トモダチ
ぼくね、ちょうど一年前、ここで、フシギなタイケンをしたんだ。
今日みたいにすっごくあつい日でね。空もこんなふうに青くって、セミも、ミンミンないてた。
ぼくはね、その時お母さんが、弟が生まれるからって言って、そこの山の下にある、おばあちゃんの家にとまってたの。夏休みの間、ずっとね。ぼくは、それがぜんぜんイヤじゃなかった。おばあちゃんは大好きだし、この森も、川も、虫も、音も、ニオイも、大好きだからね。ぼくは毎日、毎日、まぁーいにち。山を走りまわったり、川でおよいだりしてた。すっ、ごく楽しかったよ。でもね、だんだん、ちょっとづつ、タイクツになってったの。ここには、ぼくくらいの子どもが、いなかったから。ずっと、一人であそんでたんだ。
夏休みのしゅくだいもおわっちゃって、もってきてた本もぜんぶ読みおわっちゃって、だからなんにもすることなくって、ケッキョク山にいった。でもやっぱり、もうやることがなくって。川がながれるのを、ずぅっと、見てたの。くらくなるまで、おなかがすくまで、ずっとね。
そしたら、なん日かたったある日ね。川を見てて、なんとなくむこうの木を見たの。そしたらね、そこに、ぼくと同じくらい子どもの子がね、木のところにかくれてたの。ぼくがそこをジィッ、と見たら、木のうしろにかくれちゃって。女の子だったんだ。だからぼく、大きな声で「ねぇ!」って言ったの。「ぼく、“まこと”っていうの! ねぇ、いっしょにあそぼうよ!」ってね。
その子は木のうしろから、チラッ、チラッてこっちを見てた。来てみて、ホラ、水の音がするでしょう? もうつくよ…………ホラ、この川! それでね、あの木。あの木のところにいたんだ。もっと近くで見よう。ついてきて。
――それでね、ぼくどうしてもその子とお話したくって、川をわたったの。この川はアサいからね。サンダルをぬいで……。〜〜ッ‼︎ つめたいっ! ふふっ。
――川をわたったら、その子、むこうに、にげるみたいに走っていっちゃったんだ。だから、ぼくは「まって!」って言って、おいかけた。
ちょっと走って、山の上のほうにどんどんむかってったんだけど、そしたらね、そこにはぼくくらいの子どもが、なん人もいたんだ。石の上にすわってたり、木の上にのぼってたりして、ぼくを見つけた時はびっくりした顔してた。中でも一ばん大きい子が、「お前、だれだ」って言った。ぼくは自分の名前を言って、ぼくもナカマに入れて! ってたのんだ。そしたらその子、ニコッて笑って、「よし、いいぞ」って。すっごく、うれしかったよ。やっとここで、“トモダチ”ができた。ってね。
それからは、ずっとそのトモダチたちと、みんなであそんでた。その子たちはぼくのしらないあそびをたくさん知ってて、木のぼりとか、虫のいるところとか、たくさんおしえてくれた。それで、ずっとあそんでたんだけど、なんだかフシギなんだ。……なにがフシギなのかって? それがね……夜にならないんだ。
みんなとあそんでると、おなかだってすかなかった。なんだかフシギで、それを聞いてみたんだ。そしたら、ぼくたちにもよくわからない、って言ってた。でも、それでいいじゃないかって。ここにいれば、ずっと夜にならないし、おなかもすかない。ずっと、あそんでいられるんだ、って。
それで、ぼくもさいしょは楽しかったんだけど、すこしだけフアンになっていった。おばあちゃんがシンパイしてるんじゃないかなぁ、とか、ぼくがここであそんでるうちに、弟が生まれちゃってるんじゃないかなぁ、って。もうそれほど長く、そこにいたんだ。
だからぼく、もう帰るっていったんだ。そしたらみんなさみしそうなかおして、「行くな」って。ぼくもさみしかったんだけど、きっとまたライネン、ここにくるよ、ってヤクソクして、帰ったんだ。
トモダチは言ってた。「もしライネン、お前がヤクソクをまもってここにもどってきたら、セイシキなナカマとしてみとめてやる」って。セイシキなナカマとしてみとめてもらうためには……ホラ、見える? あれ。“ゴシンボク”って、言うんだって。あれのうしろにまわって木にさわると、セイシキなナカマにみとめてもらえるんだって。
……サヨナラを言う時は、さみしかった。一人で川をわたって、むこうのみんなに手をふった。「こっちおいでよ! ぼくのおばあちゃんちで、カキゴオリ食べよう!」って言ったんだ。でも、みんなは来なかった。「そっちには、行けないんだ」って。……それから、みんなには会わなかった。その話をおばあちゃんにしたら「もう行くな」って言われちゃって、家から出してくれなかったんだ。
……みんないないな。今日はいないのかな。でも、あそこにいけば、いるのかもしれない。
ホラ、もうすこしだよ。さぁ、行こう。
みんなにショウカイするよ。
ぼくの、“トモダチ”だって。