挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
THE WORLD 作者:SEASONS

4月6日

217/4820

手記

「今日ここに来たのは幾つか質問があるからだ。分かる範囲で順番に聞かせてもらいたい」

「ああ、俺に答えられることなら何でも聞いてくれ」

黒柳所長の了解を得たことで、総魔は話を続けていったわ。

「昨日の夜から一通りの魔術の実験を繰り返していたんだが、その実験の中で幾つかの疑問点が浮かび上がってきた。今日はその疑問に関する質問をしたいと思う」

「ほう、面白そうな話だな。その疑問点とは何だ?」

「まず、吸収の能力を封印したことによって使えなくなった魔術があるということだ。その中には吸収とは直接関係のない魔術も含まれていた」

「ふむふむ。なるほど」

総魔の言葉を聞いて黒柳所長は頷いてる。

その様子を眺めながら、
総魔は話を止めずに言葉を続けていったわ。

「昨日の夜。意識を失ったままの北条真哉に魔力を送り込もうとしたが失敗した。『吸収』ではなくて『供給』。能力的には正反対の力なのに魔術が発動しなかった。そして他にも試したことがあるものの。どれもことごとく失敗してしまった」

「封印による影響が予想以上に大きかったということか?」

興味深そうに総魔を見つめる黒柳所長だけど。

「いや、それ自体に関してはすでに仮説を立てている」

総魔は黒柳所長の言葉をあっさりと否定していたわ。

「ほう、聞かせてもらおうか」

「あくまでも仮説だが、使えなくなった魔術はどれも俺が独自に考えて組み上げた理論ばかりだったからな。その一点を考えれば答えは一つ。吸収の能力に直接的な関係がないとしても、吸収の能力を基点に組み上げた魔術は封印と共に失われたと考えるのが妥当だと思う」

「ふむ。その仮説は正しいはずだ。過去の報告書を見てもそういった現象は確認されているからな。現にある程度だが裏付けもとれている。まだまだ完璧とは言えないが間違ってはいないだろう」

うあ~。

難しい話をしてるぅ…。

仮説?

裏付け?

私にはよくわからない会話だけど、
どうも総魔の考えは正しいっていう話みたいね。

「ひとまず先に言っておくが、正直な話を言えばシークレットリングに関しては実験記録がほとんど存在していないのが実情になる」

ん?

記録がないの?

どうして?

「力を封印するというのは一見簡単なことのように思えるが、実はかなり難易度の高い決断だからな」

どういうこと?

ただ指輪をはめるだけよね?

それだけなのに難易度が高いの?

ここまででもすでに色々と疑問を感じてしまうわ。

だからかな?

首を傾げる私を見て、黒柳所長は苦笑いを浮かべてた。

「ははっ。君達のように迷いを見せることなく、一切の躊躇ちゅうちょを見せずに指輪を手にしたのは俺が知る限りで言えば初めてのことだ。あの美由紀でさえも数日間、悩んでいたからな」

え?

あの理事長が?

「そうなんですか?」

予想していなかった言葉を聞いて驚く私に、
黒柳所長は微笑みながら答えてくれたわ。

「きみは考えなかったか?力を失ってしまう恐怖をだ。少なくとも彼は…御堂君は考えたはずだ。解除は簡単だが、それだけで気持ちは割り切れるものではないからな。苦労して築き上げてきた力を失う恐怖は無視できないはずだ。なにより、自分が弱者になることを恐れて普通なら指輪を手に取ろうとはしなくなる。それが普通の人間の判断だ」

………。

普通の判断?

そうなのかな?

自分の行動を思い返してみる。

だけど…。

どうなのかな?

あの時の私は恐怖とかそういう感情は全くって言っていいくらいなかった気がするのよね。

むしろ、たったそれだけのことで強くなれるの?って思ってた気がするわ。

力を封じることで弱くなるとか、力が使えないことが怖いとか、そういうことは考えてなかったと思う。

ただ単純に総魔と同じでいたいって思ってただけだったから。

難しいことは何にも考えてなかったわ。

だから今でも後悔なんてしてないし。

力を失ったからって何かが変わる訳じゃないわよね?

私は私よ。

力があるとかないとかそんなことで自分の考えが変わる訳じゃないし。

そんなに深刻な問題だとは思わないのよね~。

…って。

私は思うんだけど、そんな考えが顔に出ていたのかもしれないわね。

イマイチ理解できずに疑問を浮かべる私を見て。

「はっはっはっは!!」

黒柳所長は声を出して笑ってた。

ん?

私が笑われてるの?

もう一度首を傾げてみると。

「悪い悪い。別に他意はないんだ。」

黒柳所長は笑いを堪えながら謝罪してくれたわ。

「きみ達のような人間はなかなかいないからついつい可笑しくなってな。きみ達にとってはたったそれだけのこでも、他の者達にとっては難しい問題なのだ。だからこそ研究が進んでいないわけだが、研究が進まないことで研究資料があまり残されていないのが現状だ。だから詳しいことは、正直な話、全く分からないとしか言いようがない。少なくとも分かっている事に関しては本にまとめて渡しているはずだ。そしてそれが全てになる」

本?

黒柳所長の言葉を聞いて、総魔に視線を向けてみる。

確か昨日、理事長から受けとったあれのことよね?

それは総魔が預かってるはずだから。

「今も持ってるの?」

尋ねてみると。

総魔は制服のポケットから一冊の書物を取り出したわ。

だけどそれは書物って言うより手記って言うべきかもしれないわね。

そこそこ分厚いからページ数は多そうだけど。

決して大きくはない手帳を総魔はテーブルに置いたわ。

ちょっぴり気になるわね。

手帳を手にとって内容を読んでみることにしたわ。

…だけど…。

「って、え?うわっ!?なによこれ?」

戸惑う私を見て。

「はっはっはっは!!!」

黒柳所長がまた大声で笑い出してる。

うぅ~。

笑わないでよ…。

さりげなく横に視線を向けてみると、総魔も小さく笑ってた。

「ぁぅ~」

控えめにうなり声をあげて抗議してみるけれど。

私には本の内容がさっぱり理解できなかったわ。

複雑な理論?

謎の計算値?

意味不明な図面?

なんだかもう。

ただ眺めるだけで頭が痛くなりそうだったのよ。

「さっぱりわかんない」

解読を諦めて手帳をテーブルの上に返すと。

「はっはっはっは!!まあそう落ち込むことはない。これは研究者でなければまともに読めないのが普通だからな」

思いっきり笑ってた黒柳所長が励ましてくれたわ。

「むしろこれを見ただけで理解が出来るようなら研究所は必要ないだろう」

うぅ~。

慰めてくれるのはありがたいと思うけど、
笑い続ける黒柳所長を見ているとだんだん腹が立ってくるわね。

だから助けを求めるような気持ちで総魔に振り向いてみる。

総魔は私を馬鹿にしたりしないわよね?

期待を込めて見つめてみると総魔はすでに笑ってなかったわ。

だけど。

「………。」

何故か手帳をポケットに閉まいながら私の頭を優しく撫でてくれたのよ。

これってどういう意味?

総魔が何を言いたかったのかは分からなかったけど。

これはこれで満足してしまう自分がいたわ。

う~ん。

単純すぎるわよね?

でもまあ、幸せだからいいのかな?

そう思えるから難しいことを考えるのは止めたわ。

だけど。

まだまだ話は続いていくみたい。

「まあ、美袋君のことはともかく、きみは理解出来たのか?」

「ああ。ある程度は理解出来たつもりだ」

「ほほう。やはり君には研究者としての才能があるようだな。どうだ?是非ともうちで働いてみないか?」

え?

えぇっ!?

「えぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~!!!!!」

黒柳所長の言葉を聞いた瞬間に。

総魔じゃなくて私が驚いてたわ。

「どうしたんだ?」

どうしたじゃないわよ。

ったく、もう!

総魔は何も知らないみたいだけど。

ルーン研究所で働けることは魔術師なら誰もが憧れる最高の就職先なのよ!!

数多くある魔術研究所の中でも特に才能のある人だけが入ることの出来るルーン研究所はあらゆる研究機関の中でも最高峰の研究所なの。

国内には5か所のルーン研究所があるらしいんだけど、
そのどこに所属するにしても相当な難易度を誇るらしいわ。

その中でも特にジェノスのルーン研究所は共和国の代表を務める理事長と前代表の米倉宗一郎さんの影響が強くて共和国最高峰の研究所として最も有名な研究所なのよ。

だからこそジェノスのルーン研究所は超難関の就職先なの。

立場的に理事長は無理にしても、
大賢者の称号を持つ沙織や学園最強だった龍馬でさえも採用してもらえるだけの実績を残していないのよ。

それなのに。

あらゆる試験を飛び越えて黒柳所長から直接声をかけてもらったのよ。

これって本当にすごいことなんだから!!

ここで働ければ、お給料だってとんでもない額を貰えるのよ!

それがどれだけすごいことなのか、総魔は全然分かってないでしょうね。

疑問を感じて覗き込んでみても、総魔の顔に変化はないわ。

それどころか…。

「悪いがそのつもりはない」

あっさりと断っちゃったのよ。

うわぁ…っ。

勿体ないっ!!

っていうか、ちょっとは考えなさいよ!!

せっかくのチャンスなのよ!?

それなのに。

総魔はあっさりと最高の地位を棒に振っちゃったわ。

そんな総魔の言動に呆れてため息を吐く私を見ていた黒柳所長がまたまた笑い出してる。

「はっはっは!!まあ、そう言うだろうとは思っていたが、まさか本当に断るとはな」

笑い続ける黒柳所長を総魔は不思議そうに眺めてるわね。

これはもう絶対に分かってないわ!!

ここがどれだけ凄い所なのか総魔は全く分かってないのよ!!

ああ~!!

もうっ!!

何とか説得しようと思って話しかけようとしたんだけど。

「まあ、急ぐ訳でもないからな」

その前に私を遮った黒柳所長が総魔に話しかけてた。

「その気があればいつでも来るといい」

はあ~。

良かった~。

採用の話は残るみたいね。

黒柳所長の言葉を聞いて、ほっとため息を吐いてしまう。

って、なんで私が安心してるのかな?

そんな疑問も感じるけれど、ひとまず総魔を見つめてみる。

う~ん。

何て言うか…。

結局のところ話があまり進んでいない気がするのよね~。

そんな私の疑問を感じ取ったのかな?

総魔が黒柳所長と向き合ったわ。

すごく真剣な表情よ。

その気配を察したのか、黒柳所長も笑顔を消して真剣な表情を浮かべてた。

「そろそろ本題ということか?」

「ああ、聞きたいことは別にあるからな」

総魔が答えた瞬間に空気が少し変わった気がしたわ。

これは、まあ、あれよ。

空気が張り詰めるっていう感じ?

室内が静まり返って、緊張感が広がっていったわ。

そんな重苦しい雰囲気の中で。

「それでは改めて話を聞かせてもらおうか…」

黒柳所長が総魔に問いかけてた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ