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THE WORLD 作者:SEASONS

4月5日

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行動不可能

「結界を発動させる!『テンプテーション』!!」

右手に集めていた魔力を一気に解放する。

その瞬間に、異変が起きた。

「くっ!?ぐああああああっ!!!!!」

一瞬にして黒柳の表情が歪み、
崩れ落ちるように片膝をついて両手で必死に体を支え始めたからだ。

「ぐう…ああああああっ!!」

見た目に変化はないものの。

明らかに苦しんでいる。

それだけははっきりと分かる状況だった。

「これ、が、君、の、魔術、か…?」

先ほど試合場で感じていたように、
現在の黒柳も何らかの異変を感じているようだ。

「これ、は、きつい…」

「所長っ!!」

苦しむ黒柳を心配そうに見つめていた西園寺が救いの手を差し伸べようとしていたが、
踏み込めたのは最初の一歩だけで、すぐに歩みを止めていた。

自分の役割を思い出したのだろう。

苦々しげな表情を浮かべながら黒柳に話しかけている。

「所長…。魔術を使ってください。」

少しでも実験を進めようとする西園寺だが、
黒柳に返事を返す余裕はないようだ。

「…すまない、が、展開、出来ない。いや、そもそも…」

ボソボソと小声で話す黒柳の声は俺には聞き取れなかった。

比較的すぐ傍にいる西園寺でさえも、
黒柳の言葉を聞き取る事が出来ないでいる。

「所長?」

黒柳の言葉を聞き取るために西園寺がさらに一歩前へと踏み込んだ瞬間。

「うああっ…」

不意に黒柳が倒れ込んだ。

「しょ、所長っ!!」

急いで黒柳に駆け寄ろうとする西園寺だが、
展開中の結界に阻まれてしまって手を伸ばす事が出来ないでいる。

「所長っ!!!!」

大声で叫んだ声が届いたのだろうか?

倒れた黒柳が微かに頭を動かして、
結界の外にいる西園寺に視線を向けた。

「だ、だい、じょう、ぶ…だ。」

とぎれとぎれだが必死に言葉を紡いでいる。

まだ意識があるようだが、それでもかなりの混乱が見られ状態だ。

その症状を考慮すれば実験は成功だろうか?

魔力だけではなくて精神的にも撹乱作用が起きているようだからな。

おそらく魔力の乱れが精神にも影響を及ぼしているのだろう。

魔力が尽きれば意識を失って昏倒するように、
魔力が狂い出すことで意識にも影響を及ぼすのかもしれない。

その辺りの検証は後々行うとしても、
もうろうとする黒柳は魔術を使うことが出来ないでいるようだった。

「調査はもう十分だな?」

これ以上の調査は必要ないと判断して、
結界を解除してから黒柳に話しかけることにする。

「どうだ?動けるか?」

結界が解除された事で多少は気分が良くなったのだろうか?

黒柳はふらつく頭を手で押さえながら、
西園寺の手を借りて立ち上がった。

「なんとか、な。予想範囲内ではあるが、それでも副作用がきついな。魔術を展開するどころか、意識を維持するだけでも一苦労だった。これでは他の職員達では調査どころか5秒ともたないかもしれない」

実際に感じた経験を話してから、
黒柳は隣にいる西園寺に問いかけた。

「影響があったのは俺だけか?」

他の職員達に影響がなかったかどうかを確認する苦労柳だが、
その心配が不要なことは西園寺自身が証明している。

「拘束結界の影響を受けたのは所長だけです。最も近くにいた私にも影響がなかったので他の職員に影響が及んでいるとは思えません。まだ正確な観測結果は分かりませんが、今の実験だけでも十分な情報は得られたと思います。少々、ふに落ちない部分はありますが、拘束結界はおおよそ完成したのではないかと思います」

自分達にできなかったことがあっさりと行われたことを気にしているのだろう。

目の前で起きた現実をまだ認められないのか、
西園寺はこちらに睨むような視線を向けている。

「私にはまだ理解できませんが、求めていた結果に限りなく近い現象を確認しました。彼が宣言するように拘束結界の理論は完成したと認めるしかないようです」

「…そうか。」

黒柳は短く答えてから再び俺に視線を向けてくる。

「理論自体は完成したようだな。」

「ああ。結果論にはなるが期待通りの結果は出せた。これで黒柳や西園寺なら魔術を使用できることも証明されたはずだ」

「そうだな。実際に試してみなければ確実なことは言えないが、俺と西園寺君なら君の理論を忠実に再現できるだろう。」

魔術を使えなくする為の拘束結界。

その第一段階は終了した。

俺の宣言通り、拘束結界の実験は成功したからだ。

「既存の理論とはかけ離れてしまったが、結果さえ出れば文句はないんだったな?」

念の為に西園寺に問いかけてみると、
西園寺はしぶしぶといった表情で頷いてみせた。

「ええ、私から言うべきことは何もないわ。」

不満は感じていてもそれを口に出すつもりはないようだ。

まだまだ険悪な雰囲気は消えないものの。

これまでの態度を思えば少しは話し合いの余地が出たと言えるかもしれない。

「なら、俺から言うべきことも何もないな」

西園寺と口論するためにここにいるわけではないからな。

西園寺が実験結果を評価してくれるなら今はそれだけで十分だ。

これで、少しは話しやすくなるだろう。

最終的な理論構築は大幅に変更された形になったものの。

望んでいた結果は出せた。

西園寺も研究者の一人として、結果を受け入れるつもりのようだ。

今では大人しく職員達からの報告を受けて黒柳に調査内容を伝えている。

ひとまず結果が出せたことは喜ぶべきだな。

自分でも予想以上に上手くいったと思うからだ。

元々、黒柳が考えていた理論も間違いではなかっただろう。

だが。

幾つもの問題があるせいで、
そこから発展させる事は難しいと判断して早々に改良を諦めることにした。

その決断が現在の結果につながったわけだが、
俺の考えた魔術が正解とは限らないと思う。

結果さえ出せれば手段は問題じゃないからな。

最終的な目的さえ達成できるのであれば
どういう理論であってもいいと思う。

だから、というべきかどうかは難しいところだが、
黒柳の理論も突き詰めれば一つの魔術として完成する日が来ると思う。

現時点では非常に複雑だったが、
期待する魔術の効果を比較するなら黒柳の理論のほうが汎用性は高いだろう。

完成すれば、だがな。

黒柳が考えた理論は結界の内部に『特殊な電磁波』を発生させて、
対象の魔力そのものを拡散するというものだった。

そのうえで対象者を痺れさせて逃亡を防ぐという効果も期待していたようだ。

確かにそれでも実現可能だとは思う。

人体に影響を及ぼすほどの電磁波が生み出せるのなら十分な成果を期待できるだろう。

一種の雷撃だからな。

使用者を限定することなく、
あらゆる場面で使用できる汎用性は高いと思う。

だがその反面として電磁波に対して耐性のある魔術師か、
あるいは俺のようにあらゆる魔術の効果を分解出来る相手に対しての効果は期待できないように思えてしまう。

この方法では効果のある人間と全く影響のない人間の二つの結果に別れてしまうからだ。

そこで新たに考えたのは直接影響を与える方法ではなくて間接的に干渉する方法だ。

つまり、物理的な影響や属性的な攻撃ではなく。

精神的な影響を与えて行動に制限をかけるという方法を考えることにした。

思考そのものを妨げるといってもいい。

精神攻撃をしかけることで魔力を扱えなくすることを目的として理論を構築していた。

その手段として目をつけたのは電磁波と同様に視覚では認識できない『音』だ。

結界内部において特殊な『超音波』を発生させることで対象の自律神経を刺激して思考能力を狂わせるという手段になる。

視界が歪むほどの刺激を与えれば、
誰であろうとまともな思考能力を維持できないだろうからな。

魔術の理論を展開する為の冷静さを失わさせることで、
『魔術が使えなくなる』という現象を間接的に起こしている。

そのせいで結界の発動から実際の影響が出るまでに多少の時間差が生まれてしまうものの。

誤差と言える範囲内だと思う。

対象者が解呪系の魔術を使用しようとしても発動が間に合うことはないからだ。

それこそ圧縮魔術で解呪系の魔術を用意していない限り。

迎撃を行う前に思考が乱されて魔術が封じられることになるだろう。

そして一度発動してしまえば内部においての魔術の使用が出来なくなる。

誰であろうとも内側から破壊する事は不可能になるということだ。

事実上の封印だな。

さすがにこの状況からは俺も逃れられないだろう。

結界を破壊する為には超音波を発している結界そのものを攻撃しなければならないのだが、
黒柳のようにふさぎ込んでしまってはルーンを振り回すことさえできないはずだ。

無理に吸収の為の力を発動させようとしても、
乱された思考能力では本来の能力を発揮する事が出来ないだろう。

なおかつ結界から脱出しようとしても、
真っすぐに歩く事さえままならない状態では外へ向かう事さえ難しいと思う。

仮に結界に触れられたとしても物理的な力で魔術を破壊するのはまず無理だ。

だからこそ。

外部から結界に攻撃する事は簡単だとしても、
内部からは傷一つ付ける事さえ困難になる。

それが新たに考えた理論だった。

「結界の理論に関しては問題ないな?」

報告を聴き終えた黒柳に問いかけてみると。

「ああ、十分だ」

黒柳は満足そうに頷いてから次の段階へと動き出した。
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