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THE WORLD 作者:SEASONS

4月6日

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欲張りすぎは

…そして…

「何がいいんだ?」

不意に尋ねられたことで。

「えっ?」

思考能力が一瞬だけ停止してしまったわ。

総魔の手のことばかり考えていたから周りが見えてなかったんだけど。

気が付けばパンを販売している売店の前に立ってたみたい。

今まで全然気付かなかったのよ。

…っていうか。

足を止めてたことにさえ気付いていなかったわ。

「えぇ~っと…」

ふと横を見て見れば、不思議そうに私を見つめる総魔の視線。

見つめ合うだけで、余計に恥ずかしさが込み上げてきちゃう。

か、顔が赤くなってないかなっ!?

そんなことを考えただけで、緊張のあまり総魔と向き合えなくなってしまうわ。

だから慌ててパンに視線を向けて、総魔から視線を逸らしたのよ。

「…えっと、どれにしようかな~?」

何とか緊張を悟られないようにと冷静さを装うけれど、
自分でも笑っちゃうくらい声が震えてたかも。

落ち着け、私っ!!

なんて、心の中で叫びつつ。

幾つかのパンを指差してみる。

「これと、これ、あと、これも下さい」

選んだのは3つ。

どれもいつも食べているのとあまり変わらないものばかりよ。

だけど、今日は少しだけいつもと違うと思うわ。

総魔が買ってくれるんだから。

ただそれだけで、絶対いつもより美味しく食べれる自信があるの。

「それだけでいいのか?」

「うん♪これだけあれば十分、お腹一杯大満足!」

自分なりに最高の笑顔を浮かべてみる。

この笑顔で総魔が堕ちてくれれば嬉しいんだけど、
なかなか上手くいかないのよね…。

極々冷静にポケットからお金を取り出した総魔は、
おばちゃんにお金を支払ってから受けとったパンを私に差し出してくれたわ。

…うん。

本当にいつも通りね。

全然、照れてないし。

恋におちるどころか気にしてもらえてる気配すらなかったわ。

こうなると一人で慌てふためいてる私がバカみたいよね?

なんて思ったりもするけど…。

「他にもいるものはあるか?」

やっぱり総魔は気づいてくれないみたい。

「う~ん。じゃあ、オレンジジュースがいいな」

お願いしてみると、すぐに注文してくれたわ。

「持てるか?」

確認しながらオレンジジュースを差し出してくれたのよ。

総魔は総魔でこれからいつもの格安定食を買うわけだから、
私のジュースをいつまでも持ってるわけにはいかないわよね。

でも…。

私の右手は総魔と手を繋いでる状況よ。

で、左手はパンを包んだ紙袋を持ってるの。

この状況でジュースを持つためには…。

はぁぁ~。

頼まなきゃ良かった…。

自分自身の詰めの甘さに後悔しつつ。

総魔から手を離してオレンジジュースを受けとることにしたわ。

これで私の両手は完全に塞がってしまったのよ。

ちょっぴり…というか。

かなり残念な結果になっちゃった気がするわね。

ついさっきまで総魔と繋いでいた右手に、そこはかとない寂しさを感じてしまうのよ。

うぅぅぅ…。

欲張りすぎはダメってことよね。

そんなことを考えつつ。

移動を始めた総魔の後を追って歩きだす。

まあ、どこに向かうかなんて聞くまでもないんだけど。

「また今日もいつもの?」

「ああ。そうだな」

私の問い掛けに短く答えた総魔は通い慣れた足取りで歩みを進めて、
例の売店へと近づいていったわ。

う~ん…。

これってどうなのかな?

私としては今まで一度も関わる事がなかった売店なのよ?

それなのになぜか最近は度々訪れるようになったことで、
何となく見慣れてしまった気がするわ。

まあ、アレ以外にも色々と取り揃えてあるから、それなりに集客はあるはずなんだけど…。

だけど総魔は他のメニューに目を向けることさえせずに、
いつもと同じ注文を繰り返してしまうのよ。

毎度おなじみの『格安定食』

値段的な面で言うと、私のパン代の方が高いかも…?

ほとんど待たせることもなく即座に用意された今回の定食は今朝とは全然違う内容だけど。

どうみても余り物っていう雰囲気を消せていないわね。

残飯とまでは言わないけど。

本当に適当に詰め合わせたっていう感じが出ちゃってるのよ。

まあ、見た目と味付けは全然違うから、
これはこれで飽きることはないのかも知れないけどね。

でもまあ、何気なくじっと見つめてみる。

相変わらず全く美味しそうには見えないわ。

だからって、まずそうって言う程でもないけどね。

そんな定食を手にして歩きだす総魔はどこか空いている席を探してるようね。

個人的にはこのまま総魔に任せてもいいんだけど…。

沙織と龍馬が合流する可能性を考えれば、
あまり混雑したところは避けた方がいいかもしれないとは思うかな。

だけど…ね。

そんなふうに思ってみたところで、
どこに向かっても偶然出くわす可能性は限りなく低そうな気がするわ。

3000人が集まる食堂なのよ?

普通に探して見つかるわけがないわよね。

だから、諦めようかな?って考えた瞬間に。

視界に沙織の姿が映った気がしたの。

「あっ!」

声をだした私を総魔が不思議そうに見つめてる。

あうう~。

違う意味でちょっぴり恥ずかしく思ったけれど。

ここで沙織を見逃すともう合流できないような気がしたから、
急いで沙織に呼び掛けることにしたわ。

「沙織~っ!!」

わりと全力で叫んでみたのよ。

でも、ね。

喧騒がひどくて無駄に騒がしい食堂内だからどんな声でも届きにくいみたい。

もちろんそれは分かってるけど。

頑張ってもう一度だけ沙織に呼び掛けてみることにしたわ。

「沙織~!!」

出来るだけ大きな声で呼び掛けたつもりよ。

だけどやっぱり私の声は届かないみたいね。

「無理か~」

人込みに消えていきそうな沙織は今から追い掛けても間に合わないと思う。

追いかけたくても人が多すぎて走れないのよ。

人ごみを避けながら進もうとしたらその間に見失うのは確実でしょうね。

そう思って悩んでいると…

「この状況なら何とかなるだろう」

総魔が小さく呟いたわ。

そして右手を掲げて魔術を詠唱し始めてる。

「ちょ、ちょっと、総魔!?ここで魔術はまずいわよ!」

検定試験会場や特定の演習場以外での魔術の使用は基本的に禁止されてるからよ。

まあ、その理由は魔術の乱用は危険だからなんだけど。

回復魔術以外の魔術の使用は校則で禁止されているわ。

特に風紀委員の私としては見逃すわけにはいかない行為なんだけど。

慌てる私を気にせずに、迷うことなく魔術を発動させてしまったのよ。

「サーチ・ライト!」

魔術が発動した瞬間に。

一筋の細くて弱い光がきらめいたのが見えたわ。

そして。

総魔の手から放たれた光はまっすぐ沙織に向かって、総魔と沙織を一直線に結んだのよ。

「………?」

突然の光に戸惑う沙織だけど、
周囲の生徒達も驚きの表情を浮かべているわね。

それでも慌てることなく光の指す方向へと視線を向ける沙織の落ち着きぶりは尊敬するかも。

私だったら状況が理解できずに慌てる自信があるしね。

だけど。

沙織は冷静に状況を判断して、すぐに私達に気付いたみたい。

私達に向かって歩みを進めた沙織の姿を確認した総魔がすぐに魔術を解除したわ。
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