黒蝋梅は茜の夢を見る 05
「姉はやるんですね、茜伯爵を」
「ああ。俺たちに同情してくれてるのかも知れないけどな。それでも茜伯がいるのといないのとでは、秋津島公にとっては雲泥の差なんだ。絶対に離せない」
同情?
そういえば、姉ちゃんはどうしてこの二人を俺たちみたいに家族のように扱うんだろう。
外では礼儀正しく、ちょっと一線引いたところがあるのに。
しばし、美夜と互いに顔を見合わせる。
双子というのは便利なもので、大体相手の表情みればなんとなく言いたいことがわかる。
そんな俺たちは多分、同じ表情してたんだと思う。
「私たちは正直、政治なんてまったくわかりません。でも、私たちが華族になって喜ぶ人がいるなら…少なくとも姉がそれで楽になるなら、がんばってみたいと思います」
「最悪、優秀な次代見つけますから!」
その言葉に斎さんが「ありがとう」と頭を下げる。
「俺は幸せものだよ」
嬉しそうに笑った斎さんの笑顔が、ふっと投げやりになる。
「…いや、もう…マジ、人生最悪と思った時もあったが…特に藤緒に出会った頃はもう…何度死んでやろうかと……いや、俺死ねないんだけど…」
ちょっと待て!!
一体、二人の間に何があったんですかっ。死にたくなるほどの何が!!
「やだなぁ、ちょっと親愛の情が過大すぎただけじゃない」
するり、と斎さんの首に後ろから腕を回した香月さんがふっふっふ、と笑う。
別に恋人ってわけじゃないと思うんだけど、なんか二人でいるのを見てるとしっくり来るのは何故なんだろう。
「あの…お二人って兄弟ですか?」
「うんにゃ。孝弘は私の上司だよん~。そんでもって雅は私の部下になる予定なの。楽しみだなぁ…仕事が楽しくなる日が来るなんて」
「言っておくけど、私はアンタを甘やかさないからね。仕事はきっちりやってもらうわよ」
仁王立ちして腕を組んだ姉ちゃんが香月さんを見下ろす。
姉ちゃんの中で、30kgは消化されたんだな、すげー。
「ああ、もうビシバシしごいてやってくれ。こいつ、ホント脱走の名人だから」
「えっ、なんで孝弘裏切るのさ!私と君の仲じゃない!」
「俺とお前の仲だから言うんだよ。いい部下が見つかって良かったじゃないか、藤緒。ま、がんばれや」
けっけっけ、と笑う斎さん…実は色々ストレスたまってるんですね。
ちょっとしか付き合いのない姉ちゃんのこの態度見たらわかるか…うん。
「朱に交われば赤くなるとはいうけど……アンタはこうならないでよね。柚月のつっこみ、期待してるんだから」
「…いくら俺でも限度があるぞ、できるだけ突っ込むけどさ。でも、あれは無理」
美夜と共に、姉ちゃんが藤緒さんの襟首掴んで反省させているのを見て、生暖かい視線になる。
最後に三澤さんがにっこり笑って言い切った。
「お二人とも。その内慣れますよ。石頭では花冠なんぞ、やってられませんから」
それもどうかと思うんだけど…。
そうこうしてる内に俺たちはほどなくして、この二人の正体を知り、三澤さんとともにどれだけ姉ちゃんが不幸なのかを痛感する。
国を司る秋津島公に20%も心を傾けられるなんて、それはとんでもない気の毒っぷりだ。
ホントに女でよかったな、姉ちゃん。
男だったら、マジで寝込み襲われて既成事実こみで婿だよ。
俺は秋津島公の弟なんて、怖くてなりたくない!!
でも、人間って…慣れる生き物だからさ、思うんだ。
シンデレラだってきっと最初には戸惑っただろうけど、次第にたくましく王子様との生活にも慣れたんじゃないかって。
そうじゃなきゃ、あの香月さんの傍に仕えられないよ。
日々、精神的にたくましくなっていく姉ちゃんは、ただいま星麗宮の女官たちの「理想のお婿さん候補」No.1の凛々しさらしい……女なのに!!
そして俺は、成人した今でも一ヶ月に一度は美夜と共に、茜邸のキッチンに立って料理を作る。
神官として神殿に修行に行っているチビたちもこの日だけは帰ってきて、家族と斎さんと香月さんと輪廻で食卓を囲むのだ。
時には<四神>の皆様もやってきて、茜邸が賑やかになるのが嬉しいと三澤さんに喜ばれるくらい賑やかで。
黒蝋梅伯爵と言われてもピンとこない俺は、いまだに小市民のままで…だからこそ、逆にこんな小さな幸せを守れるなら、国のいたるところにこんな幸せが転がっているなら、国の役に立とうと思う。
うん、だって姉ちゃんの苦労に比べたら…俺たちの苦労なんて…なぁ…。
俺と美夜だけでも、なんとか姉ちゃんを支えなきゃな!
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
活動報告に書いているように、一話仕上がってから、手直し加えつつのアップをやっているので、次回作はもう少し時間がかかるかと思います。
予想では、次は「花鳥風月」の小ネタか、3話目、隣の国々の訪問話になるかと思います。このシリーズがお気に召せば、またお付き合いくださいますと嬉しく思います。
本当にここまで読んでいただき、ありがとうございました(深々)
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