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THE WORLD 作者:SEASONS

4月5日

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貴女なら

《サイド:米倉美由紀》

はあ…。

作戦失敗ね。

その言葉が頭の中を駆け巡っていたわ。

なおかつ。

私の戦力が完全に天城君側へと流れているのよ。

ここまで絶望的な状況に追い込まれたのは初めてだわ。

このままだと学園の均衡が崩れかねないでしょうね。

その危機感が心の中を渦巻いているのよ。

追い込まれすぎて、計画を急ぎすぎたのは確かね。

味方が減ったことに焦りを感じて根回しが追いついていなかったのよ。

このままでは御堂龍馬からの信頼さえ失いかねないわ。

だとしたら。

もしもそうなれば…。

御堂君に肩入れする北条君も私から離れてしまうかもしれないわね。

さすがに、それはちょっと問題が大きすぎるわ。

学園を維持するために対策を講じているのに、
それらが全て裏目に出ているよ?

本気で悔しく思えてしまうわね。

この状況はもうダメだと思うわ。

まさしく最悪の状況に向けて一直線に進んでいるようにしか思えないからよ。

なんとか沙織を説得しないと守るべきものを全て失うことになるかもしれないわね…。

そんな絶望を実感すると共に、失敗続きの自分に憤りを感じてしまうわ。

稀代の策士と呼ばれた私がこうも追い込まれるなんて、ね。

作戦立案能力に関しては多くの人々から認められていたのよ?

だからこそ国を代表するものとして選ばれていたの。

それなのに。

たった一人の生徒を制御できないどころか、
自分の立場さえ失いかねない状況にいるという事実が私の心を蝕んでいるわ。

ホントに、ままならないわね…。

もう打つ手がないのよ。

諦めにも似た心境の中でも沙織の視線は冷たく突き刺さったままだし。

下手な言い訳は通じないと思うわ。

そこまでの状況に追い込まれたことで、小さくため息を吐いてみた。

「はあ。どうしてこうも上手くいかないのかしらね」

どう考えても短い時間で次の策を考える余裕なんてないわ。

ここは敗北を認めるしかないのよ。

「素直に謝っておくわ」

「…では、説明していただけますか?」

何度も問いかけてくる沙織の言葉が重くのしかかってくるわね。

言葉は丁寧だけどね。

こういう圧力をかけるような話し方は沙織が本気で怒っている時よ。

だからこれ以上、沙織との関係が悪化するのを防ぐために全てを説明することにしたわ。

「そうね」

もはや隠し通せないでしょうし。

こうなったら話すしかないわね。

どうする事も出来なくなったことで、
下手に茶を濁すような発言を控えて本心を語る事にしたわ。

「説明の前に一つだけ聞かせてもらうけれど、天城総魔に関して、あなたはどう考えているのかしら?」

「………。」

突然の質問に、今度は沙織が言葉を詰まらせているわね。

どう答えるべきか考えているのかしら?

少し思案してから沙織は口を開いたわ。

「単純な善悪基準は分かりませんが、恐れるような人物ではないと判断しています」

「その根拠は?」

「ありません」

はっきりと宣言する沙織だけど、
その言葉を聞いたことで再びため息を吐きたくなってしまったわ。

「はあ。それじゃ困るのよ。あなたも、それは分かっているはずよね?」

沙織もわかっているはずなのよ。

だから私の指摘が胸に突き刺さったのかしら?

これまで冷たい視線を向けていた沙織の表情から怒りが消えて、
どこか戸惑うような表情に変わったわ。

どうして私が天城総魔に固執するのか?

その理由を沙織は知っているからよ。

だけど。

それでも天城総魔に敵対する事を抑えたかったのでしょうね。

でも、ね。

沙織がどう思うかに関係なく。

私達を取り巻く環境が私達の自由を許してくれないのよ。

天城総魔に限らず。

私も沙織も翔子もそうなの。

あらゆる魔術師はその存在を『否定』されているのよ。

風水師や陰陽師などの能力者とは違って、
魔術師は世界からその存在を認められていないの。

辛く険しい修業を乗り越えてようやく辿り着ける他の能力者とは根本的に違うのよ。

魔術師は持って生まれた才能に大きく影響するから。

生まれながらにして魔力を持っているから。

自由自在にその力を行使出来てしまうの。

もちろん何の努力も必要ないかと問われれば答えは否だけど、
それでもある程度簡単な事は出来てしまうのよ。

『魔力と魔術』

それらはその名の示す通り、悪魔の力を使う術でもあるわ。

魔術師の能力を恐れる者は圧倒的に多くて
世界各地で魔女狩りなどの争いまで起きるほどなのよ。

それほど魔術師は悪魔に等しいと思われているの。

そういった思想が世界中に広がっていて、
今でも世界中で残酷な虐殺が起きているわ。

そういった苦しみから逃れようとして世界各国からファンテリナ魔導共和国へ逃げて来る者が後を絶たない状況なのよ。

だからあらゆる魔術師達にとって『最後の楽園』と言っても良いこの国の代表を務める私が背負う重責は決して小さくはないわ。

隣接する他国からの脅迫めいた抗議文や降伏勧告とか、
ありとあらゆる苦情が私の元へと届けられるしね。

その緊迫した情勢の中で少しでも弱みを見せれば容赦無く戦争の手が共和国全土に広がってしまうのよ。

そうならないために。

この国の平和と安定を願って毎日のように外交と交渉を繰り返す私からすれば、
圧倒的な能力を持ちながらもその素性が一切不明という人物は恐怖の対象でしかないわ。

この国にとってどんな影響を及ぼすか分からない天城総魔という人物は危険視するに値する存在でしかないのよ。

そんな正体不明の危険な存在を押さえる事も出来ずに何もできないまま見逃したとなれば、
それを機に共和国は他国の侵略を受けることになってしまうでしょうね。

それほど他国との関係は不安定な状況なのよ。

そういう状況の中で、
私は数え切れないほど多くの国民の命を背負っているの。

大切な民の命を守る為にはね。

どんな些細な事にも気を抜かずに対処出来るようにしておかなければならないのよ。

もちろん私が守るべき命の一つには沙織も含まれているわ。

沙織も他国から亡命してきた一人だったのよ。

家族と共に他国から亡命してきた過去を持っているの。

だから私にとって沙織は守るべき一人なのよ。

そう思っているからこそ沙織に対しては本心で話せるの。

誰よりも絶望を知っているから。

そして誰よりも悲しみを知っているから。

沙織には理解してもらえると信じているのよ。

「貴女なら、分かるわよね?」

再び問いかけた言葉に沙織はしっかりと頷いてくれたわ。

まあ、理解してくれるって信じていたけどね。

家族に守られながら命からがらこの国へと逃げ込んできたことで、
今ではこの学園で暮らしている沙織だけど。

学園の外の町に帰れば家族が待つ家があるのよ。

すでに卒業出来るだけの力を持っていながらも、
いまだに沙織が卒業せずにこの学園で治安維持に全力を尽くしている理由がそこにあるの。

この町の治安を守ることで、
この国に住む『家族』を守る事が出来ると信じているからよ。

だけど…それでも沙織は思うのでしょうね。

天城総魔は敵ではない、と。

それを理解してほしいって願っているのは分かるわ。

私も馬鹿じゃないしね。

そんな沙織の気持ちは十分過ぎるほど察してるのよ。

だけどね。

この国を代表する者として、そう簡単に割り切るわけにはいかないの。

「問題が起きてからでは遅いのよ」

何かがあってからでは遅いわ。

戦争が始まってしまってからでは取り返しがつかないの。

平和と安定の為に。

私は常に考え続けなければいけないのよ。

だからこそ決意してみる。

「ねえ。沙織」

優しく語りかけてみる。

その言葉には優しい想いを込めているつもりだったわ。

「私の話を聞いてくれる?」

「…はい。何でしょうか?」

心を落ち着かせて返事をする沙織だけど、
沙織の目には本当ならこのような追求なんてしたくなかったっていう気持ちが感じられるわね。

だから今は、その気持ちだけで十分だと思うわ。

「私には背負わなければいけない義務があるの。それは分かってくれるわよね?」

「…はい。理解しているつもりです」

「だったらお願い。天城総魔に対する抑止力として、私に力を貸してくれないかしら?」

すがるような表情で沙織に視線を向けてみたわ。

今の言葉には一切の裏なんてないからよ。

心を込めた本心からの一言なの。

力を貸してほしいっていう微かな願いなんだけど、
沙織はゆっくりと首を左右に振ってしまったわ。

「理事長の気持ちは分かります。ですが、私には翔子を裏切る事が出来ません」

翔子のため、ね。

それが沙織の本当の気持ちなのでしょうね。

天城総魔の為ではないのよ。

もちろん私の為でもないわ。

ただ翔子の為に。

沙織は私の手を離れて別の道を歩む事を選んだようね。

そんな沙織の言葉を聞いて小さくため息を吐いてみる。

願いは届かなかったのよ…。

そう実感したけれど。

落ち込む私に、沙織が言葉を続けてくれたわ。

「…ですが」

今度は沙織が優しく語りかけてくれたのよ。

「今後も協力する事はお約束します。実験に関しては仕方のない事情があるのだと分かりました。ですので、もう追求はしません。今までどおり、今後ともよろしくお願いします。ですがただ一点だけ『天城総魔に関して以外』という条件付きにはなりますが…」

沙織が譲歩してくれたわ。

それだけでも大きな前進に思えるわね。

「そう言ってもらえるだけでも助かるわ。ただ、私からも一つだけお願いを聞いてもらえないかしら?」

「はい。何でしょうか?」

「天城総魔に関してもしも何らかの問題が生じた場合。私はこの命に賭けてでもその問題を解決しなければならないわ。だけど、ね。そうなってしまった時に沙織に味方であってほしいなんて贅沢は言わないから。お願いだから、せめて私の敵にはならないで」

私からのただ一つの願い。

その願いを沙織は心に刻み付けてくれたようだったわ。

「分かりました。お約束いたします」

私の願いを聞き入れて、沙織は頭を下げてくれたのよ。

「ありがとう」

微笑んでみると、沙織も微笑みを返してから理事長室を退出していったわ。
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