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THE WORLD 作者:SEASONS

4月4日

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治癒魔法

《サイド:常盤沙織》

…ん。

…あれ?

ここ、は…?

目を覚ましてみると、微かな明かりが灯る薄暗い部屋にいました。

少し硬めのベッドと消毒液の匂い。

どうやらここは医務室のようです。

おそらく試合中に意識を失ってしまったことで医務室に運ばれたようですね。

とても静かな室内。

聞こえてくるのは周りのベッドで眠る生徒達の寝息くらいでしょうか。

普段から静かな医務室ですが、さらに静かに感じてしまいます。

今は何時なのでしょうか?

窓の外から日差しが入ってこないことを考えれば夜なのは間違いないと思います。

静寂が辺りを支配していてとても静かです。

当直の医師の会話や物音が時々聞こえることもありますが、
周囲のベッドにいる生徒達の寝息以外は特に何も聞こえません。

ひとまず時計を探そうと考えて起き上がろうとしてみたのですが。

その瞬間に。

すぐ傍に一人の男子生徒がいてくれたことに気付きました。

「…ぁ。ありがとう。来てくれていたのね」

小さな安らぎを感じながら微笑んでみると、
彼もそっと微笑みを返してくれました。

「おはよう、沙織。無事に目が覚めたようだね。もう動いてもいいのかい?」

え~っと…。

どうなのでしょうか?

心配して問い掛けてくれた彼にもう一度微笑んでから自分の体を見回してみることにしました。

怪我は…なさそうですね。

体のどこかが痛むということもありませんし。

普段通りのように思えます。

見える範囲で言えば特に問題はないような気がしました。

「ええ、もう大丈夫みたい」

「そうか、良かったよ」

私の言葉を聞いて安心してくれたようですね。

彼はホッとした表情で深く息を吐いていました。

「無事が確認できて安心したよ」

「…ごめんなさい。」

「いや、良いんだ」

謝る私に、彼は嬉しそうな笑顔を見せてくれました。

出来ることならこういう状況を避けたかったのですが、
やっぱり心配させてしまったようですね。

問題の渦中にいる天城君と戦ったのですから当然かもしれませんが、
翔子や北条君だけではなくて、彼も私を心配してくれているようでした。

その気持ちが伝わってくるんです。

とても申し訳ない気持ちになってしまいます。

こんなふうに迷惑をかけてしまわないように精一杯の努力をしようと考えていたのですが、思うように上手くはいきませんね。

試合の結果は惨敗です。

意識を失ってしまうほどの重傷を負ってしまったことで、
結局、天城君の調査も失敗に終わってしまいました。

あとを託すべき北条君と彼に伝えられる情報はほとんど何もありません。

これは完全に私の落ち度です。

そう思うからこそ、深く頭を下げることにしました。

「心配をかけてごめんなさい」

私は何の役にも立てませんでした。

そのことを悔やんで謝罪したのですが。

「いや、沙織が謝る事はないよ。これまでの報告を考えれば沙織が負けてしまうのは仕方がなかったと思う。だから試合に負けたことは気にしなくていいんだ。」

彼は私を責めませんでした。

それどころか励ましてくれました。

「でも…」

「良いんだよ。沙織が無事でいてくれて良かった。僕としてはそれ以上に望むことは何もないよ」

「…ごめん、なさい」

彼の優しい言葉が聞けただけで胸が温かくなる想いを感じてしまいます。

彼が私の失敗を許してくれるからです。

だから、と言うわけではありませんが、
ずっと見守ってくれていたことも確信できました。

倒れた私を心配して、私が目覚めるまで傍にいてくれたんだと思います。

試合が終わってからどの程度の時間が経っているのかわかりませんが、
彼はずっと傍にいてくれたようです。

「ねえ、今は何時なの?」

「もうすぐ9時かな」

「そう、もうそんな時間なのね」

天城君との試合は6時からでした。

実際に試合が始まって終わった正確な時間は不明ですが、
遅くても7時にはなっていなかったと思います。

その間ずっと眠り続けていたのだとすれば、
彼は2時間以上も傍にいてくれたことになります。

2時間も不安にさせていたのです。

その事実に気づいたことで。

「ありがとう」

しっかりと感謝しました。

「ははっ。お礼なんていいよ。僕は何もしてないからね。」

「だけど、傍にいてくれたんでしょう?」

「僕に出来るのはそれだけだからだよ」

それだけだと言って謙遜していますが、
私の隣にいる彼こそが学園の頂点に立つ人物です。

これまでの会話の流れからすると私の体を治療してくれたのは彼ではない別の誰かのようですが、
それでも私を心配してくれているのは間違いありません。

それだけで十分すぎるほど感謝する意味はあると思います。

「傍にいてくれただけで嬉しいの。だから、ありがとう、龍馬」

御堂龍馬(みどうりょうま)

彼こそが生徒番号1番であり、学園の頂点に立つ最強の生徒です。

「心配かけてごめんね」

「いや、良いんだよ。何度も言うけど沙織が無事だったならそれだけで良いんだ」

ただただ私の無事を喜んでくれる龍馬。

彼こそが北条君と私と翔子の3人を指揮して、
理事長からの特殊な依頼を確実に遂行する内部調査監ないぶちょうさかんの役目を持つ特殊委員会とくしゅいいんかいの実質的な責任者です。

主な任務としては生徒の素行調査そこうちょうさから暴動の鎮圧ちんあつも行い。

表向きは学園の風紀委員として仕事をこなす4人の幹部の最後の一人。

それが『御堂龍馬』なのです。

そして彼こそが天城君の目指す頂点に立ちはだかる最後の生徒でもあります。

「ごめんね、龍馬。心配してくれたのは嬉しいけれど、研究所のほうはもういいの?色々と実験に協力していたんでしょ?」

私のせいで本来の役目に支障をきたしているかもしれないと考えて不安げな表情を浮かべてみると、
龍馬は『心配ないよ』と笑顔で答えてくれました。

「実験ならもうある程度の段取りを終えたから、しばらくは大丈夫だよ。」

「そうなの?それならいいんだけど…」

私が迷惑をかけているのではないか?と不安になる気持ちは消えません。

「これからまた研究所に行くの?」

中断した実験を再開するためにもう一度研究所に向かうのかどうかを聞いてみたのですが、
どうやらその予定はないようです。

「いや、今日はもう遅いから行かないよ。というよりも、黒柳所長の判断で実験は中断になったからね。しばらく研究所に行く予定はないよ」

「中断って、何か問題でもあったの?」

「問題というか、欠陥かな?詳しいことは僕も聞いてないけど、実験そのものが上手くいってないようだね。色々と考え直すために時間をおいてから実験を再開するようだよ」

「へ~。そうなの」

実際にどういう状況なのか私にはわかりません。

大まかな内容は龍馬から何度も聞いていますが、詳細までは知らないからです。

実際に実験に関わっているわけではありませんので
部外秘の情報まで教えてもらうことが出来ないからという理由ももちろんあります。

ですが、龍馬が嘘をつく理由がありません。

龍馬がそういうのなら、龍馬の言葉は真実です。

そう信じられるほどには龍馬のことを信頼しているつもりでいます。

「それなら、しばらくはお休みなのね」

「休みか…。どうだろうね?確かに任務はないけど、それでも『彼の件』は解決していないからね。きっと休んでいられる暇はないと思うよ」

「え、ええ。そう、そうよね…。」

龍馬の言うとおりです。

天城君に関する問題は何一つとして解決していません。

それどころか翔子が離反するという新たな問題まで発生してしまっています。

この状況は龍馬にとっても私にとっても望ましい状況ではありませんでした。

ですが。

今の私には翔子を引き戻すという考えがありません。

翔子の自由を認めて、
翔子の好きなようにさせたいと考えているからです。

それに。

もう一つ思うこともあります。

このままではいけませんから。

私にはまだやらなければいけないことがあると思うんです。

自分自身の問題を他人任せにするわけにはいきません。

借りは、必ず返します。

そんなふうに密かに決断をしてから、もう一度龍馬と向き合いました。

そして自分の思いを伝えようとしたのですが…。

「大丈夫。沙織がどんな道を選んだとしても、僕は君の味方だよ」

私が話しかける前に龍馬が後押しをしてくれました。

「龍馬…。」

私を安心させようとしてくれているのが感じ取れます。

龍馬は何も言わずに許してくれるようでした。

「ありがとう」

優しく微笑んでくれる龍馬の心遣いによって、
私はようやく本来の笑顔を取り戻せたような、そんな気がします。

「ははっ。僕の事は気にしなくていいよ」

繰り返すお礼の言葉のせいか、
龍馬は照れくさそうに微笑んでいました。

「それよりも少し話を聞きたいんだ。どう?歩けるかな?」

「ええ、大丈夫よ」

体調は万全です。

体のどこにも異常は感じられません。

それどころか僅か2時間ほどしか眠っていないのに魔力さえも完全に回復しているようです。

これはもう、そういうことですよね?

この状況で考えられる理由は一つしかありません。

おそらく、倒れた私を天城君が治療してくれたのだと思います。

翔子を助けた時と同じように、
私にも治療を施してくれたのではないでしょうか?

これは疑いようのない事実です。

なぜなら。

これほどの大魔術を使えるのは天城君ただ一人しか存在しないからです。

翔子を助けたのも、
私の体を治療したのも、
全ては魔法の力だったのだと思います。

だからこそ。

魔術師である医師には天城君の治療が理解できなかったのではないでしょうか。

単純な魔術の理論で天城君の能力を定義することはできません。

そんな単純な理論で魔法の力を定義することはできないからです。

アルテマと対をなす治癒魔法。

それが彼のもう一つの力なのでしょう。

どうやら破壊魔術だけではなかったようですね。

治癒に関しても驚くべき才能を持っているのは明らかでした。

ですので、彼の力で助けられたのは間違いないでしょう。

元はといえば周囲で眠り続ける生徒達から奪い取った魔力ではありますが、
天城君はその魔力を私に受け渡してくれたようです。

そのおかげでこうして行動することができるようになったのだと思います。

そう考えると…少し申し訳ない気がしてしまいますね。

今ここで眠っている生徒達のほとんどが天城君との戦いに敗れて倒れた生徒達だからです。

そんな彼らの魔力によって私は復帰できたのです。

その事実を思うと、彼らが眠りについているところを邪魔してしまっては申し訳ない気がしてしまいます。

医務室を離れるために移動したほうがいいかもしれませんね。

私だけが逃げるみたいで気が引けますけど、
魔力を返す手段がないので仕方ありません。

私には天城君のように自由自在に魔力を操ることができないからです。

魔力を放出するだけなら簡単なのですが、
それぞれの生徒達の本来の魔力に戻すという手段が私にはありません。

ただ単純に魔力を流すだけでは魔力を送り込むことができないのです。

それどころか。

お互いの魔力が反発して生徒達の体を傷つけてしまいかねません。

だからこそ。

どうすれば魔力の供給ができるのか、私にはさっぱりわかりませんでした。

学園最高位の魔術師である私でさえも理解できないほど途方もなく難しい技術なのです。

なので、今は謝ることしかできません。

彼らを救う方法が私にはないからです。

諦めるしかありませんでした。

「動いて大丈夫かい?」

「え、ええ。」

龍馬の手に支えられながらベッドから下りた私は、
室内で待機していた医師に挨拶をしてから医務室を退出することにしました。
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