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THE WORLD 作者:SEASONS

4月2日

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初戦

受付を離れてから数分後。

幾つもの試合場を通りすぎながら、
すれ違う生徒達の会話を聞き流しつつ目的の試合場にたどり着いてみると、
この試合場を任されている審判員が微笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。

「試合場へようこそ。きみが天城総魔君だね。ここがE-2の試合場だよ。今、別の係員が対戦相手を呼びに行っているから、もう少しここで待っていてくれるかな」

審判員の丁寧な対応に頷いて、
対戦相手である柊健一の到着を待つ事にする。

その間は暇になってしまうのだが、
会場の敷地が無駄に広いせいで対戦相手を捜索するだけでもそれなりに時間がかかるのは仕方がないだろう。

会場の係員が柊を探して連絡を取ってから試合場に来るまでの数分の間に初試合に向けて僅かに思考をめぐらせることにしてみる。

さて、いよいよ初戦だ。

初試合だからこそ、
この試合は高難易度だと思う。

入学試験が首位だったことで新入生としては最高の生徒番号を持っているのだが、
だからこそ俺よりも上位の番号を持つ生徒達は全て上級生ということになるはずだからな。

少なくとも一年以上、
学園に在籍して練習を積み重ねているのは間違いない。

すでに多少の変動はあるかもしれないが対戦相手が新入生である可能性は低いだろう。

昨日の時点で少数の新入生達が上級生を撃破して俺よりも格上の番号を持っている可能性は0ではないもののそれほど多くはないと思う。

せいぜい10人もいればいいほうだろうか。

その辺りを考えれば今回の試合相手はわずか10番ほど格上の相手だが、
現在の番号から考慮しておそらく前年度の生徒だと推測できる。

そしてその推測が正しければおよそ一年間の経験でどれほどの実力差がつくのかを見極められるだろう。

もしも上級生との実力差が大きいようなら当分の間は試合よりも勉強を優先すべきだ。

敗北も一種の経験となるが、
それだけで強くなれるわけではないからな。

素直に下積みを経験して実力の底上げをするべきだと思う。

だが逆に思ったほど実力に差がないようであれば一気に上を目指してより上位の生徒達と対戦するべきだとも思う。

強くなる為には下層の生徒達相手に手間取っているわけにはいかないからな。

現時点では2万台の成績だ。

まずは1000番以内を目標にして検定試験を進めていきたいと思う。

そのための第一歩だ。

まだ見ぬ未来を見据えて考え事をしていると、
ようやく対戦相手の柊健一ひいらぎけんいちが到着した。

「うぁー、君が挑戦者なのか。入学試験首席の噂は聞いているよ。君が相手だと、正直勝てる気がしないんだけど、それでも一応全力で戦わせてもらうよ」

前向きなのか?
後ろ向きなのか?

よく分からない発言をして小さく笑う柊の表情にはすでに諦めの色が見える。

どうやらすでに敗北を確信しているらしいが、
こちらとしてはまだ何の情報も得ていない状況だ。

勝手に諦められても困るとしか言いようがない。

「勝敗はともかく、まずはこの学園での一年の経験がどれほどのものかを見させてもらうつもりだ」

それがこの試合の目的だと告げておくと柊は深々とため息を吐いた。

「僕と戦う事で学園の実力を計るつもりなのかい?だとしたら君が思うほど、この学園は甘くないよ。僕は二日前まで学園最下位の生徒だったんだからね」

最下位か。

なおさら興味深い気がするな。

「その辺りも含めて自分で判断させてもらう」

柊の言葉を無視して会話を打ち切る。

今ここで必要なのは勝つ事ではないからな。

一年間で身につけられる学園の実力を見極める事でしかない。

それさえ確認できるのであれば仮に負けたとしてもその程度の結果は些細な問題でしかないと思う。

「上級生の実力を見せてもらう」

ゆっくりと呼吸を整えながら試合場に足を踏み入れる。

そして開始線と呼ぶべき立ち位置に立つと柊も向かい合うようにして開始線に立った。

「………。」

無言で向き合う二人の間に審判員が割り込む。

「只今より検定試験を行いますが、両者共に準備はいいですか?」

問いかけられた言葉に対して二人揃って頷く。

審判員もしっかりと頷いた。

「了解です。それでは試合を始めようと思いますが、その前に、天城君は試合を行うのは今回が初めてのようですね。すでに理解しているとは思いますが、一応試合の説明をしておきます」

試合を開始する前に審判員が改めて試合の説明をしてくれるようだ。

1:試合時間は無制限。

戦闘不能か敗北の宣言によって勝敗が決まる。

2:防御結界の存在。

試合場には広域の防御結界が張ってあり、
強力な魔術や魔法を使っても外部に影響は出ない。

3:物理攻撃の無効。

試合はあくまでも魔術や魔法の実力を計る事を目的としているので物理的な攻撃は無効とされる。

そのため対戦相手に攻撃する為には必ず魔術を使わなければならない。

…という一通りの説明を終えた審判員は試合開始を宣言するために一歩後ろへと下がる。

「それでは、改めて準備はいいですね?」

もう一度両者に確認をとって双方に異論がないことを確認した直後。

審判員が試合開始を宣言する。

「試合、始めっ!!」

試合開始とほぼ同時に対戦相手の柊が魔術を発動させた。

「勝てないとしても、ぶざまに負けはしないっ!全力で放つ!炎の刃っ!!」

詠唱と共に掲げた右手を一直線に振り下ろす。

上段から下段へ。

勢い良く降り下ろした右手の軌道に炎が生まれ、
正面に立つこちらを焼き付くそうと半月の炎の刃が打ち出された。

炎の魔術だ。

投石のような勢いで迫り来る炎をじっと見つめる。

炎にはあまりいい思い出がないのだが、
だからと言って逃げるわけにもいかない。

向かい来る炎の刃に向かって左手を突き出して手のひらに魔力を込めた。

この程度なら問題ないはずだ。

逃げる必要はない。

突き出した左手に集めた魔力で迫り来る炎を強制的に受け止める。

「滅!!」

掛け声と共に左手を握りしめると炎の刃は千切れるように霧散して消滅した。

「なっ!?バカなっ!?炎を握りつぶすだとっ!?」

どうやら予想していなかった事態らしい。

口を開いて驚く柊は呆然と立ち尽くしている。

………。

まさかこの程度なのか?

柊の様子を見てしまったことで、
ため息を吐きたい気分になってしまう。

上級生だと思って警戒していたのだが完全に期待はずれだったからだ。

本当に数日前まで学園最下位だったのだろう。

戦闘能力に関して危険視する実力は全くなさそうに思える。

もう少し実力のある生徒と戦ってみなければ上級生の実力を見極めることはできないのかもしれない。

少なくとも呆然と立ち尽くす柊では調査対象にすらならない。

もっと上位の生徒の実力を調査するために、
まずはこの試合を終わらせることにしよう。

「受け止めろ。これがお前の力だ」

突き出したままの左手から力を解放する。

「炎の刃!」

一度掲げた左手を一気に振り下ろす。

生み出したのは炎の刃だ。

「そんなっ!?」

自らの魔術を打ち返されるという事態に対して冷静に対処できなかった柊は自分が放った炎と全く同じ炎の刃に体を切られて着弾した炎に飲み込まれた。

「ぐあぁぁぁぁぁっ!!」

回避する余裕もなかったらしい。

炎の刃の直撃を受けた柊はあっさりと力尽きた。

試合開始から終了までほんの40秒程度だろうか?

僅か1分とたたずに、
柊は意識を失って試合場に倒れ込む結果になった。

「そこまで!勝者、天城総魔!!」

即座に宣言された審判員の掛け声によって初戦はあっさりと終了してしまう。

そして倒れた柊を眺めて思うことはただ一つ。

確かに最下位だったようだ。

上級生と言えども実力は低い。

その結果を確認したことで無言のまま試合場を後にした。




そして試合場を離れてから二分後。


受付に戻ると先程の受付の女性が柊の持っていた生徒番号を俺の手帳に書き換えてくれたので、
新たな生徒番号を受け取ってからそのまま検定会場の外に出ることにした。
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