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THE WORLD 作者:SEASONS

4月6日

212/4820

別件

「う~ん。医務室から依頼が来るなんて珍しいわね」

「ああ、そうだね。大抵の出来事は保健委員が対処してくれるからね。特風にまで依頼が来るのは珍しいと思うよ」

龍馬も私と同じように疑問を感じているようでした。

「だけどまあ、今年に限って言えば彼のような例もあるからね。他にも特別な存在がいたとしても驚きはしないかな」

ああ、そういう可能性もあるのね。

天城君の他にも優秀な新入生がいる可能性は否定できません。

ただ…。

今回の依頼内容を考えると少し違う気もしてしまいます。

何度も医務室に運ばれてくる生徒がいるせいで医務室の忙しさが増しているという話だと思うので、
優秀な生徒がいるという話には思えません。

どちらかといえば虐めにあっているとか、
一方的な虐待を受けているという可能性の方が高いような気がします。

だとすれば風紀委員に依頼が来るのは当然だとは思いますが…。

どうなのでしょうか?

だとすれば私に依頼が来る意味がわかりません。

問題を解決するためには翔子が所属する諜報部を派遣するか、
戦闘部門の誰かを派遣したほうが早いと思います。

どうしてそうしないのでしょうか?

いえ、どうして治療の依頼なのでしょうか?

少し気になる依頼だとは思いますが、
ひとまず里沙の報告を待ってから判断しても遅くはないと思います。

もしも緊急の判断を要することなら医務室の手伝いという間接的な依頼にはならないはずです。

なので、しばらく様子を見てから判断することにしました。

「医務室に手伝いに行くかどうかは里沙の報告を聞いてからにするわ」

「ああ、それでいいんじゃないかな?僕も急ぐ必要はないと思うよ」

龍馬の許可も得たことで、医務室の話は保留になりました。

そして里沙がいなくなって静かになった部屋の中で、
次に長野君が動き出しました。

「んじゃ、お邪魔虫は退散しますかね。ああ、そうそう。例の調査に関しては報告書にまとめてあるから、時間があったら適当に目を通しておいてくれ」

報告書残してから、長野君も部屋を出て行きました。

里沙と長野君の二人が出ていくのを見送ったあとで、
私は長野君のテーブルの上にある書類に手を伸ばしてみました。

ですが。

表紙には何も書かれていませんね。

見た目だけでは何の報告書なのか分かりませんでした。

「例の調査って何なの?」

龍馬に報告書を手渡しながら尋ねると。

「彼とは別件の調査だよ」

龍馬は笑顔で答えてくれました。

そして報告書を確認しています。

別件?

どういうことでしょうか?

静かに報告書を読み進める龍馬は彼とは別件だと言いました。

それはつまり天城君に関する調査ではないということです。

他に何か調べるようなことでもあったのでしょうか?

少なくとも私には思い当たることがありません。

真剣な表情で書類に目を通す龍馬。

ゆっくりと過ぎる時間。

しばらく待っていると。

「沙織も見るかい?」

読み終えた書類を私に差し出してきました。

「いいの?」

「ああ。沙織も無関係ではないからね」

「どういうこと?」

戸惑いながらも表紙をめくって書類を読み進めようとしました。

ですが全てを読むまでもなく、龍馬の言葉の意味が理解出来ました。

『魔力を失う影響』と記された題名。

それを見ただけで龍馬が何を調べていたのかがわかったからです。

調査内容に関して私は直接的な関係がありませんが。

天城君による吸収の力がどれ程の影響をもたらすのか?という部分的な調査でした。

魔力を失ったあとの影響を調べていたようですね。

ただ。

天城君の能力に関わらず、
魔力の全てを使い切ってしまった場合に私達『魔術師』は必ず昏倒状態に陥ります。

そこまで危険な状態になってしまったらもう手の打ちようがないのです。

魔力の自然回復を待つか。

天城君のように魔力を操作して補充するか。

方法は二つしかありません。

ですが彼のように魔力を操ることは私達には出来ません。

魔力の回復は彼にしか出来ないのです。

いえ、あるいは彼だから出来ることだと考えた方がいいでしょう。

だから私達は待つことしか出来ません。

書類の内容を読み進めてもその結果は同じです。

この数日の間に医務室へと送り込まれた生徒達は未だに目を覚まさないでいるようです。

北条君もまだ当分の間は目覚めないでしょうから。

結局、打つ手なしです。

それが結論でした。

「まあ、仕方がないことなんだけどね」

深々とため息を吐く龍馬ですが、
分かってはいても何か方法がないかと考えて調べていたようですね。

「焦らずに信じて待ちましょう」

微笑む私を見て、龍馬も笑顔を浮かべてくれました。

「そうだね。真哉を信じるしかないだろうね」

「ええ、そうね。でも、北条君なら大丈夫よ。心配しなくてもすぐに目を覚ますと思うわ。だって北条君がいつまでも休み続けてるなんて、想像出来ないでしょ?」

「ははっ、そうだね」

笑顔を浮かべる龍馬。

ほんの少しだけかもしれないけれど、
元気が出たならそれで良かったと思います。

今の私達に出来ることは限られているから。

だから精一杯出来ることをしていこうと思います。

今の私に出来ること。

それは…。
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