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THE WORLD 作者:SEASONS

4月6日

228/4820

ラグナロク

《サイド:美袋翔子》

ふう~。

やぁっと着いたわね~。

さすがに校舎を屋上まで上ってくるのは遠かったけど、
総魔と二人で調べ物をするために目的の会議室まで来たわ。

「ここが特風の会議室よ」

ざっくりと説明しながら扉に手をかけてみる。

基本的に鍵は掛かってないはずなんだけどね~。

どうなのかな?

ここまで来ておいて中に入れません…だったりすると笑えないわ。

う~ん。

意外とありえそうな感じがちょっと嫌かも。

そうじゃないことを心の底から願ってみる。

「開けるわね~」

一声かけてから、扉を開けてみると…。

うん。

鍵はかかってなかったわ。

あっさりと開いてくれたのよ。

『ガチャッ…キィィ…ッ』って、扉のきしむ音が響いてる。

だけどまあそれだけね。

他には何も聞こえなかったわ。

…と言うことは?

扉の隙間から中を覗いてみたけど、今は誰もいないみたい。

「一人くらいはいるかな~って思ってたんだけどね~」

見事に誰もいないみたいね。

龍馬とはさっき研究所ですれ違ったからここにいないのは当然としても、
他に誰もいないのは珍しいと思うわ。

いつもは誰か一人くらいいるのよ。

大抵の場合は龍馬だけどね。

だけど龍馬が留守の時には沙織がいることが多いかな。

まあ、どっちもいない時には別の誰かが留守番をしてたりするんだけどね。

それなのに、今は誰もいないみたい。

完全な無人だったわ。

これってどうなの?

これじゃあ、何かあった時に対処できないわよね?

風紀委員の管理職としてこの状況はどうなの?

っていうか、無人って寂しくない?

そんなことを思いながらも確認のために室内を見渡してみる。

だけどやっぱり誰もいないわ。

人の気配が全く感じられないのよ。

さすがにね~。

この状況で誰かいる?なんて聞くほど馬鹿じゃないわ。

それにね。

いないならいないで、それはそれでいいと思うのよ。

誰にも邪魔されない方が、私としては都合がいいしね。

ん?

何の都合かって?

それはもちろん、総魔と二人きりの時間を過ごすってことよ。

だから誰もいない方が私としては万々歳なの。

ということで、室内に入ってみる。

特にいつもと変化はないけれど。

誰もいないせいで室内は静寂って感じね。

足音が結構響いちゃってるわ。

静かすぎるのも変な感じがするわよね?

「ん~。今は誰もいないみたいね。だから総魔も遠慮せずに入って良いわよ~」

声をかけながら振り返ってみる。

…うん。

総魔はすでに室内に歩みを進めてたわ。

ホントに遠慮しなかったわね。

まあ、下手に気を使われると私としてもどうしていいか悩むところなんだけど…。

でも、ね?

仮にも女の子と二人っきりなわけだし、
もうちょっとこう…何かあってもいいんじゃない?

照れてみるとか。

照れてみるとか?

照れてみるとか!

そんな感じ。

…なんて思ったりするけど…。

総魔に言っても分かってもらえないでしょうね~。

だってさぁ。

「静かな所だな」

私よりも室内に目を向けてるくらいだもの。

全然、意識してもらえてなかったわ。

「ん~まあ、今は誰もいないから仕方ないんじゃない?いつもいつもこんな感じっていうわけじゃないわよ」

「そうか」

「ええ、そうよ」

とりあえず曖昧な返事を返してから、本棚のある場所に総魔を案内してみる。

「ここよ」

目的の本棚を指差してみると総魔が歩み寄ってきてくれたわ。

「思っていたよりも色々とあるんだな」

「ん~。でも、ここにあるだけって言っちゃうとそれまでだし。そんなに迷うほどじゃないと思うわよ」

ルーン関連だけで見ると20冊もないしね。

「見るだけならすぐに終わっちゃうんじゃない?」

「…ああ、そうだな」

ん?

何か考えるような仕種ね。

まあ、いつも通りだから何を考えてるのかは分からないんだけどね。

ひとまず総魔は本棚に並んでる本の題名を順番に眺めてから
ゆっくりとした手つきで一冊の本を手にとっていたわ。

本の題名は『ルーン一覧』よ。

私も一回だけだけど手にしたことのある本だったりするわ。

本…って言うか、まあ、図鑑なんだけどね。

これまでに確認されてる歴代のルーンが全て載せられているのよ。

ただ、年間単位の一覧だから今年発見されたルーンはまだ未掲載のはずよ。

だから総魔のソウルイーターはまだないのよ。

去年の12月までに発見されたルーンがまとめられている図鑑だから、
私のパルティアや龍馬のエンペラーソードなんかはちゃんと掲載されてるんだけどね。

他にも色々とあるけど去年までの全てのルーンが掲載されてるのよ。

まあ、あくまでも確認済み限定だけどね。

まだ未確認とか、調査しきれていないルーンとかはもちろん掲載されてないわ。

それでもルーンの一覧としては最も詳しく書かれている図鑑なのは間違いないはずよ。

他にもまだまだルーンに関連する書籍や図鑑はあるんだけどね。

だけど。

図書室にはルーンに関する書物があまりないはずなのよ。

ここにほとんどの書物が保管されているの。

ん?

どうしてって?

理由は簡単。

ルーンは余計な知識がない方が本来の力を発揮できるから、っていう理由よ。

知識ばかりが先行して肝心の特性をないがしろしてしまうと永久的にルーンは作り出せないの。

自分自身で考えないと完成しないのよ。

だから出来るかぎりの情報を押さえたほうが結果的に本人の為になるわ。

そういう理由でルーン関連の書物はほとんどここか研究所のどちらかに保管されているのよ。

まあ、当たり障りのない程度の書物は図書室でも見られるけどね。

だけどここにある書物の方が圧倒的に情報量は多いのよ。

…ってまあ、そういう理由でそれなりに自慢できる本棚なんだけどね。

ひとまず総魔は最初に手に取った図鑑のページをゆっくりとめくり続けているわ。

そして。

『とある項目』で動きを止めたようね。

どうしたのか気になって横から覗き込んでみると、
総魔が見ていたページには最強のルーンって書いてあったわ。

あ~、なるほどね。

うんうん。

やっぱり気になるわよね~。

私も昔、興味を持って読んだことがあるから総魔の気持ちはよくわかるわ。

このページの内容だけは一々見なくても覚えてるくらいよ。

「総魔も気になるの?」

尋ねてみると。

「ああ、興味深い内容だ」

総魔は誤魔化そうとはせずに素直に頷いてくれたわ。

静かに読み進めていく総魔の視線はもう完全に釘付けね。

だけど、その気持ちはすごくわかるのよ。

私だって手にしてみたいって思うしね。

「一度は見てみたいわよね~」

総魔が見てるページには、たった一つのルーンについて記されているわ。

ルーン名は『ラグナロク』

ルーンの歴史上で最強と言われるものなのよ。

実際にどうかは知らないけどね。

だけど大きな山を一撃で吹き飛ばすとか。

突き立てるだけで海を割るとか。

素振りだけで空を切り裂くとか。

結構でたらめな記録が残されているわ。

本当にそういうことが出来るのかどうかは知らないけどね。

でもね~。

もしも実際にできたとしたら本当に最強って言えると思うわ。

もちろん私の実力だととても実現できない能力だけどね。

たぶん総魔だって無理じゃないかな?

色々と非常識な能力を開発し続けてる総魔だけど、
破壊力とか攻撃力という意味ではそこまで特化してないからよ。

まあ、アルテマだけは異常だけど…。

それでも山を吹き飛ばすのは無理だと思うわ。

せいぜい山の形を変えられる程度じゃない?

それでも十分すごいんだけど、総魔でもその程度が限界だと思う。

だから当然、龍馬にもできないし、真哉にだって出来ないわ。

攻撃特化の二人でもそんなでたらめな破壊力は出せないのよ。

ただまあ、嘘か本当かは別として。

実際に記述通りだとすれば、間違いなく最強のルーンだと思うわ。

一応、正式な研究記録が残されてるから嘘じゃないとは思うんだけどね…。

いまいち信じられないと言うか何て言うか…。

実際に見てみないと信用できない性格の私としては話半分程度の気持ちで考えてるかな?

って言っても、本気で疑ってるわけじゃないわよ?

半分でも十分すぎるくらいすごいからよ。

話半分だとしても龍馬以上なのは間違いないでしょうね。

分類上は魔剣に属するみたいだから総魔のソウルイーターよりも格上になるのかな?

最強のルーンって言われてるラグナロクだけど、
その特性は純粋な【破壊】らしいわ。

海を割り、大地を砕き、空を裂く。

森羅万象を破壊する最強の剣。

その魔剣の力の前ではあらゆる力が塵にも等しい…って図鑑には記されているのよ。

「本当にあれば、凄い力だとは思うけどね~」

疑問に感じる私に。

「本の題名を考えれば実在していると考えるべきだろう?」

総魔が尋ねてきたわ。

う~ん。

まあね~。

嘘だとは思わないわ。

でも、ね~。

「そこにも書いてあるけど、確認されたのがおよそ30年前でしょ?現在もそのルーンの使い手が生きてるかどうかは知らないけど、そんな噂は一度も聞いたことがないわ」

一応ね。

これでも私は諜報活動を主体としているわけで、
あらゆる情報を管理している私でさえもつかみ取れない情報なのよ?

まあ、ジェノス内部限定の情報網だけど。

それでも噂話さえ存在しない現状なんだから。

普通に考えればルーンの使い手はすでに死亡している可能性が高いわよね?

「実在はしてたかもしれないけど、現存してるかどうかは疑わしいと思うわ」

「そうか。」

否定的な私の意見を素直に受け止めてくれた総魔だけど、
もう一度視線を図鑑に戻していたわ。

存在しないとしてもやっぱり気にはなるようね。

う~ん。

魔剣ラグナロクね~。

一体どんな人がその力を持ってたのか知らないけど。

多分、総魔と同じような天才的な才能を持っていた人なのは間違いないと思うわ。

だからこそ。

一度くらいこの目で確認したいと思うんだけど…。

とても難しい事ことだとも思うのよね~。

だって、存在そのものが確認できないのよ?

現存するかどうかさえわからないものを探し出してから実際に確認して確かめるなんて並大抵の努力じゃ実現できないわ。

そう思うから、記述の全てを信用しきれてないのよね~。

だけどまあ。

それはたぶん、総魔も同じじゃないかな?

確認できないルーンは参考にならないし。

考えるだけ時間の無駄だと思うしね。

「ラグナロクに関してはその図鑑にしか載ってないから、他の書籍を見ても何もわからないわよ」

「…そうか。」

私の言葉を聞いてから一通りの内容を読み終えた総魔は静かに図鑑を閉じて本棚に戻したわ。

「どう?他にも気になることはあった?」

「いや、特に気にするほどのことはないな」

「そう?まあ、他にも参考になりそうな本は沢山あるから、好きなだけ手にしてみれば?」

「ああ、そうさせてもらおう」

あっさりと私を置き去りにして、他の書籍へと歩みを進めて行っちゃう総魔。

その背中をじっと見つめるだけの私の立場って何?

観光案内のお姉さん的な立ち位置なの?

はうぅぅ~。

ちょっぴり落ち込むわよ?

って、まあ、別に良いんだけどね…。

でも、ね。

何て言うか、こう…。

他にも考えるべきことがあってもいいって言うかなんていうか…ね~?

仮にも密室に二人きりなわけだし。

もうちょっとこう、色々と雰囲気とかあってもいいと思わない?

い、いや、まあ、でも、それはそれで困るというか。

あうぅ~。

考えるのも恥ずかしいんだけどね。

って、うああああ……。

変に意識しちゃう自分が無性に恥ずかしくなってきたわ。

うあ~ダメダメっ!!!

考えれば考えるほど意識しちゃうだけなのよ。

ダメよ、翔子!!

今は勉強に来てるんだから!

余計なことは考えない!!

なんて、自分に言い聞かせてみる。

だからといって二人きりっていう状況は変わらないし。

緊張が消えるわけでもないんだけどね…。

でもまあ、いつまでもバカなことを考えてないで、
少しは総魔の役に立てるように出来ることをしようかな?

なんて思える程度には心が落ち着いてきた気がするわ。

とりあえず。

総魔が何を知りたいのかを聞くべきなのかな?

じゃないと、手伝いようがないしね~。

そう判断して、総魔の背中を追い掛けてみる。

「ねえ、総魔」

呼び掛ける私に、総魔は足を止めて振り返ってくれたわ。

「どうした?」

「どうって言うか、暇だし私も手伝うわ。総魔は何を調べたいの?」

尋ねてみたけれど。

「いや。目的があって探し物をしてるわけではないからな。幾つか参考になりそうなものを集めて、情報を整理出来ればいいと思っているだけだ」

総魔は首を左右に振ってた。

ふ~ん。

なるほどね。

「それじゃあ、何でも良いの?」

「ある程度参考になるものならな」

「おっけ~!じゃあ、私も適当に探して来るわね♪」

「ああ、頼む」

総魔の役に立てるなら本の一冊や十冊や百冊くらい!

あっという間に集めて見せるわ!

そんな気合いを心に秘めて、
本棚の隅から隅まで全力で睨みつけてみる。

って言っても、
20冊程度しかないんだけど…。

それでも役に立ちそうな本を何としてでも探し出すのよっ!!

そして!!

そして総魔に褒めてもらうのっ!

…って。

自分でも目的がズレてると思うけど、
それでも動き出した気持ちは止まらないのよ。

総魔の期待に応えるためだけに。

全力で本を集めることにしたわ。
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