執事イコール万能の方程式 03
姉ちゃんのツンドラよりも冷たい声に、まっさかーと香月さんが笑っておどけるように肩を竦める。
「いくら私でも、すべてを見通せるわけじゃないんだよ。君の心配が20%、君の大事な弟妹見てみたいが60%。ビーフシチュー食べたいな~が20%。鑑定はおまけよん♪」
「嘘でもお前が100%くらい言ってやれよ、藤緒」
斎さんのため息に俺もうんうんと頷く。
しかも姉ちゃんの心配とビーフシチューは同レベルなのか…うーん。
「ビーフシチューの20%は、今だけだよ。あ、でも美味しかったからもっと格上げしてもいい。でも雅は私の中でずっと20%なんだよ。これから先、どこで何をしてて、どんなことがあっても、ずっとずっと20%、心にいるよ。私が世界に還るその日まで」
言葉だけを拾えば、すごく軽い。
姉ちゃんがたった20%の存在でしかないように聞こえるだろうけど、今の香月さんの言葉にはもっと重みがあると思ったから突っ込めなかった。
まるで愛の告白…みたいな真剣さで。
そして三澤さんと斎さんが、なんともいえない目をして姉ちゃんを見ては、そっと目をそらす。
なんで?
その気の毒通り越して、もう哀れみすら覚えるような目をするんだ?
(明確に数値打ち出すなんて…しかもあの方の心の20%もいただくなんて……なんて気の毒な我が主なのでしょうか……流石は茜というべきでしょうか)
(だよな。あの藤緒の気持ちを20%も傾けられるなんてさ……雅、ものすごく苦労するぜ…これから。確か茜って、全員…アレの家の人間に好かれるんだよな?)
(はい、そう伺っております。あの家の方は、ことごとく茜の花に愛情も友情もざかざか注いで満タンにするほど好意的だと。かくいう貴方様は、うちの主様にお幾らくらい?)
(…………聞くな。俺の中でも雅はけっこう高い数値なんだ…それだけでも、ものすごく気の毒だと思ってんだからよ…。知らない方がいいって、けっこう世の中には多いと思うぜ)
ああ…ホント、知らなきゃ良かったよな。
香月さんに好かれるって、そんなに気の毒なのかよ。
そしてそんな人に好かれる姉ちゃんって、どんだけ気の毒なんだよ!
美夜も何か感じ取ったか、でもこっちはキラキラした目で姉ちゃんと香月さんを見ては頷いている。
お前、見目良かったらなんでもありよねっ、と考えるその癖止めろ。
美夜の頭の中では、想像したくない空想…いや妄想が繰り広げられているに違いない!!知りたくはないけどな。
つーか、姉ちゃんをそんな妄想のヒロインにしないでくれ、マジで。
俺、泣くぞ。
「藤緒、そこまで思ってもらえるのはすごく嬉しいんだけど…私の頭の中、子牛が売られる音楽が流れ続けてるのは何故かしら?」
その言葉に斎さんと俺と三澤さんがぽん、と手を叩く。
うん、告白の割りにまったく甘い雰囲気がないのは、それだ、きっと!
「やだな、雅を売るわけないじゃない。むしろ丸ごと全部お買い上げ?雅のためなら、私の個人財産ぜーんぶ投げ打ってもいいのに」
冗談ではない証拠に、ぼそっと三澤さんが呟く。
「……数代前のいと高き玉座におられた御方もそのようなことを仰って、当時の茜伯爵を買い取られましたな…。確か、茜伯の体重と同じ金塊をお積みになられて…」
それこそ、売られていく子牛じゃないかよ。
あまり知りたくないけど、茜伯爵やってる人って、あまり運よくないんじゃ…?
しかもその呟きを聞きつけた香月さんが、腕を組みながらとんでもないことを言い出す。
「金塊かぁ…あれ積むのはロマンかなぁ。でも先人と同じことするのは芸がないよねぇ。いっそダイヤで積んでみようかなぁ…そうしたら私の名前、歴史に残るよねぇ」
「ええ、史上最大の大バカとして残ると思うわよ」
冷ややかな応じる姉ちゃんの言葉に、三澤さんが胸をなでおろすのが見えてしまった…姉ちゃんが
「やってみれば?」といえば、きっと香月さんはやったんだな!
そういうことだよな!?
しかもそれだけの資産持ってるってことだよな!?……こわっ。
「真珠も良くない?それでさ、ドレス作るんだよ。色は絶対に茜だよねぇ。クラシックな型が映えるだろうなぁ…」
うっとり「夢見る乙女ポーズ」で妄想…いや、空想に耽る香月さんに、姉ちゃんがバシッと突っ込む。
「何が悲しくて、私の体重と同じ重さのドレス着なきゃならないのよ。日々、筋トレしろっての?」
いくら綺麗だろうと、そんなのいやだろう、普通。
「えー、でもさ…公務の半分は神事だから、雅の正装は十二単だよ。約30kg」
「はい。当家にはもちろん茜伯爵の色に染めた十二単がございます。伯爵以上は正装がそれでございますから」
美夜も横でぴきーん、と引きつっている。
「美夜ちゃんは安心していいよ。ホントたまにだから、着るの。後は何かイベントがあった時くらいで。でもねぇ、雅は茜伯爵だから」
姉ちゃん、30kg…と呻いているんですけど…あまり追い討ちかけないで欲しいなー。
平安時代の姫様がよく脇息にもたれているのは、純粋に十二単で重くなった体を支えるためだそうです。その上に運動不足で非常にか弱かったので、正装としての十二単を着るだけの骨格も筋肉もなかったそうな…。
ロマンと我慢って、紙一重ですよね…(あ、私上手いこと言った!)
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