挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
THE WORLD 作者:SEASONS

4月5日

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

134/4820

西園寺つばめ

《サイド:天城総魔》

翔子と沙織の二人と離れたあと。

一人で会場の内部に進んでみたのだが、
複数の試合場がある広大な会場内は何故か異様な静けさに包まれている。

あからさまに不自然な状況だ。

何らかの罠が仕掛けられていると考えておくべきだろうか?

どこに向かうべきなのか、肝心の試合場の指定はなかったが。

向かうべき場所は一目で分かった。

今回の試合場は検定会場の中央になるC-3のようだ。

そこには俺の到着を待っている北条と何らかの実験準備を行っている技術者達がいるからだ。

何人か見知った顔もいる事から研究所の職員達なのは間違いないだろう。

試合場で何が行われているのだろうか?

その答えがわからないまま試合場に足を進めてみると。

北条が明るい笑顔を見せながら出迎えてくれた。

「よう!調子はどうだ?」

「ああ、問題ない」

「そうかそうか、それなら心配いらないな」

昨日と変わらない笑顔を振りまく北条だが、
今は他に気にすべきことがある。

試合場の周囲で行動している研究所の職員達の存在だ。

彼らに視線を向けながら北条に問いかけてみることにした。

「これは何をしているんだ?」

他には誰もいないこの会場で十数人の研究者達が何らかの準備を着々と進められている状況だからな。

疑問を感じないわけがない。

一体、ここで何が行われようとしているのだろうか?

その質問に対して北条は『自分が聞かされている話』を教えてくれた。

「俺も詳しい話は知らないが、俺達の試合なら結界に対してもかなりの衝撃があるだろうからな。その耐久実験がしたいってことらしいぜ」

結界の耐久実験?

その言葉を聞いてすぐに研究所で見た実験を思い出した。

確かに今のこの状況はあの時と酷似しているだろう。

実験という意味であれば試合場が会場の中央であることも、会場を立入禁止にしてまで部外者を外へ出したことも納得は出来る。

だが、本当にそうなのだろうか?

北条の言葉を疑うつもりはないが、それだけではないような気がする。

何か別の目的があるはずだ。

そんなふうに考えていると、
見覚えのない一人の人物が歩み寄ってきた。

「ちょっといいかしら?」

話しかけてきたのは白衣を着た女性だ。

凛とした雰囲気を感じさせる人物で、
ひと目で気が強そうな性格に思えた。

「先に自己紹介を済ませておきますが、私はルーン研究所で副所長を勤めさせていただいている『西園寺さいおんじつばめ』と申します」

ルーン研究所の副所長ということは黒柳の直属の部下だろうな。

礼儀正しく頭を下げる西園寺は長い黒髪を団子状に束ねていて、
眼鏡の奥にある猫のような目が印象的な女性だ。

清潔感を表すかのようなシワ一つ無い白衣を身にまとい、
微かな消毒液の匂いを漂わせている。

どことなく冷たい印象を感じさせるせいか、
人当たりの良い黒柳大悟とは対照的に思えてしまうな。

少なくとも、友好的な人物ではないだろう。

はっきりと心の壁を感じさせる話し方だからだ。

事務的な対応に思えるが、
もちろんその程度の事で不満を感じるつもりはない。

俺も似たような性格だからな。

ひとまず黙って話を聞いていると。

西園寺は淡々とした口調で説明を続けていった。

「すでにある程度のご理解をいただいていると思いますが、今回の私達の目的は結界に関する情報を集めることにあります。ですが、実験はまだ試験段階なので実用に堪えるものではありません。」

試作品ということか?

どこまで信用していいのかわからないが本格的に稼働するのは不可能らしい。

どういう実験を行うのか知らないが、
あくまでも情報収集に徹するつもりでいるようだな。

「ですので、実験そのものは短時間で終わる予定です。」

すぐに終わる実験だと前置きをしてから、
西園寺つばめは詳細を話し始めた。

まず、これから行う実験は試合が終わるまで始終行うものではなく、
試合中の20秒間だけでしかないらしい。

それ以外は通常の結界を展開するようだ。

そのため。

全力で戦う20秒の間に攻撃の余波や破壊力による影響などを測定して、
今後の結界研究の実験に役立てるという内容だった。

ここまでの説明において異論はない。

どこまで本気なのかは分からないが、
それらしい理由を並べ立てた西園寺が言うには長時間発動出来るほどの維持は現段階では不可能なようだからな。

実験が行える僅かな時間において少しの誤差も出さない為に。

わざわざ会場を封鎖してまで部外者を立入禁止にしたそうだ。

黒柳が会場の受付で翔子と沙織を足止めしたことも。

実験で彼女達の魔力の影響を受けないためにという話だった。

「説明は以上ですが、ご理解いただけましたでしょうか?」

一応は、な。

同意を得ようとする西園寺に北条はお気楽な笑顔で頷いているが、
俺としては特に興味がないことで話を聞き流しながら頷いておいた。

「ご協力に感謝します。それでは私はこれで失礼いたします」

俺達の許可を得られたことで、
説明を終えた西園寺が実験準備の最終段階に入っていく。

「それと、今回の試合開始の合図は私が出しますので、お二人も準備をお願いします」

実験は西園寺の主導で始まるらしい。

限り有る時間を有効的に使うために審判役も務めるようだな。

「まあ、誰が審判をやろうと試合そのものに影響はないから良いんじゃねえか」

北条は文句一つ言わずに試合場へと足を踏み入れる。

確かにな。

誰がやろうと問題はない。

試合の勝敗はどちらが倒れるか、という結果で決まるからな。

誰が審判を努めようと、俺としても不満はない。

「好きにすればいい」

先に開始線に立った北条と向かい合うために俺も開始線に歩みを進める。

その間。

試合場の周囲を取り囲むように研究所の職員達が配備されて、
特殊な設備を操作しながら実験の準備を進めている。

それらの作業を横目で見つめる北条が小さくため息を吐いたように見える辺り、
率先して実験に協力しているわけではないようだな。

「まあ、多少気になるけどな。この程度の実験に文句を言っても仕方がねえだろ?どうせすぐに終わるんだ。好きにやらせとけばいいさ」

実験が行われることに関しての不満はないようだ。

目障りに思う態度は感じられるが、
あまり気にしないようにしているのかもしれない。

俺としても似たような心境だが、
北条の言葉を聞いたことで一つ確信できたことがある。

それはおそらく北条も真実を聞かされていないということだ。

この実験の裏側で行われている本当の実験を北条でさえも知らないように思える。

もちろん現段階では何が行われるのか俺にも分からないが、
単なる結界の実験ではないことは間違いないだろう。

何か別の理由があるはずだ。

今はまだ単なる直感でしかないが、必ず何らかの裏があると思う。

…と、そんなことを考えているのが気づかれたのだろうか?

西園寺が必死に冷静さを保とうとしている雰囲気が感じられた。

本人は心の中の動揺を悟られないようにしているつもりかもしれない。

事実を知りながらも、隠し通そうとする態度が見え見えなのだが、
おそらく黒柳から『絶対に気付かれてはならない』という厳命を受けているのだろう。

何度も汗を拭う態度が隠しきれない焦りを感じさせている。

俺がじっと見ていることで、落ち着く事が出来ないようだな。

ここまでわかりやすい人物も珍しいが、演技はかなり苦手なようだ。

本人は実験の準備で忙しいという雰囲気を出しているつもりなのかもしれないが、
心の動揺が態度に現れているのは一目でわかる。

黒柳は人選を間違えたようだな。

これほど慌てふためく人材を現場に配置したのはどう考えても失敗だろう。

さすがにさらに別の目的があるとは思えない。

あからさまな失敗を前面に出すことで真実をごまかして更なる罠を仕掛けるという可能性も0ではないが、そこまで計画的な行動をとっているようには思えなかった。

そもそも今回の実験そのものが想定外の何らかの影響を受けて急遽やらざるを得ない状況になってしまったためことで実行しているように感じられるからな。

裏の裏があるとまで考えるのはもはや考えすぎだろう。

もしかしたら黒柳を外部に配備したことで、
実験を動かせるのが西園寺だけになってしまったのかもしれない。

他に実験の指揮を取れる人物がいなかったと考えるのが自然だろうな。

そうでなければこんな不自然な状況になってしまうとは考えにくい。

突然行うことになった実験に対して人材の配備に不具合が出た結果がこの現状というところだな。

状況証拠からの推測でしかないが、
それほど大きく外れていないと思う。

じっと見つめる視線の先で、
西園寺は俺の視線から逃げるように動き回っていたからな。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ