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THE WORLD 作者:SEASONS

4月5日

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謎の行動

《サイド:天城総魔》

魔術研究所を出た後。

急いで食堂に向かうことにした。

昼食もそうだが、食堂で翔子と待ち合わせしているからだ。

今から行って間に合うだろうか?

予定していた時間よりもかなり遅くなってしまっている。

近くの時計に視線を向けてみると時計の針はすでに午後1時に差し掛かろうとしていた。

思っていたよりも遅くなってしまったな…。

翔子達はまだいるだろうか?

約束を破るつもりはないものの。

向こうが待ってくれているかどうかがわからない。

遅れたことで愚痴を聞かされるだけならまだいいが、
余計な交換条件が増えるのは避けたいところだ。

他人のわがままに振り回されるのは極力回避したいからな。

面倒なことにならなければいいと思いながら食堂に近付いてみると、
入口付近で見覚えのある二人の姿を見つけることができた。

そこにいるのはもちろん翔子と沙織の二人だ。

翔子達は怒る様子もないまま笑顔を見せながら歩み寄って来てくれた。

「遅~い!」

笑顔で文句を言ってくる翔子だが、
その隣にいる沙織はおとなしく微笑んでいるだけだ。

不満を口に出すつもりさえないらしい。

「お待ちしていました」

丁寧に一礼する姿からは負の感情が一切感じられない。

かなり待たせたはずなのだが、それでも愚痴を言おうとさえしなかった。

もちろん翔子もそれ以上の言及はしてこない。

二人共、俺を笑顔で出迎えてくれている。

「すまない。待たせて悪かったな」

遅れたことを素直に謝ると。

「気にしないでください」

「そうそう。気にしない気にしない。」

二人はあっさりと許してくれた。

「それよりもお腹空いたから早く行こ~!」

事情を説明するよりも先に翔子を先頭にして食堂に入ることになった。

すでに1時を過ぎているのだが、
食堂内はまだまだ生徒達で一杯のようだな。

空いている席を探すだけでも一苦労しそうだが、
翔子達はあまり気にしていないようだ。

今は食事を調達することを優先して行動している。

「今日は何にしようかな~?」

ご機嫌な笑顔を見せながら菓子パンを選ぶ翔子が幾つかのパンを手に取る隣で、
沙織はサンドイッチを選んでいた。

似たような食生活だな。

それで足りるのだろうか?

「二人共、昼食はパンで済ませるのか?」

「ええ、あまり食べ過ぎると眠くなってしまいますから」

沙織としてはそれが軽食の理由らしい。

「私は好きだから、かな~」

翔子としては純粋な好みの問題のようだ。

「そういう総魔はいつものあれ?」

「ああ、そうだな」

他に選択肢はない。

今後の予定を考えれば、
少しくらい食事に資金を費やしたところで困ることはないと思うのだが、
日々の習慣を変えるのはあまり好きじゃないからな。

贅沢をしようとは思わない。

だからまあ、翔子達のことをとやかく言える立場ではないだろう。

俺の食生活が偏っているのも自覚しているからな。

普段通りに行動するだけだ。

いつもと同じ場所に向かい。

いつもと同じように注文する。

そうして出てくる定食は中身こそ毎回違うものの。

学園で最も安い格安定食だ。

「どう見ても寄せ集めよね?」

常に物珍しそうに眺める翔子だが、それは自分でも分かっている。

「残り物の材料を使っているのは分かっているが、それでも食べられるだけましだ」

『食べられない』という状況を経験してきた過去を思えば安定した食事が取れるだけで十分だからな。

「問題ない」

「う~ん、そうかな~?」

まだまだ言いたいことがあるようだが、そんな翔子に沙織が話しかけている。

「だったら、翔子が作ってあげたら?」

「…えっ!?」

「だから、気になるのなら翔子が作ってあげたら?」

「そ、それは…ちょっと…っ」

沙織の発言に対して翔子が激しい動揺を見せているのだが、
その理由が何なのかは考えるまでもないだろう。

この状況はつまりそういうことだ。

ほぼ間違いなく、翔子は料理が苦手なのだろう。

あるいは経験そのものがないのかもしれない。

「料理は…ちょっと…。」

言いよどむ翔子の態度を見れば答えは明らかだ。

「ふふっ。心配しなくても、ちゃんと教えてあげるわよ?」

「あう…。それでも、ちょっと…。」

「あら、そう?この間はケーキを作ってたでしょ?」

「それはそうだけど、お菓子作りと料理は違うでしょ?」

「同じようなものよ」

沙織の態度は平常だ。

だが。

「同じじゃないから出来ないのっ」

翔子ははっきりと料理ができないと宣言していた。

「沙織みたいに、何でもできる子と一緒にしないでよね~」

もはや開き直って言い返す翔子だが、
そんな翔子を沙織は優しく見つめている。

「ふふっ。私だって最初から出来たわけじゃないのよ?ちゃんと練習して覚えたの。だからちゃんと練習すれば翔子だってできるはずよ」

「うう~。考えるだけで無理~。目分量とか少々とか、謎の行動が多すぎるのよね~。あんな適当な味付けでどうして美味しくなるのかが理解できないわ」

「ふふっ。それが料理のコツなのよ」

「だから私には無理なの…。」

…という結論に達したようだ。

「っていうか、総魔はどうなの?自炊とかできちゃう人なの?」

「いや、難しいな。単純に煮たり焼いたりする程度なら出来なくもないが、味わうというよりも生きるために食べるという感じだったからな。その手の知識は俺にもない」

「そうなんだ?それならまあ、良かった…かな。」

「どういう意味だ?」

「意味っていうか、もしも料理まで負けてたら、じゃあ何なら勝てるの?っていう感じになっちゃうじゃない。さすがにそこで負けると悔しいというか切ないというか…。まあ、色々とあるわけよ」

その色々が理解できないわけだが、翔子なりに思うことがあるようだ。

「何でもいいが、さっさと食べるぞ。ここで立ち話をしていても仕方がないからな」

ただでさえ格安の定食が冷めてしまったら、
より美味しくなくなるのは避けられないからな。

そうなる前に食べ終えてしまいたかった。

「さっさと行くぞ」

空いている席を探して食堂内を散策していく。

そして見つけたテーブルを3人で囲むように座り、
いつもとあまり変わらない雰囲気で昼食を始めていく。

「いっただっきま~す!」

「いただきます」

二人がパンを食べ始め、少し遅れて定食に手をのばす。

そうしてようやく食事を始めたのだが。

「美味しい~」

大人しく食事をとる沙織とは違って、翔子は常に嬉しそうにしている。

「こうしてみんなで食べるのって楽しいわよね」

「ええ、そうね」

思ったことを包み隠さず話す翔子に沙織はいつまでも微笑みを向けている。

これが二人の関係なのだろう。

おそらく俺がこの学園に来る前まではこれが二人の日常だったのだと思う。

その中に含まれてしまったことに違和感を感じなくもないが、
二人が気にしていないのなら、こちらから距離をとる必要はないだろう。

今はこの時間をゆっくりと過ごせばいい。

そんなふうに考えながら食事を終えると、
そのまま食後の話し合いへと進んでいった。

「それじゃあ、話しを始めましょうか」

最初に話を切り出したのは翔子だ。

俺の目を見つめながら、最後の試合の段取りについて話し始めた。

「とりあえず話はつけてきたから総魔の希望通りに試合出来るわ。一応、時刻は今日の7時頃の予定で決めてきたんだけど、それでいい?」

「ああ。構わない」

試合さえできるのなら何時でもいい。

結果がどうなるかはわからないが始めなければいつまでたっても結果は出ないからな。

「午後7時だな?」

「うん、そうよ。それで、そのあとの事なんだけど、総魔としてはこれからどうしようとか考えてる?」

「そのあと?」

「ええ、そうよ。もしも最後の試合に勝って1位になれれば、ひとまずそこで終了よね?それ以上の上はないんだし…。」

ああ、なるほどな。

翔子の言いたい事は理解できる。

それはつまり卒業試験を受けるかどうか、という事だろう。

今まで気にしていなかったが、翔子の疑問はもっともな指摘だ。

当面の目標として卒業出来るだけの力を手に入れるために1位を目指してここまできた。

そして現時点で1位に手が届くところまで来ている。

もちろん実際に1位にならなくても、
十分に卒業試験を受けるだけの実力は在るはずだ。

厳密に言えば、俺でなくとも学園の上位100名ならいつでも卒業出来ると思われる。

1位にならなければ卒業出来ないわけではないからな。

あくまでも暫定的な目標として1位を目指してきたにすぎない。

だとすれば、最後の決戦が終わったあと。

試合後にどうするのか?

確かにそれも考えておくべきだろう。

もしも試合で負ければ、当分は修行が必須になる。

だが試合に勝てた場合はもうこの学園に留まる理由がない。

…となれば、卒業試験を受ける事も考慮していい気はする。

だが、それは試合が終わったあとでの話だ。

今はまだ早い。

結果を出す前にその先を見据えるのは時期尚早だろう。

「まずは試合に勝つ事が優先だ。そのあとの事はその時に考えればいい」

「そっか…。うん、まあ、そうだね」

問題を先送りしただけだが、それでも今は納得してくれたようだ。

ひとまず翔子の話は終わった。

だが…。

話が途切れたのを見計らって、今度は沙織が話しかけてきた。

「えっと、その、私からも報告があります」

報告か。

話題をふってきたことで翔子と共に沙織に視線を向けてみる。

「何かあったっけ?」

翔子は既に忘れているようだが、おそらく北条との試合に関する件だろう。

「例の実験に関してです」

やはりそうだった。

例の実験とは真哉との試合中に行われた極秘の実験に関しての事だ。

話を続けようとする沙織だが、その前に話を遮る。

「いや、その事なら解決済みだ。すでに話を付けてきた」

「えっ…?」

驚きの表情を浮かべる沙織と翔子だが、
その件に関してはすでに解決している。

「例の実験に関してはルーン研究所で黒柳と直接話をしてきた。実験の内容に関してもすでに十分に理解しているつもりだ。だから特に問題はない」

「え?あ、は、はい。そうですか…。」

驚いたという事もあるだろうが、
それ以上に俺の行動の早さに感心したのだろうか。

沙織は大人しく引き下がってくれた。

もちろん沙織の努力が無駄だったとは思わないが、
その件に関してはすでに話し合うことは何もない。

もはや知りたいことは何もないからな。

「まあ、解決したのならそれでいいけど、直接会って話してきたって、結局なんだったの?」

素直な疑問を口にする翔子だが、
黒柳との約束があるために全てを答えることはできない。

だから必要以上の事には答えずに、
黒柳との約束を守れる範囲内で答える事にした。

「実験の内容は予想通り、魔術の妨害を行うものだった。結界の内部において魔術を使用不可能にする為の実験だ」

「何の為にそんな事をしてたの?」

その理由に答えることはできないのだが、
代わりに沙織が答えてくれた。

「それだけ天城総魔という人物を恐れているのよ。あらゆる魔術を吸収し、強大な魔術を次々と操る彼の存在に恐怖を感じていても不自然なことではないでしょう?」

「え~?そうかな~?」

「そうなのよ」

「ん~…。」

翔子としては疑問しか感じないようだ。

だが沙織としてはそれなりの危機感を感じているように思える。

この辺りの反応が対照的だが、だからこそ親友として成り立っているのだろう。

互いに互いを支え合える。

そんな雰囲気を持つ二人の会話を聞きながら、
これまでの流れを整理してみることにした。

翔子と沙織に関してはまあいいだろう。

いまさら考えることは何もない。

問題は誰が翔子と沙織を動かしていたのか?という部分だが、
翔子達の上にいるのがどんな人物なのか俺はまだ知らない。

だが、それでも。

翔子達を手足のように動かしてルーン研究所でさえも意のままに操れる人物となれば考えられる候補は数えるほどしかいないはずだ。

学園内部の人間であり、それなりの地位にいる人物のはずだからな。

役職に関してはまだ把握していないが、
ある程度調べればすぐにわかるだろう。

もちろん、わざわざ詮索などしなくても翔子に聞けばすぐに答えてくれるとは思う。

だが今はそんな事は正直どうでもいい。

背後にいるのが誰かは問題ではないからな。

敵対するつもりなら戦うが、そうでなければ気にする必要がない。

だからこちらから追求する必要はないだろう。

その考えは変わらないのだが、
それでも向こうがこちらを恐れているのだという事は沙織の発言から想像出来る。

警戒されているのは間違いないだろう。

今では監視が存在しないが、
それは翔子達が共に行動しているからだ。

本人達にそのつもりはなくても、
翔子達が傍にいることで必然的に監視は成立するからな。

そういう判断で泳がされているのは間違いないだろう。

だとすれば、状況次第では何か仕掛けてくるかもしれない。

こちらから争うつもりはないものの。

向こうがその気なら戦わざるを得ない。

そんな面倒な状況にならなければいいと思いつつ。

今は食後の休憩を静かに過ごすことにした。
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