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THE WORLD 作者:SEASONS

4月5日

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両方に

「おはよ~龍馬!元気してる~?」

元気よく声をかけてみると、
私に気づいてくれた龍馬も微笑みを返してくれたわ。

「やあ、翔子。おはよう」

いつもの席に座って何かの書類に目を通してる途中だったようね。

仕事中に邪魔して申し訳ない気がするけど、
とりあえず龍馬に歩み寄ってみることにしたわ。

「今は一人なの?」

「ああ、そうだよ。今日はまだ誰にも会ってないからそのうち来るんじゃないかな?」

そうなんだ?

まあ、他の人達に用があるわけじゃないからどうでもいいんだけどね。

とりあえず今は龍馬一人だけみたい。

「今日も仕事をしてるのね~。」

そんなふうに思いつつ龍馬に歩み寄ってみると。

「翔子も見るかい?」

龍馬は手元にあった書類の束を差し出してくれたわ。

「私も見ていいの?」

「ああ、構わないよ」

書類を受け取って視線を向けてみる。

真っ先に目に入る見出しには…。

天城総魔に関する報告書って書かれていたわ。

「これって…」

すぐに気付いてしまう。

この書類は私が用意して理事長に渡した物だからよ。

それが今は龍馬の手にあって、
それを今は龍馬が見ているの。

何故か?なんて考えるまでもないわよね。

龍馬は既に察していたのよ。

「ここへ来たのは僕を呼び出す為、かな?」

あ~、うん。

龍馬の質問に静かに頷いたわ。

「ええ、そうよ。最後の対戦。その試合を用意する為に交渉に来たの」

そう。

ここへは交渉に来たの。

すでに龍馬は試合をする必要のない地位にいるからよ。

戦って勝っても得るものはなくて、
負ければ降格となるだけの試合でしかないの。

試合会場にいれば格下との試合は義務化されるけれど、
会場の一歩でも外に出ればそんな義務は存在しないわ。

会場に向かわない限り、試合をする義務は発生しないからよ。

だから総魔がどれほど待ち続けても、
龍馬が会場に来ない限り永遠に頂点に立つ事が出来ないの。

だからこそ、交渉する必要があるのよ。

龍馬が勝った時に利益があるように、
負けて降格するに見合う何かを用意する必要があるの。

だけど、何を用意すればいいかは分からない。

「どうすれば試合を受けてくれるの?」

そんなふうに問い掛けながらも、
龍馬がどんな返事を返すのかをすでに理解してる。

龍馬は何も求めない、ってね。

損得勘定で動くような性格じゃない事は知ってるからよ。

だからこれは茶番でしかないわ。

何度も繰り返されてきたしきたりに従っているにすぎないのよ。

だから龍馬はいつものように答えるって分かってる。

そんな儀式じみた交渉に対して、龍馬は笑顔で答えてくれる。

まるで気にしてないかのように。

負ける事など考えていないかのように。

笑顔を浮かべながら答えてくれるの。

「いつでもいいよ」

その一言だけだったわ。

交渉の条件なんて何一つとして存在しないのよ。

「誰の挑戦でも受けるよ。そうやって頂点に立ち続ける事が僕の役目だからね」

龍馬の役目。

それこそ最強の名を冠する男としての役割なんでしょうね。

決して逃げる事なく挑戦者と正面から向き合って、どんな相手にも圧勝して見せること。

絶対に揺らぐ事のない最強の座。

それこそが学園の治安を任される特風の支配力なんだから。

この学園だけじゃなくて町全体。

そして国全体の安定の為に最強の力を持って治安を守り抜く事。

それが龍馬に課せられた使命なのよ。

沙織と同じように他国から亡命してきた過去を持つ龍馬にとってもこの国は守るべき存在らしいわ。

最強の座にいながらも決して卒業する事なく学園に残り続けている理由。

その一つが『平和の為』だって聞いたことがある。

もちろんそれ以外の理由もあるんだけど、
その理由を知る人は少ないでしょうね。

「時間は翔子に任せるよ」

「ん~…」

龍馬の許可を得たことで、再び頭を悩ませることになっちゃったわ。

総魔と龍馬の両方に任せるって言われてしまったのよ?

これはこれで困るわよね~。

独断で決めてしまっても良いのかな?って困ってしまうからよ。

そんな私の表情を見ていた龍馬は笑ってる。

「そんなに深く考える事はないよ。どういう結果になるにせよ、翔子が気に病むような事はないんだからね」

「それはそうなんだけど~」

龍馬の言うとおりだとは思うけれど、
だからと言って気にならないわけないじゃない。

自分が参加しない試合の予定を独断で決めるのはやっぱり難しいと思うのよ。

だけど…。

龍馬の言うとおりでもあるのよね~。

二人に任されるって言われたんだから、
ああだこうだと悩むのは時間の無駄に思えるわ。

うんうん。

私が決めていいみたいだし、遠慮なく決めちゃおうかな?

言われるままに気楽に考える事にしてみる。

そもそも誰かに気を使うとか、
考えても答えの出ないような事を難しく考えるのは苦手なのよ。

どちらにも任せるって言われたんだから、
ここは気楽な気持ちで適当に決めちゃってもいいんじゃないかな、って考える事にしたわ。

「それじゃあ、午後7時くらいでどう?」

午後7時。

その時刻丁度に試合を行うっていう意味じゃないわよ?

それぐらいの時間に集合でいいかなって考えただけ。

遅ければ遅いほど総魔の魔力と体調は回復していくわけだしね。

私としては明日まで待ってもいいとは思うけど、
総魔にしてみれば早い方がいいかもしれないし。

だから少しだけ時間をおいて、今日の最終時刻に試合を調整したわ。

会場の閉門は8時。

7時集合で試合を始めれば、
終わる頃には8時に近づくはず。

そして今回も私が受付を妨害すれば、他の生徒の挑戦を防ぐ事が出来るわ。

総魔と龍馬。

どちらも私にとって守るべき仲間で友人なのよ。

弱ったところに追い打ちをかけられて降格なんて笑えないわ。

幾つかの条件とかその後のことを考えればそれぐらいが妥当かなって考えたの。

そしてもちろん龍馬も似たような事を考えたと思う。

素直に承諾してくれたからよ。

「わかった。午後7時頃に会場に向かうよ」

「おっけ~。じゃあ、私は総魔にも話を付けて来るわね」

話し合いを終えてから、私は駆け足で会議室を走り去ったわ。
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