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THE WORLD 作者:SEASONS

4月5日

186/4820

都合がいい?

ここから第2話になります。

主に翔子を中心として進んでいきます。
《サイド:美袋翔子》

やったぁ!!

総魔が勝ったのよ!?

ずっと信じてはいたけど、本当に龍馬に勝っちゃうなんて夢じゃないよね?

っていうか、嘘じゃないよね?

驚きと喜びが入り混じって、それだけで頭の中が一杯になっちゃうけど。

だけど、これが現実なのよね?

試合が終わった瞬間。

私の体は緊張と興奮で小刻みに震え出したわ。

だって、あの龍馬が倒れたのよ?

私なんかじゃ、どう頑張っても絶対に勝てない存在なのよ?

その龍馬が倒れた姿を見たことで、全身に鳥肌が立つのを感じたわ。

上手く言葉に出きないけれど。

こういうのを感動って言うんじゃないかな?

そんなふうに思えるくらい歴史的な瞬間を見たんだと思うの。

でも…ね。

沙織はどう思ってるのかな?

私と違って沙織は龍馬を応援してたはずだから、
龍馬が負けたことで落ち込んでるんじゃないかな?

隣にいるはずの沙織に視線を向けてみる。

沙織は…何て言うか。

声を出すことさえも忘れてしまったかのような表情で戸惑っていたわ。

驚きと悲しみが入り混じったような感じ…かな?

それに、ね。

瞳が揺れてるようにも見えたの。

これって、やっぱり、あれよね?

涙をこらえてる感じよね?

上手く言葉にできないけれど。

どこか淋しそうな雰囲気を漂わせてるように見えるのよ。

どうしよう…。

落ち込んでる沙織に何を言えばいいのかな?

声をかける勇気がなくて、
いたたまれない気持ちで視線を逸らしてしまう。

こういう時に何て言えばいいのかが分からないのよ。

どう話し掛ければ良いのかが分からないの…。

だからどうすることもできなくて、沙織から視線を逸らしてしまったわ。

そして、そのまま彷徨う視線。

私の目は自然と総魔の姿を捜してた。

ねえ、総魔。

総魔が勝ったんだよ?

今はどういう気持ちなの?

嬉しい?

それとも疲れた?

総魔の気持ちは分からないけれど。

倒れた龍馬を眺めながら何度も深呼吸を繰り返してる姿は見える。

試合が終わったことを実感してるのかな?

総魔自身はそれほど怪我をしてるようには見えないんだけど…。

だけど精神的に疲れているようには見えるかな。

この状況はあれよね?

沙織の時とよく似てる気がするから。

魔力が底をつきかけて、倒れかけていた時の表情に似てると思うわ。

だからたぶん。

あの時と同じくらい精神的に追い込まれてるんじゃないかな?

私はそう思うんだけど…。

総魔ってちゃんと話してくれないから実際にどうなのかが分かりにくいのよね。

それに今は距離も離れてるから余計に分かりにくいのよ…。

う~ん。

試合は終わったわけだし、近づいてもいいのかな?

ダメとは言われてないから近づいちゃいけないていう決まりはないんだけど。

誰も動き出さないから何となくどうしていいか迷っちゃうのよね~。

どうしようかな?

…なんて、考えてる間に総魔が動き出したわ。

深呼吸を繰り返してた総魔が龍馬の側まで歩みを進めてから屈み込んだのよ。

そして右手を龍馬の背中にかざしながら魔術の詠唱を始めたの。

ん~。

この状況も見覚えがあるわね。

龍馬の治療をするつもりなのかな?

そう思ったことで、私は無意識のうちに二人に向かって駆け出してた。

…って。

何も考えずに走り出しちゃったんだけど、良かったのかな?

試合は終わったんだよね?

試合終了の合図はなかったけど、
試合場に近づいても問題ないわよね?

何とも言えない状況だけど。

私のすぐ後ろを沙織が追い掛けてきてる気配が感じられるから沙織も一緒にいるはず。

だけどまだ振り返って確認する勇気は持てないわ…。

素直に沙織と向き合えない自分がいるの。

もちろん喧嘩してる訳じゃないから、
振り返ったからって怒られることはないんだけどね。

でも…ね。

沙織と視線を合わせるのが怖いって思うの。

総魔が勝ったことできっと落ち込んでると思うから。

だから怖いって思ってしまうのよ。

だって、沙織が龍馬を好きなことくらい知ってるから…。

だからきっと沙織は悲しんでると思う。

龍馬が傷ついてる姿を見て平気なわけがないし。

不安で不安で仕方がないと思うのよ。

好きな人が負けちゃったわけだしね…。

悲しいのは当然だと思う。

そう思うから沙織と視線を合わせられなかったわ。

龍馬が倒れたことをきっと誰よりも悲しんでるはずだから。

だから沙織の横で素直に総魔の勝利を喜べなかったの。

喜んでしまえばきっと沙織の心を傷付けてしまうと思う。

だから今はまだ喜べないのよ。

総魔に対する喜びと沙織に対する配慮。

二人への気持ちが対立しあって、複雑な気持ちになってしまうわね。

そんな心の葛藤を抱えたまま。

それでも真っ直ぐに走り続けていると、すぐに総魔の側にたどり着いたわ。

う~ん。

何回見ても不思議な感じがするわね~。

微かな光を発してる右手から、
総魔の魔力が龍馬に流れていくのがわかるのよ。

どういう方法でそれが出来るのかは全然、全く分からないけどね。

だけど龍馬から吸収した魔力を龍馬自身に返還してるのは何となく分かったわ。

だとすると…。

私の時もそうだったのかな?

意識がなかったから自分の時がどうだったのかは分からないけど。

沙織の時とは状況が同じだと思うわ。

だけど…。

ん~?

何かがおかしい気がするわね。

沙織の時とは何かが違うような気がするのよ。

そう思ったから、とりあえず声をかけてみることにしたわ。

「総魔…?」

呼びかけてみたんだけど。

「………。」

だけど総魔の返事はなくて、
私に視線を向けてくれただけだった。

それもホンの数秒だけで、
すぐに龍馬に視線を戻しちゃったの。

う~ん?

何が言いたかったかな?

よくわからないけど話をする余裕がないっていうことかな?

それくらいは総魔の表情を見れば分かる…かな?

…って。

ううん、違うわね。

もしかしたらそれ以前の問題なのかも。

いくら龍馬から吸収した魔力を返還してるって言っても、
その量には限りがあるはずなのよ。

100%全ての魔力を奪ってたわけじゃないと思うから、
龍馬の魔力を完全に戻すには全く足りていないはずよね?

だから足りない分を補う為に、総魔自身の魔力を送り込んでるはずなのよ。

それなのに龍馬は目覚めないみたい。

総魔が自分の魔力を代償にしても、
それでも龍馬を目覚めさせるには足りないんだと思う。

すでにほぼ全ての魔力を送り込んだ様子の総魔だけど。

それでも龍馬は目覚めなかったようね。

「総魔っ!!」

もう一度呼び掛けてみると総魔はまた何も言わずに私に視線を向けてくれたわ。

だけどその表情は今まで見たことがないくらい疲労感を漂わせてるように思える。

どう見ても限界だったわね。

「ねえ、総魔!それ以上、魔力を送り込んだら今度は総魔も倒れるわよっ!?」

心配のあまりに、思った以上に声が大きくなってたかも。

そんな自分を一瞬だけ恥ずかしく感じたわ。

だけどね。

それでもこの気持ちを押さえる事は出来ないの。

「足りない分は私も協力するから!だからお願い!私の魔力も使って!!」

強引に総魔の左手を掴んでお願いしてみる。

そんな私の行動に対して何か言おうとした総魔だけど、
その前に沙織も自分の手を差し出していたわ。

「お願いします。私の魔力も使って下さい」

切に願う真剣な表情だったわね。

そんな沙織の勢いに負けたのかな?

総魔は話を諦めて、私達が触れる左手に力を込めたのよ。

その瞬間に…。

「「ぅ…ぁ…っ!?」」

私と沙織はほぼ同時に魔力の喪失感を感じて唇を噛み締めてた。

うぅ…。

何度経験しても、この感覚は慣れないわ。

魔力が流れ出していくこの感覚は…って、あ~、これってあれかな?

貧血で倒れるような感じ?

眩暈めまいがして目の前が真っ暗になるような感じにも似てるわね。

魔力を失うのって血が失われるのと同じような感じなのかな?

私には難しいことは分からないけれど。

予想以上の速度で魔力が失われていくせいで、
油断した瞬間に意識が飛んでしまいそうな気がするほどだったわ。

でもまあ、龍馬の魔力は沙織よりも少ないはずよね?

私と総魔も協力してるわけだし。

魔力が足りないってことは絶対にないはず。

ちょっぴり我慢すれば魔力の供給は終わるはずなのよ。

そう思うことで私は唇を噛み締めながら気力を振り絞って、
薄れる意識を必死に維持しようと堪え続けたわ。

それでも…ね。

あうぁぁ…。

魔力が抜けていくぅ~。

誰も何も話さないこの時間はものすごく長く感じてしまうのよ。

実際に治療にかかった時間はホンの数秒だったと思うけど…。

それなのに。

たった数秒の時間だけで私の魔力の4割が龍馬に流れていった気がするわ。

沙織も同じくらい減ったんじゃないかな?

私の魔力と沙織の魔力。

そして総魔の魔力と吸収していた龍馬自身の魔力。

それらが全て混ざり合って、龍馬の体へと流れ込んでいったのよ。

そこまでして魔力を回復し終えた龍馬は、
ようやく昏倒状態から目覚めて意識を取り戻したようね。

「…ぅ」

ピクリと動く龍馬の左手。

そのあとでゆっくりと龍馬の目が開いたわ。

「…ふう。終わったな」

龍馬が意識を取り戻したことを確認したからかな?

治療を止めた総魔が疲れた表情で一度だけ大きくため息を吐いてた。

だけどその気持は私達も同じだったと思う。

かなりの魔力を失った疲労感が心に重くのしかかっていて、
本気で眩暈を感じていたからよ。

総魔に続いて私と沙織も二人揃ってため息を吐いてたくらいだしね。

そのせい?

ううん。

そのおかげ、かな?

自然と沙織に視線が向いたの。

そしてお互いの視線が交わったことで、自然と笑みを浮かべられたのよ。

「お疲れ様」

「ふふっ。翔子もね」

沙織が笑ってくれたわ。

だからもう大丈夫よね?

全然、気まずくなんてないと思う。

少し気にしすぎだったのかな?

そんなふうに思えるくらい。

沙織の笑顔はいつもと同じように見えたのよ。

「無事で良かったね」

「ええ。そうね」

龍馬の無事が確認できたことでお互いに微笑み合う。

そして二人揃って龍馬に視線を向けることにしたんだけど。

「く…ぅっ…!」

痛みのせいかな?

それとも意識がまだ混乱してるのかな?

龍馬は苦しそうなの声を出してた。

「龍馬、大丈夫?」

沙織が心配そうな表情で龍馬に手を添えて龍馬の体を支えてる。

そんな沙織の手を借りて、龍馬はゆっくりと体を起こしたんだけど。

まだ意識がはっきりしてないみたいね。

虚ろな視線で周囲を見回してた龍馬は沙織の姿を見つけてからようやく視線を止めたわ。

「…さ、沙織、か?」

「ええ、そうよ。大丈夫?」

「あ、ああ。たぶん、大丈夫だよ」

沙織の問いかけに笑顔で答えた龍馬はゆっくりと視線を彷徨わせてから、
傍にいた私にも微笑んでくれたわね。

「心配をかけたみたいだね。ありがとう、翔子」

「私は別にお礼を言ってもらえるほどのことはしてないんだけどね~」

魔力を分けるくらいならたいしたことじゃないわ。

寝れば回復するしね。

それに治療そのものは総魔がしたことよ。

私は何もしてないわ。

だから控えめに答えてみたんだけど。

私も自然と笑顔を浮かべてみたいね。

龍馬が無事だったことは素直に嬉しいと思うから。

だから自然と笑みがこぼれてしまうの。

でも、ね…。

今は龍馬以上に気になることがあるわ。

笑ってばかりはいられないの。

もっと重要な問題があるからよ。

総魔は大丈夫なの?

気になって総魔に視線を向けてみる。

治療を終えて立ち上がった総魔は今までと同じで、
弱音なんか絶対に言いそうにない雰囲気だったわ。

本当なら死にそうなくらい疲れてるはずなのに、
絶対にそういう態度を見せないのよ。

それをやせ我慢っていうのかどうかは分からないけど。

辛い時に辛いって言ってもらえないのはちょっぴり寂しいかな。

出来ればもうちょっと私に頼ってほしいと思うのよ。

だけど総魔は頑なに心を閉ざしてる。

そして何事もないかのように振る舞ってしまってる。

う~ん。

ちゃんと聞いたほうが良いのかな?

聞いても答えてくれるかどうかは別問題だけど…。

このまま放っておくと一人で苦しい思いを抱えそうなのよね~。

そうならないように何とか協力したいんだけど。

総魔ってば、自分の魔力を回復するために私から魔力を吸収するのは嫌がるのよね~。

うぅ~ん。

どうすればいいのかな~?

そんなふうに悩んでいると。

龍馬が総魔に話しかけていたわ。

「ありがとう。きみが助けてくれたんだね」

笑顔で話し掛ける龍馬だけど。

「ああ、その方が互いに都合が良いと思ったからな」

総魔はいつものように感情の感じられない口調で答えてる。

こういうのも総魔らしいって言うべきなのかな?

そういう表現が正しいのかどうかも分からないけど。

私としてはそう思うのよね~。

だって、さ。

おかしいと思わない?

都合がいいから手を貸したって総魔は言ってるけど、これって変よね?

どう考えても龍馬を助けることで総魔が得することなんて何もないような気がするわ。

むしろ限界ギリギリまで弱体化してしまって損してるだけじゃない?

全然、利害が一致しないわよね。

相変わらず総魔が何を考えているのか分からないわ。

だからね。

本当は違うんじゃないかな?って思う。

素直に言葉にしないだけで、
もしかしたら本当は私達のことを心配してくれてるんじゃないかな?

だってそうじゃなかったら、
いちいち対戦相手の治療なんて普通しないわよね?

私と沙織と龍馬。

真哉は自分から治療を断っていたから別としても、
試合後の疲れきった状態で自分自身の魔力まで消費しながら治療してくれたのよ?

それをただの気まぐれだなんて思えないわ。

だからたぶん。

総魔にとって私達は助ける価値のある人間だと認めてもらえてるんだと思うのよね。

会話はあまりないけど、その気持ちはちゃんと伝わってくるの。

上手く言葉に出来ないだけで本当は優しい人だと思うから。

そう思えるから。

だから私は最後まで総魔を信じていたいと思うのよ。

このあとに待っているはずの出来事。

その結果を、最後まで見届けようと思うのよ。
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