっぱり君なのか。まさか君と戦うことになるとは思ってなかったよ。今日は会場内の試合を見学だけして帰るつもりだったから君の試合も見てたんだけど、これでもう4戦目じゃなかったかい?」

「ああ、そうだな。」

午前中も含めれば7戦目になるが、
そんな事はどうでもいいだろう。

「今回は前回の試合で思い付いた魔術の実験ができれば十分だからな」

「勝つ事よりも実験が大事ってことかな?」

「そうなるな」

「ふ~ん。なるほどね」

それ以上は追求せずに、
来宮は俺から離れて試合場に立った。

そのあとを追って俺も開始線に立つ。

そして深く深呼吸をすると審判員が試合場の中央に歩みを進めてきた。

「それでは、よろしいですか?」

「はい。お願いします」

「ああ、いつでもいい」

審判員の問いかけに即座に答えてから対戦相手の来宮に視線を戻すと、
来宮も俺を見つめながら静かに気持ちを落ち着かせている。

どうやら率先して攻撃する性格ではなさそうだな。

そんな感想を抱いた直後に。

「試合始め!!」

審判の掛け声が試合場に響き渡ったのだが。

予測していた通り、
来宮から攻撃を仕掛けてくる気配はなかった。

「攻撃しないのか?」

これまでとは違うと思いながらも何気なく問いかけてみると、
来宮は冷静な態度で答えてくる。

「何かの実験がしたいんだよね?とりあえずはその様子見かな」

なるほど。

それなら遠慮なく始めさせてもらおうか。

落ち着いて様子を見る来宮の行動を気にしつつ。

実験のための魔術の詠唱を開始する。

「光と闇の狭間に有りて、原初であり基盤である、根元なる力…」

来宮に動き出す様子は全くない。

本気で様子を見る事にしているのだろう。

ただじっとこちらの魔術を観察しているようだ。

「我と汝の力にて、全ての魔力を無に還さん」

基礎的な理論を元にしているが、
独力で考えた新たな魔術の構成はおそらく来宮には理解できないだろう。

詠唱を聞いただけでは魔術の内容まで把握できないはずだからな。

これからどのような魔術が展開されるのかは審判員でさえも理解できていないと思う。

この状況なら監視員にも魔術の構成を勘付かれる可能性は低いと思う。

離れた場所から見ているだけでは魔術の解析など出来ないはずだからな。

そんなことも考えながら生み出す新たな魔術は理想としていた形通りに具現化させる事に成功する。

「ホワイト・アウト!!」

フワッ…と真っ白な霧が、周囲を包み込むように発生した。

これが実験の第一段階だ。

ウォータ・ミストとは違い。

それほど範囲は広くなく。

霧の密度も薄い。

目測で3メートル程度だろうか?

前後左右上下に至るまで全域に白い霧が広がっている。

「よく分からないけれど、それが君の切り札かい?」

「ああ、そうだ。」

一見、ただの霧でしかないという見た目の魔術のせいか、
来宮は僅かに戸惑いの表情を見せているようだな。

だが、これでいい。

「理論上は最高位の結界だ」

「最高位、ね」

来宮は全く信じていないようだが、
正直に言って自分自身でもどの程度まで効果があるのか分かっていない。

通常の理論では不可能とされていた魔術を独自の理論で可能にしようとしているからだ。

だがそれでも。

今は自らの理論を信じて新たな結界を生み出すしかない。

あとは論より証拠。

実際に魔術を受けて確認するだけだ。

「好きなだけ攻撃すればいい。魔術を防げれば実験は成功。防げなければ実験は失敗。ただそれだけの事だ」

「なるほどね。どんな効果を持った結界かは知らないけれど、そうと聞かされたら油断はしないよ!ファイアー・ボール!!」

来宮の生み出した炎の玉が結界目掛けて放たれた。

だが…。

結界に衝突した炎の玉は俺に直撃する事なく霧に飲み込まれて消滅する。

「な、なにが起きたんだっ!?」

来宮は驚いて動きを止めてしまった。

攻撃のために放った魔術が消え去るのと同時に霧の結界の一部が微かな青い光できらめいたからだ。

青い光を見つめながら俺は密かに微笑む。

どうやら実験の第2段階も成功のようだ。

微笑みを浮かべたままで驚き続ける来宮に向かって右手を突き出す。

「『貰った力』をそのまま返そう。ファイアー・ボール」

「な…んだとっ!?」

打ち返した炎の玉は霧の内部を突き進んで来宮を目指す。

「ちっ!」

状況が把握できずに戸惑いながらも来宮は全力で炎の玉を回避してすかさず反撃に出た。

「サンダー・ネット!!」

クモの巣のような形状をした雷撃を帯びた大きな網が、
俺を包み込むかのように押し迫る。

範囲攻撃か。

だが無駄だ。

一歩も動く事なく、冷静に雷の網を見据える。

そして、バリッ…と小さな音がした。

ただそれだけで魔術は消える。

悲鳴にも似た小さな音を発した直後に雷の網はあっさりと消滅した。

「バカなっ!?一体何が…!?」

驚愕する来宮に説明する義理はない。

魔術を無効化したことで再び反撃を開始する。

さあ、遊びはここまでだ。

「ライジング・スパーク!!」

『吸収した魔力』を変換して別の魔術を放つ。

来宮の魔術と似て非なる雷撃。

以前の試合で覚えた魔術を放ってみると。

「ぐあっっ!?」

混乱から抜け出せないままの来宮は拡散する雷撃に対処する間もなく魔術の直撃を受けて力尽きた。

「勝者、天城総魔!」

新魔術を完成させた満足感を感じながら、
審判員の宣言を受けた俺は試合場を後にした。
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