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THE WORLD 作者:SEASONS

4月5日

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実験終了

「結界の完成度に関しては問題ない。だが完成しただけでは物足りないのも確かだからな。他の職員達でも使えるように汎用性を向上させる為に拘束結界の理論を簡潔化する必要があるだろう」

現時点での理論を踏まえた上で、黒柳は次の実験へと移る事にした。

「次は汎用性の追求だ」

現段階ではまだ黒柳と西園寺にしか扱えないからな。

理論を教えさえすれば沙織や一部の教師なら使えるようになるかもしれないが、
それでもごく少数だけでしかない。

現状の理論に汎用性を持たせて他の術者にも使えるようにしなければ、
いざという時に使えないのが現状だ。

それではあまり意味がない。

常に黒柳と西園寺の二人が俺に張り付いて行動するわけにはいかないだろうからな。

別の誰かに魔術を覚えさせて緊急時に使えるようにしておかなければ拘束魔術としての意味がないだろう。

だからこそ。

汎用性を高める必要があるのは確かだと思う。

「さて、どうやって汎用性を持たせるかだが、何か良い方法はあるか?」

黒柳に尋ねられて僅かに黙考してみる。

魔術は理論によって組み上げられるものだ。

そしてその理論が現実へと影響を及ぼすことになる。

とはいえ。

一言で『自律神経に影響』と言っても誰でも簡単に出来る事ではないだろう。

望むべき結果を理論として組み立てるにはそれ相応の具体的な想像力が必要になるからだ。

黒柳や西園寺は十分に実力がある。

何度か練習をするだけで扱えるようになるだろう。

だがそれだけでは汎用性は皆無だ。

誰にでも分かりやすい説明の仕方が必要になる。

例えば船に乗って酔うような感覚だろうか?

例えば何十回と回転して目を回すような状況と表現してもいい。

それらを実現させる簡単な説明方法を考えなければ汎用性は向上しないことになる。

つまりは詠唱法の確立だ。

誰が使用しても同じ効果を発揮する詠唱方法を考える必要はあるということだ。

だが、な。

さすがに汎用性に関しては一言で簡単に言い表せることではないと思う。

人の想像力はそれこそ人それぞれだからだ。

炎や氷などの目に見える何かを表現するのは難しくない。

風の動きや体の治療などの目に見えない部分でさえも感覚的には感じ取ることができる部分だ。

だが不可視の現象を言葉で表現するのは簡単なことではないからな。

間違いなく伝わる表現を今すぐに考えるのは難しいと思う。

「汎用性に関しては難しいな。あれこれと注釈を付け加えれば、それこそ元々の理論に近づける結果になるだけだ」

極力余計な部分を排除して組み上げたからこそ結界は完成できた。

それなのに。

汎用性を高めるために完成した理論に手を加えれば、
黒柳が所持していた書類のように複雑さがまして結界そのものが破綻しかねない。

「現状では理解力の高い人材を選抜して魔術を覚えさせるしかないだろう。」

「やはり、そうなるか」

黒柳も分かっていたようだ。

というよりも、汎用性に悩んだ結果が理論の複雑化した最大の理由なのだろう。

「仕方がない。ひとまず汎用性の実験は後回しにして、先に効果範囲の拡大の実験に入ろう」

黒柳は汎用性の問題に対して早々に諦めたようだな。

そして進展のない課題に見切りをつけて最後の実験に移った。

「これさえ終わればひとまず実験は終了だ」

黒柳が望む最後の目的は結界の効果範囲の拡大になる。

それは試合場のどこにいても余す事なく影響を与える事が出来るかどうかという実験でもある。

何故、そんな実験を行う必要があるのか?

それは黒柳達の本来の目的が『俺の行動を封じる』ということにあるからだ。

俺を封じるための拘束結界だからな。

そのためには最低でも結界の効果範囲を試合場全域に広げる為の改良が必要になる。

おそらくは最後の試合において結果が出たその時。

俺が頂点を手にした瞬間に結界を発動するのが黒柳達の目的のはずだからな。

俺の動きを封じて話し合いの場を用意するための研究だ。

そのためには試合場全域を覆える程度の規模は実現させられなければならないだろう。

それが可能かどうかを試す事が最終的な実験になるのだが、
効果範囲の実験するためにはどうしても多くの人手が必要になる。

だからこそ本来なら実験の最終段階で行うべき予定だったのだが、
汎用性の実験は今後の課題として残ってしまった為に
こちらの実験を先に進めることになってしまった。

「実験するのは構わないが、本当に実行してもいいのか?」

「仕方あるまい。やらなければ調査は終わらないのだからな」

研究を行う以上はそれなりの覚悟があるのだろう。

黒柳の発言に対して職員達は誰一人として反論しなかった。

全員、覚悟の上のようだ。

職務に忠実な職員達の覚悟は認めるべきだろう。

これなら手加減の必要はないな。

…と言っても、実験方法は極めて単純だ。

試合場を想定した範囲に結界を展開させるだけだからな。

それによって結界の発動にどの程度の魔力が必要とされるのかという事と結界の内部に配置させる『職員全員』の魔術を妨害出来るかどうかという2点が実証されることになる。

拘束結界は内部に何人いるのかは関係ないからな。

重要なのは結界内部のどこにいても効果があるかどうかという部分だけだ。

と、同時に。

捕獲対象がどの程度の能力を持っているのかもこの結界においては関係がないはずだ。

発動に成功さえすれば誰も何もできない拘束を証明できれば実験は成功になる。

もちろんこの実験によって魔力の消費量に関しても測定できるわけだが、
これはすでにある程度の予測ができている。

基本的には結界の内部において超音波を発するだけの魔術だからな。

簡単な魔術であるからこそ魔力の消費はそれほど多くないはずだ。

問題は結界が攻撃されてしまえば拘束力が失われてしまうことだが、
そもそも魔術を殴れる人間などいないだろう。

ルーンが発動状態であれば破壊されてしまう可能性はあるが、
思考能力を乱された状態で結界を攻撃するのは難しいと思う。

不可能ではないが困難なのは間違いない。

その辺りも含めて考えれば下手に最上級魔術を使用するよりも遥かに効率よく魔術を展開できるのではないだろうか?

その辺りは黒柳も分かっているはずだ。

着々と準備を進めている黒柳も同じ考えのはず。

試合場を想定した範囲の各所に職員達を配置しているのだが、
すでに実験の失敗は既に考えていないように思えるからな。

実験の成功を想定した上で30人の職員を投入しているようだ。

総勢30名。

実験場内に所狭しと配置された職員達が俺をじっと見つめている。

その誰もが後悔はしないといった雰囲気だ。

誰一人として嫌そうな顔はしていないからな。

むしろ魔術の影響を受けることで魔術の欠点を見つけようとする気概さえ感じられるほどだ。

さすがは研究所の精鋭、とでもいうべきか。

実際に魔術を体験することに意義を見出しているようなそんな独特な雰囲気さえ感じられる。

良い覚悟だ。

職員達の行動を感心して今まで以上に気合を高めたところで、
被験者となる職員達とは別に実験室の各所に観測員達が配置されていった。

「そろそろ準備が整うだろう」

職員達の配置を見守る黒柳だが、
実験が成功した場合は影響を受けた職員達がしばらく行動不能になるかも知れないからな。

少なくはない不安は感じているようだ。

それでも黒柳は実験の準備を進めていく。

「準備は整ったな。あとは結果を祈るのみだが…」

ここへ来て残り時間が少ないことに気づいたのだろうか?

沈黙して様子を見る俺に黒柳が視線を向けてきた。

「………。」

あえて口には出さないが不安を感じているように思える。

このまま実験を中断して帰ってしまったら完全に理論を盗まれる事になるからな。

どうしても不安を感じてしまうのだろう。

実験を成功させることも大事だが、
黒柳にとっては俺に対する抑止力であることも忘れてはならない重要事項だ。

ここで俺を解放するわけにはいかないだろう。

「そう心配するな。既に終わりは見えているからな。この実験には最後まで協力するつもりだ」

「……っ!?」

何とか驚きを押さえようとする黒柳だが、表情は隠しきれていないように思える。

心の中を読まれているかのような発言を聞いたことで心臓の鼓動が一気に早まったようだが、
あまり深く追求しないほうがいいだろう。

黒柳を困らせて得することは何もないからな。

今は気にしないでおいたほうがいい。

「実験を終わらせよう」

最後の実験のために歩みを進めると、
黒柳と西園寺が追いかけてくる。

「一応、確認するが、準備はもう良いのか?」

念の為に確認を取ってみると、
徐々に冷静さを取り戻した黒柳が即座に周囲の確認を行い始めた。

「どうだ?」

問い掛ける黒柳に…

「大丈夫です」

西園寺は即座に返事を返す。

職員達はすでに各所に配置されているようだ。

「いつでも始められます」

「そうか」

確認を終えた黒柳が俺に視線を戻す。

「準備完了だ。始めてくれ」

「ああ、わかった」

黒柳の許可が出た事で両手を頭上にかざして再び魔術を発動させることにした。

「テンプテーション!!!」

宣言した魔術名が実験室内に響き渡り。

試合場に匹敵する誇大な面積を包み込むかのように広範囲の結界が発動する。

その直後。

「「「ぐっ…!?」」」

「「「うあっ…?」」」

「「「…かっ!?」」」

「「「ぅ…ぅっ?」」」

次々と研究員達が崩れ落ちていった。

その影響は瞬く間だっただろう。

黒柳が予測していた通り。

5秒と持たずに全ての職員達が立っていられなくなったようだ。

もちろん魔術を発動できる者など一人もいないように思える。

「計測はどうだっ!?」

現在の状況を判断するために、黒柳の怒声が飛ぶ。

「状況を報告しろっ!!!」

各所へと指示を出す黒柳に、次々と報告が伝えられていく。

「…おおよそ終了しました!結界の分析結果が出ます!!」

「こちらも計測出来ました!職員全員に結界の影響が出ています!」

「…測定完了です!結果が出ました!!誤差は±3センチ程度。指定範囲全域に結界が展開されているのが確認できました!!」

複数の職員からの報告が飛び交う中で、
俺の観測をしていた観測員が最後の報告を黒柳に行った。

「魔力の計測も完了しました。魔力の減少量は先ほどの実験とそれほど違いが見られません。結界の規模自体は10倍ほどに拡大しているはずですが、魔力の消費量は2割ほど増した程度だと思われます。この量なら全職員が対応できる範囲内です。」

魔力の消費量に関する調査も無事に終わったようだな。

その結果として、黒柳が俺に視線を向けて実験終了を宣言してくる。

「実験は終了だ!結界を解除してくれ!!」

黒柳の指示を受けたことで、即座に結界を解除した。
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