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THE WORLD 作者:SEASONS

4月4日

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自己責任

受付で待っていた少女の名前は美袋翔子だ。

やはり、ここにいたのか。

翔子は心配そうな表情で俺を見つめている。

何故か?

その理由は既に察している。

おそらくそうだろうと考えていたが、どうやら翔子は本気のようだな。

俺が弱っていることを見越して失われた番号を取り戻そうとしている…わけではない。

逆だ。

おそらく、そうならないように動いているのだろう。

それが翔子の選んだ道なのだろう。

残された僅かな気力を振り絞って考えながら、
翔子の前で冷静さをたもとうとしてみた…のだが。

「無理はしない方がいいわよ?」

すでに翔子には気付かれているからな。

無駄な努力でしかないようだ。

「強がるのもいいけどね。たまには頼ってくれてもいいんじゃない?」

たまには、か。

顔では笑って見せているが、
翔子の目は笑っていなかった。

俺を心配そうに見つめている。

本気で俺のことを考えてくれているようだ。

その気持ちがわからないほど馬鹿ではない。

「ああ、そうだな…」

意地を張っても仕方がないのなら強がるのはやめておこう。

すでに見抜かれているからな。

事実を認めて素直に力を抜いた瞬間に…。

体がふらついて倒れそうになった。

「あっ!?」

反射的に動いたのだろう。

翔子が体を支えてくれた。

「ちょっ!大丈夫なのっ!?」

翔子の表情から笑顔が消えて、不安だけが残った。

「病院…じゃなくて、医務室に行くっ!?」

ああ、そうか。

そういう選択肢もあったな。

今まで医務室で世話になったことがなかったから思いつかなかったが、
本来ならそれが正しい判断なのかもしれない。

だがまあ、いまさらだとも思う。

心配してくれる翔子の優しさには感謝の思いを感じるが、
小さく微笑みを返しておくだけにとどめることにした。

「いや、問題ない。しばらく休めば自分で治せるからな」

1時間も休めば回復に必要な魔力は取り戻せるはずだ。

医務室で治療を受けるにしても、
それなりの移動時間と手間暇を考えれば自分で治療するのと大差ないと思う。

「大丈夫だ」

心配する必要はないと告げたのだが。

「うぅ~。」

それでも不安を感じるのだろう。

翔子は俺の治療を行うために回復魔術を使ってくれた。

「ヒーリング!」

初級に位置する簡単な回復魔術だ。

微かな光が翔子の手の平で輝いている。

だが、魔術の構成が安定しているように思えない。

おそらく沙織や美春ほど回復魔術が得意ではないのだろう。

翔子の回復魔術は気休め程度でしかなかった。

「ご、ごめんね。私ってどちらかといえば攻撃特化だから、こういうのって苦手なの」

だろうな。

やはり苦手なようだ。

翔子らしいというべきかもしれないが、
ひとまず自分でも欠点は分かっているようだ。

「ごめんね…。」

「いや、謝る必要はない」

あまり上手く出来ない翔子の治療だが、
それでも全くの無駄というわけではないからな。

怪我の治療は期待できないが痛みは緩和されている。

痛み止め程度の効果はあるだろう。

「もう十分だ」

痛みが和らいだことで、礼を言って魔術を中断させることにした。

「すまない。感謝する」

「で、でも、まだ何も…っ!」

「心配するな。もう大丈夫だ。それに、これ以上続ければ副作用が起きるだろうからな」

「あう…っ」

俺の指摘に反論できなかったようだ。

翔子は唇を噛み締めている。

「ご、ごめんね」

「いや、いいんだ。この状況は自己責任だからな」

「それは…っ!」

「いいんだ」

「うぅ…」

翔子の言い分はわからないでもないが、
翔子や沙織を治療したから魔力が足りないなどと言い訳をするつもりはない。

それをしてしまえば今以上に翔子は自己嫌悪に陥るだろうからな。

それに自分の行動を他人のせいにするようなこともしたくない。

事情がどうあれ自分の体を治療できないのは自分自身の責任だ。

俺がもっと努力していればここまで怪我を負うことはなかっただろう。

あるいは俺自身がもっと成長していれば魔力に余裕を持てていたかもしれない。

だから今この状況は自分の行動の結果だ。

他の誰のせいでもない。

「気にするな」

「…気にするわよ。」

まだ不満があるようだが、
不器用な翔子の回復魔術ではなんらかの副作用が起きる可能性が高いだろう。

それが睡眠か、麻痺まひなのか?

どういった症状が起きるのかは分からないものの。

歩く事さえままならなくなるのは避けられないと思う。

「うう~。ちゃんと、勉強しておけばよかったわ…。」

回復すら満足に出来ない自分を悔しく思っているのだろう。

激しく落ち込んでいる様子の翔子だが。

「あっ!!そうよ!!」

それは一瞬だけで、すぐに別の方法を思い浮かべて笑顔を見せた。

「魔力が足りないのなら私の魔力を吸収すればいいんじゃない!?総魔なら出来るし、魔力があれば回復出来るでしょ!?」

ああ、そうだな。

魔力さえあれば治療できる。

それは間違いない。

だが、な。

自分の魔力を差し出すことで治療を願う翔子だが。

その好意には感謝しつつも、
翔子の意見は却下しておくことにした。

「大丈夫だ。そこまでする必要はない。少し休めばある程度の魔力は回復するからな。今はこのままでも問題ない」

「で、でもっ!」

「良いんだ。それに、な。吸血鬼でもあるまいし、他人の魔力を奪ってまで回復するのもどうかと思うからな。」

「それは、今更じゃない?」

「そうかもしれないが、知り合いを犠牲にするようなやりかたはしたくない」

少なくとも好意的に接してくれる人物から魔力を奪って喜ぶ趣味はない。

敵を制することに迷いはないが、
味方を犠牲にする人間にはなりたくないからな。

「もう二度と翔子から魔力を奪うつもりはない」

「うぅ…。私はいいのに…」

「気持ちはありがたいが遠慮しておく」

翔子の気持ちを丁重に断りつつ、
ひとまず受付に向かうことにする。

その間、翔子は大人しく様子を見ているようだ。

力ずくというわけにも行かないからだろう。

翔子は諦めにも似た心境でため息を吐いている。

そんな翔子に時折視線を向けながら、
今は受付で話を進めることにした。
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