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THE WORLD 作者:SEASONS

4月5日

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二箇所

「総魔、大丈夫!?」

翔子は一目散に俺へと駆け寄ってきた。

心配そうな表情の翔子だが、
北条によって受けた怪我は回復魔術ですでに治りつつあるから怪我自体に大きな問題はない。

わざわざ心配してもらわなくてもあと数秒で完治するだろう。

強いて言うなら北条との試合もかなりの魔力を消耗する結果になってしまったことが問題だろうか?

魔力の残存量は半分を下回っているからな。

ヘイストの連続使用で魔力を費やしたために余力はあまりない状況だ。

そのうえで残った魔力を消耗して治療を行っているからな。

最終的な魔力の収支は減少と判断するべきだろう。

もちろん最後の一撃で北条から奪った魔力は残っているが、
それを含めても半分以下だ。

あまり余裕があると言える状況ではないな。

だがそれでも沙織との試合に比べればまだましだろうか。

魔力が底を尽くほどの状況ではないだけまだかしかもしれない。

もちろんここで北条の治療を行えば再び魔力を失うことになるのだが、
現時点では沙織が北条の傷の手当を行っているからな。

俺が手を出す必要はないだろう。

「頑張って、北条君!」

意識のない北条に呼びかけながら、沙織が懸命に治療を行っている。

その様子を眺めつつ。

北条によって受けた傷の治療を終えたことで、
いまだに心配してくれる翔子に一言だけ伝えておくことにした。

「俺のことなら心配する必要はない。」

「そう?それならいいけど、あんまり無茶はしないでね」

「ああ、大丈夫だ」

ほっと安堵の息を吐く翔子から視線を逸らす。

そしてまだ試合場の傍にいる西園寺へと歩み寄ることにした。

さあ、次は西園寺の順番だ。

話を聞かせてもらおうか。

翔子と沙織は何も知らないだろうからな。

倒れた北条は目覚めない。

この状況で気付いているのは俺だけだ。

そして今ここで全てを知っているのは西園寺だけだろう。

実験の裏で行われていた本当の目的を聞くために、西園寺の前に立ち塞がる。

「一応、確認しておくが」

「う、うぅ…。」

どうやらすでに逃げられないと感じているようだな。

西園寺は怯えるような瞳で俺を見つめながら、
金縛りにあったかのように立ち尽くしている。

「俺が何を聞こうとしているか?すでに分かっているな?」

「っ!?」

問いかけた瞬間に、
西園寺は小さく体を震わせてから慌てて視線を逸らした。

やはり何かを隠しているようだ。

だが、そんな西園寺の行動が理解できない者達がいる。

「?」

翔子と沙織は状況が理解できずに戸惑っているようだった。

「何なの?」

翔子が疑問を口にするが、西園寺は何も答えない。

恐怖の為だろうか。

表情を引きつらせている西園寺は堅く口を閉ざして会話を拒絶していた。

その態度からは西園寺の意志の強さを感じ取れるが、
だからと言って追求を諦める理由にはならないからな。

西園寺が話すまで淡々と問いかけることにしてみる。

「一体、実験で何をした?」

「な、何を言ってるの?ちゃんと説明したでしょう?」

「その説明とは異なる実験を行っていたはずだ」

「え?そ、そんなことは…ないわ。」

嘘をつけない性格なのだろうか?

西園寺は芝居がかった驚きを表情で示してから、
話をそらすかのようにあたふたと口を開いている。

「な、なにを言ってるのか私にはわからないわ。さ、最初に言ったでしょう?私達は新たな結界の調査をしていただけよ。だ、だからやましいことなんて何もないし、き、聞かれて答えられるようなことなんてそれこそ何もないわっ」

何度も言葉を詰まらせながら必死にとぼける西園寺だが、
そんな言い訳を信じるほど馬鹿ではないからな。

徹底的に西園寺を揺さぶるために、再び追求を続けることにした。

「もう一度聞く。実験で何をした?結界の実験『以外』の何かを、行っていたはずだ」

「ぅ…ぅぅ…」

何度も問いかけることで西園寺は冷や汗を流し始めている。

そして明らかに挙動不審な態度で視線を泳がせていた。

間違いなく誰かに助けを求める態度だな。

だとすれば泳いだ視線の先に誰かがいるはずだ。

西園寺はどこを見ている?

さりげなく確認してみる。

西園寺が見つめていたのは会場の入り口方面と会場の奥だろうか?

それぞれ真逆の方向だが。

二箇所に視線を向けた西園寺の行動を推察するなら、
それら二箇所からこちらが観察されているのは間違いないだろう。

おそらく一方は黒柳だ。

だがもう一方は?

入り口方面には黒柳がいたはずだが、
会場の奥には誰がいるのだろうか?

考えられる可能性はそれほど多くはない。

だがそれは候補として上がる人物を知らないからだ。

まだ会ったことのない人物だった場合は推測することさえ出来ないだろう。

…まあ、いい。

会場の奥に誰がいるのかは知らないが、
今は実験の内容を確かめるのが先決だからな。

そう判断してから再び問いかけようとしたのだが、
その前に西園寺が言い訳を続けた。

「…じ、実験は結界に関してよ。本当よ。それ以外の意味はないわ。だから信じて」

信じて、か。

明らかに嘘をついている言動だな。

発言そのものが説明からかけ離れた懇願こんがんになってしまっているからだ。

誰の目から見てもわかる不審な態度だが、
西園寺の職務上しょくむじょう説明するわけにはいかないのだろう。

身の危険を感じるほど怯えていながらも、
堅く口を閉ざして話し合う事を拒絶しているからな。

これ以上の追求は無理に思える。

力付くで情報を引き出す事は可能かもしれないが、面倒な手段はとりたくないからな。

無抵抗な相手を拘束して拷問にかける趣味はない。

説得も威圧も通じないのなら、ひとまず諦めるしかないだろう。

それに話を聞き出せる相手は西園寺だけではない。

その気になればいつでも調査はできるだろう。

調べる方法は他にもあるからな。

西園寺がダメなら他の人物を問い詰めればいいだけだ。

今回の実験に関与している職員は西園寺と黒柳を除いても17人いる。

西園寺がダメなら、他を当たればいい。

そう判断したことで、西園寺への追求を諦めて倒れている北条へと視線を向けることにした。

「………。」

北条は未だに目をさまさない。

翔子や沙織ほどの重傷を負っていないために沙織の魔術でも十分治療が間に合っているようだが、
それでもまだ北条に目を覚ます気配はなかった。

まあ、当然だな。

体の治療は出来ても、失った魔力は戻らないからな。

最後の一撃で北条の魔力は全て魔剣に流れた。

そして流れた魔力を吸収して怪我の治療を行ったことで俺の魔力は安定している。

だが沙織の魔術では傷の治療は出来ても魔力の供給までは行えないからな。

断ち切られた魔力が元に戻るまで北条は目を覚まさないだろう。

それは仕方がないのだが…。

おそらく、目を覚ましたとしても北条も何も知らないだろう。

なおかつ北条の最後の言葉を考えれば、
俺が治療する事を望まないはずだ。

『敗者に情けをかけるな』という北条の気持ちを察して今回は治療を放棄している。

ふう。

…仕方がないな。

再び視線を西園寺に戻してみる。

相変わらず西園寺は緊張した表情を見せている。

「………。」

頑なに口を閉ざす態度は変わらないか。

嘘を付くのは下手なようだが、かといって口が軽いというわけではないようだ。

単純な駆け引きで情報を引き出す事は難しいだろう。

今回は見逃すしかないな。

大人しく西園寺を解放する事にした。

「まあいい。好きにしろ」

そう言って西園寺に背中を向けると、
西園寺は背後でほっとため息を吐いていた。

なるほど。

嘘は付けないが口は堅いという判断だったようだ。

黒柳が西園寺をここへ送り込んだ意味がようやく分かった。

情報の漏洩さえ起きなければ俺が勘づくかどうかはどうでもいいのだろう。

実験を強行してでも完成させることさえできれば誰に何を思われようと問題なかったということだ。

だとすれば、なおさら追求してみる価値はあると思う。

西園寺は喋らないが、方法は幾つもあるからな。

怯えて震える西園寺を気にするのをやめて、北条に歩み寄ることにした。

「手を貸そう」

北条の体を起こせずに苦労している沙織の代わりに北条の体を引き起こす。

本来なら係員や救命医療班が駆け付けるのだが、
実験の人払いによって会場内に他に誰もいない為に北条の体を医務室に運ぶことにした。

「行くぞ」

戸惑う翔子と沙織に声をかて会場を出る為に歩き出す。

そのあとを追う翔子と沙織が会場を離れたことで、
会場内にはただ一人、西園寺だけが取り残された。
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